四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第73話 横浜事変

 西暦2095年10月30日午後3時30分。

 後世において人類史の転換点と評された事件【灼熱のハロウィン】。その発端として起こった【横浜事変】はこの時刻に発生したと伝えられている。

 

 1高の発表が終わり、ロビーで話していた響子と寿和は、遠くない場所で発生した爆発音にお喋りを中断し、スっと立った。

 状況を確認しようとした寿和は携帯端末を取り出し、部下に電話をかける。

 

「俺だ。何があった?」

 

『た、大変です!港の管制ビルにトラックが突っ込みました!』

 

「何っ!?よし、すぐ向かう」

 

 寿和が電話を終えて振り返ると、響子も同じように状況を伝えられていたらしく、携帯端末を耳から離していた。

 

「本官は現場へ向かいます」

 

「私は残ります」

 

「了解です。何かあったら連絡を!」

 

 そうして寿和は駐車場へ向かい、自分の車へ飛び込むようにして乗り込む。

 

 数分後、現場へ急行している車の中で搭載してある通信システムに向かって寿和は情報を求めた。

 

「他に情報は?」

 

『追加のトラックはありません。しかし特攻してきた車両は炎上中。管制ビルの職員は避難を開始しました』

 

(避難だって?船の管制ビルの職員がか!?)

 

 狙われたのは山下埠頭の出入口に建てられている出入港管制ビル。空港にある管制ビルと同じように船の入港や出港の指示を送っている。

 

 幸い構造材は強固だったために建物に被害は無く怪我人も少なかったが、職員は直ちに避難を余儀なくされた。

 つまり、避難の間は警備隊に引き継がれるまで山下埠頭は無防備な状態となる。これは政治家の影響でもあり、国防軍や警察の勢力拡大を嫌っていたので港に戦闘員は配置されていないのだ。

 

『あっ!』

 

「どうした!」

 

『貨物船からミサイルが発射されました!』

 

「船の船籍は?」

 

『オーストラリアです。しかし偽装国籍の可能性大!埠頭に着岸しつつあり!』

 

「くそっ・・・俺はまだ着きそうにない!沿岸防衛は諦めろ!」

 

『了解!』

 

 船籍は偽装。しかもミサイルを積んでいるVLS付きの揚陸艦。陸上部隊もたんまり積んでるだろう。

 寿和は別の連絡先に電話をかけた。

 

「親父!現在横浜山下埠頭で偽装した揚陸艦が侵攻中。国防軍に出撃要請を!あと俺の雷丸とエリカの大蛇丸を届けてくれ!」

 

『かまわんが、何に使うのだ?』

 

「何言ってんだ。戦うのさ!」

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 午後3時37分。

 会場に集まっている生徒達はまだパニックにはなっていないものの、状況を理解していなかった。

 

「お兄様!」

 

「深雪!」

 

 ステージの上に立っていた達也は深雪が駆け寄ってくると、ステージの端からバッと跳んで妹の傍に降り立った。

 

「何があったのでしょう?爆発・・・ですよね?」

 

「グレネードだな。場所は出入口付近だろう」

 

 達也はこの爆発がグレネードによるものだとすぐにわかった。独立魔装大隊での訓練で似たような爆発を体験している。

 発生場所も音の方向から簡単に推測できた。

 

「グレネード!?智宏さんは大丈夫でしょうか」

 

「智宏は・・・・・・いまはこの会場と反対方向にいるな。巻き込まれてはいないみたいだ。正面は手配した警備員が担当している。ここに来るなら簡単には突破されないはずだよ」

 

「そうですか。よかった」

 

 深雪は安堵していたが、達也の中の違和感は無くならない。

 突破されないと言ってもそれは通常の犯罪組織であって、もしどこかの国家機関が関与しているならばここに到達する可能性は高くなる。いくら実戦経験がある警備員であっても、本職に太刀打ちできないだろう。

 

 爆発の余波が収まると、次に複数の独特な銃声が聞こえてきた。

 

(この銃声は対魔法師用のハイパワーライフル!)

 

 現在、銃の弾丸は魔法によって防ぐ事ができる。例えば十文字家のファランクスや、まだ非公開だが智宏のラムなど、歩兵の戦闘において敵の銃撃を防ぐ手段はこちらに大きなアドバンテージをもたらしている。

 

 しかし、魔法師を敵視している連中は恐ろしい物を編み出した。

 それは魔法師の防壁を無効化し、高い貫通性を誇る高速銃弾を搭載したハイパワーライフルだ。

 

 高速弾の開発により、これを防御するには魔法力を集中して注ぎ込まなくてはならない。と、言うがそんじょそこらの小国では高い実戦レベルのハイパワーライフルは作れない。それこそ国家の支援を受けていなければならないだろう。

 ならば敵のパトロンは大亜連合。いや、侵攻軍自体が大亜連合の正規軍という可能性もある。

 

 ここで達也は考えた。

 自分のすべき事はただ1つ。深雪を安全な場所まで避難させることだ。

 だがここには1高の生徒が、智宏や深雪の友人がいる。彼らを守る義務は無いが、深雪も1人だけ避難するような行為は絶対にしないだろう。それに達也自身も抵抗があった。

 

 考えている内に、ハイパワーライフルの銃声が大きく聞こえるようになり、バタバタと足音と共に武装した兵士が会場になだれ込んで来た。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 一方、グレネードの爆発音を聞いた智宏は、「しまった」という顔をしていた。

 

(油断していた!まさかこのタイミングで仕掛けてくるとは!)

 

 智宏は仕掛けてくるなら人がごった返すコンペ終了時と考えていたのだ。

 

 さらに正面入口から銃声が聞こえ始めると、本格的にヤバいと実感する。

 ここは会場とは反対と場所。もしかすると逃げる可能性を考慮してここにも敵が来るかもしれない。

 

 そう思った直後、廊下の角から敵と見られる男達が現れた。その数はパッと見で2個分隊。

 

「お前は魔法科高校の生徒だな?デバイスを外せ!」

 

(ここまで来てるんなら会場にも到達した部隊がいるかもしれない・・・・・・。あいつらとの距離は20mもないか)

 

「おいっ!」

 

 突然しびれを切らした兵士の1人がハイパワーライフルを智宏の近くに向けて発砲した。

 

 弾丸は智宏を狙ったものではなかったが、防御魔法【ラム】を展開してオートで防いでしまったため、智宏の横を通り過ぎる事は無く、途中でチカッと見えた光と共に消えてしまった。

 

「あれ?」

 

「おい・・・・・・お前、今撃ったな?」

 

「な、なんだ」

 

 智宏の迫力に発砲した兵士が後ずさる。

 

「撃ったな?」

 

「こいつ何を言って・・・・・・」

 

「何をしている、撃て!射殺して構わん!」

 

 隊長らしき男が命令を下した直後、智宏達がいる空間は電気が消えた時のように暗くなり、天井には無数の星が現れる。

 

「二階級特進おめでとう。さらばだ、諸君」

 

 室内戦闘において最強の一角である収束系魔法【流星群】。その本領がこの場で発揮される。

 煌めく星は敵兵が銃を撃つ前に降り注ぎ、ハイパワーライフルごと敵兵の身体を穴だらけにした。

 傍から見れば光が貫通したように見えるが、攻撃対象のみに穴を開けるようになっているので、床や壁には穴が開かなかった。

 もちろん威力を上げて発動すれば、床にも穴を開ける事が可能だ。

 

 彼らが床に倒れると、傷口から血が噴き出した。流星群の光は特別高い温度を持っているわけではない。高熱による火傷で傷口を塞ぐどころか、それ以前に熱を持っていないのだから。

 

「やばいな。これだけ裏から来てるってことは正面は突破されてるかもしれない」

 

 そう言って智宏は死体を放置して正面入口に走っていく。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 なだれ込んできた男達に真っ先に反応したのはステージに上がっていた三高の生徒だった。九校戦でもトップの順位を維持し続けているだけあって、個人のレベルが高い。

 

 しかし、それに気がついた侵入者はステージに向けてハイパワーライフルを発砲した。

 弾丸が壁にめり込み、重機関銃が命中したかのような弾痕から見て相当な威力だと達也は思った。

 

「大人しくしろ!」

 

「デバイスを外して床に置くんだ!」

 

 悔しそうな顔で床にCADを置く吉祥寺達三高生徒。それを見た会場の生徒もCADを手放した。

 

「おいっ、お前もだ」

 

 ただ、達也と深雪だけCADを置いていなかったため、侵入者は銃を構えたまま近づいてくる。

 達也はこの時会場に入ってきた侵入者6名に既に照準を合わせており、いつでも消せる・・・準備は整っていた。しかしこの場であの魔法を使うのは好ましくない。ただ、いざと言う時は仕方がない。そう判断した。

 

「貴様!」

 

 苛立ちを隠せない侵入者は、智宏の時とは違い初弾から達也を狙って発砲した。

 その距離およそ3m。魔法が発達したこの時代でも、ハイパワーライフルを近距離で防ぐ手段は限られている。会場の人間は2人に注目しており、誰もが弾丸があの生徒の身体を破壊するだろうと思ってしまった。

 

 だが――

 

「な、何?」

 

 達也から血は出ておらず、先程までだらんと下がっていた腕はいつの間にか胸の位置に来ていた。

 

 不思議に思った侵入者は、悪い予感を頭に浮かべながらハイパワーライフルを連射した。

 その予感は当たる事となり、発砲と同時に達也の腕の位置が変わり、何かを掴み取っているように拳が握られていた。

 

「掴み取ったのか!?あの弾を!?」

 

「おいどうする!」

 

「化け物めっ!」

 

 後ろで問いかけた仲間の言葉は耳に入らず、侵入者はナイフを抜いて、良く訓練された動きで達也に襲いかかった。

 防げるはずのない弾丸を防いだ。その事が侵入者の脳内を刺激し、銃ではダメだという判断を導き出したのだろう。

 

 しかし達也にそんな近接戦闘は通じない。一瞬で間合いを詰めた達也は、手刀で侵入者の腕を切り落としたのだ。

 

 吹き出す鮮血。

 その血は達也の服を赤に染め、首や頬にも飛び散った。腕を切られた侵入者は、達也のパンチで沈む。

 結果、その侵入者が出来たのは自分の血で達也を染めるだけだった。

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