四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第74話 梓弓

 

 

 

 会場に舞う鮮血。

 侵入者はその場に倒れると血溜まりを作った。

 

「お兄様、血糊を落とします」

 

 そう言った深雪はCADを操作して達也の制服や身体についた返り血を落とした。「埃を落とします」と同じような落ち着いた声だったため、会場の人間は今起こっているのが現実なのかそうでないのかが一瞬わからなかった。

 

 ハッとなる警備隊。

 彼らはすぐに動いた。

 

「取り押さえろ!」

 

 魔法が侵入者に放たれ、あっという間に制圧された。回収されたハイパワーライフルは、深雪が中の弾を凍らせて使用不能となる。

 それと同時に深雪は床に倒れている男の傷口を塞ぎ、血溜まりを凍結させて粉状にした。

 

 ニッコリ微笑んだ深雪。

 その素晴らしい顔を達也が見ていると、座席の方から走ってくる者達がいた。

 

「達也くん!」

「達也!」

 

 そう達也を呼んだのはエリカとレオ。

 2人は既にCADを持っていつでも戦えるようにしていた。

 

 好戦的?なのは変わらない2人。

 しかしそれよりも強い圧が2人をどけた。

 

「達也さん!お怪我はありませんか!?手は大丈夫ですか!?」

 

 嵐のようにステージ下まで掛けてきたほのかは、心配のあまりエリカとレオを横に押しのけて達也に心配そうな声で話しかけた。

 

 実際は弾丸を分解して無力化したのだが、バレるわけにはいかないので、掴んだという演技をした。なので怪我はしていない。もちろん口には出さなかったが。

 

「大丈夫だ」

 

 そう達也は手を閉じたり開いたりして見せる。

 

「ほのかってこんなに力あったっけ?まぁいいや。達也くん、これからどうする?」

 

「そうだな・・・・・・まず正面の敵を片付けないと建物からは出れなさそうだ」

 

「じゃ、あたし達も行くわ。戦力は必要でしょ?」

 

「おう!その通りだ!」

 

 レオがそう言って拳を上げる。やる気は十分そうだが、ここで断ったら勝手に突撃されそうで正直不安だ。

 時間もないため、達也は連れて行くという選択肢を選ばざるをえなかった。

 

「仕方ない。じゃあ行くぞ」

 

 達也を戦闘に一行は出入口へ向かったが、彼らを呼び止める者がいた。

 

「待て!司波達也!」

 

 それは九校戦で戦った相手、吉祥寺真紅郎だった。

 

「なんの用だ」

 

「今のは分子ディバイダーじゃないのか!なぜUSNA軍所属のスターズが持つ魔法を君が使える!?」

 

 吉祥寺の発言に会場がざわめく。

 

(知識を持つが故の誤解・・・か)

 

「なぜだ!」

 

「君には関係ない。奴らの狙いは俺達魔法師だ。今はそんな事言ってる場合なのか?」

 

 達也はそう切り捨て、真由美とあずさに視線を向けた後さっさと会場を出ていってしまった。

 

 彼らが会場から消えた後、一際大きな爆発が会場を揺らし、多くの女子生徒がパニック状態となってしまう。

 だが、中でも冷静な者は何名かおり、生徒を落ち着かせようと動いている。真由美もその1人だった。真由美はステージから降りてあずさの座っている席に向かった。

 

「あーちゃん、あーちゃん!」

 

「・・・・・・」

 

 呼びかけても中々反応しない。あずさは混乱しているのだ。

 

「中条あずさ生徒会長!」

 

「はっ、はい!」

 

 肩を揺さぶられようやく真由美に気が付くあずさ。

 

「このままじゃパニックが大きくなって怪我人がでてしまうわ。だからあーちゃん、貴女が鎮めてちょうだい」

 

「え!?でもあれは・・・・・・」

 

「あーちゃんの魔法はこういう時のために使うべきよ。お願い、貴女の力が必要なの。責任は私が取るわ」

 

「会――七草先輩・・・・・・わかりました」

 

 あずさは力強く頷くと席を立ち、制服の第1ボタンと第2ボタンを開け、中からどんぐりのようなロケットを取りだした。

 このロケットはただのロケットではない。実はこれ、CADなのだ。あずさが使う魔法の中で1つだけの魔法を補助するためのデバイス。たった1種類の魔法だけを記録しているので、これだけ小さくできるのだ。

 

 ロケットを握りしめ、あずさはサイオンを注ぎ込んだ。

 彼女が使うのは情動干渉魔法【梓弓】。あずさだけが使える魔法だ。この魔法は精神に干渉するため、未成年の使用に関しては極めて大きな規制がかかっている。先程あずさが躊躇ったのはそのためだ。

 

 サイオンが注ぎ込まれると、ロケットを中心に弓が現れる。あずさは弦を引き、パッと離すと澄んだ音色が会場を通り抜けた。

 すると会場の人々は数秒の間無意識となり、混乱が収まった。

 

「皆さん!私は第一高校の七草真由美です!」

 

 すかさず真由美はステージに上がると、会場全体にマイクで呼びかける。

 

「現在横浜は謎の勢力により攻撃されています!情報によれば港に停泊している所属不明艦からのミサイル攻撃もあるそうです」

 

 普通なら信じられない事だ。しかし、真由美が言えばそうではない。七草という名は伊達ではなく、彼女に注目している人々はその事が事実であると察してしまった。

 十師族とはそれだけの立場と責任があるのだ。

 

「先程捕縛した男達もその仲間でしょう。狙いは魔法師や魔法技術である可能性もあります。この会場は地下通路でシェルターに繋がっています。まずはそこへ避難しましょう」

 

 そう言う真由美に賛同する者、本当にそれでいいのかと疑う者、そもそもシェルターは耐えられるのかと考える者が会場に現れる。

 真由美もステージからそういった者達の表情がよく見えた。

 

 しかし騒ぐ者はいない。己の考えが絶対に正しいとは思っていなかったからだ。

 

「シェルターは敵の空襲に耐えるくらいの耐久性はあるはずです。ですが魔法攻撃に対しては不明です。だからと言って避難しないわけには行きません。最も危険なのは、ここに留まり続けることです!」

 

 真由美の言葉に頷く教師達。各学校の頭の回る生徒も理解しているようだ。

 

「それでは各学校の代表は生徒を集めて避難を開始してください!」

 

 その言葉で会場は一気に騒がしくなる。しかしそれはパニックではなく、代表生徒が自校の生徒を集めている声だった。

 

 その動きを見て大丈夫だと思った真由美は、ステージから降りて一高の生徒を集めているあずさに話しかけた。

 

「あーちゃん」

 

「はい?」

 

「私はやる事があるから残るわ」

 

「え!でも!」

 

「心配しないで。皆や先生方もいるから」

 

「・・・・・・わかりました。ご無事で」

 

 残ると言った真由美にあずさは狼狽えたが、生徒会長は自分であると直ぐに立ち直る。そんな成長したあずさに満足した真由美は、身体を翻して鈴音や摩利のいる控え室へ走って行った。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 会場を出た達也達は、正面入口に向かっていた。

 正面入口ではハイパワーライフルと魔法の撃ち合いが発生しており、互いにバリケードやシールドを作って応戦していた。

 

 敵戦力は不明だが、統一された服を着ている者やバラバラな服を着ている者が敵にいるとなると、一般市民に化けたゲリラも居ることになる。少しやっかいだ。

 対するこちら側には魔法協会が雇ったプロの魔法師。何名か負傷しているが、突破される様子はない。おそらく、会場に来た敵の後続を遮断して今のようになっているのだろう。

 

 達也達は小走りで正面入口へ向かっているが、突き当たりに来た時、達也はレオの襟首をガシッと掴む。

 

「ぐぇっ」

 

「止まれ!ハイパワーライフルの射線に入るぞ!」

 

「・・・・・・先に言ってくれよ・・・・・・ゲホッ」

 

「でもおかげで命拾い」

 

 先行する達也、深雪、エリカ、レオに続き、雫、ほのか、幹比古、美月が到着した。

 達也はチラリと角から顔を出し、戦況を確認。そして深雪に目を向けた。

 

「深雪。ハイパワーライフルを黙らせてくれ」

 

「よろこんで。しかしこの人数となると・・・・・・」

 

「わかっているさ」

 

 困惑する一同。それを他所に深雪は達也の差し出した手を取り、指を絡めた。若干ほのかの視線が厳しくなった気もするが、深雪は気にせず続けた。

 

 深雪の左手にはCADが握られており、目をつぶって標的を定めると、魔法が発動された。

 それは火をも凍りつかせる魔法。振動減速系概念拡張魔法【凍火(フリーズ・フレイム)】だ。

 この魔法は燃焼を妨害する魔法で、対象物の熱量を一定以下に抑制する事ができる。つまり、火薬を使用する銃火器はその役目を果たせない、ただの鉄の塊と化す。

 

 引き金を引いても弾が発射されない現象にみまわれたゲリラ達。その隙を逃さず、達也とエリカ、幹比古は突進した。レオはまだゲホゲホやっている。

 

 達也は手刀でゲリラを切り裂き、エリカは武装一体型デバイスに仕込まれていた刃で頸動脈を的確に斬り、幹比古は術で複数の敵を殲滅させた。

 辺りは返り血で汚れ、柱にも血が飛び散った。

 

「さて・・・・・・下がれ!」

 

 達也が叫ぶと同時に、エリカと幹比古は柱の影に隠れた。そしてそこへ弾が降り注ぐ。まだ敵の陣地があったようだ。

 

(面倒な・・・・・・あれは)

 

 ふと達也が上を見ると、ちょうど智宏が正面入口に着いたタイミングだった。

 達也の視線に気がついたゲリラは、その方向へ視線を向けると、智宏に気が付き射撃を開始する。

 

 だが――

 

「馬鹿な!」

「なぜ弾かれる!?」

 

 混乱するゲリラ。当たり前だ。智宏は全て【ラム】で防いでいるのだから。

 

 それでも射撃を止めないゲリラに、智宏は冷たい視線を向けていた。

 

「智宏!」

 

 達也が話しかける。

 

「遊んでいる暇はないぞ!」

 

「・・・・・・わかってるよ!」

 

 智宏はCADを敵集団に向け、引き金を引く。すると【重力核】が発動し、対象のゲリラ数人が圧縮、死亡した。必死に撃っていたわりに、呆気ない最後であった。




あれ、久しぶりの投稿だ。
そろそろ劣等生だけでも終わらせなくては・・・・・・!
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