正面入口の敵を全滅させたところで、ようやくレオが駆けつけてきた。
「ありゃ・・・・・・出る幕がなかったぜ」
「ドンマイ」
「こんにゃろ・・・・・・」
戦えなくて残念がるレオに、エリカは背中を叩いて励ました。いや、あれは励ましているのだろうか。ニヤニヤしながら叩いているため、煽っているように見える。
レオの後には、顔色の悪い美月達が続いてきた。周囲には切断された死体もあり、吐き気を催す。
「すまない。刺激が強かったか?」
「いえ・・・・・・!大丈夫です」
達也に尋ねられたほのかは気丈に応える。
「エリカ、その武器はなんなの?」
智宏はエリカが珍しい武器を持っているのに気がつく。
「これ?これはねぇ、刃を隠しておける武装一体型CADよ」
「へぇー」
「来年から警察に正式導入されるの。どう?智宏君も買ってかない?」
「あー、うん。遠慮しとく」
別にここで商売を始めなくてもいいのに。と智宏は思ったが、場の空気を変えるにエリカがやっているのだと察する。
しかしエリカが営業するのも間違いではない。実は千葉家の収入は白兵戦用の武器を売った金がメインなのだ。
「さて、今は情報が欲しい。どこかにアクセスできる場所があればいいんだが・・・・・・」
悩む達也。
「じゃあVIP会議室を使おうよ」
ほのかを支えていた雫は、達也達が歩いてきた通路とは別の通路を指さした。
「そんな部屋があるのか?」
「うん、ここは政治家とかも使うから。大抵の情報にはアクセスできるはずだよ」
「よく知ってるわね」
深雪が感心した様子で言う。
「暗証キーもアクセスコードも知ってる」
「「「うそぉ・・・」」」
「御父様、雫の事溺愛してるからねぇ!」
そうほのかが付け足す。
その理由に一同は納得してしまった。
夏休みに出会ったあの男性、もとい雫の父親は確かに雫の事を大事に思っていた。車に乗り込むまで雫をチラチラ見てたのを覚えている。
とりあえず道は出来た。迷っている暇はない。
「じゃあ行くぞ」
達也の言葉に一同は頷き、雫の案内でVIP会議室へと走り出した。
VIP会議室へ到着すると、雫はコンソールに手を伸ばし、素早い動きでアクセスコードを使ってモニターに情報を映し出した。
ちなみにVIP会議室の扉の鍵も雫が持っていたりする。どんだけ溺愛されてるんだ。
「雫、よくやったな」
「うん!」
智宏は雫の肩に手を置く。雫は恥ずかしそうに頬を染めたが、智宏の顔を見て微笑んだ。
雫に変わり、達也が操作すると、巨大なモニターに現在の状況が映し出された。
侵攻された場所は真っ赤に染まり、敵部隊のおおよその侵攻ルートも示される。これだけの短時間でここまで制圧されたのだ。敵の規模は予想以上に大きいだろう。おそらく揚陸艦と市内に潜んでいた敵兵士は600人から800人。歩兵1個大隊が敵戦力の予想だ。
「これは・・・・・・」
智宏がモニターを見て唸る。
「何よ、敵の動きがはや過ぎるじゃない」
そういう知識もあるエリカも、この状況に焦りを覚える。
「お兄様、これからどうなさいますか?」
「ここにいては敵に見つかってしまう。避難する方がいいだろう」
達也は全員を見ながら言う。反対する者はいなかった。
「じゃあシェルターに行くかい?」
「そうなると・・・・・・ここの地下通路だな」
幹比古の提案にレオも賛同し、ルートを考える。
「いや、地下はダメだ。理由は後で説明する。今は避難するよりやる事があるんだ」
「やる事?あっ、デモ機か!」
幹比古は達也の考えた事がわかった。デモ機は巨大なため、避難する際には置いていかなければならない。ここは魔法科学の重要機密となりうる技術が集まる場所。敵には渡したくない。
「データは残せない。皆すまない、少し時間をもらう」
そして一行はデモ機が置かれている部屋へ向かう。
部屋に入ると、そこには先客がいた。もちろん敵ではなく、知った顔だった。
「先輩方何しているんですか!」
「四葉か。それに達也君も」
智宏が声をあげると、摩利がそれに応える。なぜ摩利かというと、いきなり開いた扉に真っ先に反応したのが彼女だったからだ。
よく見ると真由美や鈴音、五十里、花音も部屋にいた。真由美は智宏の顔を見るとスススと近寄ってくる。
「七草先輩!なんでここに!?」
「ごめんね智宏君。リンちゃん達を置いてはいけないわ」
「僕達はデータの消去をしてるのさ。もしかして司波君も?」
「ええ」
「だったらそっち頼めるかい?」
「わかりました」
データはもうひとつの機械に入っている。だが五十里は鈴音のサポートで動けないため、達也に協力を仰いだ。達也も了承し、直ぐにデータ消去に取り掛かる。
それ以外のメンバーは、女性を中心に、智宏達は警戒陣を敷いた。
数分後、何事もなく達也が戻ってきた。
「お疲れ様。こっちも終わったよ」
「ならよかったです」
データの消去は完了した。
さらに――
「お前たち、まだいたのか」
克人が服部と沢木を引き連れて部屋に入ってきた。克人は智宏を見つけると咎めるような視線を送る。
「四葉、お前の持ち場はどうした?」
「これまで分隊規模の敵を数回全滅させましたが、途中達也達と会いまして、現在は彼らの護衛です」
「・・・・・・よかろう。他の生徒は地下通路で避難しているからな。我々も急がねば」
「地下通路ですって?」
珍しく達也が大きな声で発言する。克人も不思議に思ったらしく、達也に向き直った。
「地下通路では不味いのか?」
「いえ、何事もなければいいのですが、地下通路は直結しているため逃げ場がありません。ですから――」
「遭遇戦!」
服部が達也が言うより先に答えを出した。達也は気にせず続ける。
「はい。ですから敵と正面衝突する可能性が!」
「よし、服部と沢木は中条達を追え!」
「「はい!」」
2人は克人の指示で素早く動き、あずさの後を追う。
「お前達はどうする?」
「一旦情報を整理してから地上を通って避難します」
「わかった。俺は外で敵を迎え撃つ。できるだけ早く避難しろ」
そう言って克人も部屋を出て行った。
残された智宏達は、隣の控え室で情報を再び集め出した。この部屋も雫のおかげで情報が得られやすくなっており、真由美が情報をまとめ、全員に説明した。
「敵はミサイルを搭載した揚陸艦1隻ともう1隻、計2隻よ」
「2隻?1隻だけじゃなかったんですか?」
エリカが問う。
「こっちは元々泊まっていたみたいね。なんでわからなかったのかしら」
「と、いう事は海岸沿いは制圧されていますね。どう避難するのですか?」
「国防軍の輸送船が来るそうよ」
敵は海岸沿いを制圧したが、一定以上の範囲外には出ていなかった。おそらく兵站的な問題もあるのだろうが、防衛に回す兵力に余裕がないのかもしれない。
理由はどうであれ、全ての埠頭が制圧されたわけではないため、国防軍は館山港所属の輸送船をこちらへ回してくれるらしい。
「ねー啓、敵は何が目的なんだろう?」
「ここにしかない物じゃないかな?メインデータバンクとかね。ここ以外には京都にしかないから」
魔法を使用した科学技術。それは機密と言える物が多く、五十里が言っていたように、横浜以外には京都にしか存在しない。
だったら何故ここなのか。それはおそらくこのコンペ。ここには優秀な学生と、彼らの研究成果がある。まとめてかっさらうにはもってこいの日だった。
それに京都は山に囲まれており、制圧まで時間がかかる。一方横浜は港からの奇襲攻撃で今のような状態を生み出せるほど防御面が弱い。どちらを攻めると問われたら横浜と答えるのが普通だろう。
「・・・・・・中条さんからです。司波君の読み通り戦闘が地下で始まっています」
鈴音が携帯端末に入ったメールを確認する。
「戦況は?」
「戦える生徒や先生方が頑張って持ちこたえているそうです。早く服部君達が到着すれば良いのですが・・・・・・」
達也の予想通り、地下通路には敵兵が潜んでおり、あずさ達を待ち伏せしていた。
論文コンペに来ている生徒は全員魔法を使えるが、九校戦と違って武闘派の者は少ない。障壁を張ったりして抵抗しているが、あまり持ちそうになかった。
今そこへ服部と沢木が向かっている。間に合うのを願うしかない。
すると、智宏と達也は背後から迫る何かを感じ取った。2人は瞬時に懐から拳銃型CADを抜き取り、その方向へ構える。
(達也?)
しかし、智宏は達也にCADを下げさせられた。
「2人共!?」
真由美が驚くのもつかの間、達也は引き金を引いた。その目標は会場出入口に迫る大型トラック。
達也の魔法【
「何・・・・・・今の」
真由美が達也に恐る恐る聞いた。真由美は智宏と達也のような能力を持っているわけではないが、【マルチ・スコープ】という多角的な視覚的情報を取得できる魔法が使えるのだ。
そんな真由美を見て智宏はしまったという顔をした。
(だから俺がやった方がよかったのに・・・・・・いや待てよ?)
だが智宏は考える。なぜ自分でも【重力核】で止められたのに押さえられたのかと。
そして理解する。あのトラックに爆発物が積んであった場合、潰した途端に爆発する恐れがあったと。それに、どれくらいの威力かもわからずに爆発させるというのは非常にまずい。
おかげで会場に被害は出なかったが、その代償として知られたくない魔法を面倒臭い人に見られてしまった。
真由美の問に達也は答えない。彼女は再び問いただそうと口を開いた瞬間――
「やっほー。お待たせ」
野戦服を着た女性、藤林響子が控え室に入ってきた。