トラックが消滅すると敵もその異変に気がついたのか、ミサイル攻撃を開始した。目標は論文コンペ会場。どうやらここの脅威度が上がったらしい。
外の警備をしていた克人もこちらに向かってくるミサイルの群れを目視しており、急いで会場の出入口へ走った。克人は高速移動の魔法も得意としており、その巨体からは考えられないスピードで疾走する。
命中する前にたどり着いた克人は【ファランクス】を発動。世界トップクラスの防御を空中に展開した。
しかし、そこにミサイルが命中することはなかった。障壁に命中する寸前、横から別の魔法がミサイルを迎撃したからだ。
克人は近づいてくる軍用車両を見つける。一瞬警戒したが、それが国防軍のものであると確認すると警戒を解いた。
「スーパー・ソニック・ランチャー・・・・・・?101の方ですか!」
「国防陸軍第101旅団独立魔装大隊大尉、真田であります。さすがは十文字家、
真田はロケットランチャーみたいな武器を車内に戻し、そのまま外へ出た。
「失礼。あまり話すべき内容ではなさそうですな」
「おそれいります。ここは部下が守りますので、次期当主殿はこちらへ」
車内からは真田の部下が数名出てくる。克人はその一人一人が普通の国防軍兵士よりも実力が上であると気がつく。
それにしてもこの士官は自分に何の用だろうか。克人はそう思いながら会場の中へと戻って行った。
突然響子が現れた控え室では、彼女の事をよく知っている真由美がいきなりの登場に驚いていた。
「な、なんでここに?」
その質問に響子が答えることはなかった。
別の人物が現れたからだ。その者は響子と同じ野戦服を身にまとい、少佐の階級章をつけた壮年の男性だった。
「特尉。情報統制は一時的ですが解除されました」
そう響子が言うと、達也は姿勢を正して入ってきた男性に向かって敬礼をした。これにはたった今控え室に入った克人も、その場にいる真由美やほのか達も驚きを隠せない。
「私は国防陸軍少佐、風間玄信です。所属は詮索しないよう」
「貴官があの・・・・・・師族会議十文字家代表代理、十文字克人です」
克人の名乗りに風間は小さく頷くと、身体の向きを変え、全員に向き直った。
「藤林、状況を」
「はっ。現在我が軍は保土ヶ谷駐留の中隊が交戦中。さらに鶴見と藤沢より各1個大隊が向かっています。また、魔法協会関東支部も義勇軍を結成。これもまた交戦中とのことです。敵の規模は不明ながら、敵艦2隻分の戦力と街中に潜んでいたゲリラを含め、かなりの数です」
響子は状況を智宏達に説明する。先程VIPルームでみた情報より細かい。敵軍は国防軍や義勇兵によってなんとか侵攻を抑えられており、戦闘区域は拡大していない。
また、敵の規模もわかっていないらしく、予想した1個大隊よりも多い可能性があった。
ただ、一般国民の避難が完了していないため、彼らが戦闘に巻き込まれる可能性は十分にある。それだけは避けなければならない。
「よろしい。では特尉」
智宏と深雪以外の生徒達は、その呼称で呼ばれた達也に顔を向ける。
「本部から我が隊も戦闘に加わるよう命令が下った。よって、貴官にも出動を命ずる」
「「「っ!」」」
ほぼ全員が驚いた。当たり前だ。今まで一緒の学校生活を送ってきた同級生が軍人として招集されるなんて、一体誰が予測出来ただろうか。
誰かの口から言葉が出る前に、風間は視線1つで黙らせた。
「皆さんには、特別規則故この事は他言無用でお願いする」
その鋭い視線には誰も逆らえず、さすがの真由美や克人も黙り込んでしまった。これが実戦を経験したものの強さだ。
静かになる控え室。
では、と響子が言いかけた瞬間、控え室に携帯端末のコール音が鳴り響いた。
「ん?あ、俺か・・・・・・もしもし」
その携帯端末の持ち主は智宏。全員が注目する中、智宏は気まずそうに表示された番号を確認してから電話に出た。
『私よ』
「母上」
電話は真夜からだった。
そして智宏が発した言葉に深雪がピクリと反応する。
『遅くなってごめんなさいね。こっちでも色々あって』
「ええ、構いませんが・・・・・・どうかしたのですか?」
『四葉家当主として、あなたに命じます。敵を殲滅しなさい。生かしてこの国から帰さないように』
冷たい声だった。それは深雪ほどではないが、全てを凍らせるような・・・・・・。
だが智宏は怯まない。それどころか――
「もちろんです」
そう返したのだ。
『必要とあらば、あの魔法の使用も許可します。徹底的にやりなさい』
「はい」
『専用CADはもうすぐ智宏さんの家に届くはずです。ああそれと、あの2人に伝えて。許す、とね』
「は、はぁ。わかりました」
『じゃ、頑張ってね』
そう言って真夜は電話は切った。
達也達も智宏にかかってきた四葉家当主、四葉真夜からの電話が気になっていたようで、智宏が皆の方を向くと全員がまだこちらを見ていた。
すると智宏の近くにいた克人が口を開く。
「四葉。今のは四葉家当主殿からか?」
「はい、そうです」
「なんの用だったのだ?」
「ちょっと十文字君!」
克人のストレートな質問に真由美が非難するような声を出す。プライベートな電話だったのなら確かに克人の行動は非難されるものだ。
しかし今は違う。このタイミングでかかってくる電話の内容は限られる。それが十師族の当主からならなおさらだ。
「いいんですよ。命令があっただけです」
「命令?」
「敵を殲滅せよ。これだけです」
「・・・・・・わかった」
克人はなんとか納得したようだが、真由美や摩利達はその命令に畏怖する。
あの四葉真夜が殲滅せよと言った。
あの魔王がその命令を息子に下した。
そしてその命令を智宏が受諾した。
それは敵に同情したくなるような結果になるだろう。
そしてこれは1部の者、風間や達也などといった実戦経験者しかわからなかったが、智宏の目がいつものそれとは違うものとなっているのに気がついた。
「さて、達也君。そろそろ」
先程コール音に遮られた響子が達也に言う。
「わかりました。皆すまない、先に避難してくれ」
そう言って達也は控え室から出ていこうとする。
「達也」
しかし、智宏が達也を止めた。
「頑張れよ」
「・・・・・・ああ」
智宏は達也の手をしっかり握り、発破をかける。だが智宏が本当に伝えたい事は別にあった。智宏は達也の頭の中に直接真夜からの伝言を伝える。
真夜からの伝言に達也は一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに深雪へ顔を向けた。
「お兄様?」
「深雪」
「え、え、あのっ!?」
達也は深雪に顔を近づける。いきなりのことで深雪は混乱したが、達也が耳元で真夜からの伝言を深雪にも教えた。真剣な顔になる深雪。真夜の言葉、それが何を意味するのか。当事者である深雪は全てわかっていた。
全員が見守る中、深雪の前に跪く達也。深雪も兄の枷を外す覚悟を決める。
真夜が許してくれたのならそうしよう。
兄が全力で戦えるのならそうしよう。
深雪は達也の頬に手を添え、少し顔を自分の方へ向ける。そしてその額へ口付けをした。
その瞬間、眩い光の粒子が達也の身体から沸き立ち、通常では考えられないほどのサイオンの嵐が控え室に吹き荒れる。それなりの実力を持つエリカや真由美でもその勢いに負けてよろめいていた。
立ち上がった達也。深雪は慣れた動作で軽く膝を折り、スカートをつまんで達也にこう言った。
「お兄様、ご存分に」
「ああ。行ってくるよ」
達也は頷くと、今度こそ控え室を出ていった。彼が全力で戦うと知り、その光景を思い浮かべる者はわずか数名。智宏もその中の1人だった。
(達也が全力で戦う、か。ああ怖い怖い)