四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第77話 クリムゾン・プリンス

 

 

 

 会場を出た智宏達は3手に別れた。

 1つが響子が深雪や真由美達を護衛して徒歩でシェルターに向かうグループ。

 1つが魔法協会関東支部へ向かう克人と、彼を護衛する2人の軍人の車。

 1つが深雪達の避難経路を確保するため先行する智宏だ。

 単身で行く智宏に対し、エリカや雫が「私も行く」と言ったが、智宏はそれを断って走り出した。彼女達を危険な目に合わせたくなかったのだ。

 

 そして智宏達が会場から避難を始めた頃、あずさ達はまだ敵と戦闘中だった。しかし服部と沢木が到着したことにより戦況は有利になっている。

 もちろん彼らだけが戦っているわけではない。あずさも空気の塊を銃口に固定し、発砲時に銃が暴発するようにしていた。その結果、現場はかなりエグいことになっており、手や指を失ったゲリラが血まみれでそこかしこに倒れていた。もちろん沢木や警備隊のメンバーが拘束済み。ナイフは警備隊が押収し、銃器は魔法で破壊している。

 

 非日常な光景に思わず目を塞ぎたくなったあずさだが、生徒会長として今自分にできることは全員をシェルターまで送り届けることだと感じていたため、なんとか足を進めて前へ前へと歩いていった。

 

 普通ならシェルターまでかかる時間の倍以上をかけてシェルターに到着したあずさ一行。辺りを警戒してあずさと沢木はシェルターの入口を開けた。中には誰もいなかった。それに電力は通っているし、非常食もある。ここは使えそうだった。

 

「皆さん!着きましたよ!」

 

 そうあずさが喜んで呼びかける。無事についたのにホッとしたのか、他の生徒達も力を抜いた。だが、突然地下通路の天井にひびが入った。

 

「いけない!全員中へ!」

 

 沢木が叫ぶが遅かった。天井は一気に崩れ、鉄筋コンクリートや鉄骨が落ちてきた。先頭の何名かはシェルターに入れたが、ほとんどが外にいたままだった。

 あずさが悲鳴をあげて顔を覆う。悲惨な光景を見たくなかったからだ。

 

 沢木もあずさを庇って自身の後ろへ移動させたが、砂埃が収まるとあることに気がついた。

 

「中条!みんなは無事だぞ!」

 

「え?」

 

 あずさは沢木の後ろから地下通路の方を見る。すると中腰くらいの高さまで空間ができていたのだ。

 

 よく見ると、教師の廿楽が魔法で瓦礫を押さえていた。

 

「早く、中へ!」

 

 苦しそうに廿楽が言う。

 その言葉に真っ先に動かされたのは警備隊のメンバー。彼らは恐怖で動けない者の手を取り、シェルターへ引っ張っていく。

 

 少しずつだが、瓦礫が下がってきている。時間がない。残りは数人で、鈴音に誘われて会場に来ていた千秋もその中の1人だった。

 

「早く来て!」

 

 千秋の手を掴んだのは十三束だった。

 そして廿楽を含めた3人がシェルターに飛び込んだ瞬間、魔法が解除されて瓦礫が地下通路へ落下した。

 

 沢木は全員無事なのを確認する。あずさも同じ事をしていた。

 廿楽は限界だったのか、肩で息をしていた。よく頑張ったものだ。

 十三束と飛び込んだ千秋は、自分が彼に抱きついていたのに気が付き慌てて離れた。十三束も千秋を抱き寄せていた手を離し、距離を置いた。しかし、2人は恥ずかしそうにチラチラと互いの顔を見ては俯くを繰り返していた。

 

 地下通路が崩落した後、地上で先行していた智宏は予想外の光景を目にする。2機の直立戦車がシェルター入口を破壊していたのだ。直立戦車は1人乗りの戦闘車で、巨大チェーンソー、榴弾砲、バルカン砲などを積んでいる。

 

(しまった!地下通路が!)

 

 すると対人センサーにでも反応したのか、直立戦車はこちらを向こうとしている。時間がないためのんびり戦えない。一気に終わらせる必要があった。

 

 智宏は【重力核】をコックピットらしき中央部分に発動。すると中の操縦者ごとコックピットは潰れ、両腕両足が残った。全て潰してもよかったのだが、これから来る響子に渡した方がいいと思い、念の為残しておいたのだ。

 

「・・・・・・さて」

 

 携帯端末を取り出した智宏は、真由美に電話をかける。ワンコールで出た。

 

『智宏君?』

 

「先輩。シェルターの入口までの敵は掃討しました。でもシェルター入口が潰れています」

 

『なんですって!?』

 

「原因は直立戦車でした」

 

『・・・・・・わかったわ。もう少しでそっちに着くから待ってて』

 

「了解です」

 

 智宏がシェルター入口に到着してから10分が経過すると、ようやく深雪達もたどり着いた。人数も少し増えているようだが、おそらく途中で逃げ遅れた市民を合流したのだろう。

 

 真由美や響子は陥没した地面を見て呆然となった。

 

「吉田君、あーちゃんや服部君達は無事?」

 

「はい。生き埋めにはなっていないようです」

 

 幹比古は精霊を地下に送ってシェルター内の様子を確認する。九校戦で使った術と同じものだ。

 

 智宏も響子に直立戦車の事を伝える。

 

「藤林さん。あれが直立戦車です」

 

「こんなものまで持ち出すなんて・・・・・・これはサンプルとして回収しましょう。もしかして残してくれたの?」

 

「コックピットは潰してしまいましたが、一応残した方がいいと思って」

 

「助かるわ」

 

 兵器の質を見る限り、敵の装備は国防軍に遠く及ばない。しかし回収して研究材料にする事はできる。

 

「それで、どうします?」

 

 深雪が響子に話しかける。

 

「ここが使えない以上、別の避難方法を考える必要があるわね」

 

「だったら私がヘリを呼びます」

 

「私も。父に連絡して会社のヘリをこっちにまわしてもらいます」

 

 真由美と雫がそう言った。ここから移動するのは危険。かと言って留まるのも危険。残されるのは軍のトラックかヘリコプターによる市民の避難だ。なので2人の提案は非常にありがたい。

 

 ただ、ここをヘリポートとするには周囲の安全を確保することが必須だ。開けた場所ではあるが数本の道路と繋がっているため、そこが敵の侵入ルートになってしまう。

 そのルートを遮断する者が必要だ。

 

「しかしここを守るには道路が多すぎるのでは?」

 

 鈴音が真由美に言う。

 

「そうね・・・・・・こんな時は立体的な地図が欲しいわね」

 

「ありますよ!」

 

「光井さん?」

 

「私の魔法ならできます!」

 

 ほのかは携帯端末に映し出された地図を、目の前に立体的に展開した。

 

「こ、これは・・・・・・」

 

 さすがの響子も驚いた顔をしている。

 

「ありがとうございます光井さん。では――」

 

 鈴音も一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに防衛線の作成を始めた。

 地図をよく見ると、敵の侵攻ルートからこちらに通じる道が2本だけしかない場所がある。1つは地上の交差点、1つは立体交差点だ。ここを封鎖すれば少なくとも直立戦車や装甲車両等は通ることはできない。

 

 しかし歩兵を無力化できるわけではないため、ヘリポートにも人員を配置する必要がある。話し合いの結果、地上の交差点には深雪、エリカ、レオ、幹比古、美月の5人。立体交差点には桐原、紗耶香、花音、五十里の4人が選ばれた。摩利は機械化部隊と相性が悪いため、真由美達を守ることになった。

 

 さて、智宏はどこにいるのかと言うと、敵戦力を引きつけるための囮として前へ出向くことになった。もちろん智宏が言い出した事だ。

 

「智宏さん本気ですか!?」

 

「1人じゃダメだよ」

 

 深雪や雫が止めようとする。

 

「いいんだ。これも十師族の役目。十文字先輩も戦闘に参加するだろうから俺も行かなくちゃ」

 

「智宏君・・・・・・」

 

「ここは七草先輩に任せます。では」

 

 そして智宏は前線へ走って行く。

 残された真由美達は、智宏が去った方をしばらく見ていた。

 

「頼もしいですね。私もここで部下と防衛を手伝います」

 

「それにはおよびませんよ」

 

 響子の後の声はここにいる避難民のものではなかった。とっさに摩利がCADに手を伸ばしたが、声の主は彼女の見知った顔だった。

 

「え、寿和さん?」

 

「げ、和兄貴」

 

 そう。ここにきたのはエリカの兄、千葉寿和だった。摩利は道場で度々顔を合わせ、彼氏である修次からも紹介されていた。

 

「久しぶりだね。未来の妹さん」

 

「あっ、いえ、そのぉ・・・・・・」

 

 摩利が顔を真っ赤にして俯く。もしかして摩利が千葉家に入るのは決定事項なのだろうか。

 恥ずかしがる摩利に対し、エリカは二つの意味で不機嫌だった。

 

「なんの用よ」

 

「まぁまぁ。あ、藤林さん。ここは我々警察に任せてください。あなた方は敵を排除するのが仕事のはずです」

 

「よろしいのですか?では我々は本隊と合流します」

 

 寿和の申し出をありがたく受けた響子は、敬礼をした後部下を引き連れ本隊がいるであろう方向へ走り出した。

 

 さらに寿和の同僚が数名遅れて到着する。

 念の為、真由美はこれからの事を寿和達に説明すると、立体交差点が1人足りないと知った寿和が自分もそっちに行くと言ってくれた。

 

 全員が配置に着く前に、寿和はエリカに近づいた。

 

「なによ」

 

「いい物持ってきたぞ。ほれ」

 

「あっ!」

 

 寿和がエリカに手渡したのは大太刀【大蛇丸】。全長180cmもある巨大な武器だ。この武器は現在使いこなせるのがエリカしかいないため、彼女専用の装備らしい。

 

 欲しかった物が手に入ったのが嬉しかったのだろう。エリカは自然と笑みを浮かべていた。

 

「嬉しそうじゃないか」

 

「ふんっ・・・・・・・・・ありがと」

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 一高とは別のコースで避難している三校勢。彼らは乗ってきたバスまで避難しようとしていた。

 しかし、彼らがバスに到着した途端敵に見つかってしまい、バスのタイヤがやられてしまった。

 

「しまった!」

 

 将輝が叫ぶ。

 

「先生!ここで防衛線を張り、バスを修理する間応戦しましょう!」

 

「よ、よしそうだな。吉祥寺、指揮はまかせる」

 

「はい!」

 

 すぐに思考を切り替えた吉祥寺は、引率の先生に意見具申を行った。九校戦に参謀役として出ていただけあって、先生にとっても心強い存在だった。

 

「皆!これからバスを直す間敵と交戦する!バリケードを作って応戦する班とタイヤを交換する班に分かれるんだ!」

 

 吉祥寺の指示で生徒達は次々に動き出す。上級生も下級生もない。全員が一丸となって動いていた。

 

 怪我をした運転手をバスから運び出し、バリケードを作るまで防御魔法を展開し、タイヤを取りに行く生徒達を援護し始める。

 数分もすると防衛線が完成し、戦闘は膠着状態となる。だが本職である敵の方が優勢のため、徐々に押されつつあった。

 

(・・・・・・よし)

 

 将輝はCADを操作し、ある魔法の起動式を選択した。そして立ち上がり、敵に向けて魔法を発動する。敵に魔法が命中すると、敵の身体は爆発するように弾けた。これは対象物内部の液体を瞬時に気化させる一条家の魔法【爆裂】。これをくらった人間は血漿が気化し、その圧力で筋肉や皮膚を弾き飛ばし、真紅の花を咲かせる。

 

 そのまま将輝は前進を開始。ゆっくりと進みながら魔法を連射。敵は次々に爆散していった。その光景に味方には吐き気を催す者が出てきた。敵も唖然とし、銃撃を止めてしまう者もいた。

 しかし将輝は止まらず、敵を全滅させるまで魔法を撃ち続けた。クラスメイトは【クリムゾンプリンス】の真の意味を知ることとなる。

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