四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第78話 ムーバルスーツ

 

 

 

 侵攻軍の揚陸艦に設けられた司令部では、予想以上の被害に焦りを覚えている将官が多数いた。こんな短時間に歩兵主力が抑えられるとは思っていなかったからだ。

 司令官は主力の機甲部隊を出撃させることに決定。指示を出すと隣の輸送艦から装甲車が、揚陸艦から直立戦車が上陸し、隊列を組んで街へ進撃して行った。

 

 同時刻、達也は独立魔装大隊の大型トレーラーに来ていた。

 

「これは・・・・・・」

 

「どうだい特尉」

 

「よくここまで量産できましたね」

 

 トレーラー内には達也が開発した飛行魔法を搭載する【ムーバルスーツ】が人数分配備されていた。

 急な注文だったのに対しここまで生産できた事に達也は感服する。

 

 達也は早速来ている服を脱ぎ捨て、ムーバルスーツを身につけた。

 

「大丈夫かい?」

 

「ええ。問題ありません」

 

「防弾、耐熱、緩衝、対BC兵器にパワーアシスト。詰め込めるものは全部詰め込んだよ」

 

「想像以上の性能ですね」

 

「そろそろいいか?」

 

 風間が達也と真田の間に割って入る。

 

「申し訳ありません。長話がすぎました」

 

「では特尉、柳の所へ向かえ」

 

「了解」

 

 達也は飛行魔法専用のCADが埋め込まれたバックルを叩き、空へ登って行った。そしてどれくらい上昇しただろうか。人がゴマ粒くらいにしか見えなくなるまでの高度に達した達也は、下に全長1mほどの小型無人偵察機を発見した。

 

 辺りをよく見ると、戦闘が発生している上空に無人偵察機がぐるぐる回っていた。

 そして達也は無人偵察機の排除に動き出す。無人偵察機の真上で飛行魔法をキャンセルし、自由落下で一気に降下。近づいた瞬間に【雲散霧消(ミストディスパージョン)】を発動。無人偵察機は消え去った。

 

 一方、駐車場で交戦していた三高の生徒達は、将輝の活躍により脱出できる用意ができた。駐車場には敵の残骸と思われる皮膚片や血溜まりができており、三高の生徒に重傷者や死者が出なかった事が奇跡みたいだった。

 

「将輝!こっちはOKだよ!脱出するなら今のうちだ!」

 

「・・・・・・」

 

 吉祥寺が声をかけても将輝は動かない。ある方角を向いてなにか考え事をしているようだった。

 

「将輝?」

 

「俺はこのまま魔法協会支部に向かう。援軍に加わるよ」

 

「そんな!」

 

 将輝の言葉に吉祥寺は驚いた。

 

「俺は一条だ。国を守る義務が責任がある」

 

「なら僕も行くよ」

 

「ダメだ。ジョージは皆を脱出させてくれ。お前にしか頼めないんだ」

 

「将輝・・・・・・わかった。無理しないでね」

 

 吉祥寺は魔法協会支部がある方向へと走っていく将輝を姿が見えなくなるまで見送る。将輝に止められたが、本当は自分もついて行って戦いたかった。

 

 しかし他の生徒を無事に脱出させるという将輝の頼みがある。信頼する友の頼みだ。やらないわけにはいかない。

 吉祥寺はバスに乗り込むと、四方の座席に警戒役の生徒を配置させる。そしてバスは都心へと避難を始めた。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

「・・・・・・っ!来た!」

 

 道路にばらまいた呪符により呼び出された精霊が直立戦車の接近を幹比古に知らせる。

 

「もうすぐ見えるよ・・・・・・3.2.1.今!」

 

 カウントが終わると共に、ビルの影から直立戦車が姿を現した。

 こちらに気がついた直立戦車はスピードを上げて一気に突破しようとする。しかし、深雪の魔法によって直立戦車のキャタピラが凍りつき、停止してしまった。さらに【凍火】で銃火器を使用不能にしてしまったため、反撃する事ができない。

 

 その隙を逃さず、レオとエリカが前に飛び出し、各々の刃で直立戦車のコックピットを切り裂いた。すると直立戦車は道路に倒れ、辺りにパイロットの血が広がった。

 

 また、五十里がいるチームでも戦闘に突入していた。

 五十里の合図で花音は【振動地雷】を発動。道路を液状化させ、直立戦車の足を止めた。キャタピラは不整地な場所を走行するためのものだが、泥んこな場所には弱く、進むことはできない。

 さらに花音はキャタピラが埋まるのを確認すると水分を蒸発させ、直立戦車の脚を飲み込んだ地面を再び凝固させた。

 

 立ち往生した直立戦車へ寿和と桐原が飛び出した。パイロットが落ち着きを取り戻し、搭載火器で攻撃される前に無力化しなければならないのだ。

 寿和はパイロットが追いつけないスピードでコックピットを連続で斬り裂き、桐原は紗耶香の援護で一気に近づき、【高周波ブレード】で突き刺した。肉を貫く感触。桐原は顔を顰めた。ブランシュの件で腕を斬った事はあったが、殺しは初めてだったのだ。

 

 そして、囮として敵がいる所をプラプラしている智宏も、既に数グループの敵と会敵していた。

 

「いたぞ!戦闘員は射殺しろ!」

 

 遮蔽物から智宏を狙って射撃を続ける兵士達。しかし智宏に命中する前に銃弾は光に阻まれた。

 智宏は歩みを止めず、CADを敵に向けて【重力核】を発動し、銃やCADごと潰した。仲間の無惨な死に方を見た敵もいたが、逃げる背中にCADを向けると、容赦なく引き金を引いた。

 

 そのまま歩き続けると、智宏はT字路にたどり着く。ちなみに彼が歩いた道は赤く染まっている。将輝同様、殺戮の嵐だった。

 

「さて、敵は・・・・・・」

 

 道路のど真ん中で周囲をみまわしていると、こちらに向かってくる直立戦車に気がついた。

 

(この方向は深雪達の・・・・・・援軍に行くつもりか)

 

 そう思った智宏は近づいてくる直立戦車に対して魔法を放つ。直立戦車は1発の銃砲弾を撃つことなくただの鉄の塊と化した。

 敵を無力化した智宏は、直立戦車がやってきた方向に向かって進んだ。おそらくその先は敵が完全に制圧している区域だろう。

 

 すると着信音がポケットから聞こえた。智宏は携帯端末を取り出して画面を見る。相手は雫だった。一応周囲を警戒をしながら電話に出る。

 

「雫?」

 

『智宏さん、そろそろヘリコプターが来そうだよ。今どこ?』

 

「んー・・・・・・正確な位置はわかんないね。でも深雪達よりは港側にいると思うよ」

 

『わかった。じゃあそこで待ってて。ヘリコプターで拾うから』

 

「ん?いや俺は・・・・・・ごめん雫、敵だ」

 

 そう言うと智宏は電話を切る。歩兵がこちらに向かってきていたからだ。智宏は処理するためにCADを構えた。

 

 現時刻は午後4時30分。

 戦況は侵攻軍が防御にまわるはめとなった。偽装輸送船には元から弾薬が大量に積まれていたため、兵站に困ることはなかったが、兵士の損耗が予想以上に激しく、戦線を支えることで精一杯だった。

 

 建物への奇襲は成功したものの、学生による反撃と警備員の抵抗により、主要施設の占拠は叶わなかった。

 市民や魔法師の誘拐に関しても国防軍が盾となって守っているため、こちらも成功していない。

 

 侵攻軍の司令官は、予想以上の損害に険しい表情を隠せていなかった。

 

「司令、無人偵察機からの通信が全機途絶しました!」

 

「論文コンペ会場の制圧失敗。兵士達と通信が取れません」

 

「全部隊に一次防衛線までの撤退を指示しました。これで突出する部隊はいなくなるはずです」

 

 オペレーター達が次々に報告を入れる。

 

「偵察機がやられ、戦況は不利。くそっ!」

 

「・・・・・・前線の部隊長からです。数機のヘリが直立戦車が向かっていたシェルター入り口に接近しているそうです」

 

「市民を逃がす気か・・・・・・よし、部隊を再編成。1個小隊を囮に分隊規模の魔法師部隊を向かわせろ」

 

「はっ!」

 

 司令官は真由美達の方向へ部隊を向かわせた。だが、本人達はその脅威に気がついていなかった。

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