四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第79話 油断と被弾

 

 

 

『お嬢様、まもなく到着いたします』

 

「黒沢さん。うん、ローター音は聞こえるよ」

 

 雫はハウスキーパーの黒沢が操縦するヘリコプターの音を聞き取っていた。

 

「では皆さん!女性と子供を優先で収容します!並んでください!」

 

 その報告を聞いた真由美は避難してきた人達に呼びかけた。生徒や市民は真由美や警備員の指示に従って並び始める。

 

 ヘリコプターが姿を現すと、並んでいた市民達は安堵の表情を浮かべる。しかし、突如として現れた謎の黒い物体がヘリコプターへと近づいていく。よく見るとイナゴの大群だった。

 

 雫はポーチから小型拳銃のようなCADを取り出し、九校戦でも使用した【フォノン・メーザー】でイナゴの大群を焼き払った。

 

「数が多い・・・・・・!」

 

 何度も熱線でイナゴを消しているが、空いた隙間を埋め尽くすように別のイナゴがやって来る。このままではヘリコプターの吸気口に飛び込まれてしまう。こんな時深雪がいれば全て凍らせるだろうが、今彼女はここにいない。

 

 焦る雫達。イナゴの大群はヘリに取り付くかに見えた。だが、その瞬間全てのイナゴが消え去ってしまった。

 

「あれは!」

 

 避難してした市民の1人が空中を指さす。雫や真由美がその方向へ視線を向けると、黒づくめのスーツを着た集団がヘリポートを囲むようにして陣を組んでいるのが見えた。

 そしてその中には見覚えのある銀色のCADを持つ人も・・・・・・。

 

「達也・・・・・・さん?」

 

 ほのかがそう呟く。

 また、脅威が消えたヘリは着陸体勢に入り、ゆっくりと地面に着陸した。

 

 市民を収容している間、不気味な黒い1団はヘリを囲むようにして待機していた。周辺を警戒しているようなので、彼らは真由美達を守ってくれているのだろう。

 

 それから10分後、北山家のヘリは人を乗れるだけ乗せると飛び去っていく。護衛なのか、ムーバルスーツを着た2人の隊員もついていた。

 それと同時に、今度は真由美が手配したヘリが到着し、乗せられなかった市民や生徒達を収容。1機を残して北山家のヘリと同じ方向へ飛んでいく。

 

「じゃあ私達も行きましょうか」

 

 最後に残った真由美達も最後のヘリに乗り込んだ。このヘリには深雪や花音達を乗せるため、スペースが空けられていた。市民がいては避難が最優先になるため、戦場で回収ができないのだ。だからこれは真由美達専用。

 

 回転翼が動き出し、真由美達を乗せたヘリはゆっくり上昇する。その時真由美は、建物の屋上にいる銀色のCADを持った男に「あっかんべぇ」と舌を出した。顔は見えなかったが、彼女はあれが達也であると確信していたのだ。

 

 達也もそんな真由美に苦笑しながら通信を入れた。

 

「こちら大黒。七草真由美嬢はヘリでの避難を開始、途中で同級生を回収した後避難するようです」

 

『了解。対象を戦闘区域より脱出まで護衛。その後は隊へ合流せよ』

 

「了解」

 

 本部への通信を終えると、達也は真由美達がのるヘリにロケットランチャーの照準を合わせていた敵に向けて魔法を放つ。建物の角で火が一瞬だけ上がった。

 そして敵がいないことを確認した達也は、ヘリを護衛するために飛行魔法を発動し、空へ上がった。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 魔法協会の組織した義勇軍。彼らはなんとか善戦していたものの、負傷者が増えてきたためにジリジリと後退していた。

 敵は歩兵と魔法師、直立戦車の混成部隊だった。人の数は若干敵が多かったが、魔法師が召喚した化成体の数に押されつつある。

 

「撤退!撤退!」

 

「1ブロック後退して戦線を立て直す!」

 

 実戦なれしている男達(実は国防軍の予備役)の指示で義勇軍は後退しようとした。

 しかし――

 

「後退するな!」

 

 その声の方向に視線を向けると、まるで鎧のようなヘルメットとプロテクターを装着した克人が仁王立ちしているではないか。

 

「奮い立て!魔法を手にするもの達よ!進め!我らが祖国を守るのだ!」

 

 そう克人が叫ぶと、直立戦車や化成体がぺしゃんこに叩き潰された。その様子を見た義勇兵からは歓声があがる。

 

 するとお返しだと言わんばかりに、克人に向けて銃撃が放たれた。だが【ファランクス】を展開しているため全く効果がない。克人はそのまま直立戦車を次々に潰していき、1分もしないうちに全ての直立戦車は潰れてしまった。

 直立戦車という最大の兵器を失った敵はその歩みを止め、逆に後退するような素振りを見せた。

 

 自分達が苦戦していた相手が一気に不利になる。このシチュエーションで士気が上がらないはずはなく、義勇軍は魔法を放ちながら前進を始め、敵を追い詰めていった。

 

 また、義勇軍として参加した将輝も別の戦線を支えていた。だがここは道が狭く、市民を巻き添えにしないために被害が拡大するような反撃ができなかった。

 

 そこで将輝は左腕にはめたCADを起動させ、液体分子の振動による加熱魔法【叫喚地獄】を発動する。

 魔法が命中した敵は身体が熱くなるのを感じるが、それはすぐに激痛へと変わり、数十秒地面にのたうち回った後に死亡した。

 

【爆裂】とは違ってなかなか死ねないが、この魔法は便利なところもある。【叫喚地獄】は情報強化を纏う魔法師には効きにくいため、今立っている者が魔法師ということになるのだ。

 敵の中に魔法師がいる場合、この魔法なら見分けはつく。どのみち死ぬだろうが・・・・・・。

 

 深雪達のグループも敵の襲撃になんとか耐え、接近する敵は徐々に少なくなっていた。幹比古が雷撃で敵を無力化すると、辺りは静かになり、敵の気配はしなかった。

 

「ふう。これで一段落かな」

 

「皆、七草先輩がヘリコプターで迎えに来てくれるそうよ」

 

「そりゃよかったぜ」

 

 真由美からの連絡を受け取った深雪がヘリコプターの接近を全員に話す。

 

「来たみたいですよ」

 

 美月がヘリのローター音を聞き取った。しかし肝心の機体は見えない。音の大きさからして上空にいてもおかしくないはずだ。

 

 すると深雪の携帯端末に着信があった。真由美からだ。

 

『深雪さん?ごめんね、そこ狭くて着陸できないの。だからロープを下ろすわ』

 

 深雪が返事をする間もなく、人数分のロープが地面に下りてきた。まさかこれに捕まれと。ロープの先には足を引っ掛ける金具がついているが、美月は大丈夫なのだろうか。

 

 しかし時間がないのですぐに動く必要があった。レオと幹比古が周囲を警戒している間に、女性陣3名が上がっていく。

 深雪達がヘリの中に収容されたのを確認したレイと幹比古は、自分達のロープに足を引っ掛け、同じように上昇していった。

 

 ヘリの中に入ると、ほのかが必死に手を組んでいた。

 

「ほのか・・・・・・?もしかして光学迷彩は・・・・・・」

 

「すごいだろ?私にはできないね」

 

 摩利が深雪の言葉にそう反応した。

 

「光井さん、大丈夫?辛かったら解除してね?」

 

「だ、大丈夫です・・・・・・」

 

 魔法の制御で友人と話す余裕もないほのかは、真由美の言葉に返すだけでも精一杯だった。ビルなどの建物がある場所では、何も無い空と比べて景色の変化が激しく、光学迷彩を維持するのはとても大変なんだそうな。

 

 後部ハッチが閉められると、ヘリは移動を始め、五十里達がいる立体交差点へと向かう。しかし、空での移動はそんなに苦ではなかったが、五十里達を回収する事は困難だった。まだ下で銃撃戦が続いていたからだ。

 

 ほのかの負担も考えるとあまり長居はできないと考えた真由美は、窓から下を覗いてCADを操作。ドライアイスの弾丸が機関銃のように敵に降り注ぎ、防護服を貫通した。ドライアイスの大きさは12.7mm弾と同じくらいだったため、炸裂こそはしなかったが、敵の命中箇所はえぐれていた。

 

 敵が全滅したのを確認した真由美は、後部ハッチを開きながら携帯端末を操作し、電話をかける。

 

「もしもし五十里君?ロープを下ろすから捕まってね」

 

『わかりました』

 

 真由美との通話を切った五十里は、全員にヘリが来たことを話す。

 だが寿和を除いた五十里達高校生はこういった戦闘は初めてだったがために、ようやく避難できるという油断を生み出してしまう。

 

 寿和も一瞬気を許してしまったのが間違いだった。後方からの殺気に気がついた寿和と桐原は、振り向いてその光景に目を見開く。敵がこちらに銃口を向けていたのだ。

 

「「危ない!」」

 

 2人の声に五十里は花音を庇うが、紗耶香は尻もちをついてしまい、逃げられなかった。

 

 

 

 

 

 そして攻撃が開始され、鮮血が舞った。

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