四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第8話 FLT社へ

 

 

 

 次の日曜日。智宏は達也と深雪と一緒にFLT社のCAD開発センターに来ていた。

 ここは技術力を売っているようなものなので、警備もすごい数だ。機械はもちろん人もあちこちに配置されている。深雪はこんな所に来ていても上機嫌に達也の腕にくっついていた。

 

 入り口では何もなかったが、入ってすぐの受付で3人は引っかかる。いや、この場合引っかかったのは智宏だけ。前からここに来ている達也と深雪は巻き込まれただけだろう。

 

 

 「あの!」

 「ん?」

 「そちらの方は・・・」

 「この人は四葉の関係者です」

 「っ!申し訳ございません!どうぞ!」

 

 

 達也は智宏を四葉の関係者として説明した。それだけで警備員は通してくれた。一応警備員は四葉が雇っている。なぜか?それは後でわかるだろう。

 3人は窓すらない廊下をまっすぐに奥へ進んでいく。

 

 やがて1つの部屋に出た。

 そこでは忙しなく研究員が歩き回っており、互いに議論を交わしたりうーん・・・と悩んだりしている。

 3人が中に入ると1人の研究員が達也に気づく。

 

 

 「あ!御曹司!」

 「え?あ!御曹司!」

 「御曹司!」

 

 

 御曹司という呼び方は達也がここに出入りし始めた頃からついているあだ名みたいなものだ。実際間違っていないが。

 

 達也は恥ずかしいからやめて欲しいのだが、深雪が我がもののように達也がそう呼ばれて喜んでいるので、もう何も言わない。

 

 

 「ご無沙汰しています。ところで牛山主任はどこに?」

 「お呼びですかい?ミスター?」

 「すいません。忙しかったですか?」

 「なんのなんの。それよりいけませんなぁ。ここにいるのは全員アンタの部下だ。そんな腰が低くちゃこっちが変な気分になっちまいやす」

 「そんな」

 「いいんですぜ?我々は天下のシルバーの下で働けている事が光栄なんでさ。ところでそちらの人は?」

 「紹介します。彼は四葉智宏。俺の従兄弟です」

 「なっ!あのご当主様の息子さんですかい?」

 「はい。牛山さん。はじめまして」

 「い、いやいやこちらこそどうも」

 「では本題に入っても?」

 「ええもちろん」

 「牛山さん。今日はこれを持ってきました」

 

 

 智宏の紹介を手早く終わらせ、達也は牛山に持ってきた小さいアタッシュケースの中身を開いて見せた。そこには試作CADが置かれている。

 

 牛山は一瞬黙り込み、即座にこれがなんなのかを突き止めた。

 

 

 「お、御曹司。これはまさか飛行デバイスですかい?」

 「ええ」

 「て、テストは?」

 「もちろんしました。しかし俺と深雪ではテストにならないでしょう?」

 

 

 研究室一帯に息を呑む音が響く。

 彼らは全員牛山の手の中にあるCADを凝視していた。

 

 

 「・・・テツ」

 「はい!」

 「これと同じ型のデバイスは何個ある?」

 「えー10機です!」

 「・・・はぁ!?たったそれだけか!?バカ野郎!なんで補充しとかねーんだ!てめーら!テスターを全員呼べ!あとあるだけの同型デバイスに御曹司のシステムをコピーしろ!」

 「「「はい!」」」

 「急げ急げ!これは現代魔法の歴史が変わるんだぞ!」

 

 

 部屋の中は先程よりも慌ただしくなり、テスターは無理矢理連れてこられ、起動式は達也が持ってきた同型のデバイスにコピーを開始。

 およそ20分後には全ての準備が整った。

 

 CADの試験場では飛行魔法が組み込まれたデバイスを持ったテスターが何人も待機しており、牛山の指示を待っていた。

 

 

 「よし!実験を始めろ!」

 

 

 ごつい防護服に身を包んだテスターは緊張しながらもCADのスイッチを入れる。

 するとテスターの身体はゆっくりと上昇し、智宏達がいる計測室の窓がある所まで到達した。

 

 テスターは計測室から出された指示通りに動く。やはり深雪がやったように問題はない。

 計測室は興奮した空気に包まれる。

 それはテスターも同じだったようで通信が入った。

 

 

『こちらテスター・ワン。僕は・・・僕は今空中を歩いて・・・いや、空中を飛んでいます!』

 

 

 その言葉に何かが外れたのか、他のテスター達もCADのスイッチを押して空中に浮かび上がった。

 スピーカーから彼らの興奮した声が次々に聞こえ始め、試験場では色んな動きをテスターはしていた。

 

 その瞬間計測室は歓喜に包まれた。

 

 

 「やった!」

 「やったぞ!」

 「御曹司!やりました!」

 「おめでとうございます!」

 「御曹司!」

 

 

 智宏は深雪と視線が合い、互いに笑いあう。

 ただ達也と牛山は冷静にテスターを見ていた。

 

 数分後、智宏達は試験場に降りていった。

 牛山はため息をつきながら地面にへたりこんでいるテスター達を見下ろした。

 

 

 「あのなぁ・・・お前らアホか?」

 「うう・・・」

 「なんで空中鬼ごっこなんてやっちまうんだ。御曹司達はともかくお前らの魔法力じゃ長時間使えねーだろーが」

 

 

 魔法の使用にはある程度の魔法力を使う。

 特に継続的に発動する魔法はそれ相応の魔法力が必要になってくる。元々継続的に実験するわけでもない彼らにとって負担は大きくなる。つまり発動時間も制限があるのだ。

 幸い全員後遺症が残らなかったので、達也は少しだけホッとした。

 

 牛山は隣で少し悩んだ顔をした達也に近寄った。

 

 

 「どうかしましたかい?」

 「いえ、はやり起動式の連続処理がキツそうなのでもっと効率化する必要がある・・・と」

 「おいおい達也、多分この結果が普通だと思うぞ?テスターのサイオン量は平均値並。俺や深雪のサイオン量を基準にして考えてないか?」

 「そうか?」

 「そうそう」

 「じゃあそれはこちらでやっておきますんで。御曹司は帰って休んでくだせぇ」

 「牛山さん・・・」

 「お兄様。いいではないですか。智宏兄様もそう思うでしょう?」

 「ああ。達也、お前少し休んだ方がいい」

 「・・・ではそうします。牛山さん、後をお願いします」

 「了解!来週までにやっておきますんで次の日曜にでもまた来てください」

 「はい」

 

 

 後の作業を牛山に任せた達也は、智宏と深雪を連れて計測室を出る。

 

 智宏は途中トイレに行きたくなり、達也に場所を教えて貰ってそこに小走りで向かう。一応集合場所は受付のロビーにしてある。

 しかしトイレも凄かった。研究施設というのもあり、トイレの設備も最新式の物だった。

 

 智宏がトイレから出て少し歩くと、前の方から声がした。

 達也と深雪以外にもう2人いる。片方はよく知った顔である四葉家執事の青木だが、もう1人は知らない。

 智宏は気配を消して4人に近づいた。どうやらちょっとばかりの口論をしているみたいだ。しばらく聞いていると、どうやら青木が達也に負けていた。すると苦し紛れに青木がこう言い捨てる。

 

 

 「ふん。真夜様は何も仰られていないが我々はそう思っている。まあ?心を持たぬエセにはわからんだろうがな」

 

 

 その瞬間智宏の中で怒りの感情が吹き上がった。

 気配を戻そうと思った瞬間、廊下の壁が薄く凍る。

 深雪がキレたのだ。

 青木の足元が徐々に凍り始める。さすがに見過ごせないので、智宏は深雪を止めて口を開こうとした達也の肩を掴んだ。達也は気づいていたのでさほど驚きはしなかった。

 

 

 「青木さん。それはダメでしょう」

 「あ、あなたは、智宏様!」

 

 

 青木ともう1人の男はいきなり現れた智宏に驚き数歩下がった。

 

 泣き始めた深雪を青木の前から身体で隠しながら智宏は言葉を続ける。

 

 

 「今の話聞かせてもらいました。エセ、とはどういう事です?」

 「そ、それは・・・」

 「まさかその言葉の意味を知らないと?達也は母上の姉であらせられる深夜さんの息子。その達也を侮辱するとは深夜さんを侮辱する事と同じ。しかし・・・わかって言っているなら話は早い」

 

 

 深雪を泣かせた青木に、達也並に智宏も怒っている。

 その証拠に廊下の壁や床に出来た氷や霜が砕け、智宏の足元の床もベキっと音を立ててへこむ。

 

 目の前の2人は潰れないように立っているだけで精一杯。

 達也は黙って智宏を見ていたが、深雪は驚愕の目で智宏を見つめる。これだけの魔法干渉力、自分より凄いのではないのか?と。

 

 

 「青木さん。この事は母上に報告させてもらいます」

 「っ!?」

 「母上が聞いたらなんて言うだろうか・・・さぞお怒りになるだろう。姉を侮辱し姪を泣かせたなんてな」

 「ど、どうかそれだけは・・・」

 

 

 青木は真っ青になりながら智宏を止めた。

 それほど真夜が恐ろしいのだろう。確かに真夜を怒らせたくはないと誰もが思うだろう。

 

 智宏は青木を冷たい目で見下ろしていたが、横から智宏を止めにはいる男がいた。それは智宏が知らなかった男。達也と深雪の父・司波龍郎である。智宏は自然と発動していた魔法を解く。

 

 

 「智宏君・・・・・・やめないか」

 「誰だ?」

 「ふう。私は達也と深雪の父親、司波龍郎だよ」

 「ああ・・・深夜さんが亡くなられた後すぐに別の女と結婚した」

 「その認識はどうかと思うが。青木さんを攻めないでくれないか?」

 「くだらん。お前に指示される筋合いはない。達也と深雪の父親だろうが俺には関係ない。本家にも入れさせてもらえない者が口を出すな。お前は達也と深雪がいるからこそ四葉家と繋がっていられるんだ。それを忘れないでほしい」

 「むっ」

 「母上への報告は絶対だ。青木さん、残念ですよ。2人共、行こう」

 「ああ」

 「・・・はい」

 

 

 固まった青木と龍郎を置いて3人はFLT を出る。

 しばらくバスを待っていると、深雪が智宏の裾をくいくいと引っ張ってくる。

 

 

 「深雪?」

 「智宏兄様・・・ありがとうございます」

 「いいんだ。あれは怒って当然の事なんだ」

 「叔母様には」

 「報告する。多分青木さんは減給じゃないかな?できればそれぐらいで済ませたい」

 「ご迷惑をおかけしました」

 「智宏。俺からも礼を言う」

 「いや、それよりもこっちこそ父親を少し悪く言ってしまった。すまん」

 「そんな!あんなの父親ではありません!」

 「おい深雪」

 「お兄様。私はお兄様さえいれば充分です」

 「ははは(ますます重いな)。ところで何があったんだ?」

 

 

 智宏が事情を聞くと深雪の顔が少し紅く染まる。

 達也に目線をずらすと、きっちり答えてくれた。

 

 

 「実は深雪を智宏の嫁にすると言われてな」

 「深雪を!?母上は何も言っていないぞ?」

 「おそらく使用人の中でなんとなく決まっているんだろう」

 「バカな。深雪には自由に恋愛してほしいんだ。俺はそんなの認めないぞ」

 「智宏兄様・・・」

 「深雪。お前の結婚相手は自分で見つけるんだ。いいね?」

 「はい!うふふふふ」

 

 

 深雪は智宏からそう言われると自らの頬に両手を当て、身体をくねくねさせる。

 その様子の深雪を見て、智宏と達也は帰るまでほっこりしていたのだった。

 

 

 

 

 

 その後、青木は無礼を働いたために半年の減給となる。それには処分はいつでもできるという意思も込められている。だが青木は優秀な人材、失うわけにはいくまい。

 それと同時に司波龍郎と青木の接触もしばらく禁じられたらしい・・・




青木は馬車馬のように働かせよう。

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