四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第82話 重力の暴走

 

 

 

 ――数分前。

 交差点の1角で智宏は敵を排除し続けていた。この場所での戦果は直立戦車3両、装甲車4両、歩兵20名。それも1度ではなく何度かに分けた戦力の逐次投入だったため、苦戦せずに排除できた。

 

 1度に来ればそれなりの戦力なのだが、小出しで来る敵に智宏は飽き飽きしていた。

 深雪達がヘリに乗ったのも確認しており、ヘリの進行方向から察するにこちらへ来ようとしているのだろう。

 

 だがこちらは未だ敵の勢力圏内。ヘリを飛ばすなんて真似はできない。智宏は雫に電話して自分を無視して避難するように言おうとした。

 しかし、突然の悲鳴と銃声で電話が出来なくなってしまった。

 

(どこだ・・・・・・俺を狙ったわけではないな)

 

 避難は完了しているはずだが、もしかすると逃げ遅れた人がいるのかもしれない。智宏は銃声がした方向へ走った。

 

 100mほど走ると、再び銃声が聞こえた。今度は何かを狙うような射撃間隔だった。

 交差点から別の道に飛び出すと、智宏は現れた光景に目を疑った。智宏の20m前で、2人の敵兵が民間人と思われる母子を見下ろしていたからだ。

 

(まさか民間人を撃ったのか!?そんな馬鹿な!)

 

 すると驚いている智宏に気がついたのか、敵兵がこちらに銃を向けた。

 

「おい!こうなりたくなかったら武器を捨てるんだ!」

 

「その制服は第一高校の生徒だな。こいつは魔法師じゃなかったからやっちまったが、てめぇを持ち帰れば俺たちゃ昇進ものよ」

 

 やけに日本語が上手い。服は民間人の格好なので、工作員として訓練を受けてきたのだろう。だが智宏はそれどころではなかった。

 

(・・・・・・は?まさかそんな事で殺したのか?)

 

「聞いてんのか?」

 

「・・・・・・そんな・・・・・・そんなくだらない理由で!」

 

 智宏はCADを向けて【重力核】を発動。敵兵はぐしゃっと潰れてしまった。

 辺りに血が広がるが、智宏はそんな事を気にせず親子のところへ駆け寄った。10歳くらいの子供はもう手遅れだったが、母親の方はまだ息があった。しかし――

 

(血を出しすぎてる。こっちもダメか)

 

「あの・・・・・・」

 

 震える智宏の手に母親が自らの手を添える。

 

「え、あ・・・すみません。間に合わず」

 

「謝らなくて・・・・・・いいわ。それで・・・・・・あの子・・・・・・は?」

 

 この母親は智宏の身体で子供の姿が見えていないようだ。

 

「・・・・・・まだ助かります。病院に連れて行きますのでご安心を」

 

 智宏は嘘をついた。だが他になんて言えばいいのかわからなかったのだ。とてもじゃないが本当の事は言えない・・・・・・言いたくなかった。

 

「そう・・・・・・よかっ・・・た」

 

 それっきり女性は動かなくなった。

 智宏は女性が亡くなったのを確認すると、2人を寄り添うようにして歩道の端にそっと移動させた。

 

 それから智宏の頭の中に負の感情がぐるぐると回り始め、正常な判断ができなくなってきてしまった。

 そして2人の遺体に近くにあった店の旗を被せると、智宏は港の方へ足を進めた。

 

 別の交差点までたどり着くと、5名ほどの敵が辺りを警戒しながら歩いていた。おそらく歩哨だろう。

 普通なら隠れてやり過ごすのだが、今の智宏は正常な判断ができない。敵の姿を視認すると、怒りに支配された感情が爆発し、とてつもない魔法力が辺りに広がった。

 

「て、敵襲!」

 

 敵兵は慌てて銃を智宏に向けるが、それよりも早く智宏の魔法干渉力が作用し、立っていられないほどの重力が彼らを襲う。10m以上の距離があるはずなのだが、それでも智宏の干渉力は作用した。

 

 発砲しようとしても銃口は下を向き、智宏を見ようとしても頭も押し付けられるように下がる。そして智宏がこちらに歩いてくるにつれ、徐々に全身が地面に近づき、敵兵は智宏にひれ伏すように地面に押し付けられた。

 

「がっ・・・・・・」

「く、そ・・・・・・」

 

 智宏が彼らの中心に立った時、彼らを襲う重力は頂点に達し、呼吸すらままならない状態となる。

 

 苦しむゲリラの1人にCADを向ける智宏。そのまま引き金を引くと、その男の両腕両足が折れた。ありえない方向に手足がねじ曲がり、悲鳴・・・のような呻き声が聞こえる。

 

「お前らには・・・・・・」

 

 引き金を引く。

 

「わからないだろうな・・・・・・」

 

 また引き金を引く。

 

「家族を失った・・・・・・」

 

 さらに引き金を引く。

 

「残された者の気持ちなんて・・・・・・」

 

 自分でもありえないほどの低い声で敵を殺す事無く無力化する智宏。

 抵抗する手段を失ったゲリラは、しばらく呼吸ができない状態が進み、圧死でその命を終わらせた。

 

 智宏はあの親子に自分を重ねていた。自分は中坊の時に育ての母親を失ってしまった。それは鮮明に覚えており、亡き育ての母を夢で見るくらいだ。

 だからこそ智宏は家族を失った者の気持ちを理解できた。それが幼ければ幼いほど苦しみが大きなものになる事も。とはいえあの女性には夫がいたはずだ。鎮圧後の身元確認の場面など想像もしたくない。

 助けられなかった親子にも未来があった。こんな事で失う命ではなかったのだ。

 

 しばらく港の方を見つめた智宏は、携帯端末を手に取ってある場所へ電話をした。

 

『はい智宏様』

 

「彩音。あれは届いているか?」

 

『先程到着いたしました。リビングに置いてあります』

 

 通話の相手は彩音だった。

 

「今すぐ俺のところへ持ってこい。場所は後で指定する」

 

『・・・・・・智宏様?何かあったのですか?』

 

 主からの電話にうきうきして出た彩音だったが、いつもとは違う智宏の様子が携帯越しでもわかってしまった。

 

「敵を殲滅する。あれが必要だ」

 

『あれを人口密集地で使用するのですか!?いけません!いくら智宏様でも奥様がお許しになるかどうか・・・・・・』

 

「命令だ。いいな」

 

『・・・・・・っ、わかりました』

 

 智宏のいつもとは違う雰囲気。殺意や憎しみの篭った声に彩音は従うしかなかった。念の為に四葉本家に連絡を入れ、直ぐに自身も武装し、荷物を持って家を出たのだった。

 

 通話を終了した智宏は集合場所を港沿いのビルにしようと思い、そこへ向かって歩き始める。

 だが――

 

「智宏!」

 

「・・・・・・達也」

 

 上空からムーバルスーツを着用した達也が降りてきた。

 

「さっきのはなんだ。それにどこへ行こうとしている!」

 

「いや、別に」

 

「あの干渉力・・・・・・あいつらはお前が?」

 

 智宏はさっさと目的のビルに向かいたかった。だがそれを達也が阻止する。

 そしてさらに智宏を止める者達もいた。

 

「「「智宏(君)さん!」」」

 

 現れたのはヘリに乗っているはずの深雪、雫、真由美だった。実は彼女達、敵が完全に制圧した区域のギリギリ外側で飛び降りたのだ。

 

 彼女らは智宏と達也、そしてヒビの入った地面に転がるゲリラの死体を交互に見る。

 血溜まりや異型な死体に彼女達は口を押さえ、あまり目に入らないように迂回してこちらに近づいて来た。

 

「智宏君、さっきの魔法はあなたね。何があったの?」

 

 近づいて来る真由美に目も合わさず、智宏はその場を去ろうとする。

 

「なんでもないです」

 

「なんでもないわけないじゃない!じゃああの遺体は何よ!」

 

 いつもとは違う対応に真由美は声を荒らげて智宏に掴みかかる。普段なら軽く適当な事を言って振り払うだろうが、智宏は何もせずにされるがままだ。

 

「ねぇ智宏君、教えて」

 

「智宏さん・・・・・・」

 

 服を掴んだ真由美とギュッと智宏の手を握った雫。2人のまっすぐな視線に智宏は低い声で言う。

 

「・・・・・・敵が民間人の親子を射殺していた。しかも狙って撃っていたみたいだった」

 

「「えっ・・・・・・」」

 

「そんな!」

 

 固まる2人。

 深雪は声を上げて達也にしがみつく。

 

「これ以上犠牲者を出すわけにはいかない。だから行くよ」

 

 智宏は2人の手を優しく握り、自分から引き離した。

 

「敵は殲滅する。これが俺の任務、役目、使命だ」

 

 ふらりとその場を離れようとする智宏。それを見て達也はハッとなる。

 

「智宏!降伏した奴も殺す気か!」

 

その言葉に一瞬止まる智宏だったが、ぐりんと達也達の方に振り返る。鋭くなった目に光は一切無く、どこまでも深い闇が広がっていた。その目を見た女性陣は小さく悲鳴をあげてしまう。

 

「達也、奴らは兵隊じゃない。テロリストだ。テロリストを保護する条約など・・・ない」

 

「・・・・・・ダメッ!」

 

「雫!?」

 

 別人のような雰囲気を出す智宏に雫は抱きついた。このままでは彼が彼でなくなってしまう。自分が想う彼でなくなってしまう。そう思った。

 

「智宏さんお願い。私達のところに戻ってきて、ね?」

 

 雫は智宏にヘリへ行こうと誘う。戦況はヘリの中で傍受した無線でわかっている。敵が引いてきているし、国防軍の援軍も来ている。もう学生が戦う必要はなくなったのだ。

 

「・・・・・・いや。まだ奴らは残ってるんだ」

 

 それでも智宏は行こうとする。

 すると――

 

「いい加減にしなさい!智宏君、あなたは彼らとは違って野蛮ではないわ!だから同じように彼らを殺す事はないのよ!」

 

 真由美が智宏を叱った。めったに見ない光景だが、深雪にはわかった。あれは本気で想い人を心配しているのだと。だからこそあれだけ怒る事ができるのだと。

 

 雫と真由美は必死に智宏を止めようとする。下を見たままの智宏。彼女達の声は届くのだろうか。

 

「・・・・・・確かに奴らと同類になり下がる事はない、ですね。すみません」

 

 そのままの状態で固まっていたが、智宏から発せられた声は、いつも通りのものだった。

 

「「智宏(君)さん!」」

 

「ですが十師族としての役割は果たさなければいけません。俺は戻らずに前線へ行きます」

 

「・・・・・・わかったわ。北山さんもいいわね?」

 

「う・・・・・・はい」

 

 雫はまだ不満がありそうだったが、十師族としての役割と言われてしまえば止める事はできない。だから真由美も納得したのだ。

 

 すると達也に連絡が入る。おそらく上官の柳か響子だろう。

 

「深雪、この辺は完全に制圧したから短時間ならここにヘリを呼んでも構わない」

 

「わかりました。七草先輩、お願いします」

 

 深雪の要請に真由美は直ぐに応え、携帯端末でヘリを呼んだ。数分後、ほのかの光学迷彩によって守られたヘリが到着した。

 

「ご迷惑をおかけしました。雫、ありがとう」

 

「うん、大丈夫」

 

「・・・・・・ねぇ、私には?」

 

 抱きついたままの雫や、それを受け入れている智宏にジーッと視線を向ける真由美。わずかながら眉もつり上がっている。

 

「もちろん先輩にも感謝していますよ」

 

「わっ!」

 

 真由美の手を引き寄せて至近距離でニッコリと微笑む智宏。左に雫が抱きつき、右に真由美を引き寄せている状況から、智宏がとんでもないヤローに見えなくはないが、彼は本当に感謝していたため悪気はなかった。

 

 その後、ヘリの中から呆れた声で深雪達を呼んだ摩利の声に雫と真由美はハッとなり、3人はヘリに搭乗した。

 智宏と達也も女性陣を見送った後、再び戦場へ向かったのだった。

 

 

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