四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第83話 揚陸艦撃沈

 

 

 

達也と分かれる前、智宏はある物を受け取っていた。

 

「智宏」

 

「ん?何これ」

 

いきなり放り投げられた小型の機械。智宏は慌ててキャッチする。

 

「飛行魔法のCADだ。それを使え」

 

「・・・・・・おう、ありがとな」

 

飛行魔法が入ったCADを渡した達也は、そのままバックルを叩いて戦場へと飛び立った。

そして達也と別れた智宏は、彩音に集合場所を指定してそこへ向かった。

 

一方、深雪達を乗せたヘリの中では美月が突然猛獣のような気配を感じていた。もちろん猛獣とはライオンとかそういうものではなく、オーラみたいなもの。つまりは敵だ。

真由美の指示でヘリはベイヒルズタワーの方へ向かった。

 

その猛獣の正体は呂剛虎(リュウカンフウ)。日本で捕まった男だが、いつの間にか逃げられていたのだ。

呂は白い甲冑を身にまとい、部下を引き連れタワーを目指している。協会の者が応戦するも、呂の防御力は半端ではなく、全てを弾き返していた。

 

「む?」

 

呂は目の前にプロテクターを装着した女性が立っているのに気がつく。しかもそれは刑務所や病院で戦った者だった事を思い出す。

油断できない相手だが、呂の闘争心は膨れ上がり、立ちはだかった摩利へ向かって突進した。

 

その瞬間、呂は斜め後ろからの気配を探知する。

 

「せやぁっ!」

 

レオは薄羽蜉蝣を振り回して呂に向かう。目標は呂の足だった。

だが呂は冷静に対処し、身体を捻らせ飛び蹴りをレオに放つ。レオは咄嗟に避けるが、次の虎形拳は確実に捉えられていた。

 

「パンツァー!」

 

慌ててコマンドを唱えたが、タイミングはギリギリ。呂の拳はレオに突き刺さる。衝撃は殺せなかったために、レオはそのまま飛ばされてしまった。

続けてきたエリカも善戦したが、皮1枚を斬っただけでそれ以上の戦果は望めず、レオと同じように吹き飛ばされた。

 

だが2人の稼いだ時間は無駄ではない。摩利は3本のシリンダー容器を呂に向けて開けていた。呂もそれに気がついたが、自身に入り込んだ異物は身体の自由を奪い始める。

呂はふらつきつつも摩利へ再度攻撃し、足蹴りで地面に叩きつけた。

 

だがその直後に降ってきたドライアイスの砲弾が呂に向かってくる。呂は掌底で迎え撃とうとするが、接触する瞬間にドライアイスは二酸化炭素に戻り、気体となって呂に降り注いだ。そして呂は二酸化炭素中毒となり、無力化されてしまった。

白虎は再び捕らえられたのだった。

 

また、密かに施設に入り込んでいた陣祥山(チェンシャンシェン)も、目的地に先回りしていた深雪によって凍らされる。これで最後の希望として行動していた特殊部隊は壊滅した。

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

 

とあるビルの屋上。ここはゲリラの勢力圏外のビルで、智宏は達也と分かれた場所から少し後退し、彩音でも安全に来られる場所を指定していたのだ。

 

彩音は八王子の自宅にいるが、実は電話した直後に真夜にも連絡を取り、ヘリを1機まわしてもらう事にしていた。それならあっという間に来られるだろう。真夜も国や国防軍に話は通しておくと行っていたので止められはしないはずだ。

 

「・・・・・・来たか」

 

小型のヘリが屋上に着陸する。

扉が開くと、長さ1m幅30cmにも満たないケースを抱えた彩音が降りてきた。

 

「智宏様」

 

智宏に話しかけてきた彩音は少しビビり気味だった。まぁ電話越しにいつもとは違う声を聞いていたのだ。無理もない。

 

「・・・・・・ごめん」

 

「えっ?」

 

「君にあんな命令の仕方をするのは間違っていた。あの後雫達に落ち着かされたよ」

 

だから智宏は謝った。

四葉の者が見れば変に思うだろう。普通召使いにこう謝罪するのはまずない。だが智宏は謝った。何故か、それは彩音を大切な身内だと認識していたからだ。

 

そして彩音も声色が元に戻った智宏を見てホッとした。何かあったら真夜にどう申し開きをすればいいかわからないのだ。

 

「心配かけたとは思ってる。許してくれ」

 

「い、いえいえいえ!そんな!」

 

両手が塞がっているため、首をブンブン横に振る彩音。

 

「今度新しい服買ってあげるよ。ところでそれが?」

 

「え、あ、はい。どうぞ」

 

「どれどれ」

 

智宏は彩音からケースを受け取って指紋認証システムに親指を押し付ける。するとカシュッという音と共にケースは開いた。

中にはバイザーと小銃型のCAD、それらを繋ぐコードが入っていた。

どうやらまだ完全にはできていないようだ。いや、これで完成なのだろうか。とにかく落ち着いたら達也に見せる必要がある。

 

バイザーと小銃型CADをコードで繋いでからバイザーを装着する智宏。一方、しれっとデート(のようなもの)に誘われた彩音はパニックになっていた。

 

(え、え!?今服を買ってくれるって・・・・・・それって、デートというものなのでは!?)

 

智宏の方をポーッと見詰めて考え込む。

 

「よし、いつでも撃てるな。彩音」

 

「は、はい!」

 

「これから俺は独立魔装大隊の方々と合流する。彩音はどうする?」

 

ケースにCADなどを戻しながら問う智宏。これから達也の上司と話をしてこの魔法を使わせてもらおうとしているのだが、それには彼らに合流しなくてはならない。智宏だけだったら問題ないのだが、今ここには彩音がいる。呼び出しといて帰りは1人で・・・というのもなんだか後味が悪くなる。

 

かと言ってヘリを呼ぶのも色々面倒だ。さてどうしたものか。

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「私も・・・・・・連れて行ってはくれませんか?」

 

彼女の提案は智宏も予想できなかったのか、はい?というふうな顔をしたまま固まってしまった。

 

「あ、足手まといにはなりませんから」

 

確かに彩音は四葉家の使用人・ガーディアンの中では上の下くらいの強さだ。その気になれば九校戦にだって出られるだろう。

 

智宏は彼女を巻き込みたくなかったが、呼びつけてしまった責任があるし、帰りを用意していなかったミスもある。選択肢はない。

 

「・・・・・・わかった。ついてこい」

 

「はい!」

 

智宏からケースを受け取った彩音は、目をキラキラさせて良い返事をした。雫が見れば羨ましがるだろうか。

ここで智宏は銃声や爆音があまりしなくなったのに気がつく。埠頭の方に目を凝らすと、偽装揚陸艦が離岸するのが確認できた。

 

この時点で敵は損耗率80%という数字を出しており、撤退か降伏かの選択肢しか残されていなかった。

もちろん選んだのは撤退。埠頭にいた者を半分以上残して離岸したのだ。もう1隻の輸送艦は必要な物を揚陸艦に移してもぬけの殻となっている。

 

敵が撤退を始めてから30分後、達也を含む独立魔装大隊はベイヒルズタワーの屋上へ集まっていた。

 

「敵艦は相模灘を30ノットで南下中。撃沈しても問題ありません」

 

「よかろう。サード・アイの封印を解除せよ」

 

「了解」

 

風間からカードキーを受け取る真田。そして地面に置いてある横長のケースに跪くと――

 

「色即是空、空即是色」

 

という声紋パスワードを解除した。

そして中に入っている大型ライフルの形状をしたCAD【サード・アイ】を取り出して達也に手渡した。

 

「大黒特尉。マテリアルバーストを以て敵艦を撃沈せよ」

 

「了――「待て達也」」

 

「誰だ!」

 

上空から聞こえた声に柳は直ぐに反応し、真田もCADを構えた。

 

「君は・・・四葉君だね」

 

「はい」

 

智宏は彩音を抱えて宙を浮いてる。達也から借りた飛行魔法だ。ゆっくりと屋上に降り立つと、抱えている彩音から手を離した。

 

「お願いがあります。あの揚陸艦の処理は自分に任せてくれませんか」

 

「ほう。何故かね」

 

「ここでは人目につきます。サード・アイの実験を行いたいのはわかりますが、少しまずいですよ。自分の魔法でも完璧に消せます」

 

風間は迷う。

目の前の少年は断言するだけの実力を持っている。達也といい勝負かもしれない。

そして今回の揚陸艦撃沈はサード・アイのテストにぴったりだが、確かにここでは人目につく。屋外であるが故に特定される可能性が出ているのだ。

 

だが智宏にやらせれば、達也を四葉という大きな影に隠せる。風間も達也の正体が露呈する事は好まない。むしろ四葉とはいい関係を持っておきたいと思っている。

 

 

「本当にできるのだな?」

 

「はい。少なくとも揚陸艦は容易く」

 

「・・・・・・よかろう。やってみたまえ」

 

「少佐!」

 

風間の決定に真田は抗議の声をあげる。

 

「大黒特尉の出番はまだあるはずだ。それに四葉の新兵器の実力も見たいのでな」

 

そう言うと風間はサード・アイを再びケースの中にしまわせ、達也を下がらせた。

そして智宏は彩音からCADを受け取ると、響子から送られたデータから、揚陸艦の方向を読み取りその方へ銃口を向ける。

 

(揚陸艦確認)

 

(速度、船体の大きさを把握。ターゲットロック)

 

智宏の視界には水平線しか映っていない。しかし、脳内では揚陸艦の姿を捉えており、現在の映像が流れていた。

 

「攻撃準備よろし。【彗星の尾(コメット・テイル)】発動!」

 

引き金が引かれる。

その瞬間、揚陸艦のいる方角の空が白く光り、夕日に照らされていた海の色を塗りつぶした。

 

そして光の柱が宇宙から降りてきて揚陸艦へ直撃。そこに存在した全てのモノを消滅させた。爆発はなく地味な終わり方だ。それに柱の直径は船体の全長とほぼ同じ。何も残るはずもなかった。

 

「・・・・・・敵艦の消滅を確認しました」

 

響子は衛星からの情報を報告する。

 

「恐ろしい威力だな。海だからまだよかったが、都市部に撃ったら被害は想像を絶するだろう」

 

冷静な風間。まぁ彼くらいならこれくらいどうてことないのだろう。

しばらく敵艦の方向を見つめる一同。すると響子の端末に軍からの連絡が入った。

 

「隊長。これを」

 

響子から情報を受け取った風間は内容を確認する。険しくなる顔に智宏達は何かあったと悟る。

 

「青島基地から敵機動部隊が出撃したとの情報が入った。それと同時に半島の基地でも動きがある。もしこちらにくるなら殲滅する必要があるだろう。それに伴い我々は対馬要塞に移動する」

 

「・・・対馬」

 

「うむ。四葉君、君にも来てもらいたい。構わんかね?」

 

「はい。もちろんです」

 

風間の問に智宏は頷く。是非もない。もう少しこの魔法の実験がしたかったのだ。

そうして一行は対馬行きのティルトローター機を待ったのだった。

 

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