四葉を継ぐ者   作:ムイト

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来訪者編
第85話 アメリカ留学


 

 

 

 灼熱のハロウィンが落ち着いてから数週間後、2095年も残すは後1ヶ月となった。

 ハロウィンが終わると次はクリスマスブームがやってくる。季節ごとにイベントが様々なのは日本の良いところだ。

 

 しかし、学生にとっては苦難の1ヶ月となる。その理由は読者諸君もわかっているだろう。そう、あの忌々しい定期試験がやってくるのだ。

 

「ちくしょー!わっかんねぇよ!」

 

「うっさい!集中できないでしょ!」

 

「あの・・・・・・レオ君もエリカちゃんも落ち着いて」

 

 ギャーギャー騒ぐレオとエリカに美月はオロオロしながら宥める。

 ここは学校でも喫茶店でもファミレスでもない。雫の家・・・というかお屋敷だ。

 

 現在ここには智宏、達也、深雪、雫、ほのか、エリカ、レオ、美月、幹比古といった、いつものメンバーがかけることなく集結して勉強会を開いていた。

 

 まぁ勉強会とはいってもここにいるのは成績優秀者がほとんどだし、頭をかかえているレオやエリカも一般高校だったら普通に上位に入れるくらいの実力はあるのだ。

 むしろ問題なのは実技の方だった。

 

 智宏達もわからない場所を抽出し、教科書を見ながら解いており、比較的和やかな勉強会兼お茶会ではあった。雫が爆弾発言を投下するまでは・・・・・・。

 

「は・・・え?ごめん今なんて?」

 

 ポトリとペンを落す智宏は、ちゃっかり自分の隣に座った雫に慌てて聞き返した。

 

「アメリカに留学する事になった」

 

「「「ええっ!?」」」

 

 ウンウン唸っていたレオとエリカもこちらを向き、達也以外の全員が驚いた声をあげた。

 

「ごめんなさい。口止めされていたから」

 

「あれ?でも留学って・・・・・・」

 

 美月が何かを思い出すように呟く。

 そう。現在ハイレベルな魔法師は、その遺伝子の海外流出を避けるために政府によって渡航禁止令がしかれているのだ。

 

「交換留学だって。お父さんが言うにはそれが条件で渡航できるって」

 

「き、期限は?いつ出発するんだ?」

 

 横浜事変以来、雫と真由美に対して他の女性とは明らかに違う反応を見せている智宏は恐る恐る雫に聞いた。

 智宏はなるべく全ての友人を平等に扱っているが、達也と深雪にはバレていたようで、司波兄妹は智宏にあたたかい視線を向けていた。

 

「年明けに3ヶ月だけ」

 

「だ、だよな」

 

「・・・・・・びっくりさせないでよ」

 

 智宏とほのかは胸を撫で下ろした。どうやら2人はもっと長期間の留学だと考えていたらしい。

 

「じゃあ送別会をしましょうか」

 

「「「賛成!」」」

 

 パンッと手を鳴らして視線を集め、深雪は友人達にそう提案した。結果は満場一致で賛成。クリスマス会と並行して行うこととなった。

 

 雫の爆弾発言から数週間後。

 一高では無事定期試験も終わり、生徒達はフワフワとした雰囲気となっていた。なぜなら今日は12月24日。二学期最後の日でありクリスマス・イブなのだ。

 

 街はクリスマス1色に染まり、暖かい格好をしたカップルがイルミネーションを見ながら歩いていた。一方、智宏達はいつもの喫茶店「アイネ・ブリーゼ」にいた。店の入り口には「本日貸切」の札がかかっている。

 今回の送別会兼クリスマス会には、いつものメンバーに加え、彩音も参加している。1人だけ年下なのは本人も気にしてはいない。智宏はこのパーティーを楽しんでもらいたかったのだが、彩音は率先してマスターや従業員の手伝いを行っている。本人がキラキラと輝きながら働いているのを見て、智宏は「何もしなくてもいいよ」とは言えなかった。

 

「よーし。飲み物は行き渡ったかな?じゃあ送別会兼クリスマス会を始めよう!紳士淑女諸君、メリークリスマス!!」

 

「「「メリークリスマス!」」」

 

 智宏の乾杯の音頭に友人達も揃って答え、グラスを高く突き上げた。

 カチンとグラスが鳴るのを合図に、従業員が料理やケーキを机まで運んでくる。かなりの量だが、男共が食べきってくれるだろう。

 

「ねぇ雫。どこに留学しに行くの?」

 

 たかだか3ヶ月という短い期間だが、普段自分たちには認められない海外留学ともなれば、興味が寂しさよりも勝るのは当然だ。

 

「バークレー」

 

「バークレー?ボストンじゃねーのか?」

 

 エリカの質問に答える雫。近くにいたレオも話を聞いていたのか、ジュースを飲みながら話に入ってくる。

 

「東海岸は雰囲気が悪いらしくて」

 

「・・・・・・人間主義者だね」

 

「ま、めんどくさい事に巻き込まれないなら西海岸でいいんじゃないの?」

 

 エリカの言葉に全員が頷く。

 

「安心しろ雫。何かあったら俺が魔法を撃ち込んでやるから」

 

「止めとけ智宏。シャレにならないって」

 

 他の人ならまだしも、智宏が言うとレオの言う通り本当にシャレにならない。

 横浜事変から1週間も経たないうちに、智宏は14人目の国家公認戦略級魔法師となった。目標が1度でも認識できれば地球の裏側からでも攻撃できるという魔法は、世界中の軍人達に恐れを抱かせた。

 

 マスコミもこぞって一高に押しかけたが、警察の厳重な警備により、ついにインタビューをする事はできなかった。国としても四葉を敵に回したくはなく、様々な方面に圧力をかけて智宏の安全を確保した。

 無論それを良しとはしない議員もいたが、同じ党の者に「国益と貴様のプライド、どちらが大切だ!」と怒鳴られ、大人しくなったのだ。

 

「そうだよ。大丈夫だから」

 

 雫に宥められ、智宏はストンと腰を下ろし、無言で料理にパクついた。

 

「そういえば交換留学のお相手はどんな方なのかしら?」

 

 空気を変えるために深雪が話題をそちらにずらす。

 

「同い年の女の子だって」

 

「ふぅーん」

 

 それからもパーティーは続く。

 ケーキを食べ、食後のコーヒーや紅茶を飲み終わると、達也はスっと立った。

 

「さて。いつまでもたむろしてるとマスターに悪い。そろそろ解散としよう」

 

「「「おぅ!(はい!)」」」

 

 時刻は21時。まだ未成年は外をほっつき歩いていてもいい時間だが、ここは敢えて解散となった。駅までは歩きだったが、楽しいパーティーの後だと寒さは感じなかった。

 信号待ちの途中、智宏は隣に立つ雫に小さな箱を手渡した。

 

「智宏さん、これは?」

 

「クリスマスプレゼント。あと向こうに行っても大丈夫なお守り」

 

 雫が渡された箱を開ける。しかし街灯ではよく見えなかったため、携帯端末のライト機能をオンにして箱の中を照らした。

 

 中には小さな石が飾られたネックレスが入っていた。

 

「あら?それはターコイズじゃないかしら」

 

 後ろの事が気になったのか、深雪がこちらに近づいてきて箱の中の石を見て呟いた。

 

「ターコイズ?」

 

「トルコ石とも呼ばれるの。旅のお守りや危険から身を守ってくれるわ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。本当は送別会の時に渡したかったんだけどね。すっかり忘れてた。(にしても深雪良く知ってるなぁ)」

 

「よかったじゃん雫!」

 

 キラキラと目を輝かせて雫にひっつくほのか。

 

「うん。智宏さん、ありがとう」

 

 冬なのに寒さを感じさせないほどの熱い視線で智宏に礼を言う雫。ここにいない元生徒会長様が見たらどうなることやら。

 

 その後智宏はエリカにからかわれながら駅まで移動し、到着すると各々が別の交通機関に乗り込み、今日は解散となった。

 雫とほのかが一緒に帰るのはいつも通りなので納得だが、レオとエリカ、幹比古と美月が普通に個人で帰っていったのはあまり面白くない。そこまで進展がないのだろう。レオなんかエリカの全裸見たくせに。

 

 智宏と彩音、達也、深雪の4人は家が近いので、四葉家所有のキャビネットに乗って帰っていく。

 

「お兄様、智宏兄様。今回の交換留学、奇妙な話とは思えませんか?」

 

 防諜対策バッチリな車なので深雪も普段通りに接して話を切り出した。一応彩音に周囲の監視・警戒をしてもらっている。

 

「そうだね。それは俺も思ったよ」

 

「ああ。雫ほどの実力者なら別に留学しなくてもいいはずなのにな」

 

「お兄様方は何か裏があると?」

 

 深雪は心配そうな声で問う。

 

「もしかすると俺のマテリアル・バーストに危機感を抱いているのかもな」

 

「母上に聞いてみる。内容を2人に話せるかはわからないけど」

 

「頼む。真実を知っている者が近くにいれば心強い」

 

 パーティーの時とは一転した暗い空気になったキャビネットは、話し終わってから数分後には自宅の前に到着し、智宏はガレージに収納されたのを確認してから達也と深雪に別れを告げ、彩音と家に入っていく。

 

 時計を見ると、さすがに電話をかけるには迷惑な時間となっていた。もう無理だと判断した智宏は、真夜への電話は明日にすると決めた。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 ここはアメリカのとある州のとある基地。

 USNA軍統合参謀本部直属の魔法師部隊【スターズ】が立地している、あまり公にはあれていない基地だ。

 

 そこスターズ専用機が着陸し、スターズ総隊長アンジー・シリウスことアンジェリーナ・シリウス少佐が地面に降り立った。

 統合参謀本部に暗号通信で報告を済ませた後、着替える間もなく自室のベッドに寝転んだ。

 

 彼女は先程まで殺し合い・・・・・・いや、粛清を行っていた。彼女と同じくアメリカ軍の、スターズのメンバーを処刑したのだ。初めて総隊長に選ばれた時は舞い上がったものだが、その責任の重さを今はただただ実感している。

 

 寝転んでからどれくらいの時間が経っただろう。もしかするとたった数分かもしれない。自室に備えられた呼び鈴の音が聞こえた。

 こんな時に自分の部屋を訪れる者など決まっている。

 

「どうぞ」

 

 彼女はリモコンで鍵を開けると扉が開き、ガタイの良い男が入ってきた。

 

「失礼します。総隊長」

 

 この男はスターズのNo.2で、総隊長が不在の時は彼が部隊を指揮するベンジャミン・カノープス少佐だ。軍隊では1番上の階級の者が指揮をとるとされているが、スターズではあまり気にされていない。2人の他にも、6人の少佐が所属しているのだ。

 

「差し入れです」

 

「ありがとう」

 

 ハニー・ミルクが机の上に置かれる。シリウス少佐・・・・・・いや、リーナは素直にそれを手に取りちびちびと飲み始めた。

 

「総隊長、準備は終わっているのですか?」

 

 部屋を見渡したカノープスはそう訪ねる。彼の視線の先には積み上げられたくつものキャリーバッグがあった。

 本来レディの部屋をジロジロ見るものではないが、リーナはカノープスに対しては異性の軍人の中で絶対的な信頼をおいている。気にしてはいなかった。

 

 カノープス自身結婚しており、子供もいる。その子供より2つも年下のリーナに対して、どこか娘のように接している時があった。

 

「ええ。あとは細いものだけ」

 

「几帳面ですな。日本の血ですか」

 

「どうでしょう。彼らの血は4分の1しか入っていませんし・・・・・・」

 

「それはともかく。総隊長は休暇を楽しんできてください」

 

「任務なんだけど」

 

 お気楽なカノープスに、リーナは年相応な表情を見せる。

 

「潜入捜査なんてしょうに合ってません。戦略級魔法師の調査って・・・・・・私は諜報員じゃないのですよ?」

 

 深くため息をつくリーナ。そんな彼女にカノープスは娘を落ち着かせるみたいに話しかける。

 

「まぁまぁ。我が軍に容疑者と同じ年齢で同じ実力を持つのは総隊長しかいないのですよ」

 

「・・・・・・はぁ。わかりました。ベン、私がいない間は頼みましたよ?」

 

「はっ!」

 

 スターズ総隊長の声で命令を受けたカノープスは、先程の笑みとは反対に厳しい顔でリーナの命令に答え、敬礼をしたのだった。




始まりました来訪者編。
星を呼ぶ少女編と合わせて構成は半分以上決まりましたので執筆を始めました。モチベーションを保つため話数を減らして1話ごとの内容を濃くしようと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

ポンコツキャラは書いたことないんでリーナを書くのが少し難しいです・・・。
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