西暦2096年1月1日元旦。
智宏は彩音を連れて四葉家本家へ帰省していた。実際帰ったのは12月29日なので、大晦日は実家で過ごしたことになる。
だが元旦の朝食時まで彩音の姿はなく、代わりに本家付きの使用人が智宏の世話をしていた。真夜に聞いたところ、深雪の世話をする少女の訓練を行っているそうだ。
「あ、そうだ」
親子水入らずの朝食を終え、緑茶が入った湯のみ手に智宏はふと真夜に聞きたい事があったのを思い出した。
「母上。友人の北山嬢と入れ替わりで留学してくる女性が気になるのですが・・・・・・」
「あら、なぜかしら?」
「今回の交換留学に違和感を感じていまして」
智宏の答えを聞いた真夜は、後ろに控えている葉山からタブレットを受け取り、そのまま智宏に手渡した。どうやら真夜に渡す直前に葉山が映し出していたようだ。
タブレットには金髪と赤髪の女性のプロフィールがそこにあった。
「これは?」
「今回の留学生よ。名前はアンジェリーナ・クドウ・シールズ。九島家の血を4分の1受け継いでいるわ」
「ええと・・・どちらが?」
「両方とも」
「ええっ!?」
なんと。映っている2人の女性は同一人物だそうだ。しかも十師族の1つ、九島家の血が入っている。少し混乱してきた。
「彼女はUSNA軍の魔法師部隊スターズの総隊長、シリウス少佐でもある。赤髪は軍人としての姿よ」
「スターズ・・・・・・」
聞いた事はある。クラスの同級生がミリタリーオタクで、友人と彼国の軍隊について話している時に出てきたのが智宏の耳にも入っていた。
そしてその総隊長が戦略級魔法師という事も。
「まさか達也の事を?」
「おそらくね。智宏さんが14人目の使徒となった事で隠せると思ったけど、気になる人はいるみたい」
「そうですか・・・・・・それで、この情報を用意していたという事はもしや?」
「智宏さん」
先程とは違う四葉家当主の雰囲気を纏わせた真夜。それに気がついた智宏は背筋を伸ばして彼女の方を向く。
「彼女が滞在する3ヶ月。あなたには彼女の監視を命じます。そして許可があるまで他言無用です」
「・・・・・・わかりました」
他言無用。つまり達也や深雪、彩音にも言うなという事だろう。当事者である達也に話せないのは残念だが、智宏は達也なら自力で気がつくだろうと思っていた。
部屋に戻った智宏はある場所へ電話をかける。新年の挨拶をしたかったのだ。
だが忙しいのかなかなか出ない。20秒のコールの後、ようやく画面が明るくなった。
『智宏か』
「やぁ達也。新年あけましておめでとう」
『ああおめでとう。今年もよろしくな』
かけたのは達也の家だ。もちろんシールズの情報は伝えないが、いとこに新年の挨拶くらいはしておきたかった。
『お兄様。支度ができまし・・・・・・あら智宏兄様。あけましておめでとうございます』
少しすると深雪が入ってきた。いつもの長い髪はゆい上げられ、光沢のある赤い生地に牡丹が描かれた振袖を着ていた。昔ながらの格好だが深雪はスタイルが良いため、胸の膨らみは隠せていなかった。
しかし襟元は慎ましく隠しているため、いい感じに着こなしている。ここまで似合う女性はそうはいない。
深雪に限らず日本人の身体は海外の人とそう変わらないようになってきた。1900年代の日本人の体の作りと比べると違いがよくわかる。
そういえば九校戦で雫が振袖だった事を思い出す。まぁ雫なら簡単に着こなせるだろう。
(いやいやいや!決して雫が貧相というわけではない!周りがスゴすぎるだけで雫は普通なんだ。見た事ないけど)
少し危険な方へ思考がズレていくのを感じた智宏は慌てて、というか無理矢理修正する。
『智宏兄様?』
「ん、ああなんでもない。それより深雪、似合ってるよ。今日世界で1番綺麗なのは深雪だね」
『まぁ!』
『同感だな』
『わ・・・わわ・・・・・・』
2人の兄に褒められた深雪。真っ赤にまではいかないが、赤く染まった頬に手を当てていた。だが美しいのは本当だ。深雪こそが完成された女性の姿なのではなかろうか。
「この後初詣かい?」
『はい。お兄様も着物に着替えて近くの神社まで』
「ああー、変なタイミングで電話しちゃったな。じゃあ俺はこの辺で」
『すまないな』
「いやいや。じゃ、また登校日に」
そう言って智宏は通話を終わらせた。四葉家の付近には神社はないため、智宏は初詣ができない。そのため智宏は向こうに戻ったら初詣をしようと思っていた。
帰るのは明後日だが、それまでは忙しい時間を過ごすこととなる。次期当主候補として有力な智宏は真夜と共に様々な所へ新年の挨拶をしなければならなく、与野党の政治家も何名か会う予定があった。
(七草先輩はどうしているんだろう。先輩は家を継ぐわけじゃないし、俺よりは大変じゃなさそうだな)
智宏は同じ十師族として学校へ通っている真由美の事を考える。彼女は家の後を継がなくてもいい分、結構楽しくやっているイメージがある。
だが実際はその逆で、兄では捌ききれない客人をもてなすのに奮闘し、最終的に早く学校へ行きたいと思うほど疲れてしまうこととなる。
♢ ♢ ♢ ♢
「ただいま戻りました」
初詣から戻ったリーナは、ブーツを脱いでキチンと揃えてから洗面所へ向かおうとした。まぁ初詣といってもターゲットの容姿確認と自分の姿を見せるというだけのものだったので、神社に用があったわけではない。
「おかえりなさ・・・・・・」
同居人がリーナを出迎えてくれたが、彼女は目の前に立つリーナの姿をジッと見つめていた。
「シルヴィ?」
シルヴィア・マーキュリー・ファースト。
彼女はスターズ惑星級魔法師「マーキュリー」の第1順位で、シルヴィア以外はコードネームだ。年齢は25歳。部隊の中では若い方だが、とても優秀で情報分析能力に秀でている。
そんな彼女が珍しく固まってしまったのを見て、リーナは可愛く無意識に首をかしげる。
「おーい」
「・・・・・・リーナ、なんですかその格好は」
「あっ、これですか?目立たないように1世紀前の日本ファッション雑誌で色々調べてみたんです。結構苦労しました。似合ってますか?」
くるりと一回転するリーナ。彼女が着ていたよくわからない着物がヒラリと舞う。
「答える前に聞きたいことがあります。その格好でブーツを履いたのですか?」
「ええ。慣れないものですね」
シルヴィアがこめかみを抑えているのにリーナは気がついていない。
「・・・・・・他にそのブーツを履いていた娘は見ましたか?」
「そう言えば見ませんでしたね」
「はっきり言います。あなたの格好は時代遅れです。なんで1世紀前の服を参考にしたんですか」
「え?」
その言葉に目を見開くリーナ。いい年頃の少女のファッションセンスがこれでは・・・・・・とシルヴィアはため息をつきたくなった。
しかし、ここは任務を共に遂行する仲間として言わなければならないと思い、感想を口にした。
「ブーツだけじゃないですよ。なんですかその振袖は。そんなもの着る人なんていないでしょう。それになんでミニ。よくそんなの売ってましたね」
「じゃ、じゃあ」
「ターゲットだけでなく、一般人の注意を引いてしまったかもしれませんね」
我慢していたため息をついに堪えきれなくなり、シルヴィアは大きくため息をついた。
「総隊長」
腰に手を当ててずいっとリーナに近づくシルヴィア。いくつもの戦場を戦い抜いてきたリーナだが、シルヴィアの雰囲気から危険なものを感じ取り、背中にいやな汗をかいていた。
「本日の予定は全てキャンセルしましょう。午後からは、僭越ながらこのマーキュリーが、日本における最新のファッション動向を、じっくりと、わかりやすく、ご説明して差し上げます」
「・・・・・・はい」
彼女の迫力は凄まじく、リーナは目に涙を浮かべて頷くしかなかった。