お正月はあっという間に過ぎ去り、気がつけばもう新学期。雫はアメリカに行ってしまったが、それ以外の人間の生活はあまり変わらなかった。その証拠に智宏も制服を着て普通に登校している。
飛行機の保安検査場の前で雫を見送った智宏達。雫は智宏からもらったネックレスをつけて旅立った。
雫のいない生活に、ほのかは初日は落ち込んでいたが、深雪の頼みで達也は彼女を慰めると、翌日にはいつものほのかに戻っていた。新学期初日のHRの時間になると、少し遅れて担任の教師がやってくる。
「さっそくだが、北山と交換で留学してきた生徒を紹介する。入ってくれ」
扉から堂々とした足取りで金髪の留学生が入ってくる。深雪にも劣らないその美貌に男子連中はざわめき、智宏でさえも「ほー」と納得していた。
「初めまして。ワタシはアンジェリーナ・クドウ・シールズです。リーナと呼んでください」
彼女の声はハキハキとしており、深雪とは違うタイプの美声だった。そしてクラスメイトは日本語が上手なリーナに驚きながらも、彼女の発した【クドウ】という単語に反応する。
そしてリーナは一同の疑問に答えるかのように紹介を続ける。
「祖父が九島閣下の弟で、ワタシの身体には日本の血が流れています」
なるほど。だから日本語が上手なのか。そうクラスメイトは納得した。
「短い期間ですが、よろしくお願いします!」
最後にペコリと頭を下げると、クラスメイトは拍手と歓声でリーナを迎えた。なお、その声は隣のクラスまで聞こえていたらしい。なんだなんだと隣の担任教師が外から中の様子を見ていた。
リーナの席は雫の席。つまり智宏とも近い場所で勉学に励むこととなる。
1限目は自習だ。新年最初の授業だが、担当教員が諸事情で来られないとの事で、予習をするはめになったのだ。しかしA組ではそれが幸いし、落ち着かない空気の中1限の時間は過ぎ去っていた。
休み時間になるとリーナの所へクラスメイトが殺到し、あれこれ質問をふっかけていた、一応英語は話せないこともないが、日本語を話せるなら問題ないと言わんばかりに集まっていた。これがもし英語オンリーだったら集まったクラスメイトは少数だろう。
あっという間に休み時間は終わり、次の授業となった。教室に入ってきた教師はリーナを見て少しびっくりしていたが、その後は普通に授業を開始した。
そして次の休み時間。ついにリーナがこちらに、つまり智宏や深雪の席のところまでやってきたのだ。
「ハイ。あなたがシバミユキね。学年ナンバーワンだと聞いたわ」
そう深雪に話しかけるが、おそらく任務上ターゲットの妹に接触しなければならなかったのだろう。まぁ任務を抜きにしても強者に興味を持つリーナは深雪に会いに行っただろう。
「初めまして。シールズさんはなぜ日本へ?」
「うーん、もっとくだけていいわよ。名前で呼び合いましょう。リーナでいいわ」
「わかったわ」
「ああワタシが来た理由ね?日本は祖父の故郷だし、実力者も多いからいい経験になると思ったのよ」
このリーナの言葉に嘘はない。度々祖父から聞かされていた日本の話で興味をもっており、アメリカでも放送される九校戦をわざわざ録画して観るほどになった。
「そうだったの。でもリーナ、学年トップは私ではないわ」
「そうなの?」
「私のお兄様とそこにいる智宏さんよ」
深雪の視線に合わせてクルリと智宏の方を見るリーナ。それに合わせ智宏も立ち上がって彼女を見つめる。智宏の【サテライト・アイ】は達也の精霊の目と同じように視認すればいつでも見つけ出せるため、彼女が国内のどこにいようが、おそらくは監視し続ける事ができる。
「初めましてミス・シールズ。四葉智宏です」
「っ!は、初めまして」
ここで初めてリーナは動揺するような雰囲気を出す。だがそれは一瞬で、優秀な生徒がいるA組でも気づいたのは数名だった。
(四葉ですって!?あのアンタッチャブルの!)
リーナが驚くのも無理はない。
四葉家は日本国民からすれば十師族の中でも裏でいろいろやっている不気味で恐ろしい家という認識だが、海外だとその数倍警戒されている。おおよそのキルレートが1:130という、恐ろしい戦闘力で1国を滅ぼしたのだ。
ちなみにリーナもその事件のレポートは読んだことはある。四葉家の12歳の少女が誘拐され、実験中に犯されて子供を産めない身体になったという結果に寒気と同時に女として怒りを覚えた。
(あれ?彼女は俺の情報をもっていなかったのか?)
智宏はリーナの反応から、事前に自分の情報を見ていなかったと推測する。この推測は当たっており、リーナが見ていたのは達也と深雪だけ。後は九校戦で唯一生放送で観れた克人だ。
まぁ智宏を含め、それ以外の人物のレポートもあったのだが、リーナは読むことがめんどくさくなってしまい、智宏の事は完全に見落としていたのだ。天才だがポンコツなのは小さい頃から変わらないリーナの特徴でもある。
(だ、大丈夫よね。いくらあの家でもワタシの正体は知らないはず・・・・・・)
「どうしたのかい?」
「い、いえ。あなたもずいぶん強そうね。あとリーナでいいって」
リーナは智宏を見ても家並みの恐ろしさは感じなかった。だが、爽やかに笑っているベールの下に何かを隠している事はわかった。
(ワタシを警戒しているの・・・・・・?違うわね。強者の1人としてワタシを見定めているんだわ)
この考えは半分当たっていた。確かに智宏はスターズ総隊長の実力は知らないため、彼女の内なる力に興味を持っていた。だがもう半分は単純に家族に危害を及ぼそうとしているものに対して警戒しているのだ。
「リーナも強いと思うよ。深雪と同レベルだろうね」
「トモヒロの評価が合っているのかはわからないけど、認めてくれて感謝するわ。これからもよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
そう言って2人は握手をした。意外といい雰囲気なため、周りからは「北山さんに言いつけてやろ」と思った生徒が何名かいた。
昼食の時間になると、達也達二科生と合流すべく智宏達は食堂へと向かう。珍しく生徒でごった返す食堂に入ると、人数分の席を確保している達也達を見つけた。
「深雪、達也が席をとっといてくれてる。俺たちはもう注文しちゃおう」
「そうですね。リーナ、行きましょう」
「え、ええ」
リーナは食堂の状況に驚いていた。軍でもこんな人のいる食堂はなかったし、混んでいてもちゃんと規律を守って並んでいる生徒は珍しかった。
各々が昼食をとって席へ移動すると、まだ冷めていない昼食と一緒に二科生組が待っていた。全員が座るのを確認した智宏は、軽く手を叩いて注目を集めた。
「さて、まずは紹介するよ。アンジェリーナ・クドウ・シールズだ。九島閣下の弟さんの孫だ」
「リーナと呼んでください」
そう言ってリーナは華やかな笑みを浮かべた。誰もが振り返ってしまいそうな美貌に、智宏と達也以外の食堂にいる男子は少しだけ動揺してしまう。
そこからは達也達の自己紹介が始まった。中でも達也の時は反応が異なり、わずかだが警戒している雰囲気が漏れていた。
(リーナ。やっぱり君は達也を・・・・・・頼むから手荒な事はしないでくれよ)
智宏は達也達と話すリーナを見ながら心の中で念を押していた。まぁ通じる訳ではないが。
(母上は君を我々の障害とみなしたら相応の措置はとるだろう。その時は俺が・・・・・・!)
「あー、幹比古って言いづらいわよね。ミキでいいわよ」
「僕の名前は・・・・・・ってリーナには言えないね。うん、ミキでいいよ」
「なんかあたしと態度違くない?」
「君がわざとそう呼ぶからだ」
おっといけない。いつものエリカと幹比古が言い合いを始めてしまった。リーナが困惑している。
「その辺にしろ。昼食が冷める」
「・・・はーい」
「んじゃ、せーのっ」
「「「いただきます」」」
「い、いただきます」
待ちきれなかったのか、珍しくレオの号令で一同は昼食にありつく。リーナは戸惑いながらも昼食を口に入れると、軍隊では味わえないほどの食事に目をまるくした。
午後になると全学年の生徒がリーナをひと目見ようとA組の教室前に集まったり、実習の時間にはあきらかにクラスメイトでは無い生徒が待機していた。
「ミユキ!いくわよ!」
「いつでもどうぞ」
向かい合う2人の距離は3m。その中央では金属の球が細いポールの上に乗っていた。
その様子は2階の見物席にいる真由美や摩利も見ていた。
「さて。見物だな」
「ええ。智宏君曰く深雪さんと同レベルの魔法師だそうよ」
「でも実際に見なければ信じられないな。百聞は一見にしかずだ」
実習の内容は、同時にCADを操作して中央に置かれた金属の球を先に支配するという、魔法実習の中でもいたってシンプルなものだ。
だがシンプル故に実力がわかりやすい。単純な強さが明らかになるからだ。
智宏や深雪は本人達以外と実習はした事が少ない。というのも、2人の実力が高すぎて教員から他の生徒と行うと実習の意味が無くなるからだった。
「スリー!ツー!ワン!GO!」
深雪とリーナは据え置きのCADに手を翳し、最後の合図でパネルに手を置いた。2人からサイオンがパネルに流し込まれ、互いの魔法が金属球を挟んで拮抗する。力は同レベル。次に求められるのは技術だった。
「あっ!」
「私の勝ちよ。リーナ」
「くーやーしーい!」
盛大に悔しがるリーナにどこかホッとした笑みを浮かべる深雪。本当に危なかったのだろう。その後も2人は実習を続け、4対2で深雪が勝ち越した。
だが今までこうした結果は智宏以外に存在せず、見に来た上級生はリーナの実力に舌を巻かざるを得なかった。
♢ ♢ ♢ ♢
「なぁ。厄年は去年で終わったんじゃなかったのか?」
そう言ってエリカの兄、千葉寿和は車の中でため息をつく。
「密入国とか密輸とかならわかりやすいが、原因不明じゃなぁ」
「それを調べるのが我々の仕事です。文句言わない」
相棒の稲垣は寿和に対して容赦はない。長年共に行動してきたからか、こうした信頼関係が生まれている。
「まったく・・・・・・はい、こちら稲垣」
レシーバーからのコールに稲垣は応える。
「はい・・・はい。了解です。すぐ現場へ向かいます」
稲垣は通信を切ったレシーバーを置くと、ブーブー言い続ける上司に真剣な表情で話しかける。
「警部。5人目です。死因は衰弱死とのこと」
「どうせ血もないんだろ?変死体が1ヶ月で5人か・・・・・・マスコミを抑えられるのか?」
寿和はこれから・・・・・・いや、既にめんどくさくなっている事態にため息をつく。厄介な事に巻き込まれるのは嫌だったが、警察として見過ごすわけにはいかなかった。