四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第88話 軽い対立

 

 

 

 アンジェリーナ・クドウ・シールズの第一高校での学校生活はなかなか良いデビューを飾った。

 まずはその容姿。学校一の美少女と名高い深雪と並ぶそのレベルに、「我が校の双璧」とまで言われるように。深雪とは対照的な美しさを持ったリーナは、1層輝いて見えた。

 次に魔法力。これも智宏や深雪を初めとした実力者と同レベルの力を示したため、注目の的となった。

 

 リーナが留学生として転校してきてから1週間が経過した頃、この日は珍しく留学初日と同じメンバーで昼食をとっていた。

 2日目からは別の生徒との交流を深めるため、リーナはいろいろな人と昼食をとり、この日本の知識を仕入れていた。

 

「それにしてもリーナは大人気じゃない」

 

 昼食を食べ終わり、お茶を飲みながら深雪が話しかける。

 

「ええ。でも皆優しいわよ」

 

「皆びっくりしてるんだぜ?一高の実力者と同レベルなんだからな」

 

「ううん。ワタシも驚いているのよ?日本のティーンの実力は世界トップクラスって聞いてたけど、まさかここまでだなんてね」

 

 レオの称賛にリーナも少しオーバーに驚いてみせた。実際彼女が感じた事は本当で、アメリカの学校の実力を知っているからこそ、心から驚いたのだ。

 

「リーナには感謝しているんだ。深雪に近いライバルが現れてくれたおかげでモチベーションを上げてくれた」

 

「出たよシスコン」

 

 達也の言葉に智宏は突っ込む。まぁここら辺はいつもの感じなので誰も智宏を責めなかった。

 

「そういえばリーナ」

 

「なにかしらタツヤ」

 

「今更なんだが、アンジェリーナの愛称はアンジーだったはずだ。俺の記憶違いかな?」

 

 この質問に一瞬場の空気が固まった。そう感じたのは達也と智宏だけだった。深雪やエリカでさえもキョトンとした顔で話す2人を見ていたほどだ。

 

「あ、ああ〜。ワタシが通っていた小学校でね?アンジェラって子がいたのよ」

 

「なるほど。アンジェラもアンジーだからリーナなのか」

 

 納得したというふうに達也は頷く。しかしリーナが動揺した事に関しては気づいていないフリをした。

 

 本日も無事(?)に任務を終わらせたリーナは、シルヴィアの待つ自宅へと帰宅した。

 

「ただいまー」

 

「リーナ。お帰りなさい」

 

「シルヴィ?久しぶりですね」

 

 実はリーナ、シルヴィアと会うのは3日ぶりで、別任務でこの部屋を離れていた彼女とは会っていなかった。ただ学校から帰ると部屋が片付いていたりしたので、リーナが学校にいる間に少しだけ帰っていろいろやっていたのだろう。

 

 リーナが自室から出てくると、シルヴィアは机の上にココアを入れて待っていた。

 

「今日の学校はどうでした?」

 

「相変わらずアイドル気分。そっちは?」

 

「ターゲットの情報は今のところ何も。ああ、そういえばターゲットとは近づけましたか?」

 

「うーん。結構近くにいるんですよ?いつも行動しているのがタツヤの妹なので。でも正体がバレそうです」

 

 ココアを飲みながら互いに結果を話す。どちらもこれといった進展はなく、リーナに至っては怪しまれるという諜報任務でやってはいけないことを犯していた。

 

「何かあったのですか?」

 

「タツヤがアンジェリーナの愛称はアンジーだと・・・・・・」

 

「ぐ、偶然ですよ。高校生に軍人を出し抜ける実力があるわけないじゃないですか」

 

 少し落ち込むリーナをシルヴィアは励ます。軍人にとって大切な事は士気を落とさないこと。これを落とすと訓練通りにやっていても上手くできる事もできなくなる。

 

 その言葉に落ち込む事を止めたリーナ。ポジティブなのはいい事だ。

 それからはターゲット以外の事を話した。深雪のこと。真由美達3年生の事。そして四葉智宏の事。

 智宏の話になると、2人は黙り込んでしまった。

 

「初日に聞いた通り四葉のご子息とも近いですね」

 

「いつものグループにトモヒロが入っているんです。ターゲットに近づくには強制的に彼とも近づかなければなりません」

 

「難しいですね。彼はリーナをどう見ているのですか?」

 

「どうでしょう。気がついてはいないようですが・・・・・・」

 

「ともかく警戒はしてくださいね」

 

「はい」

 

 その後も2人はこれからの事を話し合う。結論として、誰もいない所で達也と接触する事が決まった。

 

 また、一方で自分の事を話しているとは思ってもいない智宏は、彩音を伴って達也の家にお邪魔していた。

 既に夕食は済ませたが、直接話したい事があったのだ。

 

「智宏、深雪。俺はリーナがUSNA軍スターズ総隊長のシリウス少佐だと考えている」

 

「リーナが・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「その様子じゃ叔母上から聞いていたみたいだな」

 

 智宏の様子を見て達也は苦笑いする。

 

「ああ。でも2人には話すなって言われてたんだ。ごめん」

 

「いいさ・・・・・・ところで深雪、寒くないのか?」

 

「え?」

 

 実は智宏も先程から気になっているのだが、深雪は冬だというにも関わらずミニスカートにソックスという格好で達也の隣に座っている。

 時折絶対領域から見える白い肌が気になり、智宏はついチラ見してしまう。それと同時に後ろにいる従者の視線が鋭くなったのは偶然ではないだろう。

 

 深雪は深雪でここにいるのが身内だけだと知ってなのか、全く抵抗する素振りがない。寧ろ達也に向けて見せているようだった。智宏は良いのだろうか。

 

「私は寒さに強いのです。お気になさらず」

 

 そう深雪は言ったが、智宏には妹が兄を誘惑しているようにしか見えなかった。さすがに無いと思うが、達也が深雪を求めれば彼女は喜んで応じるかもしれない。

 

「それで?達也はこれからどうするんだい?リーナのターゲットは君だろう」

 

「ただの諜報員ならよかったのだが相手はシリウスだ。迂闊に手は出せないが向こうの出方次第では戦う事になるな」

 

「だろうな」

 

 2人は深雪がいれたコーヒーを飲む。相変わらず美味しい。彩音も時々深雪に教わっているが、ここまで美味しくはならない。

 

「まぁ今はいいさ。それよりUSNA軍が深雪にライバルを提供してくれた事に感謝しなくてはな」

 

「だな・・・・・・深雪」

 

「はい智宏兄様」

 

「リーナと全力で競い合え。彼女との勝負が君をさらに強くしてくれる」

 

「もちろんです。お兄様方がついていてくれる限り、例え相手がシリウスだろうと私は負けません!」

 

 深雪が2人の兄に寄せる信頼には感服するが、いささかピントがズレている。智宏は競走相手として戦えと言ったのだが、深雪のセリフからだと闘争相手として戦うと聞こえてしまった。

 

 翌日。

 放課後智宏は風紀委員の仕事で校内を巡観していると、本部から達也とリーナが出てくるのが見えた。2人は別れることなく一緒に歩き出す。

 

(放課後デートってやつかね。深雪がいなくて助かったな、達也)

 

 見られているとは知らない達也は、摩利に押し付けられたリーナと共にいつものコースをウロウロ回っていた。相変わらず生徒の視線は痛いが、風紀委員長直々の命令でリーナに委員の仕事を見せてやってほしいと言われてしまったので1人にはなれなかった。

 

 廊下に夕日が差し込んで来た頃、達也とリーナはいつの間にか2人っきりになっていた。

 

「ねぇタツヤ」

 

「どうした?」

 

「カノンに聞いたんだけど、あなた一高でもトップクラスの実力なのよね?ミユキもそう言ってたし」

 

 花音の発音が「カノン」ではなく「キャノン」に聞こえたのは気のせいだろう。女性の名前を大砲と呼ぶのはいささか可哀想だ。

 

「でもタツヤは二科生。あなた何故実力を隠すの?」

 

「リーナ。この学校の試験で評価されるのは国際基準の速度と規模、強度の3つだ。俺はこの試験では劣等生なんだ。だが実戦で勝敗を決めるのはそれ以外の要素もある」

 

「ふん。試験と実戦の実力は別物だというのはワタシも同感よ。だから、ワタシも実戦で役に立つ魔法師になりたいわ」

 

 だんだんリーナからきな臭いオーラが立ち上がってきた。

 

「穏やかじゃないな」

 

「・・・・・・っ!」

 

 リーナは鋭い眼差しを達也に向けると同時に掌底を繰り出した。狙いは顎。しかし彼女の手首を達也が掴んだ事で命中しなかった。

 

 腕を引こうとするが動かない。しっかりロックされている。

 

「ちょっと離してくれない?」

 

「攻撃しないと約束するなら」

 

「もうしないわよ」

 

 あまり信用できないが、達也はリーナの手を解放した。リーナは手首を抑えながら数歩後ろに下がる。

 

「おみそれしました」

 

 制服の端をつまんでペコリと頭を下げるリーナ。口調もいつもとは違った。

 

「その口調は止めてくれ。君はそんなお嬢様らしいキャラじゃないだろう?」

 

「なっ!そんな事ないわ!大統領のお茶会にだって招かれた事あるんだから!」

 

「ほう?魔法師の中でも1部の人間しか招かれない大統領のお茶会に・・・・・・」

 

「はっ!」

 

 自分の言ったことがヤバい事だと気がついたリーナは、慌てて口を抑えて後ろを向く。ダラダラと嫌な汗を流して自身の口の軽さを呪う。

 

 これはさすがにバレたか。

 そうリーナは覚悟したが・・・・・・。

 

「ま、いいか」

 

 すんなり達也は引き下がりスタスタと歩き始めた。

 

「え、ワタシの正体聞かなくていいの?」

 

「聞いてほしいのか?」

 

 ニヤリと笑う達也。リーナはまたバカにされたと感じた。

 

「・・・・・・あなたイヤな人ね」

 

 ぷくーっと頬を膨らませ上目遣いで達也を睨むリーナ。その姿は非常に可愛げがあり、男連中が見たら大喜びするに違いない。

 

 その後達也と別れたリーナは、もう帰ろうかと思い来た道を戻ろうとした。

 ところが、それは廊下の角で阻まれた。

 

「いやいや、素早い攻撃だったよ。さすがは少佐殿」

 

「誰っ!」

 

 リーナは一瞬でアンジー・シリウスになる(姿は変わらず)と辺りを警戒する。

 

「やっ」

 

 そこへ外受けしそうな笑みを浮かべた智宏が出てくる。

 

「トモヒロ・・・・・・気づいてたのね」

 

「まぁね。でも安心してくれ。ここはカメラの死角になっている」

 

「ならいいわ。で?四葉がなんの用かしら?」

 

 リーナは智宏がいつもの様に接してきているのではない事に気がつく。彼女自身もシリウス少佐とアンジェリーナ・クドウ・シールズという異なる顔を持っているからだ。

 

「任務なのはわかるけどさ、あんまり日本で暴れないでほしいなーって」

 

 2人の距離は3mもない。普通なら留学生と逢引しているようには見えるが、強者が見れば2人間にはバチバチと火花が散っているのがわかるだろう。

 

「まぁそれはともかく、達也は友人なんだ。手を出されちゃ困る」

 

「断ると言ったら?」

 

「ふっ・・・・・・」

 

「くっ!」

 

 鼻で笑った智宏の危険なオーラに、リーナは戦闘態勢になろうとした。だが一瞬だけ遅く、智宏の魔法干渉力によって身体が地面に固定されたように動けなくなる。

 

「警告するよリーナ。俺は、君や君の仲間が何かしようものなら容赦はしない」

 

「ワタシに・・・勝てる・・・の・・・かしら?」

 

 この重力下で動けるものはそういない。その中で立って話しているため、智宏はリーナをライバルと認めるしかないだろう。

 

「ここは室内だ。今の君は俺には勝てないよ」

 

 現在リーナはCADを持っていない。シリウスとして活動している時に使っている武器は学校にすら持ってきていない。

 それに室内戦で勝てないと言われ、リーナは全くその通りだと思った。智宏の九校戦での試合は観ており、流星群が危険な魔法だと認識していたのだ。屋内において有効な魔法の1種に今のリーナが勝てるはずもない。

 

 魔法を使えば逃げれるだろうが、ここは学校。あまり派手な事はできない。格闘術もリーナは自信はあるが、目の前の智宏は完全に自分を捉えている。突っ込んでも取り押さえられる。

 だが、それ以前に事を荒らげたくなかった。

 

「悔しいけど・・・・・・その通りね」

 

 リーナの闘争心が消えたのを確認した智宏は、スっと力を抜いて彼女を解放する。

 

「でもリーナ個人は嫌いじゃない」

 

「えっ?」

 

「可愛いし、強いし。ま、日本にいる間は大人しくしてるんだよ」

 

 そう言って智宏は去ってゆく。残されたリーナは、今の智宏のセリフに少し動揺していた。

 

(か、可愛い?今ワタシの事可愛いって・・・・・・?)

 

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