四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第89話 吸血鬼上陸

 

 

 

 1月14日の23時渋谷。

 土曜の夜は【歩行者天国】となり、路上は車ではなく若者が闊歩していた。これは渋谷に限らず六本木や新宿、秋葉原、池袋など、様々な場所で行われている。

 

 未成年は家に帰っている頃だが、1人の一高生徒がぶらぶら歩いていた。レオである。彼には悪癖があり、夜を彷徨う彷徨癖だった。本人もそれは自覚しており、それは自らの遺伝子に組み込まれた調整技術だろうと思っていた。

 

 レオはドイツで開発された【城塞シリーズ】の第三世代。肉体の耐久性向上に力を入れて開発された。強化人間みたいなものだ。

 だが、無理な遺伝子操作のため第一世代は多くが死に、レオの祖父を含めた数名しか生き残らなかった。

 もちろんその事はレオも知っている。だからこそ、自らの衝動を抑えず赴くままにいろんな場所を歩いていたのだ。

 

「・・・・・・あれ?エリカの兄貴か?」

 

 すれ違った顔に見覚えがあった。レオはポツリと呟いただけだが、相手には聞こえていたらしく、肩をがしっと掴まれる。

 

「君。来てくれ」

 

「え?あんたは・・・・・・稲垣さん?」

 

 そのままレオはBARに連れ込まれ、その一室に放り込まれた。

 

「あの、なんすか?俺未成年なんすけど」

 

 レオは2人を、寿和と稲垣を少しだけ睨んだ。稲垣は苦虫をかみ潰したような表情だった。

 

「西城君。よく俺たちの事がわかったな。気配消してたんだけど?」

 

「・・・・・・もしかして捜査の邪魔しちゃいましたか?」

 

「そういう訳では無い。警察はここでは嫌われてるからな」

 

「警部。ついでに聞いてみましょうよ」

 

 世間話を始めようとする寿和に、稲垣は慌てて静止する。

 

「ん、そうだな。西城君、なんで渋谷に?」

 

「・・・・・・実は――」

 

 レオは自分に彷徨癖がある事を話した。その理由までは明かさなかったが、この衝動を抑制すると精神がダメージを受けるとだけは言った。魔法が発達したこの時代、魔法師が内側に問題を抱えているなんてザラだ。警察官2人は意外とあっさり納得した。

 

「ふんふん。じゃあ最近繁華街で事件があるのは知ってるかい?」

 

 本来操作情報は漏らすべきではないが、明日の記事に載ることは確定しているため、もう隠す必要はない。

 

「事件・・・ですか?」

 

「ああ。連続変死事件だ」

 

 寿和は稲垣からタブレットを受け取ると、それをレオの方に向けて置き、情報を映し出した。これも情報漏洩にあたる行為だが、もはや何も言うまい。

 次々に見せられる現場写真と資料にレオは顔を顰めた。

 

「遺体には外傷は無し。死因は衰弱死だ。薬物反応も陰性だった」

 

「それに、全員が血液の1割を抜かれていた」

 

「なるほど。そりゃ怪奇事件だな」

 

 レオは納得したように頷く。それを見た寿和は資料をしまいながら問う。

 

「ふらふら歩くのは危険だけど今は都合がいい。最近知らない奴が流れたって話聞かないか?」

 

「・・・・・・ないですね。でも何かわかったら知らせますよ」

 

「いいのか?」

 

「ええ。多分俺の方が怪しまれないと思うし」

 

「じゃあこのアドレスにメールしてくれ」

 

「わかりました」

 

 寿和は稲垣からジトーッとした視線を受けながら、レオにメアドを書いた名刺を渡した。その後、3人は店の外で自然に別れた。

 

 翌日、さっそくニュースになった吸血鬼事件で一高は盛り上がっていた。智宏のクラスでも吸血鬼の事を話す生徒が多数おり、HRの時間では担任の教師が黙らせたくらいだ。

 

 また、リーナは今日は休みだそうだ。この前の事が影響しているとは考えにくいが、少し悪いことしたかもしれない、と智宏は思い始めていた。身辺がきな臭くなってきているため、そろそろ真夜に情報を求めた方がいいのかもしれない。

 

 一同が学校へ行っている中、リーナはシリウス少佐としてUSNAの大使館でミーティングを行っていた。

 会議室では本国との通信が行われており、リーナの部下のカノープスが映し出されていた。

 

「カノープス少佐。説明を」

 

 会議室にいる1人が発言を促す。

 

『はい。実は先月脱走した者達の行方がわかりました』

 

「なんですって?」

 

 珍しくリーナは声をあげて反応する。

 先月発生したスターズのアルフレッド・フォーマルハウトの脱走事件はスターズの不祥事に止まらず、軍首脳部にも大きなショックを与えている。

 

 あの事件で彼は処分されたが、それで終わりではなかった。さらに7人もの魔法師が脱走していたのだ。しかも中にはスターズの隊員すらいる。

 

「どこだね」

 

『日本です。横浜から上陸後、東京に潜伏したと思われます』

 

「参謀本部はなんと?」

 

『追跡チームを派遣するそうです。また、シリウス少佐には脱走者の追跡を優先せよとの事です』

 

「・・・・・・了解しました。受領します」

 

「ご苦労だった。次」

 

 カノープスは敬礼をして姿を消すが、直ぐに別の男が映し出された。白衣は着ていないが、いかにも科学者っぽい外見だ。

 

 彼は処分されたフォーマルハウトの遺体を解剖し、原因をつきとめる任務を行っていた。その結果報告が今日なのだ。

 

「つまり、彼の大脳皮質には普通の人間にはないニュートロン構造があったと?」

 

『まぁ、そんな感じです』

 

 フォーマルハウトの脳は、普通の人間とは異なる構造をしていた。

 人間の大脳は左右に分かれている。前頭前皮質には、本来これらをつなぐ組織はないはず。だが彼にはあった。過去の診断結果を見てもそのようなものはなかったため、これはおかしいと気付かされたのだ。

 

『我々の仮説では大脳は独立の思考器官ではなく、精神から送られてくる情報を受信し、肉体や情報を精神に送る通信器官であるという説が支持されています』

 

 彼の説明受け、会議の参加者のほぼ全員がわかっているようでわかっていないような反応を示している。話が専門的なところへ行きすぎているからだ。

 

「ドクター。外部から意識に干渉する未知の魔法という可能性はありませんか?」

 

 リーナは少し考えてから質問を口に出す。

 

「彼が操られていた、という可能性ですね?残念ながらその可能性は低いかと。大脳に干渉して脳構造を作り替える事は無いと思います」

 

 即答されてしまったが、リーナは1人の魔法師を思い出す。だがその人は既に死んでおり、関係性もないと認識していたため、軽く頭を振って思考をリセットした。

 

 その日の午後、一高ではいつも通りに授業が行われていたが、3年生だけは自由登校なので半数以上が来ていなかった。そんな中、部室の一室にて2人の男女がこっそり会っていた。

 だが2人の間に甘酸っぱい雰囲気はなく、真由美と克人は真剣な表情で密会していた。

 

「なんでわざわざ・・・・・・」

 

「こうしないと四葉家を刺激する。十文字家としては避けたい」

 

「四葉家は智宏君がいるから大丈夫だと思うけど・・・・・・ウチの狸親父が余計な事するから両家は冷戦状態よ」

 

 真由美は机に肘をつき、その上に顎を乗せてぼやく。

 

「ほう。お前でもそんな言い方はするのだな」

 

「あらごめんあそばせ?」

 

 2人は声を潜めて笑い合う。入学以来のライバル同士。両者の間には深い絆が生まれていた。もし他の生徒が今の2人を見たらびっくりするだろう。

 

「十文字君、七草家当主からの伝言です。七草は十文字家との共闘を望みます」

 

「協調ではなく共闘か」

 

「吸血鬼事件の被害者は24人。それも都心部に集中しているわ」

 

 克人は少し考え込む。自分の持っている吸血鬼事件の情報と合わせているのだろう。

 

「十文字と共闘を望むのは、被害者の中に七草の関係者がいるからか?」

 

「半分正解。でも関係ない魔法師が襲われているわ」

 

「・・・・・・犯人は魔法師が狙いか」

 

 克人は凄味のある表情となる。高校生とは思えない迫力に真由美はビクッとして引き気味な表情を浮かべた。

 

「ちょっと怖いわよ」

 

「む、すまん」

 

 真由美のストレートないいかたは克人を凹ませるのには十分だった。

 

「十文字君、何か事件前後に入国した外国人、知らない?」

 

「常に日本には人が出入りしている。我が校にも留学生が来ているくらいだからな」

 

「彼女はどう?あの実力なら・・・・・・」

 

 どうやら真由美はリーナを疑っているそうだ。まぁ彼らの会話からわかる通り、四葉以外はリーナをシリウス少佐だと認識していない。真夜も話す気はないらしく、分家の連中に任せているのだ。

 

 四葉家は唯我独尊・自主独立でやっている。ただひたすら自分達の性能を上げ続け、魔法力のみで十師族のトップに君臨する一族だった。何をやってるかはわからないが、警戒するなと言う方が無理がある。

 

「怪しいが犯人ではない。彼女は顔に出すぎる」

 

「・・・・・・そうね。何者かはわからないけど犯人ではなさそうよね」

 

「だが四葉・・・・・・後輩の方だが、あいつはシールズを警戒している」

 

「智宏君が?」

 

「ああ。何かあった時はあいつが彼女を抑えてくれるだろう」

 

「そう・・・よね。で、どうする?」

 

「協力しよう。話を聞く限り十文字家としても放置できる問題ではないからな」

 

 克人はそう言って差し出された真由美の手を握る。ここに七草家と十文字家の共闘体制が誕生したのだった。




久々の投稿です。

やっと筆が進みそうで・・・書きやすい方法を何かと模索しております。
ここから数話は迷走しながらの執筆となりそうです。
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