四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第9話 発足式

 

 

 

 智宏がFLTに行ってから2週間ほど経ち、1高では九校戦の選手とエンジニアの発足式が行われようとしている。

 

 智宏は深雪の協力の下、アイス・ピラーズ・ブレイクの練習に励む。智宏も深雪の手伝いをしたり達也の体術に付き合ったり、最低減手伝える事は手伝った。

 場所は達也と智宏の師匠である九重八雲に提供させてもらい、周りに見られることなく練習する事ができた。

 

 そしてついに発足式当日。

 講堂の舞台裏に行くと真由美と深雪が上着を持って2人を待っていた。

 

 

 「こんにちは。会長、それなんです?」

 「はい!これが選手のジャンパーよ。試合の終わった時とか夜寒かったら着てね。深雪さんは達也君に」

 「お兄様。これは技術スタッフのユニフォームです!」

 「「ありがとう(ございます)」」

 

 

 達也は2人に渡された上着を着る。智宏は上着をテーブルの上に置き、発足式が終わったら取りに来ることにした。

 

 ユニフォームを着た達也を深雪は満足そうな笑みで見ている。

 

 

 「お兄様。お似合いです!」

 「そうか?ありがとう」

 「さっ!あっちに皆いるから行きましょ」

 「「「はい」」」

 

 

 真由美は智宏の袖を引っ張りながら代表チームがいる壇上に上がる階段近くまで歩いていく。そこには克人を始めとした選手と五十里やあずさなどのエンジニア達が待っていた。

 

 代表チームは拍手されながら壇上に上がる。

 真由美は1人1人選手の紹介をする。紹介内容は特に凝ったものではない。選手の名前、出場競技、これまでの実績など簡単なもので済ます。

 特に智宏と克人は十師族なので、真由美から一言コメントが付けられる。智宏の場合は「初めての九校戦では実力を充分に発揮しろ」との事だ。

 

 最後に達也の紹介をし、選手の紹介は終わった。

 それと同時に深雪が1人1人にIDチップが内蔵された徽章をユニフォームの襟元に付け始めた。

 男子は嫌でも深雪が至近距離に来るので顔を崩さないように努力していたが、どうしても顔が赤くなってしまう。ただ五十里は千代田花音という許嫁がいるので、全くではなかったが他の男子よりは冷静だった。智宏も深雪に付けてもらい、1歩離れた深雪の顔は誇らしげに笑っている。

 

 達也も深雪に付けてもらったが、達也の時だけ深雪は他の選手よりも襟元に触っている時間が長く、付け終わった後は数秒とろけそうな笑みで達也を見ていた。

 

 真由美は達也へのブーイング等が起きないように素早く拍手をする。深雪もステージの横に移動して拍手をした。

 その拍手につられて講堂全体が代表チームに大きな拍手を送ったのだった。

 

 帰り際に智宏がジャンパーを取りに行っていると、後から声がかかる。

 

 

 「智宏さん」

 「ん?雫か。ほのかはどうした?」

 「私とほのかはワンセットじゃないよ。ほのかは深雪と達也さんと一緒に教室に戻った」

 「すまん。じゃあなんでこっちに?」

 「智宏さんがここに行くのが見えたから気になっただけ。上着を取りに来てたんだね」

 「ああ。じゃあ行こうか」

 「うん・・・あっ」

 「雫?っと!」

 

 

 雫は来た道を引き返そうとする。しかし段差があるのに気が付かず、身体が前につんのめってしまう。

 すんでのところで智宏は雫の肩を掴んで自分の方に寄せた。

 

 雫は今の自分の状態を見る。智宏は雫を後ろから抱きしめているように見えてしまった。

 

 

 「大丈夫か?」

 「大丈夫だよ。あと・・・離してほしいな」

 「あ・・・・・・すまん」

 「気にしないで」

 

 

 智宏は慌てて雫を解放し、何歩か後ろに下がる。その時智宏には見えなかったが雫の顔は珍しく赤くなっていた。普段クールな表情な雫だが、もしかするとこういうのには弱いのかもしれない。

 

 そこで何もなかったのはよしとしよう。だが次にここへ入ってきた人物に問題があった。

 

 

 「あらあら2人共どうしたの?逢引かしら?」

 「会長・・・・・・違いますよ。雫は俺がここに来たのを追っかけてきただけです」

 「ほんとに?じゃあ早く行きましょ。もう全員出ちゃったわ」

 

 

 いきなり登場した真由美は智宏の腕をぎゅっと抱いて部屋を出ようとする。特に従わない理由はないので真由美の密着している部分の感触に少しだけ浸りながら移動しようとすると、智宏の制服が引っ張られる感触がした。

 どうやら雫が掴んだみたいだ。

 

 

 「会長は3年生です。智宏さんは同じ学年の私が連れていきます」

 「あら嫉妬?可愛いわね」

 「・・・・・・」

 「痛たた。雫、そこ肉、肉だから」

 

 

 雫は真由美にからかわれると智宏の服どころか肉を掴んでいた。そして負けじと智宏の腕にしがみつく。もしこの光景をほのかが見たらとても驚くに違いない。

 

 さすがに講堂を出ると2人は離れたが、雫は真由美が3年の教室で別れるまで智宏の隣をぴったり歩いていた。真由美も最後に牽制なのかわからないが、智宏の手をしっかりと握り「頑張ろうね」と言って教室に戻っていく。

 雫はジト目で智宏を見るとスタスタと教室に戻っていってしまった。智宏も慌てて雫を追いかける。

 

 

(あれ?なんで私会長に嫉妬してるんだろ?)

 

 

 雫は追いかけてくる智宏と教室に戻った真由美に変な感情を抱きながら自分の席に座った。

 

 発足式が終わり、1高は夏休みに突入する。

 そしてついに出発日になった。

 会場の近くのホテル前まで移動するバスの席順はほとんど自由と言ってよかった。

 深雪の隣にほのかが座り、雫の隣には別の1年生が座っている。雫は智宏を隣に座らせたかったのだが、前日真由美が智宏にメールで隣の席にどう?と誘ってきており、別に断る理由もないので了承してしまう。智宏は事情を雫に説明すると雫はほのかの方を向いてしまった。

 

 

 「雫?」

 「ほのか。智宏さんが会長に取られた」

 「え!?」

 「うっ・・・」

 「ど、どどどどういう事?」

 「雫。理由は聞いたのかしら?」

 「うん。昨日会長からメールが来たらしい」

 「それでは仕方ないわよ」

 「・・・・・・そうだ!帰りはどう?」

 「帰り・・・?そうだった。智宏さん、帰りはいい?」

 「え、OKOK」

 「よかった。約束だよ」

 

 

 ほのかと深雪は既に雫が智宏にどんな感情を抱いているのか察しがつく。何があったかは知らないが、2人は雫の視線が自然と智宏を追っかけているのを何度も視ている。ただ、雫は『智宏を異性として意識している』という確信が持てていないのだが。

 

 さっきまでご機嫌斜めだった雫は智宏と帰りの約束をすると、機嫌を戻して1年女子の隣に座った。通路を挟んで隣にはほのかがいるので完全に1人という訳ではあるまい。

 しかし智宏の隣に座るはずの真由美も来なかった。

 家の用事らしいが、心配なので外で待っている達也の話し相手にもなろうかと思い、智宏となぜか付いてきた摩利は灼熱の太陽の下に出ていく。バスを降りると達也は降りてきた2人を見て不思議そうな視線を向けた。

 

 

 「おーっす」

 「やあ達也君」

 「2人共どうかしたのですか?」

 「いやなに。真由美がなかなかこないからな」

 「俺はお前の話し相手だ。暇だろ?」

 「智宏はともかく渡辺先輩はバスに戻っては?真夏の直射日光の下に淑女が肌を晒すものではありませんよ」

 「安心しろ。日傘を持ってきた」

 「はぁ・・・・・・」

 

 

 こんな調子で3人が話していると、サンダルをぺたぺた鳴らしながら1人の女性が走ってきた。それは大きめな帽子に女子の制服と同じようなデザイン入りのサマードレスを着た真由美だった。

 

 達也は出席簿のパネルにある真由美の場所をタップし、摩利は呆れた様子で真由美を見る。

 

 

 「ごめんなさ〜い!」

 「遅いぞ。1時間の遅刻だ」

 「本当にごめんなさい。待ったでしょう?」

 「大丈夫ですよ。時間的には問題ありませんから」

 「そう?あ!智宏君!待っててくれたの?」

 「ええ、余りにも遅いもので。でも家の用事では仕方ありませんね」

 「全く・・・・・・真由美と智宏君、早く乗ってくれ。達也君もすまなかったな」

 「いえ。それでは失礼します」

 

 

 達也は出席簿を持ってエンジニア専用の車両に戻っていく。

 摩利がバスの中に入るのを横目に真由美は先に乗ろうとした智宏の制服の裾を引っ張った。

 

 

 「なんですか・・・?あ、レディーファーストですよね。すいません」

 「違・・・わないけど。ねぇ、どうかしら?」

 「・・・あ、服ですか?よくお似合いですよ」

 「ふふっ。ありがと」

 

 

 智宏は上機嫌にバスに乗っていく真由美を内心ため息をつきながら見届け、他に乗っていない生徒がいないか確かめて運転手に合図をする。

 

 智宏が席に座るのを確認した運転手はマイクで発進する事を伝えると、選手を載せたバスはゆっくりと走り出したのだった。




結果。雫は可愛い

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