真由美と克人がそれぞれの家の代表として密かに会った日の夜。レオは再び渋谷をふらふら歩いていた。
すると魔法を使っている気配を感じ取り、怪しみながらもその方向へ向かう。
近くまで来ると急激に膨れ上がった闘争の気配を本能的に察し、それが吸血鬼である可能性を寿和へメールで送り、異質な雰囲気を漂わせる公園に入っていく。
公園は静かだったが、レオの視線はベンチにぐったりと倒れている女性へ向いていた。周囲への警戒を怠らず、レオは慎重に近づく、
「おい、大丈夫か?」
話しかけても反応はない。首に手をやると、弱々しい鼓動を感じる。
慌てて救急車を呼ぼうと端末を取り出そうとした瞬間、背後に不穏な気配を感じ、臨戦態勢で振り返った。
目の前に迫るのはエリカの家でよく見る警棒。レオは反射的に通信端末を掲げて警棒の攻撃をガード。端末は砕け散ったがなんとか攻撃を身体で受けずに済んだ。
レオはバックステップで距離を取り、襲ってきた相手を良く観察する。つばの付いた帽子に白い仮面、ロングコート。これでは性別がわからず、どのくらいの武器を隠し持っているかも想像できない。
突然コートの人物は警棒を取り出し、レオに襲いかかる。自己加速術式を使用しているため、不意をつかれたレオは警棒を受け止めるしかない。
「くっ!」
「・・・・・・!?」
鈍い音がするが、それは警棒が折れた音だ。初めて襲撃者に同様が走る。
次に襲撃者が移ったのは手刀による攻撃。先程よりも威力は低いと判断したレオは同じように受け止めようとしたが、突然手刀を解除した襲撃者はその腕を掴んだ。
レオは殴り飛ばそうと腕を振るおうとしたが、突如として脱力感に襲われた。慌てたレオは最後の力を振り絞り、襲撃者に向けて拳を突き出す。
防御のない一撃だったため、互いに吹き飛ばされるがレオの方は致命的であり、立ち上がる事が困難となってしまう。
胸を擦りながらレオに近づく襲撃者だったが、ピタリと動きを止めるといきなり全力で逃げ始めた。レオは助かったと感じたが、なぜ攻撃を止めたのかはわからず、そのまま意識を失った。
そこへ1人の魔法師が近づく。シリウスとなったリーナだ。
リーナは倒れるレオをチラリと見た後、逃げた襲撃者を追うために後方支援担当のシルヴィアに問いかけた。
「シルヴィ。対象は?」
『申し訳ございません。なんとか捉えておりますが障害物が多く見失う可能性大です』
「わかりました。直ちに追跡します」
リーナは自己加速魔法で襲撃者を追い始め、距離を詰めていった。
しかし、もう少しで捕まえられる所でリーナは違和感を覚えた。その違和感はすぐに正体を現す。
(キャスト・ジャミングですって!?)
リーナは自身のサイオン波パターンが敵に分析された事に気がついた。このキャスト・ジャミングはリーナを狙い撃つために放たれ、パラサイトは完全にリーナの感知範囲から消え失せた。
『少佐!少佐!』
「キャスト・ジャミングにより対象をロスト。残念ですが撤退します」
『了解』
リーナとシルヴィアは悔しそうな声で通信を終えた。だがいつまでも留まるわけにはいかない。リーナは近くに待機している車両基地へ向かった。
♢ ♢ ♢ ♢
翌朝。
エリカは同級生の誰よりも早く起床している。理由は鍛錬のため。千葉の剣士として、秘剣・山津波の使い手としてただ強くなるためだ。
目覚まし時計のアラームが鳴ると同時に身体は自然と起き上がり、隣接するシャワールームにある洗面台へ向かう。
顔を洗って自室に戻ると、携帯端末に複数の通知が来ている事に気がついた。
「今日も寒いわね・・・・・・は!?あのバカ兄貴!」
エリカは日課の鍛錬を取りやめ、何人かにメッセージを入れた後セーターとスカートを取り出してある場所へ向かった。
智宏達が凶報を知ったのは登校時間の途中であった。
智宏は達也・深雪と共に登校していると、エリカからメッセージが来た事に気がついた。
「達也、これ」
「・・・・・・まずいな」
「お兄様方?」
事情がわからない深雪に達也は険しい表情を向けた。
「レオが吸血鬼に襲われた」
「そんな!」
「命に別状がないようだが事実だ。放課後見舞いに行こう。智宏もそれでいいか?」
「ああ。大丈夫だ」
今日はいつも通り登校日だ。サボってまで見舞いには行けない。それに今も治療中なら落ち着いてから行った方がいいだろう。
そして放課後、智宏達はレオが治療を受けている警察病院へ向かった。もちろんいつものメンバーで。
一行が受付を済ませていると、横合いか声をかけられた。
「あれ、みんな来たの?」
「連絡をくれたのは貴女じゃない」
エリカの言葉に深雪が苦笑しながら言う。
「あ、この人達は大丈夫だから」
「かしこまりました。では病室の方ですが――」
受付の女性はエリカを目にすると少し驚いた表情をしたが、彼女の言葉に頷いてレオの病室の場所を説明した。
ここは警察病院。
そして千葉の道場は男女問わず警察の職員。
つまり病院にも千葉家の教えを受けた者が多い。受付の女性は関係の無い人だったが、エリカの事は知っている。警察関係者の間ではシンパの多い少女である事も。
一行はエレベーターに乗り、レオの病室がある階へ上がってゆく。
「エリカちゃん。レオくんは・・・?」
「大丈夫。命に別状はないわ。頑丈だけが取り柄なだけあるわね」
心配そうに訊ねる美月に、エリカは笑って返した。
病院に到着し、一声かけてから中に入ると中にはレオの他に1人の女性が座っていた。
「こちらはレオのお姉さん。花耶さんよ」
「「「こんにちは」」」
花耶は丁寧に頭を下げる。
一通り自己紹介を終えると、花耶は花瓶を持って退出した。気を使ってくれたのだろう。
「・・・おっす。来てくれてありがとな」
レオは姉の出ていった扉から智宏達に視線を移し、丸椅子に一行を促しながらこう言った。
代表して達也がベッドに近づきレオを視ながら丸椅子に座る。
「酷い目にあったみたいだな」
「まぁな。でもどこをやられたのかわかんないんだ。殴りあってたら力が抜けちまってよ?気がついたらここにいたって訳」
「毒じゃないのか?」
智宏はレオに質問する。
「違うみたいだぜ?外傷は無いし血液検査の結果も真っ白だ」
「・・・・・・レオ。エリカのメールを読んで僕なりに考えてみたんだけど、多分パラサイトってやつと君は戦ったんだと思う」
幹比古の言葉に一同は彼の方を向く。
視線が自分に集まるが、幹比古はそのまま説明を続けた。
パラサイト。
正式名称は【PARANORMAL PARASITE】 。
古式魔法は何もアジアだけでなく、ヨーロッパ方面にも存在し、古式魔法を伝える者達による会議がイギリス等で開催されている。
そしてそれぞれの国で妖魔やデーモン、悪霊といった概念で呼ばれているモノの中でも人に寄生し人間以外の存在に作り替える魔性の事をパラサイトというのだ。
本来ならこのような事は信じられないが、魔法という現象が登場してからパラサイトも本格的に信じられるようになった。
「なるほど。それが吸血鬼の正体か」
達也は納得したように頷く。
「ところでレオ。僕の魔法で君の身体を調べてもいいかい?」
「幹比古・・・・・・」
「パラサイトと呼ばれる幽体は精気を糧としてるんだ。でもこれまで説明したのはあくまで僕の仮説。だからそれが間違っているのか、あっているのかを確かめたい」
確かに幹比古が何かを見つける事ができれば解決策が見つかるしれない。それは間違いなかった。
レオは少し考えたが、ニヤリと笑ってそれを承諾した。
達也と位置を変わった幹比古は、伝統呪法具を用いてレオの中を確認する。智宏や達也で視る事のできない所を覗くため、全員が興味津々で作業を見つめた。
そして確認を終えた幹比古は開口一番こう言う。
「パラサイトに襲われたのは間違いない。けどレオ、君は人間かい?」
「え・・・・・・えぇ?」
幹比古の失礼な言動にさすがの美月も呆れた表情をする。
「いやこれだけ精気を吸われてたらまだ意識不明の状態だよ?半日でどうにかなる状態じゃないはずなんだ。正直凄いとしか言えないね」
幹比古の半分呆れたような言葉に一同は「確かに」と頭の中で思い浮かべる。
これまでレオはどんなに殴られても、魔法をくらっても立ち上がった。一条将輝の攻撃をまともに受けてもダウンしてたのは少しの間だけだった。
智宏達の反応に納得しながらもどこか哀しそうな表情を一瞬だけ見せたレオは、苦笑しながら答える。
「俺の身体は特別製だからな。んで、結論としては幹比古の仮説通りでいいんだな?」
「うん。でもいくら君でもしばらくは動けないはず。後は僕達に任せて」
「はいはーい。お見舞いの時間は終わりよ」
エリカの元気な声でお見舞いは強制的に終わった。まぁ長居しずきたかもしれないし、また今度来ればよい。それに解決策を考えなくてはいけない。
智宏達は今後の事を考えるため、病院を去っていった。
おかしい・・・来訪者編と星を呼ぶ少女編の構成を考えていたら後者の方が先に終わりそうだ。