智宏達が人づてにより情報を得ようとしている一方、現場に赴きパラサイトを探索している者達がいた。
現在吸血鬼事件で組織的な対応をとっている所は主に3つ。
警視庁を主力とし、そこに日本版FBIと呼ばれる広域特捜チーム、公安警察官を加えた日本警察。
七草家と十文字家が手を取り組織された十師族の捜査班。
古式魔法の名門である吉田家と警察組織に影響力を持つ千葉家が編成した私的報復部隊。
これらがパラサイトを探し回っている。なお、エリカは3番目の組織に入っていた。
そのエリカの隣にいる男性、幹比古は実家より千葉家に協力するようにと命令されてここにいた。つまるところ強制である。
「ねぇ。十文字先輩に協力する方がいいんじゃないか?十師族なら監視カメラの映像とか手に入るだろう」
「監視カメラに映らないから問題なの。ホント使えない連中」
あまり警察を信用していないエリカに幹比古はため息をつく。しかし長い付き合いのため、これがエリカなのだと割り切っている部分もあった。
今2人は夜道を歩き回りパラサイトの痕跡を辿っている所だ。もちろん幹比古の古式魔法を頼りに進んでいる。
「ミキ、どっち?」
もう何回目かもわからない問いかけに幹比古は何も言わずに手に持った杖を道路に突き立てる。
幹比古の手を離れた杖はしばらく立っていたが、何かを探知したかのようにピクリと動くと、そのままある方向へカランと倒れた。
それを見たエリカはその方向へ足を向けて歩き出した。
彼女はまだわかっていなかったが、幹比古はパラサイトの気配が強くなっている事を薄々と感じていた。この事を伝えるときっとエリカは走り出すだろうと考え、まだ伝えてはいない。幹比古は素早くメッセージを打つと、それをある友人へ送信した。まだ寝ていないと信じて。
日本の組織以外にも活動している者達。リーナらスターズも、今夜もチャールズ・サリバンを追跡していた。
『総隊長。次の角を右へ。その先に対象を確認』
テレビの中継車に偽装した前線司令部はサリバンの居場所を完璧に捉え、リーナが見失ってもすぐさまサポートを行い逃がさない。
サリバンは都内にある森林公園へ逃げ込むが、リーナはそれを許さず、素早く拳銃を抜いてサリバンへ照準を定める。
本能的に逃げられないと判断したサリバンは、リーナに電撃を放ち命中させた。
しかしその程度で彼女を止める事は出来ず、電撃は障壁に阻まれる。リーナは再び銃口をサリバンに向け、魔法により強化された銃弾を発射。その弾頭はいとも容易くサリバンの心臓を撃ち抜いた。
崩れ落ちるサリバンの身体を見ていたリーナは、不意に後方から電撃を攻撃を受けてしまう。
『総隊長!もう一体の反応有り!突然現れました!』
しかし完璧な奇襲だったにも関わらず、リーナにダメージはない。彼女は再びパラサイトを抹殺すべく後ろに振り向いた。
2体目のパラサイトは既に走り出しており、リーナもその後を追い始めた。
ここでリーナは近づいてくる人の気配を察知した。偶然ではなく、確実にこちらを目的に近づいてきている。
実はリーナを奇襲したパラサイトはエリカ達が探知した固体だったのだ。
そして肉眼でパラサイトを確認したエリカと幹比古は目で合図して走り出す。エリカは持ってきたケースから刀型の武装デバイスを取り出し、幹比古は鉄扇を袖からするりと出した。
「あたしは仮面を抑える!ミキはコートの方を!」
そう言ってエリカはリーナに向かって斬り掛かる。もはや魔法を使わない人間にとっては躱す事は困難な一撃である。
斬撃がリーナを直撃する寸前、エリカの刀は空を切っており、リーナも数メートル先に移動していた。
街灯に映し出されたその姿から、エリカは目の前の仮面の女性を恐ろしいほどの実力者だと直感した。
刀を握る手に自然と力が入る。
しかしエリカに焦りや油断はない。これまで数々の実力者と戦ってきた経験から、どう動けば良いのかがわかるようになってきたのだ。
そしてエリカは魔法を一切使わずリーナへ肉薄した。千葉の道場では初歩的な動きだが、エリカのそれは遥かに洗練されたものだった。
リーナも油断したわけではないが、魔法の痕跡が一切ない事から、エリカの実力を見誤っていた自分に怒りを覚えた。
(エリカ・・・魔法を使わずに・・・ッ!)
接近したエリカはそのまま刀を斬り上げ、相手の腕を狙った。リーナは素早く斬撃を躱すが、それはエリカの読み通り。自らの身体能力と慣性制御術式によって斬り返し、深紅の髪を掠める事に成功した。
掠める程度。
斬撃のスピードを僅かに上回る回避速度に悔しさはあるが、自身の成長も感じる事ができたので、エリカ的にはプラスだった。
双方は再び距離を取り睨み合う。
互いに相当な実力者である事を理解し、動きを予測し合う。戦いは剣や魔法を交えるだけではない。実戦に慣れた者は動きを読み合うのだ。
一方、幹比古は離れた所で戦うエリカを心配しつつもパラサイトを追っていた。
エリカの腕は千葉一門において兄2人に次ぐと言われ、父親を凌ぎ次兄に追いつくという噂もある。幹比古は決して誇張ではないとわかっていた。
だから信頼するし背中を任せられる。
それでも仮面の人物はエリカと対等以上に戦っている。できれば加勢したいところだが、それはできない。
(僕の方も強敵・・・かな)
幹比古が追うのは白い覆面にロングコートといった、自身の情報が一切漏れない格好だ。ここまで情報を得られないもなると、吸血鬼とは組織的な連中なのかと疑ってしまう。
ただ、身のこなしと体つきから女性である事は確かだったが、かといって手加減する事はない。
「【綿帽子】!」
幹比古の術がサイオンによって発動する。直撃すればダウン必須の威力とスピードだが、パラサイトはヌルりと風の剛拳を躱す。
パラサイトはカウンターのつもりなのか、躱した勢いを殺さずに手刀でもって幹比古に襲いかかった。
本来の実力を取り戻し、常人より遥かに高い身体能力を有しているため、この程度は簡単に避けられる。
手刀を横目に小振りのナイフを投擲する。不意をついたとはいえ、腕に刺さるはずだったナイフは直前でポッキリと折れた。
(防・・・壁?)
あっさりと防がれた攻撃に呆気にとられた幹比古。しかし瞬時に次の攻撃に移る。
次の魔法は【雷童子】。小規模な雷撃を放つ魔法だが、本物の雷を発生させる訳では無い。とはいえ威力は本物だ。
パラサイトの頭部に直撃し、バチバチと火花を散らながら悲鳴をあげる。身体の動きもまるで壊れたロボットのように鈍くなる。
やったかと思った幹比古だが、パラサイトは腕のみをこちらに向け、意趣返しかのような雷撃を幹比古に放つ。
これも決して当たってはならない威力だ。
幹比古は再び雷童子を発動して雷撃をぶつけた。接触した雷撃同士は抵抗し合い、互いの魔法力を削り、消耗戦となってしまった。
しばらくは幹比古も余裕だったが、次第に疲労が溜まり冷や汗をかき始めた。いくら本調子を取り戻したとはいえ、魔法力は無限ではない。
(まずいな・・・・・・このままだと・・・っ!)
そして何が起こったのか、2人の間でぶつかり合っていた魔法は一際大きな閃光を放ち、雷撃は消え去った。
場所は戻り、エリカも消耗戦に突入し、魔法を駆使し距離をとって戦うリーナに押され始めていた。
接近戦はエリカの方が有利。しかし相手はUSNA軍特殊部隊の現役魔法師だ。先程肩に一撃入れたとはいえ、魔法込みの実力であるならば、リーナの方に軍配はあがる。
疲労が溜まるのを把握するが、止まる訳にはいかない。エリカはリーナがこちらに魔法を放とうとする動作を視認すると、回避行動をとった。しかしその際にバランスを崩し、回避できずにその場に崩れ落ちる。
(しまっ・・・!)
そうしてエリカはいくつもの鎌鼬の刃を浴びる。武装デバイスでいくつか防御するも全てを捌き切れるわけでもない。なんとか急所を外した程度だ。
だが直ぐには動けない。再びリーナの攻撃を受けようとしていた。
覚悟を決めたエリカだったが、リーナの手の中にあった術式は跡形もなく消え去った。
(・・・・・・え、これは術式解体?ということは!)
エリカは辺りを見渡すと、公園の入口方向に見覚えのあるバイクと拳銃型CADを持つ人物がこちらに銃口を向けているのが見えた。
(あのCAD・・・達也君?)
2人の戦いに入った人物・・・達也が近づくと、エリカは「ジャリ・・・」と相手が動くのを察知。慌ててそちらへ視線を戻すと、仮面の魔法師が後ろに下がり退避しようとしている。
達也が魔法発動のため狙いを定めるが、相手に手応えがなかった。確かに敵はそこにいるし、視える。だがそれだけで中身が無い、まるで立体ホログラム映像のよう。
いや、それよりタチの悪い代物だ。
どうやら完全に逃げられたらしい。
「エリカ、無事か」
達也は完全に敵がいなくなった事を確認すると、ヘルメットを外してエリカに近づく。
ホッとしたエリカはそのまま立ち上がろうとするが、自身の今の状態を思い出す。
大怪我を負っていないとはいえ、服に関しては損傷が激しい。あちこちから肌が露出し、下着が見えている所もある。あまり異性には見せたくない格好だ。
「うん・・・あ、待って。今は服がボロボロだからあんまり見ないで欲しい・・・かな」
「じゃあこれを着てくれ」
「ありがと」
達也は予備の上着を取り出してエリカに渡す。エリカはボロボロになった上着を脱ぎ、受け取った上着を羽織る。大きめなサイズであるため多少ブカブカだが、隠したい箇所は全て隠れるので問題ない。
また、エリカは何も防御を捨てていた訳では無い。楔帷子のようなインナー系のボディアーマーを着用し身を守っていた。
そのため服が破れても下着が見えるという事はない。だがボディアーマーはピッタリ肌に張り付くタイプなのでかなり恥ずかしい。
「くそぅ。今度会ったら弁償させてやるんだから」
「その割には鎖骨辺りに攻撃を当てていたみたいだがな」
「ふーんだ。あ、そう言えばミキは?」
エリカは達也が何故ここにいるのかは聞かない。達也が何をしているのかは興味があったが、深く入り込まない方が良いと自身の勘が告げていたのだ。
「幹比古も消耗戦になっていた。相手には逃げられたが無事だ。おそらくこちらに合流するだろう」
「帰ったら特訓ね・・・お互い」
「ほどほどにな」
エリカに懲りた様子はない。むしろ強者と戦いやる気を出したようだ。
この後、彼女の修行に巻き込まれる幹比古に心の中で合掌した達也は、エリカと一緒に幹比古を迎えに行ったのだった。
一方、エリカとの戦いから離脱したリーナは、テレビ中継車に偽装した移動基地へ退避していた。
リーナは中に入り奥のデスクに座る。ペットボトルの水を飲み、キャップを閉めて一息つくと、目の前に2人の隊員が現れ手を後ろに組んだ。
「少佐。申し訳ございません」
「我々のバックアップ不足でした。まさか妨害が入るとは・・・・・・」
「構いません。本来の目的であるサリバン軍曹の処分は完了しました。パラサイトは副目的でしたしね」
「軍曹の遺体は別チームが回収済みです。施設へ到着次第直ちに解剖にまわします」
その報告にリーナはピクリと反応した。同じステイツの仲間を処分した重みは感じている。
彼は軍の統率から外れ、結果的に仲間に討たれるという事になってしまった。
リーナは軍人ではあるが齢16歳の少女だ。仲間討ちという事柄は彼女の心を蝕んでいくだろう。
「・・・・・・わかりました。あなた達は対象の追跡を続けなさい」
「「イエス・マム」」
リーナの命令を聞いた2人は敬礼をした後退出した。
周囲に誰もいない事を確認したリーナは椅子をフラットに倒し、そこへ寝ると治癒魔法を施した。達也は鎖骨にヒビが入っていると見抜いていたが、実際はそれ以上に症状は重く骨折していたのだ。
(いったーい!)
涼しい顔をしていたが、正直泣きたいほどに痛い。
(エリカがあんなに強いなんて!達也には魔法を無力化されるし・・・日本の高校生のレベルは予想以上ね)
リーナは内心メソメソといじけながら、怪我を治していった。