四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第93話 パレードとは

 

 

 

「はいもしもし」

 

『智宏。今いいか?』

 

「んー、大丈夫」

 

『パラサイトについて話しがある。できれば直接話したい』

 

「わかった。すぐ向かうよ」

 

 突然の達也からの呼び出しに驚いた智宏だったが、別に家が遠い訳では無いため、すぐに向かおうと立ち上がった。

 

「智宏様。達也様の所へお出かけでしょうか?」

 

 洗濯物を畳んでいた彩音も智宏の動きに気が付き手を止めて智宏の方を向いて立ち上がる。

 先程まで智宏のインナーシャツやパンツを畳んでいたが、あまり恥ずかしそうにはしていない。最初は自分の服くらい自分で畳もうとしたのだが、気がついたら下着を含めて綺麗に畳まれ、満面の笑みで洗濯物を渡されていた。

 

 当初は「俺が畳むから・・・」と彩音にも言ったのだが、その時に見せた悲しそうな表情を見て全てを諦めた。あれはいけない。捨てられた子犬を拾う人の気持ちが少しわかった気がする。

 それに彩音はメイドなのだ。洗濯物を畳むのも仕事の内。智宏は今もそう自分に言い聞かせている。

 

「すまないね。達也に呼び出されたんだ」

 

「かしこまりました。本日中にはお戻りになりますか?」

 

「多分ね。先に寝てていいよ」

 

「そういう訳にはまいりません。では行ってらっしゃいませ」

 

「ああうん。行ってきます」

 

 コートを着させられ、玄関で彩音に送られた智宏は達也の家へ向かう。

 

 司波家のインターホンを押すと、直ぐにドアが開き深雪が智宏を迎えた。

 彼女に「やぁ」と軽く手を振り、家の中へ智宏は入った。

 

「智宏兄様、こんばんわ」

 

「やぁ深雪。達也に呼び出されたんだけど・・・・・・」

 

「はい。お兄様はリビングでお待ちです」

 

 深雪に案内され智宏はリビングへ向かう。

 リビングへ入ると、達也がソファに座って情報端末を開き情報整理を行っていた。

 

「来たか」

 

「おう。それで用事って?」

 

「実は叔母上に相談事があってね。俺が電話するより智宏からの方が叔母上も喜ぶだろう」

 

 なんの悪びれもなく言い放った達也。

 まぁ確かに、深雪のボディーガード如きが当主に電話するなど、真夜にいきつくまでに切られそうだ。

 

 深雪でも良いが達也的には深雪にはあまり迷惑をかけたくない。つまるところ智宏に白羽の矢がたったのだ。

 まぁ実の息子である智宏なら回線を切られる事はないと判断したのだろう。実の所智宏は真夜とは直通で連絡をとっているので、選択としては間違っていない。

 

「相談事・・・パラサイトか?」

 

「いや、別件だ」

 

「・・・・・・わかった。急ぎなんだろう?じゃあテレビ借りるよ」

 

 智宏はいつもより強引な達也に驚きながらも、特殊な事情なだけに拒否はしなかった。

 そして司波家のテレビに備え付けてある通話機能をONにし、真夜への直通回線を開いた。

 

 数コールの後、テレビにはいつも通りの真夜が映し出された。相変わらずの美貌である。一応深雪の叔母だが、どちらかというと黒羽のご令嬢の方に似ている。

 

 真夜は不思議そうな顔をしていたが、智宏を見つけると少し笑みを浮かべ、次に達也と深雪を見ると再度表情を戻した。

 

『あら、智宏さんの番号ではないので少し警戒していましたが、そういうこと』

 

「ごめんなさい母上。急ぎの用でして」

 

『あまりこういった事はしないでもらいたいわ。それで達也さん。何か?』

 

 真夜は自分に用があるのが智宏ではなく達也であると察した。それ故に第一声で達也に問いかけた。

 

「はい。叔母上、仮装行列(パレード)という魔法をご存知ですね?」

 

『無論です』

 

「あれはどのような仕組みの魔法なのでしょう」

 

『パレードは九島家の秘術。なぜ私がその仕組みを知っていると思うのです』

 

「叔母上は九島閣下の教え子であると聞きました。俺よりも情報を持っているはずです」

 

 達也が知っているパレードの情報として、情報強化の応用で自己情報の外見に関する部分を加工し異なる姿を自身に投射し姿を一時的に変える。自身への魔法を仮装した姿にすり替える事で攻撃を無効化する事が挙げられる。

 

 ある意味達也は自分の情報の裏付けをしたかったのだが、真夜はそれには応えない。だが沈黙こそが応えだと理解できる。

 

「母上。達也のミスト・ディスパージョンの照準が外されました。それだけでも脅威足り得る情報かと」

 

 智宏が達也を助けるようにフォローする。

 その言葉に真夜と深雪は事なる反応であったが、驚愕なものであった事は間違いない。

 

『トライデントなら問題ないはずです』

 

 トライデントはミスト・ディスパージョンと同じく分解魔法だが、こちらは三連の魔法となっており、単発攻撃ではない。

 

「パレードは連続攻撃なら命中すると?」

 

『さぁ?あくまで私の主観です』

 

 達也のさらなる問に真夜は答えをはぐらかすが、それが回答となったものかもしれない。

 そして真夜は視線を達也から智宏へ向けた。

 

『智宏さん。予想以上に我々の動きは遅いようです。この件に関しては四葉から人を送りましょう』

 

「援軍・・・ということですか」

 

『あなた達の周囲にいても違和感がなく、かつ確かな実力の持ち主です』

 

 真夜は智宏に援軍を送ると約束した。つまり本家がパラサイトに関わる事が決定した。送られてくる者がどのような人物かは不明だが、なんとなく分かってしまう。智宏の予想通りなら頼りになるはずだ。

 

 4人の会談はこれにて終わり、真夜は智宏に軽く手を振ると通信を切った。司波家のリビングは謎の重圧から解放され、深雪は兄達のためにコーヒーの準備を始めにキッチンへ向かった。

 

 翌日、真由美に呼び出された智宏と達也は、学校の普段誰も立ち寄らない空の部室へ向かうと、そこには真由美の他に克人もいた。

 

「七草先輩、なんで俺達が呼び出されたのでしょう」

 

 部屋に入るなり、智宏は開口一番に真由美に質問した。

 

「達也君、昨晩外出していたでしょ?」

 

「ええまぁ」

 

「はい」

 

「何をしていたのかしら?」

 

 真由美は尋問するかのように達也に質問するが、相手が悪すぎる。智宏と達也はこういった事は慣れているし、昨日の真夜に比べれば真由美なぞ可愛いものだ。

 

 ただ黙っている事でもないので、詳しい事は達也が答える。

 

「偵察中に吸血鬼と交戦しました。また、その途中で正体不明の魔法師とも交戦しました」

 

「俺は外に出ていませんが、情報は達也に渡していましたね」

 

「お前達は・・・吸血鬼を捜索しているのか?」

 

 しばらく黙ったままであった克人がようやく口を開く。

 

「いいえ。幹比古達のチームには加わっていません。しかし吸血鬼・・・いえ、パラサイト事件をどうにかしたいと考えているのは俺達も同じです」

 

「・・・・・・今朝、師族会議の通達が十師族、師補十八家、百家の当主らに向けて送られた」

 

「なるほど・・・(母上が動いたか)」

 

 克人の言った通り、日本魔法界の名家当主に向けてパラサイト捜索に協力するよう要請が出た。

 昨日智宏達との通話を終えた真夜は十師族当主を緊急招集。パラサイトの捜索に七草家と十文字家がチームを組む事を周知しつつ、本格的に解決に向け動こうという結果となった。

 

「では俺達は七草先輩達に協力すればいいのですか?合法的に捜索が可能になるのは喜ばしいですね」

 

「達也君。それには情報開示が必要よ?それでもいいの?」

 

「かまいません。こちらも戦力が増えるに越したことはありませんから」

 

 真由美の問いに達也はサラッと答える。

 

「それで・・・」

 

 そんな達也に真由美が少しむくれた顔を向ける中、智宏は克人の方を向いた。

 

「それで先輩達の情報はどんなものなんですか?」

 

「ああ」

 

 無論智宏と達也もタダで情報は渡さない。克人側の情報を聞き出した。

 ある程度の内容は把握しているが、知らなかった情報は3つほどあった。

 

 1つは被害が予想以上に大きい事。

 1つはパラサイトが単独では無いかもしれない事。協力者ではなくパラサイトが複数人の可能性だ。

 そして最後の1つは第三者の介入。これはリーナの事だと察した。さらにバックアップ部隊もいるとの事だ。

 

 リーナの目的は不明だが、智宏はまだ第3勢力が彼女である事は伝えない。これは優しさというより、下手にスターズ総隊長を確保できないからだ。

 

「ちなみにお2人は対象を捕らえてどうするつもりですか?」

 

「全ての情報を得たあとは処分だ」

 

「まぁ妥当な判断ですね」

 

 克人の言う通り処分は正しい。正体不明で今までにない敵を抱えておくほどの余裕はない。しかもパラサイトを追っている勢力がいるなら尚更だ。

 

 真由美は「処分」という単語に苦い顔をしているが、彼女は魔法師である前に女子高生だ。あまり血なまぐさい事は慣れていないのだ。

 

「司波と四葉は独自に動いていい」

 

「了解しました」

 

「では今夜から動きましょう」

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 そして夜。智宏は彩音と共に司波家で夕飯をとっていた。ただ、いつもとは異なりリビングには大型スクリーンが2台並んで設置されており、そこに独立魔装大隊からの街中監視カメラの映像を初めとしたパラサイトに関する情報が映し出されていた。

 

 しばらくはマップに映る光点や映像も普段と変わらないものだったが、突然いくつかの光点が不自然な動きを始めた。

 

「そろそろだ。行こう達也」

 

「ああ」

 

 紫紺色の野戦服を着た智宏は司波邸のリビングにあるソファから立ち上がった。

 ここでは智宏と達也、深雪が大型スクリーンを観ており、そこにリアルタイムのパラサイトの位置が地図上に映し出されていた。

 

 上手い具合に追手がパラサイトに接近していたが、別の反応がパラサイトに近づき始めている事に気がついた。恐らくスターズだろう。正直現場だけで追跡できる装備を持つ彼らが羨ましい。

 

 武装した達也が智宏と共にリビングから出ていこうとすると、すぐ後ろから深雪に声をかけられる。

 

「お兄様、智久兄様。行かれるのですか?」

 

「ああ」

 

「大丈夫。帰ってくるよ」

 

 その言葉を聞いた深雪は頼もしい2人の兄に近づき、智宏の手を握りつつ達也に抱きついた。

 

「帰りをお待ちしております。でも・・・でも今度は」

 

「わかってる。深雪の力が必要になった時は必ず呼ぶ」

 

 そう言われた深雪は2人から離れる。智宏達は玄関に向かい、コンバットブーツを履くと後ろに立つ深雪を見た。

 

「行ってくる」

 

「じゃあね。彩音は家に戻ってなさい」

 

「行ってらっしゃいませ。ご武運を」

 

「智宏様、達也様。お帰りをお待ちしております」

 

 クールに去る達也と軽く手を振る智宏に、深雪は深々と頭を下げて見送った。

 玄関の扉が閉まると深雪は鍵をかけてリビングへ戻り、力が抜けたかのようにソファへ座り込んだ。そこへ彩音が紅茶をいれて持ってくる。

 

 深雪は彩音が帰った後もソファに座っていたが、ただ何もしないわけではない。

 ディスプレイのスイッチを入れ、智宏達やパラサイトの位置情報を把握しようとする。兄達が傷つくのを何もしないで見ているだけは嫌だったのだ。

 

 規模的に言ってしまえば、横浜事変のような大規模武力衝突が起きているわけではないので危険な少ない。

 とはいえ相手はスターズだ。独立魔装大隊と同レベルの練度とそれ以上の規模を誇るあのスターズなのだ。正直心配でたまらない。

 しかし今の深雪に出来ることは何も無い。個人レベルでは最高クラスの力を有しているが、それ以外の面では凡人と言っても良い。

 

 智宏のように四葉を継ぐ力を有していない。

 達也のように個人的なネットワークもない。

 響子のようなハッキング等の後方支援スキルもない。

 

 兄1人見つけられない彼女は焦りと不安を抱いていた。

 

(お兄様には私は見えるのに・・・なぜ私にはお兄様が見えないの!)

 

 達也はどれだけ離れていようとも深雪を認識できる。妹はどこにいるのか、体調はどうか等、様々な情報を得られる。プライバシーの欠片もないが、深雪はそれで構わない。嫌とも思った事は1度もなかった。

 

 もう1人の兄、智宏も達也並に離れていても人を認識できるが、達也と深雪のそれには敵わない。とはいえ、智宏は達也の能力と似た力を持つ。深雪はそれが羨ましくもあり、妬ましくもある。

 

 1年半前に突然知らされた従兄の存在。最初は大した実力も無く無害な存在だったが、達也や真夜、自分との訓練で才能を伸ばしいつの間にか四葉を継ぐに相応しい実力を兼ね備えるようになっていた。

 

(なぜ、なぜ!こんなにも想っているのにっ・・・・・・!)

 

 この誰にも打ち明けることの出来ない悩みはしばらく続いた。

 意外な来訪者が訪れるまで。

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