四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第94話 決裂

 

 

 

 智宏と達也を見送った深雪は少しの間俯いて祈るように手を合わせていたが、インターホンの呼び出しで意識をそちらに向ける。

 こんな時間に一体誰かと思いカメラを確認すると、なんとそこには九重八雲が立っていた。

 

 そっと扉を開けておそるおそる外へ出ると、やはり九重が手を振って深雪を待っていた。

 

「やぁ深雪くん」

 

「先生!?」

 

「じゃ、行こうか」

 

 九重は深雪を道路の方へ促す。そちらに視線を向ければ黒い車が待機しているのが確認できた。

 

「・・・どちらへ?」

 

「もちろん君のお兄さん達の所へ」

 

 深雪は羽織る物を取り、何も言わず車へ乗り込む。九重も乗ると運転手の弟子に発車するよう伝える。

 

「あの、なぜ先生が?」

 

 車が走り出すと深雪が九重に問う。

 普段なら俗世には介入しない彼が一体なぜ、と。

 

「事情があるんだよ。というか責任かな」

 

「はぁ・・・」

 

「パレードはウチの先代が九島家に教えた魔法【纏衣】から発展したんだよ」

 

「えっ!それは本当なのですか?」

 

 それは予想外の事実だった。

 日本の魔法が海外の特殊部隊に用いられ、実際に脅威となって対峙している。表には決して出せない事情だ。

 

「あの魔法には僕達の秘術も混ざっている。これ以上広められると困るんだよ」

 

 先代、つまり九重の師匠は少なからず魔法の研究機関に関係していた。今なら秘術の1部でも外には出さないと結論づけただろうが、当時は複雑な事情が絡み合い真実は闇の中だった。

 

 九重にとって今回の介入は、彼の言う通り責任を取る形となる。

 間違った事ではない。軍事転用可能な魔法は必ず情報管理の徹底が求められる。今回のケースの様な事例ともなると動かざるを得ない。

 

 深雪と九重が車で出発した時、智宏と達也はバイクで各々の場所へ向かい、駐車場へ停めて周囲の偵察を始めた。

 智宏が付近の気配を探ってみると、4つの勢力が蠢いていた。

 

 まとまって周囲を警戒しているのが千葉家グループ、1番外周部でこちらの様子を伺っているのが七草・十文字家グループだろう。

 また、鬼ごっこを繰り広げている2つのグループは、追手側がリーナ達なのは間違いない。

 

 突然追われていたパラサイトが2手に別れる。それに習いリーナ達も別れて行動する形となり、グループはさらに2つ増えた。

 

 片方は達也がいる方角へ向かったので、そちらは任せることに決めた。

 相変わらずエリカ達は見当違いな場所を探しているが、正直鉢合わせとならなくて丁度いい。智宏はこちらに近いグループに向かって走り出した。

 

 数分間走り続け、現場に到着智宏が目撃したのは仮面を身に着けた赤い髪の魔法師がパラサイトを始末した所であった。

 智宏に近いグループはリーナだった。これは運命なのか否かはどうでもいいだろう。あれらは紛れもない【敵】なのだから。

 

「リーナ・・・・・・」

 

「なんの話だ。貴様は誰の事を言っている」

 

 リーナはゆっくりと智宏の方へ振り向く。しかし智宏の問いには否定的な答えをだす。その目には明らかに殺意があった。

 智宏はそれに怯まずリーナに問いかける。

 

「俺は君がスターズである情報を持っている。情報元は俺の実家だ。これでもとぼける気か?」

 

 智宏がリーナがアンジー・シリウスであるという情報は真夜から得た物。決して嘘ではない。これ以上に事実を知っているという証明は無いだろう。

 

 しばらく沈黙が続いたが、突如としてアンジー・シリウスの周囲が歪み、それと同時にシリウス・・・リーナの姿は赤髪から元の金髪へと戻る。

 

「さすがに貴方の家が情報元だと偽り続けるのは無理ね」

 

「リーナ。俺は言ったはずだ。この日本で暴れる事は許さないと」

 

「あら、ワタシはタツヤに手を出してないわよ?」

 

「俺は君が2つの任務を実行しているのを知っているんだけどな」

 

 リーナの任務は2つ。

 1つは灼熱のハロウィンを引き起こした戦略級魔法師の確保又は排除。

 1つは日本に逃げてきたパラサイトの排除。

 

 主となる任務は後者の方だが、それが終わり次第達也に関わり始めるのは目に見えている。そんな事は絶対にさせない。

 まだ達也が件の魔法師であると断定できてはいないようだが、それも時間の問題だろう。それでも重要候補である事は間違いない。

 

「何のことかしら」

 

「残念だよリーナ。本当に残念だ」

 

 説得は失敗に終わる。

 リーナは始めから説得に応じるつもりはなかったにせよ、目の前の敵が危険な雰囲気を出し始めているため警戒を強めた。

 

 智宏を無力化した後は別のパラサイトの元へ向かい第2ラウンドを繰り広げなければならないため、一気に決着をつける必要がある。そのためリーナは智宏の意識を奪う事に集中した。

 だが、それは自身への強烈な一撃で失敗に終わった。

 

「がはっ・・・・・・!」

 

 リーナは智宏の脚が自分の腹部にめり込んでいるのを認識した。

 自己加速魔法によって智宏に接近されたのかと考えたが、続いて繰り出された掌底により吹き飛ばされ距離を取った事でそれは誤りである事に気がついた。

 

「トモヒロが動いていない・・・・・・まさか!」

 

「そう。俺が接近したんじゃない。リーナが引き寄せられたんだ」

 

 智宏が発動したのは加速系魔法ではなく、加重系魔法。自身を重力の中心として対象を引き寄せる魔法だ。重力核に比べればなんてことは無い。

 

 油断した!とリーナは思った。

 魔法師の戦闘において自身を加速させる魔法を使うのは当たり前と言っても良い。引き寄せる魔法は考えた事もなかった。

 

「結構便利な魔法でさ。こんな事もできるんだ」

 

 そう言って智宏はポケットからマスケット銃の弾頭のような物を何個か取り出し、リーナに向かって放り投げる。

 そして先程の魔法を発動させると、銃弾はリーナの方へ勢いよく飛んでゆく。今度はリーナを重力の中心、銃弾を対象としたのだ。

 この方法は引き寄せるモノに貫通力を持たせるほど強くはないので、当たっても結構痛いくらいにしかからない。暴徒制圧用だ。もちろん当たり所が悪ければ重症、爆弾や車などの危険な物体は致死性が増す。

 

 さすがのリーナも慌てずにこれに対処。弾は全て叩き落とされた。まぁ今の攻撃は当てる気はなかったので気にしていない。

 

「さて。やろうか」

 

 智宏はCADを構えて重力核を発動した。対象はリーナの両腕両脚だ。殺すつもりはない非致死性の威力で魔法は放たれる。命中すればその箇所は石になったかのように固まり人によっては激痛により立っていられなくなる。

 しかしリーナの防御魔法に阻まれた。さすがは総隊長だ。

 

 バックステップで距離をとるリーナ。相変わらず険しい表情を浮かべている。

 

「トモヒロ。後悔するわよ」

 

「ほう?」

 

 智宏はリーナが何をするが気になった。接近戦か遠距離戦か。何をする気なのだろう、と。

 リーナは大きく息を吸い込み――

 

 

 

 

「イヤーーーーーーッ!誰か助けてッ!」

 

 

 

 

 こう叫んだ。

 するとタイミング良く4人の男が向こうの道から現れる。それは警察官だった・・・いや、警察官の格好をした連中だった。

 

 周りから見れば男が女の子を襲っているようにしか見えないため、取り押さえるのは間違いないではない。

 

「動くな!」

 

「武器を捨て両手を頭の後ろに!」

 

 マニュアル通りに智宏に武装解除を促す警察官達。

 不審者を取り押さえようとするこの状況、いささかまずいが決して不利ではない。なぜ警察官達は智宏にのみ(・・・・・)武装解除を促したのか、なぜ4人もいるのにリーナを保護しようとしないのか。

 答えは明白である。

 

 智宏はCADを構え、警察官4人に向けて重力核を発動。男達はグシャリと潰されて死亡した。

 目の前で一瞬にして殺されてしまった警察官、もとい部下達に、リーナは動揺を隠しながら智宏から徐々に後退した。

 

「本当に警察だったらどうするのよ」

 

「何を言うんだい。正規軍スターズのリーナを手引きをしている時点で外患誘致罪が適応されるんだ。俺は刑を執行したにすぎない」

 

 智宏はニッコリと笑って反論する。

 

 外患誘致罪とは、外国による日本国への武力行使において日本国民がその勢力に協力し、攻撃を誘致させた者に適応される罪、つまるところ国家反逆罪である。

 

 今回の場合はUSNA軍統合参謀本部直属の魔法師部隊【スターズ】が日本国内で一般国民である(・・・・・・・)司波達也を誘拐・殺害しようとした。また、その際に日本の重要資産である戦略級魔法師四葉智宏、つまり日本国に対する攻撃を行おうとした。

それに対してこともあろうに警察官が協力していた。弁明の余地なし、だ。

 

 ただ実際にこの罪が適用されるかは別とする。あくまで智宏の主観のみで判断した弁護人のいない脳内裁判だ。しかも外国軍による攻撃が智宏=日本国への攻撃となるという事例が適応されるとは微妙なところだ。

 

「次はどうする?降伏してくれるのなら危害は加えない事を約束しよう」

 

「どうだか。ヨツバの研究施設に連れていかれるのがオチよ」

 

「うーん。そりゃそうだ」

 

 そうリーナに言われ、智宏はぐうの音も出ないほど納得してしまった。

 彼女が投降したと真夜に知られれば間違いなく四葉の施設もしくは監視下に置かれるだろう。真夜の事なのでさすがに自身が受けたような仕打ちはしないだろうが、リーナの事を徹底的に調べあげるのは間違いない。

 

 智宏としてもリーナには悲惨な目にはあってほしくはないし、何事もなく祖国へ戻って欲しかった。というかもしもの事があった場合、雫の安全を保証できなくなる。

 

「とは言っても野放しにはできないから、他の人に任せる事にするよ」

 

「は・・・・・・えっ!?」

 

 リーナは智宏に集中していた意識を周囲に向けると、背後に突然第三者の気配を察知し、慌ててそちらに振り向く。そこには達也がいた。

 

 智宏とリーナの戦闘の気配を察知しこちらへ急行したのだろう。ちなみに達也の方へ向かったグループはスターズ隊員は戦闘不能、パラサイトは取り逃している。

 

「タツヤ!」

 

「リーナ。このまま降伏してくれないか」

 

「アナタまで・・・・・・」

 

「俺達は君を傷つけたくない」

 

「くっ!」

 

 リーナは忍ばせていたナイフを達也に投げようとする。

 彼女の行動はほとんど反射的なものだったが無理もない。前には達也、後ろには智宏とかなり絶望的な状態かつ、智宏との戦闘により判断能力が下がってしまっていたのだ。

 

 リーナに合わせて智宏と達也も一斉に動き出す。智宏は再びリーナを引き寄せようと、達也は靴に小さな障壁魔法を施しナイフを蹴り上げようとした。

 

 一瞬で全てが決まる。

 智宏がリーナを引き寄せその手刀をもって沈黙させるか。

 リーナが達也に一撃を入れ逃げ切るか。

 達也がナイフを無効化しリーナを取り押さえるか。

 

 しかし、3人が接近するそのタイミングで、思わぬ邪魔が入った。

 

 

 

 

「お止めなさい!」

 

 

 

 

 智宏達を分けるかのように冷気の壁が彼らを分断する。それは障壁とは言い難い代物だったが、触れるのは危険だと全員が直感的に感じた。

 

「リーナ。悪いけどそれ以上動かないで」

 

「・・・・・・ミユキ」

 

 そこにいたのは紛れもない、氷の女王であった。

 

 

 

 

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