四葉を継ぐ者   作:ムイト

95 / 103
第95話 深雪VSリーナ

 

 

 

「リーナ。動かないで」

 

「ミユキ!?」

 

 CADを構えながらこちらへ近づいてくる深雪。家に置いてきた彼女がなぜここにいるのだろうと智宏と達也は不思議に思う。

 

「やぁ学生諸君。こんばんわ」

 

 突然暗闇の中から九重がぬるりと現れる。

 相変わらず素晴らしい・・・いや、恐ろしい隠密能力だと智宏は関心した。

 

 リーナは周囲を見渡し、完全に囲まれたと理解する。より一層警戒心を強めるがどうしようもなかった。

 

「一対多数なんてずるいわよ!」

 

「特殊部隊はそんな状況でも動けるように訓練されているはずなんだけどなぁ」

 

「智宏さん。今はそれどころではないですよ」

 

「すんません」

 

 悔しさ全開のリーナの避難にポツリと呟く智宏だったが、深雪はそれをチクッと注意した。彼女は笑みを浮かべているが、目は笑っていない。智宏はどうしても深雪のこの表情が苦手だった。

 

「さてリーナ。時間も無いから単刀直入に。俺と勝負し、俺が負けたら君を解放する。勝ったら情報を吐いてもらおう」

 

「タツヤ・・・・・・」

 

「逃げようとは考えない事だね。もし逃げたら君の身柄は四葉家に渡してしまうかもしれない」

 

 達也の提案にリーナが答える直前、九重が追加案を出す。本気ではないようだが、逃げ場の無いリーナを追い詰めるには十分だった。

 

 リーナは悔しげに智宏達を見回した後、決意した表情を出した。

 

「いいわ。乗ってあげる」

 

「では河川敷に「お兄様、お待ちを」・・・深雪?」

 

 達也がリーナを伴って近くの河川敷へ向かおうとした時、行く手を深雪が阻んだ。

 

「お兄様。私がリーナと戦ってもよろしいでしょうか」

 

「なに?」

 

「私はリーナと戦える自信があります。なにより私の気が収まりません。お兄様!」

 

 謎の深雪の圧力に周囲の人間が圧倒される。執念ににた何かが彼女を動かしているのはわかるが、その何かとは何なのだろうか。

 実の所、達也の役に立ちたい、お荷物のまま終わりたくない、自分が使える人間だという証明がしたいといった理由だった。

 

 達也もいつも以上に強情な妹を見る。その目は本気のそれだ。もはや深雪は引かないだろう。

 

「・・・・・・わかった」

 

「達也!」

 

「ありがとうございます、お兄様!」

 

「へぇ・・・深雪、私と戦うつもり?」

 

「私の実力は貴女も知っているはずよ。それに、お兄様達に手を出した罪は許されるものではないわ」

 

「いいわ。受けて立つ!」

 

 睨み合う深雪とリーナ。事情を知らない一般人が見れば可愛らしいと感じるかもしれないが、名高い魔法師が見れば寒気を催すほどの魔法力が空気を震わし、鳥肌が立っていたことだろう。

 

 深雪からは殺気に近い何かがリーナに浴びせられる。その瞳は敵対する全ての者を精神から凍らせるだろう。

 リーナも深雪からの挑戦に真正面から受けてたった。第一高校において深雪をタイマンで倒せる女子生徒は限られる。真由美達が卒業してしまえば、深雪を抑える女子生徒はいないだろう。

 

 それから一同は河川敷へ向かう。リーナは九重の車で、それ以外はバイクで公園を出発した。

 幸いにも河川敷には人はいない。最近の襲撃事件で夜間に外出した市民は減っていたのだ。ちなみに公園で戦った形跡は九重の弟子達がすべて消してくれた。ありがたいことだ。

 

 土手から降りて位置に着く智宏達。九重の弟子達は周囲を囲い周辺警戒を怠らない。リーナは最悪の場合を考え、切り札の確認をする。

 

「大丈夫。約束は守るよ」

 

「ふぅん」

 

 智宏に思考を読まれた事に内心驚いたが、さすがに表情には出さない。

 全員が位置に着いた事を確認した九重は、パンパンと手を叩いて自分に注目させた。

 

「じゃあ審判は僕が務めさせてもらうよ。殺すのは無しで、どちらかが降参するまで続けるね」

 

「「ええ」」

 

「師匠。少し深雪と話してもいいですか」

 

「・・・・・・いいだろう」

 

 試合を開始する空気となったが、達也が突然それを止め、深雪と話す許可を求めた。九重は眉をひそめながらも許可した。

 

 深雪を手招きした達也は、深雪が目の前に立つと、そのまま抱き寄せた。

 

「あっ、あああのあのあのあの!?」

 

 突然の達也の奇行に一同は言葉もなくなり、深雪本人は顔を真っ赤にして混乱状態となった。智宏でさえ空いた口が塞がらない。

 

 だが、達也の突然の行動に意味がある事を智宏は知る。達也は深雪の額にキスをしたのだ。普段の深雪なら気絶、悶絶しそうな行動だったが、今の彼女の表情は驚愕と言っても良いものだった。

 達也は深雪に一時的に制御力を返したのだ。この兄妹は普段は互いに枷をかけている。それを無くし、全力を出せるようにした。

 

「お待たせしました」

 

 達也から解放された深雪は再びリーナの前に立つ。先程の行動はあまり気にしていないようだ。

 リーナは智宏の方をチラリと見るが、「あきらめろ」と首を横に振られてしまう。この場で達也の行動を気にしているのはリーナだけのようだ。まぁ本人達以外は諦めの境地に達しているだけなのだが。

 

 なんとか気持ちを落ち着かせたリーナは、深雪と一定の距離まで近づき、戦いの準備を終えた。

 

「2人とも、いいね?では・・・・・・始め!」

 

 九重は上げた手を合図と共に振り下ろす。

 同時に深雪とリーナの魔法干渉力が周囲に影響を与えだした。

 

 まず最初に動いたのはリーナだった。リーナの作戦はまず自己加速術式で深雪との間合いを詰め、近接戦闘で彼女を倒す。そして隙をついてこの場を離脱するというものだった。

 しかし、リーナの魔法発動のタイミングとほぼ同時に、深雪も霙の混じった突風を生み出しリーナに向けて放った。

 

(くっ!)

 

 受けても大したダメージにはならないだろうが、後から発動した魔法に負けるなどリーナのプライドが許さなかった。

 リーナは冷気を回避するとポーチからナイフを取り出して構える。そしてナイフに注意を引き付けた一瞬で小型ダガーをいくつかばらまいた。

 

(分子ディバイダー!)

 

 リーナはナイフを一文字に斬る。通常の兵隊ならこれで倒れるが、深雪相手ではそうはいかない。分子ディバイダーの仮想領域が深雪のシールドに触れた瞬間、深雪の圧倒的な魔法干渉力が攻撃を相殺した。

 

 深雪は自身を守る盾が弱くなった事を感じ、初めて焦りを覚えた。ここまでの攻撃力だとは深雪も思っていなかったようだ。

 

 攻撃が防がれたリーナだったが、これはあくまで囮。本命はばらまいたダガーだ。

 

「ダンシング・ブレイズ!」

 

 リーナの声に反応したダガーは四方から深雪に襲いかかる。深雪も己の全方位からの攻撃に対し、再びシールドを発動。さらに硬貨ほどの大きさの雹を大量に作り出し、自分を中心に回転するリングをいくつか形成した。

 

 ダガーは予測が難しい軌道で深雪へ接近するも、高速回転する雹がダガーの行く手を阻み、それを突破したとしてもシールドで完全に防がれてしまう。

 

(リーナ。まさかここまで強いなんて・・・・・・)

 

 攻撃を防いだものの、深雪はシールドにかかる圧力とリーナの戦術に寒気を感じる。

 

(この攻撃も防がれるの!?嘘でしょ!?)

 

 相変わらず表情には出ていないが、リーナは加減が効かなくなるかもしれないと理解した。

 

「やるわね」

 

「ミユキこそ」

 

 このままでは埒が明かない。

 それを解決するためにはどうすれば良いか。もはや強力な一撃を以て戦うしかないだう。

 

 深雪とリーナは互いに発動する次の魔法が先程の比ではないと悟り、CADを構える手に力を込める。

 

「「勝負よ!」」

 

 2人は同じタイミングで魔法を発動する。さすがに智宏は「まずいかな」と思い始めてしまう。だがこれを止めるには相応の覚悟が必要だ。

 

「ニブルヘイム!」

 

「ムスペルヘイム!」

 

 片や空気が凍りつく極寒地獄。

 片や空気が燃え上がる灼熱地獄。

 どちらも高エネルギーを生み出し周辺に異変を及ぼす。2人の力がぶつかり合った影響か、なんとオーロラが姿を現した。

 

 幻想的で観光であるならば名所となるのは間違いないのだが、いかんせんそれを生み出す2人が観光気分を削ぐ。

 智宏は2人の間に突入する覚悟を決めた。だが、介入したのは智宏ではなかった。

 

「2人共!そこまでだ!」

 

 数歩前に出た達也はそう叫ぶと術式解散を発動し、2人の魔法を同時に消し飛ばした。

 ただ、発動していた魔法は暴風となって中心にいた達也に襲いかかる。

 

「達也!」

 

「お兄様!」

 

 智宏は達也の所までラムの射程を伸ばしたが間に合わない。暴風は達也を直撃した。

 

(自己修復術式オートスタート)

 

 達也は損傷した身体を、いつものように自己修復術式で治す。相変わらず便利な魔法だが、そのリスクには思わず顔を歪めそうになる。

 

 身体の修復が終了した達也に深雪は慌てた様子で近づく。

 

「お兄様、なんて無茶を!」

 

「このままでは殺し合いに発展していた。ルール違反だ」

 

「そうだね。リーナは氷漬け、深雪は大火傷。重症モノだよ」

 

 達也の言葉に智宏は補足する。それを聞いた深雪とリーナは何も言えなくなってしまう。2人は勝負に夢中になり、制限が効かなくなってきていたのは自覚していた。

 特にリーナは「負けた」と判断した。決着はつかなかったとはいえ、攻撃力の高い魔法をほぼ無尽蔵と思うようなペースで繰り出され、自身の限界を視てしまったのだ。

 

「私の負けよ」

 

 残念だが逃げる力も残っていない。リーナは両手を上げて降参した。

 

「でもタツヤ?貴方が途中で干渉したから、私も質問にはYES or NOで答えるからね」

 

 ただしリーナも簡単には終わらせない。戦いに勝手に干渉した達也に条件を付けたのだ。

 

 本来ならそういう立場には無いが、転んでもタダでは起きないという彼女の姿勢に智宏達は関心し、その条件を受け入れる。

 そして一同は河川敷の橋の下へ行き、リーナに対して聴取を行ったのだった。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 そして翌朝。

 

 朝日がカーテンの隙間から差し込む。

 いつもなら起きる時間だが、リーナはベッドの上で毛布にくるまったままだった。

 

「リーナ、起きてください」

 

 少しすると先に起きていたシルヴィアが優しくリーナの入った毛布を叩く。モゾモゾと毛布が動き、ゆっくりとリーナが顔を出した。

 リーナの綺麗な金髪はボサボサで、顔色もいつもより悪いように見える。

 

 しばらくシルヴィアの顔をボーッと見ると、リーナは顔を歪ませ目元に涙を浮かべた。

 

「うっく、ひっぐ・・・ジルヴィ〜!」

 

「ど、どうしたんですかリーナ」

 

「私はもうやっていける自信が無くなりました!シリウスの称号は返上じまずぅ〜っ」

 

 ベッドの脇に立つシルヴィアに抱きつくリーナ。こちらから条件変更したとはいえ、昨晩はしこたま尋問され夜遅くに帰宅。シルヴィアへの報告もそこそこに、シャワーを浴びた後直ぐに寝てしまった。

 

 滅多に見せないリーナの姿に、シルヴィアは動揺した様子で彼女の背中を軽く叩く。

 

「貴女は任務を全うしているではないですか」

 

「高校生に負ける総隊長なんてありえないじゃないですかぁ」

 

 グズグズといつもの彼女らしくない姿を見たシルヴィアは、なんとか再起動させようとご機嫌取りを初めた。

 リーナが戦った智宏達を普通の高校生から普通ではない高校生に、そして普通ではない魔法師へと変換し、リーナを言葉巧みに誘導していく。

 

 ただ、リーナのみの失態ならまだしも、智宏側の戦力に九重も加わっていた事、九重が恐るべき実力者である事を事前に調べきれていなかった諜報部の隊員にも責任はある。

 そのため、シルヴィアはリーナの機嫌が回復すると同時に、諜報部に対する愚痴を聞かされることとなる。

 

 数分後。

 リーナはあらかた吐き出すとシルヴィアからミルクを受けとりソファへ座っていた。

 

「・・・・・・ごめんなさいシルヴィ」

 

「いいんですよ。愚痴くらいは聞いてあげますから。でないと貴女はパンクするでしょう?」

 

 シルヴィアは今までのリーナとの付き合いを思い出していた。スターズの中でリーナと相性が良く、思い返せばお守りを任されていたのかもしれない。まぁそれはいいのだが・・・。

 

 リーナは軍人としてはそこそこ優秀だが、歳相応な反応もする。あいつの性格がどうのこうの、あの可愛いぬいぐるみが売り切れていた等、シルヴィアにとって妹のような存在だ。

 

「それで昨日の被害は?」

 

「タイタンとエンケラドスは軽傷で数日後に復帰します。ただリーナに付いていた4人は・・・」

 

 あまり言いたくないのか、シルヴィアは一旦間を開ける。

 

「遺体の確認はできませんが死亡したと判断します」

 

「・・・・・・そう」

 

 戦死者4名。この人数は数字だけで見た場合は少ないと感じるが、彼の者達の能力を見れば損失は大きいと思うだろう。

 

「参謀本部は増員を予定しています。また、別働隊の方ですが、あまり成果はないそうです」

 

 別働隊というのは【グレート・ボム】と言われている魔法、つまりマテリアル・バーストの術者を探す任務についている者達だ。

 

 コメット・テイルは直ぐに智宏が名乗り出たために警戒のみとなったが、前者に至っては正体不明なために軍には焦りも生まれていた。重要人物として達也が対象となっているが、証拠が不十分だ。

 

 また、別働隊にはリーナの友人も配属されているため、任務とは別に気にはしている。

 

「・・・ミアは元気でしょうか」

 

「成果が出ない事でかなり焦っているそうです。あ、そうでした」

 

 思い出したかのようにシルヴィアはポンと手を叩く。

 

「明日は第一高校へ行くみたいですよ?お会いになられては?」

 

「・・・・・・へ?」

 

 その言葉にリーナはピシリと固まった。ミアは友人だ。友人だが、高校生活を楽しく送っている自分の姿は恥ずかしくて見せたくはなかった。

 

 その後リーナは悩んだ末、ミアに会う事に決めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。