四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第96話 雫の報告

 

 

 

 ―アメリカ西海岸―

 

 

 1月28日土曜日。

 この日雫はホームステイ先で開催されたパーティに参加していた。

 北山家の長女として両親と共に様々なパーティに参加してきただけあって、その佇まいは慣れているように見える。

 

「ティア〜!」

 

 数名の女子と会話をしていると、背後から手をブンブン振りながら近づいてくる男性がいた。

 名はレイモンド・S・クラーク。

 

 留学先にて最初に仲良くなった人物であり、何かと気にかけてくれている。良い人である事はわかってはいるが、距離感が近い事が気になる。とはいえ他の女性にも同じような感じで接しているためあまり気にしていない。

 

 なお、ティアというのは雫という言葉の英語訳を説明した際に雫の愛称はティアで定着した。

 

「素敵なドレスだね。似合ってる。流石はお嬢様だ」

 

「そう?ありがとう」

 

 雫の着用するドレスは留学先で借りたものだった。USNAの流行らしいが、雫にはいまいちわからない。流行に疎いわけではないのだが、ドレスまでには気を回せないのだ。

 

「レイも似合ってるよ」

 

「本当かい?嬉しいなぁ……ん?そのネックレスは?」

 

「これ?」

 

 レイモンドは雫の首元に光るターコイズのネックレスに気が付く。

 何度か身につけていた事もあり、同じように聞かれている雫だったが、嬉しそうに頬を染めながら返答するのは相変わらずだ。

 

「うん、日本を出る時に貰ったんだ。大切な友人に」

 

「そ、そうなんだ…………」

 

 雫の今までに見たことの無い表情を見てレイモンドは顔が引き攣りそうになった。

 まさか彼氏がいるんですか?なんて聞けるわけがないし、いたからなんだという話にもなってしまう。

 

 だがレイモンドはめげない。

 せめて留学中に雫の心に残る存在になってやると誓った。

 

「コホン。ティア、今いいかい?」

 

 とはいえ雫に話しかけたのは用があっての事。

 レイモンドの真剣な表情に雫は彼がなぜ話しかけてきたのかを察する。

 

「わかった」

 

 2人は人混みから離れて壁際へ向かう。このパーティは交流会も兼ねているため、こういった光景はよく見る。なので周囲の人間は気にしてはいなかった。

 

 周りに人がいない事、聞き耳を立てられていない事を確認したレイモンドは、小声でこう言った。

 

「ティア。吸血鬼の存在は事実らしい」

 

 雫の情報元というのはレイモンドだった。

 彼はかなりの情報通であり、どこにツテをもっているのかはわからないが、大抵の事は調べてくれる。

 これまで何度か調べ物を頼み、手作りのお菓子をお礼として渡した事がある。

 

「11月にダラスで余剰次元理論に基づくマイクロブラックホールの生成・蒸発実験が行われた。その直後みたいだよ、吸血鬼が確認されたのは」

 

「その実験が関係している……そういうことなの?」

 

「他にも調べてみたけど信憑性は高いね。僕個人としては吸血鬼の原因と確信してる」

 

 レイモンドの情報元がどこかはわからない。

 だが雫に害をなす人間ではない事はわかっているし、雫としても智広達の役に立ちたかった。

 

「そうなんだね……うん、ありがとう!」

 

「いやなに。ティアの頼みだからね!」

 

 レイモンドのアプローチは他の人が見れば露骨なものだろうが、雫はそれに気が付かない。彼女の心は別の男に向いているからだ。

 そしてレイモンドも雫の中にある智広の存在に気が付いていない。恋とは残酷なものである。

 

 その頃日本の第一高校では、休みの日であるにも関わらず会議室にパラサイトを探し回っている生徒が集まっていた。達也が招集をかけたのだ。

 

「なんだ吉田と千葉。お前達も呼ばれたのか」

 

 入室した幹比古とエリカを出迎えたのは克人だった。克人と真由美は先に部屋に到着しており、達也を待っていた。後輩の呼び出しにキチンと応じてくれる良い先輩だ。

 

「失礼します。皆さんお揃いですね」

 

「みたいだな。さっそく始めましょう」

 

 最後に入ってきた智広と達也は全員に席に座るよう促し、達也だけがホワイトボードがある中心へ立った。

 

「俺が皆さんを招集したのは吸血鬼……いえ、パラサイトについてです」

 

「ふーん。なるほどね」

 

 達也がそう言うとエリカが納得した様子で真由美と克人を見る。互いにパラサイトを追っている身であるが協力はしていない。もちろん互いの存在は把握していた。

 

「以前パラサイトと遭遇した際に発信機を打ち込む事に成功しました」

 

「無論体内だな。となると麻酔弾にも混ぜたか?」

 

「さすが十文字先輩。その通りです」

 

 達也はパラサイトに撃ち込んだ発信機についての説明を始める。

 発信機の寿命は3日。3時間おきに特定パターンの電波を発信する。なお、電波は簡単に傍受できる。

 

 説明中に深雪は情報が入ったカードを4人に渡す。これには電波のパターンが入っている。

 

「これをお渡しします。先輩方もこれでパラサイトの居場所を把握できるはずです」

 

「なぜ俺達にこれを渡す?」

 

 目の前に置かれたカードを手に取りしげしげと見つめてから、克人は達也に質問する。

 

「はい、我々が追っているのパラサイトはUSNA軍の魔法師の可能性が高いようです」

 

「そして日本人以外にもパラサイトを追っている勢力がいます。おそらくUSNA軍統合参謀本部直属魔法師部隊、スターズかと」

 

 達也の説明を智宏が補足する。

 

 USNA軍。

 スターズ。

 

 外国の軍隊が介入している事は真由美達を驚かせた。

 しかし、パラサイト探索中に妨害を受けていたため、その正体がわかった事に安堵した。

 統率された動きやそれを補う組織力や資金力。なるほど、それが超大国の魔法師部隊であるならば納得がいく。

 

「つまり内輪揉めしている場合ではないと言う事だな」

 

「そうなります」

 

「あたしはいいわよ。あの仮面には借りがあるから」

 

 1番の懸念案件だったエリカが妥協した事で本案件は合同調査という事になった。

 パラサイトだけならばそれぞれの陣営だけでなんとかなっただろう。しかし相手にスターズが加わる事を考えるとそれは難しくなる。さすがのエリカでもわかっていた。

 

「では俺達は今夜から動こう。司波と四葉は別で動くのだろう?」

 

「ええ、まぁ」

 

「だろうね……達也、友宏、こっちは僕たちでなんとかしてみるよ」

 

 この場は克人が収めてくれた。こういった場面では彼のような男が役に立つ。ありがたい限りだ。

 

 智宏達はこれで解散した。

 この後は各自で行動となるが、智宏と達也、深雪は雫からの報告を聞く必要があった。

 第一高校に来る前、雫から何かわかりそうという連絡がきていたのだ。

 

 辺りが暗くなった頃、智宏の家に達也と深雪が集合すると、さっそくリビングで報告を聞く準備を始めた。智宏と達也が周囲を片付け、深雪と彩音がお茶を淹れる。

 

「お兄様、智宏兄様。お茶をどうぞ」

 

「ありがとう」

 

「悪いな」

 

 本当は深雪がやらなくてもいいのだが、本人がやると言っているのだからどうしようもない。彩音も申し訳なさそうにしていたが、いつも忙しそうにしているのだから仕事を分担して楽をさせてあげたい。

 

 今後の方針を決めようとした時、四葉家のテレビモニターから着信の通知音が鳴る。

 

「あ、雫じゃない?」

 

「この番号は……はい、確かに北山様です」

 

 彩音はモニターに表示された番号を確認し、それが雫の番号であることを確かめた。

 今日は雫の報告がメインであるため、こちらとしては特に準備するものはない。そのため、彩音は全員がテレビに向き直ったのを確認すると通話ボタンを押す。

 

 四葉家のテレビに映し出されたのは確かに雫だった。雫だったのだが…………。

 

「ぶっ…………!」

 

「…………」

 

「まぁ!」

 

 そこにいたのはネグリジェを身にまとい、少し頬を赤く染めた雫だったのだ。これにはさすがの深雪も頬を染める。達也は無反応だが、紅茶を飲んでいた智宏はうっかりむせてしまう。

 

『皆こんばんわ』

 

「雫!あなたなんて格好をしているの!?」

 

「智宏様は見ちゃダメです」

 

 深雪が慌ててぽわ〜んと挨拶する雫を注意し、彩音は智宏の背後に回り込み優しく両手で目を塞ぐ。背中に押し付けられる柔らかい感触が心地よい。

 

 テレビに映った雫は先程も説明した通りネグリジェを着用している。ただその生地は薄く、下着のラインが見えそうなくらいだった。

 また、一瞬しか確認できなかったが、下着のラインは無かった気がする。もしかすると上は着ていないのではないだろうか。

 

 という事は雫は留学先の家で薄布数枚で過ごしていることになる。ここまで考えがまとまった智宏はふつふつと違和感のようなものを感じるようになった。

 

『彩音さん、ナニシテルノ?』

 

「い、いえ。智宏様には刺激が強すぎますので少々視界を塞いでいるのです……ホントですよ?」

 

 智宏は画面に映る雫がむくれているのがなんとなくわかった。原因が自分と彩音ということもわかったが、これに関しては仕方がないのではないだろうか。

 

『…………ずるい』

 

「し、雫!お願いだから上に何か着てちょうだい!」

 

『え〜……まぁいいけど』

 

 深雪が珍しく声を上げて注意する。雫は渋々といった様子で画面から消え、再び現れた時にはカーディガンを着ていた。ボタンはとめていなかったが、見えてはいけない箇所は覆われていた。

 

 彩音は雫の格好を確認すると智宏から離れ、ようやく智宏の視界に雫が映りこんだ。従者の納得がいった姿を智広は確認する。

 もう少し先程の姿を見なかったな、などとは言えないが、正直残念である事は確かだ。

 

『これでいいかな』

 

「そうね。ありがとう雫」

 

「雫……寝る時はいつもその格好なので?」

 

『そうだよ。でも大丈夫。この部屋でしか着てないし、誰にも見せていないから』

 

 先程の疑問を雫に問う智広。彼の思うところはもっともな所だ。見知らぬ場所で開放的になってしまうことは何気にあったりする。この前の海の時だってそうだ。

 この疑問は深雪も気になっていたが、彼女もお嬢様だ。聞くタイミングが掴めなかった。

 

 雫は今のような格好は寝る時だけだと言う。さらに誰にも見せていないのなら、最悪の事態は避けられた。

 

 ホームステイ先は智広も把握している。というか雫を認識しているため、サテライト・アイでいつでも確認ができる。犯罪臭がするが、この事は誰にも言っていないため、責められはしない。達也は気がついているだろうが…………。

 

 もしもの時は政府の判断を仰ぐ前に魔法を撃ち込む気でいるため、達也も内心ヒヤヒヤしていた。

 

『ほのかや家族にも見せてないんだよ?3人が初めて』

 

「そうね」

 

『智広さんには実際に見せてあげる』

 

「え、いいの?」

 

 雫の提案に智広はノータイムで反応した。

 酔っ払っている影響もあるだろうが、普段の彼女はこんな提案はしないだろう。

 

 帰ってきてこの事を覚えているかはわからないが、智広的には結構嬉しい。

 ただ、それを聞いている者にとっては若干の気恥しさがあり、とっとと会話を元に戻す必要があった。

 

「智広様、今その話は無しでお願いします」

 

 コホン、と彩音が智宏に言う。

 

「ああそうだった。それで何かわかったのか?」

 

『うん。パラサイトの発生原因は余剰なんちゃらっていう……えっと、ブラックホールの実験みたい』

 

「余剰……それは【余剰次元理論に基づくマイクロブラックホール生成・消滅実験】だと思うんだが?」

 

『おー、達也さん凄い。それだ』

 

 雫はわずかなキーワードで言い当てた達也を拍手をして褒める。

 

 この実験は簡単に言えばこうだ。

 ごく小さなブラックホールを人工的に作り出し、そこからエネルギーを取り出す実験だ。

 

 さらに達也はこう付け足す。

 最近魔法研究者は魔法に必要なエネルギーは異次元から供給されているのではないかという説を唱えているという。

 余剰次元理論が正しいというのなら、次元の壁を崩さずにエネルギーを取り出す事をUSNAはやろうとしているのではないだろうか。

 

 ただし、実験は必ず成功するわけではない。何らかの影響で壁に穴が空くと、そこから魔法エネルギーで形成された何かがこちらに侵入する可能性だってある。

 達也が説明した事はあくまで仮説だが、その仮説が通るなら、パラサイトの発生原因の説も通るはずだ。

 

「……でもよくわかったな。情報提供者はよほどの情報通だと見た」

 

『えへへ。もっと褒めて』

 

 ぽわ〜と雫は笑いかける。

 さて、雫の報告内容が以上なのはわかった。しかしここで全く関係ないが別の疑問が浮かぶ。

 

「……ちなみに雫、飲んでるの?」

 

『えー……お酒?……ヒック……飲んでないよ?』

 

(((いや、飲んでるな)))

 

 満場一致。雫はアルコールを摂取したに違いない。帰ってきたら問い詰めなければ。

 

 

 ―都内某所―

 

 

 午前中の話し合いの結果、3チームは協力して動くことになった。

 真由美が後方支援で、エリカと克人が実働部隊、幹比古は遊撃担当だ。

 

 内輪揉めしている場合ではない事くらい真由美もわかっていたが、あの状況では互いに歩み寄ろうとなしなかった。

 そこで達也の仲介という形で3者が手を取り、こうしてパラサイトの探索をしている。今となっては非常にありがたい。

 

 ありがたいのだが、どうも真由美は自分が子供扱いされているような気がしてならない。

 そりゃあ仲直りを中々しない子供みたいな事をしているとは思っていたが、同様に扱われるとどうも立つ瀬がない。

 

 エリカ達を誘導しながら、真由美はディスプレイに表示されたカレンダーを見る。そこにはハートマークがスタンプされた日があった。

 

(見てなさい!達也君には苦〜いチョコを食べさせるんだから!)

 

 不敵な笑みを浮かべる真由美。

 そして同時にこう決意する。

 

(北山さんがいない今がチャンス!智宏君に直接チョコを渡して引き離すわよ!)

 

 次期は冬真っ只中だが、若者にとっては熱いイベント。それは魔法科高校の生徒も例外ではなかった。

 

 

 

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