―第一高校屋上―
「達也……恨むよ」
「ねー」
「何があった?」
屋上にて席に着いた達也を出迎えたのは幹比古の恨み言だった。
隣に座るエリカが撃沈しながら幹比古に同調している事から、さすがの達也も気になってしまう。
「大変なんだよ?3人の間にいるのもさ」
克人は終始ムスッとした表情。
真由美はいつもニコニコ。
エリカは不機嫌。
ずっと間にいた幹比古の精神的負担は計り知れない。結果としてパラサイトは確保できなかったため、全員が疲労でぶっ倒れているわけである。
幹比古は心底疲れていた。
「吉田君。ご飯買ってきましたよ」
そこへ美月が現れる。どうやら撃沈している2人に代わって昼食を買ってきたらしい。
エリカはニンジンツナポテト、幹比古はハムカツサンドだ。
美月の声とビニール袋の音に反応したのはエリカだった。
エリカは昼食を受け取ると黙って食べ始める。腹にエネルギーの元を送って少し元気になったのか、エリカはようやく口を開いた。
「達也君。どうやったらパラサイトを捕まえられるのかな」
「…………俺も苦戦している最中だ」
「だよね〜」
達也の返答は予想していたのか、苦笑したエリカは再びもくもくとサンドイッチに齧り付く。
しかし――
「痛っ!」
「美月?」
美月は突然顔を顰めてメガネを外す。
彼女のメガネは度は入っていない。目を護っているのだ。その状態で美月は「痛い」と言った。自身では耐えきれないほどのオーラを見たのだろう。
もしくはメガネの端から流れ込んだか。ゴーグルではないためどうしても漏れは存在してしまう。
美月の状態をそう判断したのは幹比古だ。
幹比古は咄嗟に呪符で霊的波動をカットする結界を張った。
「これは……魔の気配?」
「まさかパラサイトか?」
達也は謎の気配を察知する美月に確認する。彼女は肯定こそしなかったが、これまでの実績から、エリカは本当の事であると判断した。
「乗り込んでくるなら好都合よ!」
「エリカ。僕も行く」
2人はCADを取りに行こうと立ち上がる。
「私も行きます。この目を役立ててください」
「……わかった。美月は俺と行くぞ。あぁ、メガネは掛けておけ」
4人は残った昼食を腹に押し込むと、ゴミを片付けながらそれぞれの場所へ向かった。
美月が感じたものがパラサイトであるにせよ無いにせよ、学校に侵入者というのはマズイ。
国立魔法大学に直結する端末が設置されている第一高校は、普通の高校と比べてセキュリティが強化されている。
不審者や盗撮・盗聴、魔法による干渉等、厳重な対抗措置が取られていた。
先の横浜事変のように、魔法師を連れ去ろうとする動きがあった事から、特に誘拐には注意している。彼らは日本の希少な資源なのだから。
―第一高校学食―
「アンジェリーナさん!スタイルの保ち方を教えてください!」
リーナは学食で同じクラスの生徒達と昼食を食べていた。その間様々な事を聞かれていたが、女子らしい質問も多かった。
「え、ええと……そうねぇ」
さすが外国の血が流れているだけあり、リーナのスタイルは同年代と比べてもトップクラスを誇っていた。うやらましがるなという方が無理だろう。
第一高校にもスタイルの良い美少女は多数在学している。その秘訣を教わろうとするも、近寄り難い存在だったり、質問する事に罪悪感を覚える存在だったり等、聞にくい場合があった。
しかしリーナはその活発な性格が罪悪感を取っ払ったのか、こうした質問をする女子生徒もいた。
「ワタシは特別な事はやってないわ。ジャンクフードだって好きだし」
「え?本当に?」
「私なんてそれでお腹のお肉が…………!」
「ああでも夜はストレッチとかお肌の手入れはやってるわ。もちろん毎日一定量の運動もかかさずにね」
リーナは軍人として生活してきたため、1度規則正しい生活に慣れればそれを継続する事は可能だ。
まぁ彼女は軍人である前に年頃の女の子。肌の手入れに関しては気を使っているし、スタイルだって太らないように努力しているつもりだ。胸とか尻はその副産物に過ぎない。
それにリーナからすれば日本人の学生だってそこまで太っている人がいるとは思えなかった。むしろ本国の肥満問題の方が大変なのではないだろうか。
まぁ胸の大きさは人それぞれだが、リーナに質問する生徒にも見えない所の悩みがあるのだろう。
「まぁアレね!継続力が大事なのよ!」
「……やっぱりそれか」
「わかってはいたけどね」
そう。何事も継続だ。
勉学・魔法・運動。自らを成長させるには長い時間と努力が必要になってくる。
短期間でそれを成すには何かを犠牲にしなければならない。最悪の場合自らの
昼食を食べ終え、コーヒーを飲んでいる最中も話は続いていた。しかし会話の内容はどこどこの店のパンケーキが美味しいだの、服が可愛いだの、年相応の会話をしている。リーナが望んだ風景がそこにはあった。
しばらく話していると、リーナはふと先日シルヴィアと話した内容を思い出す。
(そう言えばミアがここに訪問する予定になっていたわね。会いに行った方がいいのかしら)
リーナの隣人であり同僚であり友人であるミカエラ・ホンゴウとしばらく会っていなかった。とはいえ任務で数週間離れる事は何度かあったため、そこまで深刻な問題だとは考えていなかった。
相変わらず続けられる質問の嵐に少し疲れてきた時、リーナは違和感の塊とも言える嫌な波動を感じた。
(これは!?)
その波動はこれまで何度も感じてきたパラサイトの物だった。方向から推測するに学校の通用門だろう。
任務とはいえ監視の目が厳しい第一高校でパラサイトを処分するのは難しい。だがこのまま見過ごすわけにはいかない。
それにミカエラの事もリーナは気がかりだった。
(せっかくミアに会えるのに……とりあえず向かわなきゃ!)
リーナは食後のコーヒーを一気に飲み干すと、プレートを持って立ち上がる。
「アンジェリーナさん?」
「ごめんなさい!この後同郷の友人と通話する約束をしているの。先に行くわね」
「そうなの?わかった〜」
「ばいばーい」
クラスメイト達に見送られながらリーナは食堂を後にする。廊下を走るとただでさえ目立つリーナがさらに注目されてしまうため、競歩で目的地に急いだ。
遠くからそれを見ていた智宏は、あとを追うように学食を出る。だが向かう先はリーナとは異なり事務室だ。
事務室には生徒会役員や風紀委員を除いてCADを預けている。無論智宏は風紀委員なのでCADを携帯しているが、戦力確保のため友人達を武装させる必要があった。いざとなれば四葉の名を出す気で。
事務室へ向かう途中、携帯端末に着信が入っている事に気がつく。真由美だ。
「はい」
『あ、四葉君?例の吸血鬼が校内に侵入したわ』
「の、ようですね。先輩はバックアップをお願いします」
『あら知ってたのね。了解よ』
そう言って真由美は通話を切る。残念だが緊急事態なのでのんびり話している暇は無いのだ。
事務室へ到着すると、そこには克人やエリカ、幹比古がいた。どうやら克人もCADを取りに来たらしい。とはいうものの、規則ではまだCADを返却する事ができないらしく、少しだけもめていた。
「え、今返却ですか?」
「緊急事態です。CADの返却を願います」
「しかし規定の時間には…………」
「自分からもお願いします。学校に侵入者です」
「えっ?四葉さんも?」
「「お願いします」」
2人の圧に職員は何も言えず、後ろの収納棚へ引っ込んで行った。第一高校が誇る十師族の次期当主(智宏は候補だが……)の圧力に耐えられる人は限られる。高校の職員ごときでは太刀打ちはできないだろう。
克人は当主代理として既に活動をしているし、智宏も現当主の息子だと納得できるくらいの実力は持っているのだ。
収納棚へ向かう職員の後ろ姿は、言ってしまうならば哀れだった。
後にエリカはそう語る。