四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第98話 ヒトではない侵入者・前編

 

 

 

 現場に到着した智宏達。反対方向からは達也と美月らが走ってくるのが見える。

 一同の視線の先には、CADのメンテナンスや営業で第一高校を訪れていた魔法工学産業のマクシミリアンのトレーラーがあった。

 

 そのトレーラーの前には、なんとリーナとミカエラが立っていた。リーナが笑みを浮かべて近づいていく所を見ると、やはり知り合いと見て間違いないだろう。

 

「あれは・・・アンジェリーナ・クドウ・シールズか」

 

「はい。目の前の彼女が誰かはわかりませんが、マクシミリアンの関係者ではないみたいですね」

 

「いや、あれはパラサイトだ。間違いないよ」

 

 克人の問に智宏が答えると、補足するように幹比古がリーナと話す少女こそがパラサイトであると断言した。

 それにいち早く反応したのはエリカだ。既に武装型デバイスの小太刀の鯉口を切っている。

 

「リーナ……まさかパラサイトとグルだったのね」

 

「違うんじゃないかな。リーナは顔に出やすいからよくわかる。あれは親しい友人と話す顔だ」

 

「え?」

 

「後で説明するから今はパラサイトに集中しよう」

 

「四葉の言う通りだ。吉田、お前は視覚と聴覚を塞げ。俺は機械の方を誤魔化す。四葉と千葉は結界を張った後攻撃だ」

 

「「「了解」」」

 

 智宏、エリカ、幹比古は各々のCADに触れる。そして幹比古は間髪入れずに魔法を発動した。

 

「では行きます!」

 

 幹比古が呪符を投げ、着地すると同時に印を切る。そして克人も魔法を発動し、リーナとミカエラの姿は見えなくなった。

 

 チラリと達也の方を見るとどこかへ連絡していた。おそらく真由美へ電話し、監視カメラをオフにするよう頼んでいるのだろう。

 これで舞台は整った。

 

「エリカ!行くぞ!」

 

「ええ。ミキ、美月の事はアンタが守りなさいよ!」

 

「わかってる!」

 

 智宏とエリカはリーナ達のいる方向へ走り出す。エリカは既に抜刀しているが、智宏は素手で走る。智宏に近接戦闘用の武器は無いが、彼自身の格闘能力は高い。

 

 重力核(グラビティ・コア)も中距離戦に特化した魔法ではない。近接戦闘でもゼロ距離ならばCADを介さずにこの魔法を打ち込める。腕や足を千切る事だって可能だなのだ。

 

 その一方、ミカエラに近づいていたリーナは、彼女が諜報員である事を忘れ、一刻も早くこの場から離れるように言おうとした。

 ところが、一瞬で認識阻害の魔法が取り囲んでいた事に対応する事はできなかった。

 

「え!まさか囲まれた!?」

 

「これは……っ!」

 

 リーナとミカエラは周囲を警戒するが、景色が変わる事はなかった。

 だがそれが油断を産む。

 ミカエラの目の前に白刃が閃き、リーナには受け止めるには強すぎるかかと落としが襲う。

 

 リーナはミカエラを突き飛ばし、智宏の攻撃を躱すと、懐から携帯端末を取り出す。後ろのスライドを移動させるとCADが姿を現す。潜入工作員なら持っていて当たり前の代物だ。

 

「トモヒロ!エリカ!何するの!」

 

「リーナ。邪魔をするなよ」

 

「トモヒロっ!」

 

 こちらに向かい近接戦闘の構えをとる智宏に、リーナは彼を無力化しようと魔法を発動するが、彼女の周りに障壁が現れた。

 この魔法を得意とするのは1人しかいない。

 

「まさかカツト・ジュウモンジ!?」

 

 振り返った先には克人がいた。

 学生ではない。戦士の顔をしている。

 リーナは事前に第一高校の最高戦力である十文字克人の情報に目を通していた。

 

 18歳とは思えない体格、雰囲気、実力はデータを見ただけでも把握できた。しかし、実際に敵として目の前に降臨すると、情報が事前のモノ以上である事を理解する。

 あれは戦略級魔法を使い、スターズを率いる己よりも強い。幾千回実戦を経験し、幾万回の修羅場を駆け抜けてきたリーナよりも。

 

 リーナが止まった隙をついてエリカは鋭い突きをミカエラに繰り出す。通常であれば避けるだろう。しかし、ミカエラは迫り来る刃を手で受け止めたのだ。

 その姿にリーナは驚愕する。

 

「ミア……?なんで…………」

 

 そこへ緊急通信用の端末にメッセージで受信があった。送り主はシルヴィアであり、そこにはこう書いてある。

 

『白仮面の正体はミカエラ・ホンゴウ。彼女もパラサイトである。警戒されたし』

 

 信頼している彼女からの情報だ。疑いようがない。とはいえ、目の前にいるミカエラも友として付き合ってきた。

 一体いつからミカエラはミカエラ(人間)でなくなったのだろう。リーナはショックで動けない。

 

 攻撃を防がれたエリカは一旦距離を取り、再度攻撃を仕掛ける。今度は変則軌道で斬りかかったため、ミカエラは受け止めようとした小太刀が腕をすり抜けて自らの胸に刺さるのを止められなかった。

 

 エリカは智宏や克人のように魔法が得意な訳ではない。

 彼女の専門は専ら剣術。白刃を以て相手を沈めるのが役目。

 魔法ではリーナには勝てないだろう。しかし近接戦闘であれば、この中でトップクラスの実力の持ち主だ。

 

 今のは良い一撃だった。

 ただエリカの表情は硬い。

 エリカはミカエラを蹴り飛ばし、その反動で小太刀を引き抜き智宏の側へ戻る。

 

「智宏君。あれは面倒くさい相手よ」

 

「……みたいだな。傷がもう塞がりやがった」

 

 智宏達の見る前で、ミカエラの傷口は瞬く間に塞がった。その際白い肌が見えるがもちろん恥ずかしがる素振りは見せない。

 

「化け物ね」

 

「まぁまて。達也がいるだろう?」

 

「あれは……そうね、敵からしたら化け物かも」

 

 軽口を言い合うほど余裕があるわけではない。大事なのはペースを崩さない事。いつも通りの自分で戦うことだ。

 とはいえ治癒魔法は厄介としか言いようがない。

 

「次は俺もやる」

 

「そうね。一気に片をつけるわよ」

 

 智宏とエリカが攻撃をしようとミカエラを包囲するように近づく。ミカエラも見たことの無い構えで受けるようだ。

 しかし、ここで乱入者があった。

 

 

 

「それには及ばないわ」

 

 

 

 透き通るような声が響くと同時にブリザードがミカエラを直撃する。

 その場にいた全員が認識した頃には、ミカエラは氷漬けとなり動きを止めた。

 

 このような事ができるのは1人しかいない。

 智宏だけでなく、さすがにリーナでさえもそう思った事だろう。

 

「深雪。来たか」

 

「遅くなりました、お兄様」

 

 深雪はCADを構えながら近づいてくる。

 一切警戒を解いていないのがわかる。

 

「リーナ。説明してもらうわね」

 

 前に彼女と戦った時のようにその顔は険しい。

 

「ああ、それと彼女はもらっていく」

 

「え?ちょっと!それは私達の獲物よ!こっちで調べるの!」

 

 達也がミカエラを拘束しようとするが、彼の前にエリカが立ち塞がる。

 エリカとしては、苦渋の決断で真由美や克人と組んでいる。同盟を破棄される前に一刻もミカエラを分析し、情報を手に入れたかった。

 

 いくら達也と言えども簡単には渡せない。

 第2ラウンドに突入か?と誰もが感じたが、意外にも達也は1歩後ろに下がった。

 

「わかった。そっちで分析するといい」

 

「え?いいの?」

 

「エリカが言ったんだろう?それに、リーナはともかく後ろの奴には絶対渡せない」

 

 達也の言葉にエリカは後ろを向くと、智宏が誤魔化すように明後日の方を向いて「晴れないなぁ」と呟いていた。

 下手な誤魔化しはわざとだろうが、エリカは達也の意図も読み取れた。

 

「……智宏君。彼女をどうするつもりだったの?」

 

「そりゃウチの研究所に。あの再生能力は注目に値する。貴重な研究材料になるとは思わない?」

 

 智宏は別に変なこと言ったわけでは無い。横浜事変の際に、達也がいなければこちらの死者は増える一方だった。

 ただ、このパラサイトの再生能力の一端でも掴めれば、治りの早い治癒魔法ができるのでは?と考えたのだ。

 

 とは言え、四葉の研究所が世間からどういった目で見られているのか。それを智宏はあまり理解していない。

 エリカや克人の目はさらに険しくなる。

 

「待って!ミアは……彼女は私の!」

 

「私の……なんだい?ここは日本だ。少なくとも日本の法律に従ってもらう。彼女は外交官でもないだろう?」

 

「…………そうね」

 

「それに外だとパラサイトを消している第3勢力がいると聞く。それが外国人であれば他国で了承無しに軍事活動を行っている事になる。外交問題じゃないか」

 

 智宏は少しずつリーナの逃げ場を無くしていく。下手に彼女を介入させないため、そしてリーナを守るためでもあった。

 これ以上リーナに活動されると、庇いきれなくなる。第一高校にもいられなくなってしまう。

 

「それはともかく、智宏君。彼女を渡してくれないかしら」

 

 エリカは智宏に強い声色で話す。

 

「まぁかまわないよ?パラサイトは他にもいそうだし、そのなんだ……リーナの知り合いを処分するのは気が引ける」

 

 智宏から発せられた「処分」という言葉にリーナはピクリと反応するが、どのみちミカエラの結末は決まっている。リーナが殺すか、それ以外が殺すかだ。

 

 ミカエラは自分の友だ。他人に消されるくらいなら、せめて自分の手で…………。

 

 そう思ったが、現状それは難しいだろう。

 

「わかったわ。ありがと」

 

「では俺が手配しよう」

 

 エリカは小太刀を収める事は無かったが、その構えを解く。克人はリーナの監視を智宏に任せて家の者に連絡を入れた。

 

 これでこの件は一件落着……と思いたかったが、ミカエラを監視していた幹比古は凍りついているはずの彼女の様子がおかしい事に気がついた。

 完全に油断していたために焦りが生まれる。

 

「危ない!」

 

 幹比古の警告は智宏達に警戒態勢を敷かせるのに十分だった。

 まず克人が障壁をミカエラの周りに展開する。

 そして智宏がリーナを、達也が美月、幹比古がエリカを守るように防御魔法を発動した。

 

 するとミカエラの方からいくつもの電撃が放たれ、智宏達を襲う。しかし威力は足りず克人の障壁に阻まれた。

 ミカエラは凍ったまま動かない。智宏は深雪に再度凍らせるように頼もうとした瞬間、ミカエラの中心から急激な熱源反応を探知した。

 

「これは……しまった!自爆するぞ!」

 

 智宏はそう叫ぶ。

 いち早く反応したのは達也で、深雪を抱き抱え地面に伏せる。

 克人はエリカを引き寄せ、幹比古の前に立ち3人を守るように魔法を発動。自らも防御姿勢をとった。

 

 リーナも身体を丸くしようとしたが、それよりも早く智宏が彼女を抱き抱え、ミカエラの方向に背中を向ける。

 目を丸くして智宏を見たリーナ。敵である自分を守ろうとした事に驚いたのだ。

 

 一体なぜと聞こうとするが、それはミカエラによって遮られる。

 深雪の氷を突き破るほどの炎がミカエラから発火し、爆風を智宏達を襲った。

 

 煙が晴れるとミカエラの姿はそこには無く、アスファルトに灰のような白い粉が付いていた。

 

「跡形もなく消し飛ぶなんて……リーナ、大丈夫か?」

 

 智宏は腕の中にいるリーナに話しかける。

 

「え、ええ。ありがと……でもなんで私を?」

 

 リーナは先程の智宏の行動を含め、なぜと智宏に訪ねた。

 

「色々あるけどリーナの立場を考えなければ良い友人だって思ってる。何よりレディを守るのは当然じゃない?」

 

「そ、そう……ありがと」

 

 リーナからすれば、自分は守ってもらう価値等無い。むしろ怪しまれて一緒に攻撃されそうな立場なのだ。というか祖国ならそうするだろう。

 しかし智宏の回答にリーナは頬を赤く染める。軍隊生活ではあるが、さすがに女性として扱ってもらっている。

 とはいえ年相応の少女としては見られていないのだ。こんな事を言う資格があるかはわからないが、智宏が自分を16際の少女として見てくれた事は、少し嬉しく感じた。

 

 本人らが意図しないラブコメ展開が繰り広げられる中、達也は術者を探すが確認できなかった。

 ただし、代わりに視界に映るのは人間の形をしていない情報体。嫌な気配も空中に浮くプシオンの塊から放たれていたのだった。

 

 

 

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