四葉を継ぐ者   作:ムイト

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2026.1.8 修正


第99話 ヒトではない侵入者・後編

 

 

 

「あれは何がしたいんだ?」

 

 

 幹比古の呟きはこの場にいる全員が感じている事だ。

 既にパラサイトの攻撃は通用しない事は明らかだ。通常なら逃走を図るものなのだが……。

 

「司波、どう思う」

 

「俺達をここへ留めたいようですね。まぁこちらとしても逃がす気はないですが」

 

「ただ存在は把握できても場所はわかりません。全方位攻撃をするわけにはいかないでしょう?」

 

 克人、達也、智宏は3方向の視野を補い、パラサイトの現在位置を探す。

 ただ、エレメンタル・サイトやサテライト・アイをもってしても存在しか掴む事が出来ない。

 

 それにたとえ場所が判明しても、どう攻撃して良いのかがわからない。ミカエラの事を見るに、殺す事は難しいのではないだろうか。

 

「リーナは何かわかる?」

 

「あれがパラサイトっていうのは知ってるのね?」

 

「ああ。ロンドン会議の定義だろう?知ってるさ」

 

 リーナが確認のために聞くと達也が答える。あっさりとした回答に、一瞬リーナは固まってしまった。

 

「ねぇ、日本の高校生って皆この事知ってるの?日本ではこれが常識なの?」

 

「安心しろ。達也はちょっと特殊なだけだ」

 

 USNAにいた頃は同い年の人はこのような会話をしていなかった。この雑誌の服がどうだの、どこぞ俳優とアイドルがホテルから出てきただの、年相応の会話しかしていない。

 

 調子が崩れそうになるリーナだったが、智宏の視線に促され続きを話す。

 

「パラサイトは人間に取り付いて変質させてしまう。さっきの彼女のように。もちろん無差別って訳でもないわ。適合性があるらしいのよ」

 

「というと俺達の誰かに取り憑こうとしているんだな」

 

「そう。多分対抗手段が無い人が狙われやすいんだけど…………」

 

「となると…あ」

 

 リーナと智宏は視線をある人物の方へ向ける。達也と克人もそれに習う。

 視線の先にはエリカがいた。

 

「え?あたし?」

 

 数名から注目されたエリカはきょとんと目を丸くするが、事の重大さに気が付き幹比古の近くへ走る。

 

 危険な状況ではあるが、このまま結界を解除した方が危険だ。

 パラサイトが取り憑く相手を見つけられなかった場合、結界の外へ逃げ出して別の宿主を探しに行く可能性がある。いや、むしろそうするだろう。

 

 この状況をどう打開するか。

 そう考えていたのは智宏や達也だけではなかった。

 

「吉田君」

 

 幹比古の後ろから美月が彼の服を掴む。

 

「結界を解いてください。私がパラサイトを見つけます」

 

「え!?ダメだよ!刺激が強すぎる。失明する可能性だってあるんだよ?」

 

 引っ込み思案な彼女とは思えない提案だったが、強い意志を持って幹比古をジッと見つめる。

 至近距離で見つめられるなど、普段なら諸手を挙げて喜んだだろうが、今はそれどころではない。幹比古は美月を思いとどまらせようとした。

 

「エリカちゃんが狙われてるんです。普段私が助けて貰っているんだから、こういう時くらいは私だって……!」

 

 だが美月は折れなかった。

 

「それに魔法師である事を選んだ以上ある程度は覚悟の上です」

 

 美月は魔法を使う事ができない一般的な家庭に生まれた。先祖返り的に見鬼の能力を保有しているが、身の回りに魔法についての心構えを教えてくれる人はいなかったはずだ。

 言い方はアレだが、魔法とは縁のない生活を送る事ができた彼女がそこまでリスクを背負う必要もないのだ。

 

 名門魔法師の一族である幹比古は、そういった事情もある程度わかっていた。

 しかし、事態をこれ以上悪化させる事もできない。道は1つしかなかった。

 

「わかった。じゃあこれを首に掛けて」

 

 幹比古はポケットからスカーフのような布を取り出して美月に渡す。これは吉田家の魔法防具【比礼】であり、神道の宝具を参考に作られた布だ。

 

「もし危険だと思ったらそれで目を覆うんだ。メガネより効果があるよ」

 

「はい」

 

「でも約束してほしい。決して無理はしない事、何かあったら僕の指示に従う事」

 

「約束します」

 

 幹比古と美月は羞恥心を忘れて至近距離で話す。これを見させられているエリカは少しイラついて2人を小突く。美月は少しだけ顔を赤くするが、直ぐに真剣な表情を取り戻す。

 

 美月の準備が完了したのを確認した幹比古は、彼女に聞こえるように魔法を解除するカウントを口に出す。

 

 結界が解除されると、美月に混沌の波が襲いかかってきた。

 全身に激痛が走り、思わず膝を付きそうになる。だがエリカのために目を背ける事はしなかった。

 

 普段の彼女に見ることができない真剣な眼差しが周囲を見回す。

 すると一際目出す異物を発見した。それは触手のようなモノから電撃を放ち、克人を攻撃するが簡単に防がれる。

 間違いない。あれがパラサイトだ。

 

 美月が見つめる中で、パラサイトは全員に攻撃をしかけるが、やはり命中させる事はできていない。

 だが、それも今だけだ。無尽蔵な力の前にはこちらがガス欠になってしまう。

 

「あそこです!」

 

 美月は珍しく大きな声で警戒を促す。

 

「私からあっちに4m、上に3m、右に50cm!」

 

 全員が美月の言った方向に目を向ける。もちろん何かがあるわけではない。しかし即座に動けるように体制を整える。

 

 幹比古はCADにサイオンを注ぎ込み、魔法を発動。

 対妖魔用術式【迦楼羅炎】。情報体に外的なダメージを与える事を目的とした炎の魔法がパラサイトへ向かう。

 魔法は見事パラサイトに命中し、ダメージを与えた。それにより、智宏と達也はパラサイトを認識できるようになる。

 

「「視えた!」」

 

 美月ほどはっきりとは見えていないが、先程よりは認識度は高い。

 智宏はこれでなんとかなると判断したが、それと同時に疑問が浮かび上がる。パラサイトが意志を持つならば、自分の位置を見つけた存在を許しておけるだろうか、と。

 

「しまった……幹比古!美月を守れ!さっきの位置から1m上!来るぞ!」

 

 智宏の警告に幹比古はパラサイトと美月の間に立ち彼女を庇う。エリカも反射的に美月を抱き寄せ幹比古に背中を向けた。

 念の為、美月は身につけていた布を目に当てて防御をする。

 

 幹比古は防御魔法を再び展開し接近に備える。

 パラサイトから糸のような物が伸ばされる。幹比古の視界に映るのは電撃だったが、それに何か嫌な物がまとわりついているのは確認できた。

 糸が向かったのは結界の穴。パラサイトは瞬時に穴を見つけ、そこへ糸を伸ばしていたのだ。また、それに対応するために幹比古は、速度が早く、魔的な干渉を遮断する【切り祓い】という魔法を発動した。

 

 剣のようなサイオンが糸を切るが、第2第3の糸が迫る。幹比古は同じように切り祓いを行使し美月を守ろうとした。

 だが、今度はサイオンの塊……いや、烈風がパラサイトを吹き飛ばした。

 

「……達也……さん?」

 

 美月は自らを襲う気持ちの悪い波動を一掃してくれたサイオン、それを放った達也に視線を向ける。

 

 今達也が術式解体を命中させられたのは、美月の影響が大きい。パラサイトが自身の位置を見つけられてしまったため、若干の焦りのようなものがあったのだろう。パラサイトの位置が少しずつ見えるようになってきたのだ。

 美月と幹比古を襲う糸、そしてそれを操るパラサイトの位置が見えると、直ちに術式解体を発動していた。

 

 それと同時に智宏達を襲う電撃が止む。

 美月は迫り来る糸やパラサイトか消えた事により安心したのか、ペタリと地面に座り込む。幹比古は慌てて美月の体調を確認した。

 

「柴田さん!?」

 

「大丈夫ですよ、吉田君。この布のおかげで助かりました」

 

「よかった…………そうだ、この騒動が収まるまではそれは持っておいてくれないかい?いつも僕達がいるとは限らないから」

 

 幹比古は貸した布を返そうとした美月の手を押し戻す。パラサイトの攻撃はなんとか避けられた。だが、プライベートな所では彼女を守護する事は不可能。

 なので少しでも助けになるならば、と幹比古は比礼を美月に預ける事にした。

 

 幹比古の意図を理解したのか、美月はニッコリ笑って比礼を首に巻き、先端は目立たないように制服の中へとしまった。その際、比礼が彼女の柔肌にダイレクトに触れていた事に幹比古は気が付いていたが、あえて言わないでおいた。

 

「パラサイト……いない……かな?」

 

「ああ。逃げたみたいだ」

 

 智宏は達也にパラサイトの位置の確認をとる。やはり先程の達也の攻撃でどこかへ飛んでいってしまったらしい。

 

 これだけの実力者がいても撃退するのが精一杯となると、今後はかなり危うくなる。一般の生徒が襲われると太刀打ちできない可能性もある。

 己の未熟さを恥じる一同だったが、その空気を払うかのように克人がパンッと手を叩く。

 

「よし、ここは俺に、情報処理は七草に任せてお前らは戻れ」

 

「「「はい」」」

 

 これで戦いは一旦幕を閉じる。

 克人に後のことを任せて教室へ戻ろうとした智広達だが、それを遮る声が響く。

 

「待って!リーナ、貴女は何者なの?」

 

 それはエリカだ。

 エリカは先程ミカエラ……もといパラサイトと会話していたリーナの事を怪しんでいる。むしろ留学生として訪れてきてからパラサイトの被害を感じられるようになっていたのだ。

 

 リーナはバツが悪そうに視線を逸らすが、エリカには通用しない。小太刀を抜刀できるような体勢をとるが、それは目の前に割り込んできた智宏によって遮られる。

 

「智宏君?」

 

「エリカ、この場では止めろ。確かにリーナは怪しいだろう……でもアレがパラサイトだとわかった時のリーナの表情に偽りは無いんじゃないか?」

 

 その通り。エリカはリーナがシリウス少佐であるとは分かっていない。もしそうだとしても、あの時の仮面姿の赤髪はパラサイトを殺そうとしていた。

 それが今回はどうだ。知り合いがパラサイトになっていた事に気が付かず、攻撃してきた事には動揺していたではないか。

 

 そうなると、少なくともミカエラの件に関しては、彼女は関与してない。ここで争ってもなんの意味も無いのだ。

 

「リーナ。俺はパラサイトを学校に引き入れたなんて思っていない。君はそういう人じゃないだろう?」

 

「ええ、そう思ってくれるなら嬉しいわ(……トモヒロ、今更なんのつもり?)」

 

「ならせめて彼女との関係を教えてくれない?」

 

「彼女は……私の友達よ。昔USNAに来た時に知り合ったの」

 

 リーナは智宏の意図をなんとなく察する。自分の疑いを晴らそうとしているのだろう。もちろん完全には無理だろうが、少なくとも第一高校に害をなそうとした訳ではないという事を説明しなければならない。

 

「友人なら驚きはするな」

 

「そうよ。久しぶりに会ったのに分からなかった……もう行っていいかしら?」

 

「ああ。また明日」

 

 そしてリーナは消えてゆく。ただあの様子だと午後の授業は受けられまい。早退だろう。

 智宏達は戦闘態勢を解除する。パラサイトの気配を一切感じられなくなったからだ。

 勝利……ではなく辛勝。口には出さなかったが誰もがわかっていた。

 

 警戒を解かれた第一高校であったが、パラサイトは依然として構内にいた。しかし先程のような電撃を放つわけでもなく、フラフラと空中を漂う。

 どこか休む場所はないか。できれば寄生が容易でプシオンが集まっている場所が望ましい。

 そんな都合の良い場所があるのか……そう思うだろう。

 

 だが、パラサイトは人気の無い倉庫で人形(それ)を発見した。

 

 




皆様、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

ここで長々と書くのもアレなので、次の第100話で色々お話しようと思います。
それでは!
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