「これより第二試合を行います、まずはボッチャー、シエラ組の入場です!」
大歓声の中、私は黒のターバンに凶器シューズ、白のステテコ風ロングパンツといういつもの出で立ちでリングへと続く花道をのっしのっしと歩いて行く。
私のリングネームはボッチャー・ザ・ビースト、暗黒大陸からやって来た食人族という設定だ。
後に続くのはパートナーを務める「狂乱の女豹」ことパンサークロー・シエラ。
その正体は黒のウイッグとアイマスクで変装したシェーレ姉さんだ。
シェーレ姉さんが身に纏っている薄紫色のレオタードは超ハイレグなうえ、胸元と腋が大胆に開いていて谷間と横乳がバッチリ見える。
観客の野郎どもは大喜びだ。
なんでこんなことになっているのかを読者の皆様に説明するため、時計の針を一ヶ月ほど戻すとしよう。
金パイさんとの無制限一本勝負に勝利した私は面倒事を避けるためその日のうちに帝都をオサラバし、帝都から東京-博多間ほど離れたとある田舎町にやって来た。
縁日の屋台で買い食いし、大道芸を見物しとのんびりまったりしていると、若い女の声が聞こえてくる。
「あ~れ~」
嫌な予感がする、猛烈に嫌な予感がする。
人垣がさっと二つに割れ、男二人に追われて真っ直ぐこちらに駆けてきたメガネさんが私の目の前で(何も無いのに)すっ転んだ。
同時に追いかける男が繰り出した長さ五尺の樫の木の棒が、私の顔面目がけて誤爆コースを突き進んでくる。
こういう時は頭で考えるよりも先に筋肉が日々の修行で覚え込んだ動きをオートで実行してしまう。
気がつけば女を追っていた男二人のうちの一人を張り倒し、もう一人にソバットをぶち込んでいた。
「何だコノヤロー!」
「やるのかコノヤロー!」
意外と鍛えているのかすぐ立ち上がってくる二人。
おう、どこかで見た顔だと思ったら永源遙に渕正信じゃないか(もちろん他人の空似なのだがそれにしてもよく似ている)。
「やいこら、おれっちはお上の御用を預かるデトロ組のモンだぞ!」
永源モドキが十手をかざす。
説明しよう、広大な領土を抱える帝国だが全国津々浦々に官憲を配置するだけの人も金も無い。
そこでさほど重要ではない町や村は昔からその一帯を仕切っている地廻り(いわゆるヤクザだ)に警察権を与え、治安維持にあたらせているのだ。
そして渕モドキが凄む。
「おうサンピン、大人しくそのスケをこっちに寄越しな」
もちろん私の返しはこうだ。
「そんなことはいいから、お前は早く嫁さん見つけなさい」
途端に奇声を発しながら掴みかかってきたのでヘッドバットで黙らせる。
何かトラウマでも抉ったのだろうか?
「てめコノヤローッ!」
永源モドキが十手で打ちかかってくるのを敢えて額で受けると当然のごとく流血!
血を見てエキサイトした永源モドキが更に打つ。
二発、三発、四発、五発、そろそろよかろう。
十手を持った手を捕まえてノド元目がけて地獄突き。
「ゲゲボッ!」
倒れた背中に膝を乗せ、動きを封じておいて蚤の市で買ってシューズに仕込んでおいた伝家の宝刀を引っ張り出す。
『あーっ、フォークーッ!満を持して、フォークを出したぁ!』
炸裂する倉持節。
右腕にフォークを突き立てられた永源モドキが豚のような悲鳴をあげる。
いいリアクションだ、1977年12月15日の蔵前国技館のテリー・ファンクに勝るとも劣らない。
そしてもがく永源モドキの頭を抱え、耳元で囁く。
「血のしたたる…ステーキ!」
わざと腕の力を緩めると火事場のクソ力を発揮した永源モドキは私を振りほどき、マグロめいて倒れ伏す渕モドキを回収して素晴らしい速度で逃げていく。
鍛えてるなあ。
「すいません、すっかりご迷惑を…」
よほど消耗しているのか、へたり込んだまま眼鏡の女性が謝罪してくる。
「まあこれも成り行きというやつで…ッ!?」
女性の顔を間近で見た途端、私のニューロンが水メタノール噴射でブーストされた倒立V型12気筒エンジンめいて暴れ出す。
それは私が皇拳寺にあずけられる半年前のこと。
仲の良い年上の女の子が家族ともども帝都に引っ越すことになった。
ある晴れた昼下がり、市場-じゃなかった、帝都へ続く道をゴトゴト進んでいく馬車の上で、いつまでも手を振っていた少女の美しく成長した姿と、目の前の眼鏡さんの姿がピタリと重なった。
「もしかしてシェーレ姉さん!?」
「その額のキズは…ゴジク君!?」
初恋の女性との再会であった。
ここまで読んだ貴方は「ちょっと待ってほしい、シェーレは帝都の下町育ちなのでは?」と言うだろう。
貴方は正しい。
だが二次創作の原作キャラが設定改変されないといつから錯覚していた?
私はシェーレ姉さんをこの町での私の宿である<十二人の浮かれる男亭>へと案内した。
一階の食堂でスパイシーな豆料理と具はベーコンの脂身だけのコンソメスープの食事をとりながら、離ればなれになってからの互いの身の上話をする。
両親と帝都に出てきてから色々あって(この辺の事情は原作と同じなので割愛する)天涯孤独の身となったシェーレ姉さんは、とにかく食い扶持を稼がなくてはいけないというので口入れ屋に家政婦の仕事を斡旋してもらった。
そして勤め先として紹介された辺境の砦に行ってみると、そこでは同じように家政婦という名目で集められた女たちが性交奴隷にされていた(なんという帝国の慰安婦)。
シェーレ姉さんもさっそく砦の司令官に手込めにされそうになったが、たまたま手の届くところにあったナイフで司令官をサクっと殺し、砦の地下牢に監禁されていた反乱軍の捕虜を解放し(牢番は裸で油断させてサクっと殺した)、暴徒と化した捕虜が暴れている間に女たちを助け出し、炎上する砦から脱出したのはいいものの、行く当てもなく路銀もなく、空きっ腹を抱えて町までやってきたところで永源モドキと渕モドキに絡まれたのだという。
そういえば早熟なシェーレ姉さん(12歳でブラをしていた)は村中の悪ガキから性的な目で見られていたけど、セクハラに対する反撃は鬼容赦無かったなあと過ぎ去りし日々の甘酸っぱくもバイオレンスな思い出に浸っていると、背後からこんな会話が聞こえてくる。
「こりゃ親分さん、今日はどんな御用で?」
「なに、あっちのテーブルにいる別嬪さんとデカイ兄ちゃんにちょっとな」
そして私の真向かいに腰を下ろす初老の男。
ああ、貴方は「アラビアの怪人」ザ・シーク(もちろん他人の空似だが以下略)。
「プロレススーパースター列伝」準拠なら守銭奴の卑劣漢確定なのだが、デトロ組のデトロ親分は実際イイ人だった。
シェーレ姉さんを追わせていたのは捕まえてナニかしようとしたわけではなく、親分直々にお礼を言いたかったのだそうだ。
シェーレ姉さんが砦から逃がした女の子の一人が、親分の母親の実家の娘さんだったのである。
そんなわけで組事務所に案内された私とシェーレ姉さんを囲んでの大宴会が始まった。
「てめえら女の誘い方がヘタクソ過ぎるんだよ」と永源モドキと渕モドキが親分の凶器攻撃で血達磨にされたのもいい座興だ。
そして手下の教育的指導を終えた親分は私の隣に腰を下ろす。
「ウチのエイゲンとフチを軽くあしらうとは、兄さん相当のもんだねえ」
本当にそういう名前だったんだ。
「ところでおれっちは強い男が大好きでねえ」
やめて、僧帽筋をスリスリするのやめて。
「どうだい、しばらくウチに草鞋を脱いでみちゃあ」
あ、スカウトですかそうですか。
こうしてデトロ組の食客となった私は賭場の用心棒をしたり街道に出没する危険種を退治したり仕事をクビになっては落ち込むシェーレ姉さんをケアしたりと充実した毎日を送っていた。
そんなある日、デトロ親分に呼び出された私が組事務所に顔を出すと、背中にヒトコブラクダの絵柄の入った半纏を着てペルシャ絨毯の上に胡座をかき、水パイプをふかしていた親分は開口一番こう言った。
「おめえさん、プロレスやってみねえかい?」
聞けばスーパーヴァンダミング一座という全身の毛穴まで木曜洋画な格闘技団体が町に来て興業を打つことになったのだが、挨拶に来た代表に実はウチにこういう強い奴がいるという話をしたところ、面白いからリングに上げようととんとん拍子で話が纏まったのだそうだ。
それもシェーレ姉さんとタッグで。
これは私にも責任がある。
護身術の一つも憶えておいたほうがいいと皇拳寺拳法の基本の型を教えたところ、あっという間に組の若い衆を10人まとめて秒殺できる腕前になってしまったのだ。
なんで炊事洗濯のスキルは壊滅的なのに戦闘センスだけずば抜けているのかと頭を捻っていると、マシンディケイダーで通りすがった英国紳士(全裸に山高帽とブラックタイ、そして亀甲縛りだった)が言った。
「逆に考えるんだ、パラメーターを戦闘技能に全振りしているから他がポンコツなんだと、いいね」
アッハイ。
そして彼らはやって来た。
町はずれの空き地に巨大なテントが張られ、筋肉フィーバーな野郎どもがブシドーブシドーサムラーイサムラーイと雄叫びをあげながら瞬く間にリングと観客席を組み上げる。
かくして私とシェーレ姉さんのプロレスデビューの舞台は整ったのである。
「続きまして、デビルベアーズの入場です!」
私とシェーレ姉さんはリング上で対戦相手の入場を待っていた。
試合は当然のごとく賭け試合であり、観客席上段には掛け率を張り出したボードが置かれている。
私達の試合のオッズはどうなっているかとボードに目をやる。
33-4
「なんでや!阪神関係無いやろ!」
「ゴジク君?」
「いやその、つい条件反射で…」
そんなgdgdを他所に対戦相手が入場してくる。
デビルベアーズの名にふさわしく頭からクマの毛皮を被った二人組は全く同じ身長、全く同じ体格、全く同じ歩幅。
クローンヤクザめいている!
リングインして毛皮を脱ぐと、露わになった顔は往年の怪力レスラー、イワン・コロフ(もちろん以下略)×2。
しかし一人でも濃い顔が二つ並んだら1+1で200だな。
「10倍だぞ10倍!」
「シェーレ姉さん?」
「すいません、言わなきゃいけない気がして…」
そして試合が開始され、まずはシェーレ姉さんとデビルベアー2号が激突する。
コロフ-じゃなかった、デビルベアー2号の怪力に一方的に翻弄されるシェーレ姉さん。
ブックとはいえ屈強な男にいたぶられるシェーレ姉さんを見るのは興奮する-もとい、股ぐらがいきり立つ-じゃなくって、胸が痛む。
悶々と見守る間にロープに飛ばされて戻ってきたシェーレ姉さんがベアハッグに捕えられる。
逞しい腕が柳腰を締め上げ、豊満な胸に髭面が押しつけられる。
ちょっと待て、私だってやりたくてもガマンしているシェーレ姉さんに何をするだァーッ!
ゆ゛る゛ざん゛!
ノータッチでリングイン。
デビルベアー1号もリングイン。
四者入り乱れての乱戦のさなか、バイオ粒子反応-じゃなかった、私の殺気センサーが反応した。
迷わずシェーレ姉さんを抱え上げ(なんて柔らかいんだ!)、「客席のアフロ!」と叫んで投げ飛ばす。
私の意図を察したシェーレ姉さんは華麗なフォームで宙を舞い、リングサイドで観戦していたデトロ親分の背後から首の後ろの急所に針を打ち込もうとしていたアフロにフライングクロスチョップ。
BGMはもちろんジグソーが唄う「スカイハイ」だ。
んでもって数日後-
「ドーモ、メラルド・オールベルグです」
ダンディーな初老の執事とデカいメイドを従えてやって来たのは老舗の暗殺屋さんの頭目だった。
相手が仁義を切ってきた以上こちらも礼を尽くさなければならないのが渡世の掟、奥座敷でデトロ親分と対峙したメラ様は美しいオジギのあと、「まずはこれを」と菓子折を差し出す。
のし紙に「粗悪品」と書かれていたのはタチの悪いジョークなのかそれとも素で間違えたのか。
「実はこちらの親分さんの暗殺を請け負ったのですが依頼内容にウソがあったことが分かりまして」
それで依頼はキャンセルということらしい。
ちなみに「オールベルグを謀った者には死あるのみ」だそうで、依頼人はメラ様直々にケツ穴に虫をねじ込んで内側から食い殺させたそうな。
コワイ!
「それで今日はそちらに預けてあるウチの子を引き取りに参りましたの」
成程、オールベルグの人間ならアフロの遊び人が一瞬で飴ちゃん咥えた美少女に変わる芸当も納得だ。
ここまで読んだ貴方は「ちょっと待ってほしい、チェルシーは革命軍の人間でオールベルグとは一時的な協力関係のはずでは?」と言うだろう。
貴方は正しい。
だがこのSSのチェルシーはメラ様に喰われてオールベルグの一員になったチェルシーなのだ。
駿河問いにかけられたうえ擽り責めで穴という穴から各種体液を垂れ流して失神したチェルシーを受け取ったメラ様は帰り際にシェーレ姉さんの手を握って言った。
「ウチは綺麗なお姉さんもウエルカムよ、(性的に)楽しい職場であることは保証するわ」
「すいません、せっかくのお誘いですが私は今の生活が楽しいんです」
「あら残念、でもそういうの嫌いじゃないわ」
泉京水が出てくるかと身構えてしまったのは秘密だ。
こうして変身忍者-もとい、変身殺し屋チェルシー(気絶中)を戸板に載せてメラ様一行は去って行った。
なお、その夜のメラ様はシェーレ姉さんをスカウトできなかった鬱憤を晴らすかのようにチェルシー相手に猛り狂ったそうだが、私がその話を聞いたのはずっと後のことだ。
そしてスーパーヴァンダミング一座が興業を終ると同時に、私も町を出ることにした。
もともとある程度稼いだら旅を再開する予定だったし、気が変わったメラ様がいつシェーレ姉さんをNTRに来るか分かったものではないし。
デトロ親分のところにお別れの挨拶に行くと、なんと餞別に帝具をくれた。
何故か形も大きさもまんまフォークというその帝具の名前は<生命賛歌・ナカツガワフォークジャンボリー>。
その能力は土人形に命を与え主人に絶対忠実な下僕を作り出すというものなのだが、主人のライフエナジーを消費して活動するため数を作ると主人の方が衰弱死してしまう。
さらに主人より力の劣る下僕しか作れないというけっこう微妙な帝具である。
まあ私が欲しいのは雑用係なので強さはそこそこでいいし、数も二体あれば充分だ。
さっそく海水浴場の砂遊びのように土を盛って寝そべった人型を二体作り、そこに額から血を垂らす(私の額はちょっと擦っただけで流血するのだ)。
土人形に血が染みたところで帝具を突き立て呪文を唱える。
「マカラカシトモマカラ、カシトモマラ、マラハ!」
そして生まれたスモトリ体型のクロンボ二体に髑髏を模したお揃いのフェイスペイントを施し、ちょっとだけ大きい方をキマラ1号、小さい方をキマラ2号と命名する。
こうして新たな旅の仲間にキマラ1号・2号を加え、シェーレ姉さんを乗せた馬を牽いた私はゴダイゴの「モンキーマジック」を唄いながら西へと向かうのだった(全員八戒とか言うな)。