実況パワフルプロ野球if 天空の司令塔   作:中矢

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かつてのチームメイト

 虹谷くん達が去った後、俺もそれにならうように教室を出る。

 何かと騒いでいた為、受験生達に変な注目を浴びてしまった。 幸いなことに試験官は退室していたので、注意を受けるようなことは無かったが。

 

 教室を出ると、すでに一人の待ち人がいた。

 

「お疲れ、蓮太」

 

「新太の方こそ。 その様子じゃ問題なかったみたいだね」

 

「まぁな。 俺の場合、鬼門は面接だ」

 

 新太は自嘲気味にそう言う。 この無表情が、面接官にどうとられるか。 それが心配らしい。

 

「しっかり受け答えが出来ればきっと大丈夫だよ」

 

「そうだな」

 

 受け答えの面では、新太は全く問題ないだろう。

 雰囲気に気圧されるタイプでもないし、矢部くんと違いチャンスには滅法強い打者だった。

 

「それより……さっきの様子だと、蓮太も知ってるみたいだな」

 

「あぁ、虹谷くんのこと? ん? 『も』ってどういうこと?」

 

「俺が試験を受けた一年三組にもいたんだよ。 青空レインボーズの二番打者がな」

 

「二番打者……東雲(しののめ)くんも天空を受験したんだね」

 

 東雲翔也(しののめしょうや)くん――虹谷くんと同じチームだった人だ。

 ポジションはショート。 広角に打ち分けるバッティングと、広い守備範囲、更には足も早いという三拍子揃った選手である。

 

「みたいだな。 この様子だと、矢部の方も――」

 

「大変でやんす! 大変でやんす! 大変でやんす!」

 

 新太の言葉を遮るように廊下に響き渡る騒がしい声と、バタバタとした足音。

 

「うるさいぞ、矢部」

 

「矢部くん、廊下はもう少し静かにしないと。 受験結果に響くかもしれないよ?」

 

「やんす……でもそれどころじゃないのでやんす!」

 

 俺と新太のもとに一目散に駆けてきた矢部くんは、一瞬反省の色を見せたが、興奮冷めやらぬと言った様子で声を上げる。

 

「か、神成(かみなり)くんがいたでやんす!」

 

「な? 言った通りだろ?」

 

「みたいだね」

 

 神成尊(かみなりたける)くん――こちらも同じく、虹谷くんと同じチームに所属していた。

 ポジションはキャッチャーで四番打者。 チャンスに強いパワーヒッターで、ダイナミックなフォームから繰り出されるシャープなスイングは、打球に鋭い回転を与えてノビを生み出していた。 

 捕手としての才能も申し分なく、虹谷くんや東雲くんと並ぶ、青空レインボーズの主力選手であった。

 

「二人とも知ってたんでやんすか?」

 

 俺達の反応を見た矢部くんは、意外そうに問いかけてきた。

 

「知ってるも何も、一年三組の教室にも東雲がいた」

 

「こっちには、虹谷くんの双子のお姉さんがいたよ。 それで、俺も虹谷くんが受験してたことを知ったんだ」

 

「やんす!? あの二人もいたんでやんすか!?」

 

 矢部くんは更に二人の名前が出たことで、更なる驚きを見せる。

 オーバーなリアクションのせいで、メガネはズレまくりだ。

 

「とはいえ、宿敵とチームメイトになる可能性が出てきたなんてな。 全く予想してなかったわけじゃないが、実際に目にすると驚く」

 

「言うほど驚いているようには見えなかったけど。 まぁ、うん。 不思議な縁もあるものだね」

 

 俺は新太の言葉に多少の異議を唱えながらも、後半には納得するように頷く。 虹谷くんだけではなく、東雲くんや神成くんも居るなんて驚きだ。 付け加えるなら、虹谷くんに双子のお姉さんがいたことにも驚きだったけど。

 

 そして、そのことを今更になって矢部くんが拾ってきた。

 

「虹谷くんに双子のお姉さんがいたでやんすか!?」

 

「その事は歩きながらでいいだろ。 流石に矢部がうるさい。 こいつは女子のことになると興奮するからな」

 

「あはは……そうだね。 ひとまず校舎から出よう」

 

「オイラが興奮するほどの美少女なんでやんすか!?」

 

 矢部くんは話題が女子なら、結構誰にでも興奮するでしょ。 

 と内心で思ったが、言葉を飲み込む。 これ以上ここで雑談するのは、あまり得策ではない。

 新太も俺と同じような考えが浮かんだのか、何かをいいかけ、そしてやめた。

 

「続きは外でね」

 

 こうして俺達は、天空中央高校の筆記試験を終えた。

 

 

 帰宅途中、矢部くんと新太に彩理さんの話をした。

 別に誇張したつもりはないし、ありのままを話したつもりだったが、矢部くんはやはり興奮していた。

 矢部くんや新太の話では、それぞれの教室にも美少女と呼ぶにふさわしい女子が何人かいたという。 俺はそんな風に女子を観察していなかったので、彩理さん以外の女子の情報はない。

 

 こうして、男子中学生の好物である『女子の話題』に華をさかせ、俺達はそれぞれの帰路を辿ったのだ。 そして――

 

「やぁ。 意外と早かったじゃないか」

 

 二階建て木造一軒家の前で、茶髪のプライドが高そうな少年(実際に高いと思う)が待っていた。

 

「守? どうしたの?」

 

「どうしたも何も、キミは本当にあかつきに来なかったんだな」

 

「前からそう言ってたじゃないか。 俺は天空に行くって」

 

「まさか本当に、幼馴染であり、練習にも付き合った恩人の頼みを断るとは思わなくてね」

 

「うぅ……ごめん」

 

 目の前にいる美少年の名前は猪狩守。

 小学生の頃、同じチームに所属していたが、俺の親の転勤でこちらに引っ越すことになり、一度は離ればなれになった。

 しかし先日、偶然彼と再会し、少しの間お世話になっていたのだ。

 

「まぁいい。 昔の約束は果たせないままだったからね。 同じ高校に行ってしまえば、それは一生果たせなくなる」

 

「……そう。 実は俺、その事を考えて天空を受験したんだ」

 

「嘘だな。 今の妙な間はなんだ。 キミの嘘はボクには通用しないぞ」

 

 俺の咄嗟のデマカセは守には通用しなかったらしい。 即座に一刀両断されてしまった。

 

「でも、結果的にはそれが果たせるようになるよね。 練習に付き合ってもらった恩は試合で返すよ。 あかつきとは同じ地区だし、甲子園を目指すなら避けては通れないから」

 

「そうだな」

 

 二人の約束。 それは小学生時代、俺が引っ越す日に交わしたものだ。

 

――次は敵同士のチームで、お互い全力で戦おう!

 

 残念ながら、中学時代はその約束を果たすことは出来なかった。

 守の所属していたチームとは別区だったし、星空ボーイズが全国大会に出場することは結局なかった為だ。

 最後の大会ではそのチャンスが少なからずあったのだが――

 

「ところで……肘の調子はどうだ?」

 

 守は真剣な顔つきで問いかけてくる。

 そう、最後の試合の敗因は俺にあったのだ。 守にお世話になったのも、野手としての特訓をする為だ。

 

「だいぶ回復したよ。 やっぱり投手としては無理だけど、野手としてならもう問題はないってさ。 今は病院にも通ってない」

 

「……そうか。 喜ぶべきか分からないが……」

 

「そこは喜んでよ。 野球を続けられるだけマシさ」

 

 星空ボーイズには、俺を含めて投手が二人しかいなかった。

 ただでさえ人数が少なく、もう一人の投手は一つ年下の女の子。 ここぞという場面を任せられるほどには成長していなかった。

 弱小チームを引っ張るため、まだ身体の出来上がっていない段階からのオーバーワークと大会での連投が続き、結果として俺は投手生命を失ったのだ。

 

「投手としては無理だけど、打者として守の前に立ち塞がるからさ。 あっ、なるほど。 俺ほどの打者が同じ地区にいることを、喜ぶべきか分からないって言ったの?」

 

「フッ……キミは相変わらずだな。 そんなわけないだろう。 むしろそう言う意味では喜ぶべきだね。 キミほどの打者と甲子園を賭けて戦えるんだ」

 

「あ……そこは否定しないんだ」

 

 ほんの冗談のつもりで自信家な発言をしたのだが、普通に肯定されてしまっては反応に困ってしまう。 昔から、守は妙に俺に対して買い被り過ぎている面があるのだ。

 

「少年野球チームで初めて見た時は、キミとこんな風に話すなんて思いもしなかったけどね」

 

 前言撤回。 最初は馬鹿にしていたらしい。

 

「光る才能があるわけでもなく、恵まれた体格を持っている訳でもない。 低身長でいつもヘラヘラした気に食わないやつだったよ」

 

「流石に傷つくんだけど……それに一応今は173センチあるから……」

 

 馬鹿にされていたどころか、嫌われていたようだ。

 そんな風に嫌われていて、よく当時の俺は挫けなかったものだなぁ。

 記憶を振り返る俺を余所に守は続ける。

 

「だが唯一にして最大の武器を持っていた。 『吸収力』だ。 凄まじいスピードでの成長と、努力を疎かにしない人間。 だからこそボクはキミをライバルと認めたのさ」

 

「守って落としてから上げるタイプなんだね。 でも、流石に落とし方が強すぎて戻ってこれないんだけど……」

 

 嘘だ。 単にこれは照れ隠し。

 投球に関しても言えることだけど、守は結構ストレートに言葉を投げ掛けてくるから、たまに困ったりする。

 

 そんな俺の照れ隠しを見破ったのだろう。 いつものようにキザっぽく鼻を鳴らす。

 

「フッ、まぁいい。 それじゃあボクはそろそろ行くよ」

 

「えっ? それだけ? 上がっていかないの?」

 

「用事があってね。 時間に余裕があったから寄ってみただけだ」

 

「もしかして……デートとか?」

 

「さぁね。 天空を受験したキミとはもはや敵同士だからね。 プライベートな事でも、教えてやるわけにはいかないよ」

 

 意地悪な笑みを浮かべ、守は手を上げて去っていく。

 

「……冷やかし?」

 

 俺は首を傾げてそう呟いた。

 

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