実況パワフルプロ野球if 天空の司令塔   作:中矢

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兄妹の日常

 守が帰った(用事に向かった?)後、俺はまだ誰も帰ってきていない自宅に入り、天音が朝のうちに用意していた昼食をとった。

 受験生である俺達は試験が終わり次第帰宅となるが、在校生である天音達は、まだ学校で勉強しているのだ。

 

 昼食を済ませた俺は天音の負担を少しでも軽くするため、食器を洗って拭きあげる。

 そして翌日に控えている天空中央高校の面接対策の為、用意している志望動機や高校に入学して努力すること、中学時代に頑張ったことなどの項目を、再度暗記していく。

 

 それすらもある程度仕上がってきた俺は、トレーニングウェアに着替え、気分転換と体力づくりを目的としたランニングに向かう。 

 ランニングを終えてからは、自宅の庭で素振りを始めた。

 

 金属バットよりもだいぶ重みのある木製バット。

 このバットは、守に譲ってもらったトレーニング用の特注バットだ。

 高校では野手として野球を続ける俺の為に、守が専属のバット職人に頼んで作ってもらったものらしい。

 流石は猪狩財閥の御曹司である。 そして、何だかんだ言いながらも俺を気にかけてくれる、優しい友人だ。

 

――ビュッ! ビュッ! ビュッ!

 

 三百回ほど空を切るスイング音を確かめた後、シミュレーションを兼ねて、居ないはずの守の姿を作り上げる。

 

 浅く被った帽子。 威圧的な鋭い眼光。 左手に握る赤い縫い目の白球。

 場所はどこかの球場で、グラウンドには俺と守と名も知らぬ捕手がいる。

 

 守はマウンドプレートにのった土を爪先で払い除け、一呼吸置いてから両腕を大きく振りかぶる。

 闘志のオーラのようなものが見えるほど全力の守は、鋭い回転のかけられたボールを左腕から放つ。

 コースは内角。 胸元を抉るスライダーは、このままいくとギリギリストライクゾーンだ。

 俺は守の投球動作に合わせて軽く上げた左足を、強く斜め前に踏み出す。

 そこから腕をたたみ、横回転の加えられた白球を芯で捉えた。

 そのまま腰を回転させて、白球をレフトスタンド目掛けてはじき返す。

 

 記録はフェンス直撃のツーベースヒットと言ったところだろう。

 

 そんな風にしばらく素振りを続けていると、いつの間にか太陽が茜色に変わり始めていた。 

 

「かっきーん! これは大きいぞ〜! 入った〜! ホームランです!」

 

「……びっくりした」

 

 俺のシュミレーションに突然可愛らしい実況が加えられ、素振りを中断して振り返ると、帰宅した天音が制服姿でカバンを手に持ったまま立っていた。

 

「えへへ、ごめんなさい。 お兄ちゃん。 ただいま!」

 

「謝らなくていいよ。 おかえり。 今帰ったの?」

 

「うん! 庭の方から素振りしてる音が聞こえたから、見に来てみた!」

 

「そっか。 もうそんな時間か」

 

 俺は左手首に付けていた、防水、防塵、耐衝撃に優れた腕時計を見る。

 時刻は五時になろうとしているところだ。 

 

「あ! そういえば! 試験はどうだったの?」

 

「ん、問題ないと思うよ。 一応、全問しっかり答えられたと思うし、後は結果を待つだけだね」

 

「さっすがお兄ちゃん! あ、でも明日は面接試験だったよね? ちゃんと面接対策はしたの?」

 

「ちゃんとしましたよ。 何聞かれても答えられると思う」

 

「おぉ〜! それじゃあ、後であまが面接官やったげよっか?」

 

「……ちゃんと出来るの?」

 

 面接練習の最中、堪えきれずに吹き出してしまう天音が目に浮かぶ。

 

「失礼だなぁ! お兄ちゃんの為だし真面目にやるよ! 任せといて!」

 

 とはいえ、天音はやるべき所はやるタイプだ。 しっかりと務めを果たしてくれることだろう。

 それに来年は天音が受験生だから、その予行練習も兼ねて面接官の立場で勉強してくれれば、兄としては願ったり叶ったりだ。

 

「分かった。 頼むよ」

 

「おっけー! ひとまず夜ご飯にしよ! 今日はカレー作るよ〜」

 

「お、楽しみだな」

 

 市販のルーを使えばどれも味は変わらないと思うかもしれないが、天音の作るカレーは何故かとても美味しいのだ。

 

 俺は夕食の献立に心を踊らせながら、天音と家の中に入った。

 

 

「ふぅ……ごちそうさま。 美味しかったよ」

 

「お粗末さまでした。 良かった!」

 

 椅子がけのテーブル机の向かい側にかけてカレーを食べる天音は、嬉しそうに破顔する。

 天音いわく、作る側としては食べてもらう側に素直に感想を言ってもらえるのが一番の励みらしい。

「美味しくない時は正直に言ってよね!」と言われたこともあるが、天音の作る物に美味しくないものは思いつかない。

 天音がいつから料理が出来るようになったのかは、もうあまり覚えていない。 俺が野球を始めて、しばらく経ってからだったような気もするが……。

 まぁ、その事は今はいいだろう。

 

 俺は腹休めをすることも兼ねて、グラスの麦茶を飲みながら天音に問いかけた。

 

「天音。 学校はどうだった?」

 

「ん〜? いつもと変わらないよ! 楽しかった!」

 

「そっか。 好きな人は出来た?」

 

「出来てませんよ〜。 学生の本分は勉学に励むことですから」

 

「ふふっ、そっか」

 

「もう……なんでいつもあまが好きな人いないって言うと、お兄ちゃんは嬉しそうなのさ」

 

「否定はしないけど……まぁ兄としては、妹が好きになる相手には興味があるからね。 そんな子が出来たら、ウチに連れてきなよ」

 

「当分出来ないでしょうからご安心を」

 

 天音は少しだけ鬱陶しそうに吐き捨てる。

 可愛い妹にも遂に反抗期が来たのか……と、ささやかに傷心する俺を余所に、天音は何かを思い出したように声を上げた。

 

「そういえば! 明日の夕方、学校が終わってからみずきと聖が泊まりに来たいって言ってた」

 

「みずきと聖ちゃんが?」

 

「そう。 いいかな?」

 

「ん。 別に俺は構わないよ。 父さんと母さんには連絡したの?」

 

「まだだよ〜。 今思い出したし、どうせ先にお兄ちゃんに聞くつもりだったし」

 

「そっか。 後で電話しとくんだよ」

 

「は〜い! あと、お兄ちゃんって明後日の土曜日空いてる?」

 

「ん? んーと、明後日……」

 

 明日の面接試験が終われば、ひとまず俺の高校受験は終了だ。

 急いで勉強することもないし、誰かと会う予定も特になかったと思う。

 

「多分空いてるけど、何かあるの?」

 

「みずきや聖と街に買い物に行く話をしてたんだけど、お兄ちゃんも空いてるなら付き合って欲しいなぁ、と思ってさ」

 

「荷物持ち?」

 

「それもあるけど、世の中何かと物騒でしょ? 中学生の女の子だけだし、昼間だからって事件に巻き込まれないとも限らないじゃん? その点お兄ちゃんがいれば一石二鳥だし」

 

 天音の言うことには、確かに一理ある。

 世の中には常軌を逸した変な人もいるわけで、いくら昼間だからと言って、女の子だけでの街への外出は安心できない。

 

 とは言っても、やはり一番の目的は荷物持ちだろう。 比率としては八対二くらいの割合で、荷物持ちの役割が大きいはずだ。

 まぁ、天音には日頃から色々任せっぱなしだし、荷物持ちぐらいの雑用は引き受けてもいい。 ただ――

 

「みずきや聖ちゃんが嫌がるんじゃない? 女の子水入らずって感じだし」

 

「はぁ……あの二人がお兄ちゃんのこと嫌がるわけないじゃない。 むしろ二人ともお兄ちゃんに付いてきて欲しいみたいだよ」

 

「そうなんだ。 良かったな、天音。 後輩に慕われる良いお兄ちゃんが持てて」

 

「はいはい、そうですね〜。 それで? どうする?」

 

「分かった。 行くよ。 今のところ、特に予定はないし」

 

「もう予定入れちゃだめだよ。 二人ががっかりしちゃうから」

 

「天音はがっかりしないの?」

 

「それはどうでしょう……っと。 ふぅ、ご馳走さま」

 

 天音の方もようやく食事が終わったようだ。 手を合わせた後、ウェットティッシュで口元を拭っている。

 先程の俺の質問の答えは、はぐらかされてしまったらしい。

 まぁ、否定しないだけ良しとしておこう。

 

「さてと、お風呂は先に入ったし、食器は俺が洗っとくよ。 天音はお風呂に入っておいで」

 

「いいよ、手伝う。 お兄ちゃんがスポンジ係ね。 あまが拭き上げ担当」

 

 我が妹ながら、いじらしいものだ。 食器の片付けくらい兄に任せればいいというのに。 本当にしっかりした子だ。 うん、いいお嫁さんになるな。

 

「なにニヤニヤしてるの〜? 早く片しちゃおうよ!」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 俺たち兄妹は、仲良く流し場に立ったのであった。

 

 その後、天音が入浴を済ませてから約束通り面接練習を行い、万全の準備を整えて、俺は床についた。

 それと同時に新太から面接終了後の昼食の誘いのメールが届き、俺はそれに了承の返信をしてから、今度こそ眠りについたのだった。

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