実況パワフルプロ野球if 天空の司令塔   作:中矢

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試験終了

 翌日、俺は前日と同じように天音の揺り起こしに頼ることなく目覚め、余裕を持って家を出た。

 面接試験では虹谷くん達と会うこともなく、見知らぬ受験生と共に集団面接を受けて、恙無く終了した。

 

「蓮太」

 

「おーい、こっちでやんす!」

 

 面接試験終了後、天空中央高校の玄関を出ると、前のグループで先に面接を終えていた新太と矢部くんが待っていた。

 俺は軽く手を上げて二人の元に小走りで駆ける。

 

「お疲れ様でやんす! やっと解放されたでやんす!」

 

「お疲れ様。 そうだね」

 

「どうだった? 蓮太の事だからあまり心配はしてないが、手応えはあったか?」

 

「もちろん。 特に問題なかったよ。 二人は?」

 

 俺の問い掛けに、二人も自信ありげに頷く。

 

「完璧でやんす! 何も指摘されることはないでやんす!」

 

「この表情を面接官がどう捉えるかだが、受け答えはしっかり出来た」

 

「そっか」

 

 この様子なら、入学式に誰かが欠けてしまうということは無さそうだ。

 だが、俺はふと気になったことを矢部くんに視線と共に問い掛ける。

 

「そういえば、矢部くんのその『やんす』って言うの、面接の時はどうしたの?」

 

 すると矢部くんは眉を上げて、キリッとした表情になる。

 

「ふっ、愚問でやんすね」

 

 まさか面接でもその語尾を用いたのか……何たる勇者。 というかそれは蛮勇だ。 無謀すぎる。

 

「もちろん普通に喋りました。 僕のこれは親しい相手との一種のコミュニケーションのようなものですから」

 

「……誰?」

 

「……気持ち悪い」

 

 矢部くんのあまりの変わりように、新太は珍しく感情をあらわにしていた。

 

「二人とも失礼でやんす! 一生懸命練習したんでやんすよ!!」

 

「一種のコミュニケーションって……親しくなる前からそんな感じだったよね」

 

 矢部くんと初めて出会ったのは、中学に入ってからだった。

 小学生の時から付き合いのある新太と、星空ボーイズに入部する話を廊下でしていた時、初めて聞く特殊な語尾の持ち主が、会話に入ってきたことがきっかけだ。

 

――二人とも星空ボーイズに入るんでやんすか? それならおいらたちはチームメイトでやんす!

 

 その時は、俺も新太も『やんす』という聞き慣れない語尾に、思わず気の抜けた声が出てしまったものだ。

 

「おいらのやんすは方言みたいなものでやんす! 父ちゃんも母ちゃんも、じいちゃんもばあちゃんも、みーんなやんすを使うのでやんす」

 

「へぇ……何だかすごいね」

 

 余談だが、昔からそのような語尾を用いた言葉があるらしい。

 何やら軽い丁寧の意を示す断定語なのだと。 それだけ聞けば面接でも問題ない気もするが、まぁ現代の俺達にはあまり馴染みのない言葉なのは確かだ。

 

「先祖代々受け継がれてきたのか。 まぁ……そんなかっこいいものでもないがな」

 

「新太くんは一言多いでやんす!」

 

 失礼だが、新太の言葉には同意せざるをえない。 とはいえ、人の伝承に口を出すのは野暮というもの。

 俺は苦笑まじりの笑顔を浮かべて受け流す。

 そんな中、誰かの空腹を告げる腹の虫が鳴いた。

 

「やんす……お腹すいたでやんす」

 

 犯人は矢部くんだったようだ。

 腕時計を見ると、時刻は午後十二時を回ったところ。

 確かにお腹がすいてくる時間帯だ。

 

「それじゃあ、そろそろ『波和一(パワイチ)』に向かおうか」

 

 俺の言葉に二人は同意し、下界へと続くロープウェイ乗り場に向かった。

 

 

 波和一(パワイチ)。 様々な飲食施設が立ち並ぶこの街でも人気のラーメン屋である。

 創業三十年の比較的新しい店ではあるが、出汁のきいた臭みのない豚骨スープと細麺ながらコシのある麺が人気を呼び、瞬く間に全国区の店舗に上り詰めた。

 何より人気なのは、ラーメンの器の中心に落とされた真紅に輝く秘伝のタレ。 熟成製法により辛さの中に旨みが濃縮されており、豚骨スープと抜群の相性となっている。

 

 お昼時ということで混んではいたが、ちょうど良くひと席空いたようだ。

 俺達三人はテーブル席に腰を下ろし、ノーマルなラーメンを三杯注文した。

 

「ふひぃ〜、もう受験はこりごりでやんす〜」

 

 椅子にもたれかかり、溶けるように脱力する矢部くん。

 

「確かにな。 バット振ってた方が楽だ」

 

 そんな矢部くんに同意を示す新太。 よく矢部くんに毒を吐いているが、何だかんだ二人は気が合うらしい。

 

「そうだね」

 

 かくいう俺も、もちろん勉強しているより野球していた方が楽なタチだ。

 例え全身の筋肉が震えるほどの練習でも、机に座って複雑な計算式を覚えることや、読む機会などないであろう古文を音読するより全然マシである。

 

「これからは高校野球に向けて自主練でやんす!」

 

「お、矢部くん。 やる気だね?」

 

「当たり前でやんす! 蓮太くんにばかり頼るわけにはいかないでやんす!」

 

「だな。 中学野球で身にしみた。 いくら蓮太が上手くても、周りの俺らが足を引っ張ってたら世話ない」

 

「足を引っ張るなんて……そんなことないよ。 二人はチームの主力ですごく努力してたし、結果だってついてきてる」

 

 自らを卑下する物言いの二人だが、実際はそんなことない。

 矢部くんは一番打者として、何としても塁に出ようという気迫に満ちた巧打者だったし、新太は三番という立場ながら、臨機応変に送りバントやエンドランもこなす仕事人だった。

 二人がいなかったら、星空ボーイズは最後の夏、ベスト8にすら入れなかっただろう。

 

「蓮太くんの言葉は嬉しいでやんす。 でも、おいら、あの夏は今までの人生で一番悔しかったでやんす」

 

「ああ。 蓮太は肘が壊れるまで投げ抜いて、レインボーズ打線を抑え込んでいたのに、俺達はそれを守り切れなかった」

 

「……誰の責任でもないよ」

 

 あの試合は最後まで両チームとも必死だった。 

 弱小だった星空ボーイズはもちろんだが、エリートが集まった青空レインボーズまでも、必死になってベースに頭から飛び込み、格下相手に送りバントまで用いていた。

 泥臭いのが嫌いだと有名な虹谷くんですら、バントミスの小フライに食らいつくように飛びついていたのだ。

 

「あの試合はいい試合だったから。 悔いがないと言えば嘘になるけど、負けたことにも意味はあったと思う」

 

 勝敗は関係ない。 お互いにガッツ溢れるプレーで、最後まで力を尽くした。 唯一、最後まで投げ抜けなかったことは心残りだが、それはどうしようもなかったことだ。

 

「確かに意味はあった。 自分の力の足りなさに気づけたんだからな。 バネになったというべきだな」

 

「やんす。 悔しいと言っても、マイナスのことばかりじゃないでやんす。 もっと上手くなろうと思えたでやんす」

 

「そっか」

 

 自責ばかりかと思ったが、二人とも思いのほか吹っ切れているようだった。

 まぁ、あれから四ヶ月以上経っているし、受験を終えたこれからは次の目標がある。

 

「甲子園、目指そうね」

 

「やんす! まずはレギュラーになるでやんす!」

 

「ああ。 レインボーズの連中には負けられない」

 

 受験結果も出ていないのに、などという野暮なことは言わない。

 二人とも、必死に勉強してきたはずだし、これだけの熱意を見せているのなら、試験で落ちるようなヘマはしないからだ。

 

「そうだ。 この後バッティングセンターに行かないか?」

 

「いい提案でやんす! おいら思いっきり打ちたいでやんす!」

 

 新太の提案に矢部くんは前のめりに反応する。

 

「蓮太はどうだ? 空いてるか?」

 

「えーっと……」

 

 確か、今日はみずきと聖ちゃんが泊まりに来るらしい。

 天音には早く帰ってくるようにと釘を刺されていた。

 とは言っても、中学の下校時間にはまだまだ時間がある。

 

「うん。 大丈夫だよ。 行こうか」

 

「決まりでやんす! 楽しみでやんす!」

 

「勉強があって素振りしか出来てなかったからな。 マシーンとはいえ、久しぶりに球が打てる」

 

 興奮する矢部くんと、嬉しそうな新太。

 二人とも受験による禁断症状の限界だったようだ。

 

 そうこうしているうちに、俺たちのラーメンが運ばれてきた。

 豚骨スープの香りが食欲を激しく刺激してくる。

 

「腹が減っては戦は出来ぬ、だよ。 とりあえず食べよう」

 

「やんす! 頂くでやんす!」

 

「だな。 いただきます」

 

 成長期であり空腹も重なった俺達は、一杯目を一分足らずで平らげ、最終的には、俺が二回、矢部くんが四回、新太が三回替え玉を注文し、しっかりスープまで飲み干して、波和一を後にした。

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