実況パワフルプロ野球if 天空の司令塔   作:中矢

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バッティングセンターにて3

 十球目、最後の球は外角低めのストレートだった。

 俺は利き足を打席の内側に踏み出し、流れに逆らわないように弾き返す。

 

―キィィィィン!!

 

 うん。 今のは良かった。

 少しタイミングがズレたけど、狙い通りライト方向に打ち返せた。

 

「ふぅ……」

 

 相対するマシーンが動きを止めた所で、俺はゆっくりと息を吐き出す。

 矢部くんや新太と同様に、久しぶりの打撃練習に高揚していたのは俺も同じ。 いい所を見せようとして気合いを入れすぎた感は否めないが、まぁ納得のいくバッティングが出来たと思う。 

 もちろん、変化球に対応出来ずに打ち損じたり、思っていたより重いストレートに差し込まれたり、まだまだ課題は山積みだが。

 

 俺は二人の感想を聞こうと振り返る。

 

「あれ?」

 

 そこには矢部くんと新太に加え、いつの間にか彩理さんと虹谷くんがいた。

 

「二人とも、いつの――」

 

「すごい!! すごいよ天川くん!! 私びっくりしちゃった! それに見惚れたゃった!」

 

「あ、えと、ありがと」

 

 興奮した様子の彩理さんに、俺は若干気圧されてしまう。

 それに虹谷くんの表情が怖いんだけど……。

 

 そんなことを思いつつ、俺はネットの張り巡らされた扉を開け、新太に視線で問いかける。

 

「蓮太が打ち始めたのと同じくらいだ」

 

 新太は俺のテレパシーをしっかり察知してくれたようで、言葉にしなくても答えてくれた。

 なるほど、周りが見えなくなるくらい気合い入れちゃってたのか。

 今更ながら、少し恥ずかしい。

 

「えっと……彩理さんと虹谷くんも打ちにきたの?」

 

「見たらわかるだろ」

 

 うわぁ……虹谷くんすごく不機嫌なんだけど。 俺なんかしたかな……。

 

「誠!」

 

「……姉さん。 今日はもう帰ろう。 また日を改めて来ようよ」

 

「誠……?」

 

 虹谷くんはそう言って、スタスタと出口へと歩き出す。

 

「……ごめんね。 天川くん。 それに二人とも、弟が失礼な態度をとってごめんなさい」

 

「俺は大丈夫だよ。 ちょっとびっくりしたけど」

 

「おいらも大丈夫でやんす!」

 

「俺も。 それにアンタが謝る必要は無い」

 

「ううん。 私は誠の姉として、謝る義務があるから。 でもありがとう。 それじゃあ」

 

 彩理さんは最後にささやかに俺に笑いかけ、そのまま虹谷くんの後を追っていく。 その表情は、どこか力ないものだった。

 

「……性格に難がある弟を持つと、上の子は大変でやんすね。 まぁ、気持ちは分からなくもないでやんすが」

 

「同感だ。 あいつは人一倍プライドが高そうだからな。 ピッチャーの性ってやつか」

 

「えっ、ちょっと待って。 二人は虹谷くんが不機嫌な理由を知ってるの?」

 

 納得するように相槌を打ち合う二人に、俺は疑問を投げ掛ける。

 

「まぁ、予想はつくな」

 

「でやんすね」

 

「……どういうこと?」

 

 さっぱり分からない。 確かに、決勝での途中降板や姉である彩理さんと話していた事で、虹谷くんはあまり俺を良く思っていないみたいだけど……。

 その瞬間、俺は閃いた。

 

「もしかして、彩理さんが俺のことを褒めてたことに怒ってたの?」

 

「虹谷くんってそんなにシスコンなんでやんすか?」

 

「ん……多分そうだと思う」

 

「蓮太と同類だな」

 

「まぁ、否定はしないけど……」

 

 矢部くんや新太は、俺と同じ星空中学に通っているため、当然天音の事を知っているし、俺が天音を猫可愛がりしている事も知っている。

 だから否定はしない。

 

「それを考慮するとそっちの線も考えられなくはないが、あいつは蓮太が打ち始めてからあんな感じだったぞ」

 

「やんす。 最初から難しい顔していたでやんす」

 

「うーん? つまり?」

 

「単なる予測だが、虹谷は蓮太の凄まじい成長に焦りを感じた。 そんな自分に腹が立って不機嫌になった。 てとこか」

 

「おいらも同感でやんす」

 

「……あの虹谷くんが?」

 

 少し言い方は悪いが、どこかキザったらしい虹谷くんが、誰かに焦りを感じたりという状態があまり想像つかない。

 が、すぐに可能性は無くはないことに気づく。 彼はああ見えて負けん気の強い人種だ。 その証拠に、あの決勝戦は死に物狂いで勝ちにきていた。

 

「でも、それならそれで、いいことしたのかも」

 

「いいこと?」

 

 新太は俺の言葉に疑問符を浮かべて首を傾げる。 矢部くんも同様だった。

 

「だって虹谷くんはこれからチームメイトになる人だよ。 ほぼ間違いなく、今後の天空のエースナンバーを背負うのは彼。 そんな彼はそれだけの実力を持ちながら、どことなく本気にならない所があるみたいでしょ?」

 

 噂では女子に目がない事で有名だ。 その点で言えば矢部くんと同類に思えるが、彼はとてつもなくモテる。 その結果、彼の野球への熱意は抑圧されているのだと、俺はにらんでいた。

 別に女子と遊ぶことを悪いとは言わないが、日毎に相手を変えるようじゃ得るものなんてない。 ……なんて、偉そうに言ってみても、俺自身恋愛経験はゼロに等しい。

 とまぁ、話を戻すとして、

 

「だから、発奮してくれたなら好都合じゃない? 真面目に取り組めば、彼は守にも劣らない一流の選手だよ」

 

「……蓮太くんって、優しそうな顔してたまに鋭いこと考えるでやんすね」

 

「普段の蓮太を見ていると、余計に不気味だな」

 

「失礼だなぁ。 俺は思ったことを言っただけだよ。 だってそうでしょ? 彼が本気になれば、甲子園だって夢じゃない。 決勝戦のこと覚えてるよね?」

 

「ああ。 覚えてる。 五回の表の俺達の攻撃だったな」

 

「あの時の虹谷くんは神がかってたでやんす」

 

「うん。 あの時、守以外で初めて人の才能に嫉妬したよ」

 

 地区大会決勝。 五回の表の星空ボーイズの攻撃。

 一番の矢部くんが、初球から意表を突くセーフティバントを決めた。

 その後、二番打者だった聖ちゃんが進塁打を転がし、新太が送りバントを決めた

 そして四番だった俺が、先制となる本塁打を放った。

 

 虹谷くんが覚醒したのは、その直後。

 凄まじいキレの変化球に手元で伸びるストレートを織り交ぜ、ストライクゾーンの四隅に散らす投球。 本気になった虹谷くんに、我らが星空ボーイズは圧巻の六連続三振を決められた。

 そしてホームランを打った俺自身も、最後の打席は空振り三振に終わったのだ。

 

「だから、俺を目の敵にしてくれてるのなら、虹谷くんはもっと上手くなるよ。 それに――」

 

 俺は繋げるように、二人を順に見ていく。

 

「矢部くんと新太も」

 

 発奮されたのは何も虹谷くんだけじゃない。

 目の前の二人からも、凄まじい闘志が感じられるのだ。

 

「……すぐ追いついてやる」

 

「追いつくだけじゃだめでやんす! 追い抜くんでやんす!」

 

「……珍しくいいこと言うな?」

 

「珍しくは余計でやんす!」

 

「あはは! 一緒に頑張ろうね」

 

 頼もしいチームメイトの発言に、俺は思わず笑声をあげた。

 

「それにしても……」

 

 矢部くんは繋げるよう呟き、

 

「虹谷くんのお姉さん、すごく可愛かったでやんす!!」

 

「……前言撤回。 やっぱり矢部はくだらないな」

 

「せっかく頼もしいなぁと思ったのに……」

 

「な、なんでやんすか!? 二人とも目がすわってるでやんす!」

 

 自分の顔は見えないが、矢部くんのことを精いっぱいの冷めた目で見てあげた。

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