これで、序章は終わりって感じですね。
朝、俺が席につくとニヤニヤとした顔をした健之が来た。
「で?どうだったの?」
「どうって?」
大体想像つくけど。恐らく、渋谷とのお出掛けのことだろう。
「渋谷さんとのデートだよ」
ガタッ!と机が揺れた音が聞こえてくる。それも一つではない。複数だ。
それが何を意味してるかは分かる。いきなり、周りが静かになったし……。
それと、視線がビシビシと当たってる。うざくてしょうがない。
「デートじゃないよ。友達とショッピングモールで遊んでたってだけだ」
「意地張るなよぉ。どうせ、男女二人きりだったんだろ」
健之の野郎!絶対この状況を楽しんでやがる!
「柊木さん、お客さんだよ」
にやにやとしている健之を殴ってやろうかと拳を作っているとクラスの一人が遠くから俺を呼んだ。
「距離が遠い……」
「仕方ない。みんなお前のことを怖がってるから」
「分かってたけどね……」
俺は席を離れて、廊下に出る。
そこには渋谷の姿があった。
「おはよう、柊木君」
「おはよう、渋谷。何だ、用事か?」
「お昼一緒にどうかなって誘いに来た」
おい。今、朝だぞ。そういうのって昼休みとかで言うべきじゃないか?
「先週誘おうとして、いなかったから、朝に来た」
「ああ。そっか」
俺は早々に教室に出て屋上に行っちゃうから……。
「別にいいぞ。場所は……LINEで知らせる」
ここで言って人が集まったら嫌だし。この子、学園のアイドルだからな……。
「うん、わかった。それじゃ」
「おう」
俺は渋谷を見送ると席に戻る。
「よし、あいつもブラックリストに乗せろ」
「我ら、“非リア充同盟”のメンバーに伝えておきます」
男子から嫉妬やら殺気やらを感じ取れる……。こわっ!?
「ついに、お前も狙われる身になったんだな……闇討ちに気を付けろ」
「なんの話?ねぇ、なんの話!?」
肩を叩いて哀れむ健之に俺は思わず不安な声を上げた。
「男の嫉妬ってのは……怖いものだ」
「俺の身に何が起こるんだよぉ!!」
何事もなく授業が進んで、お昼の時間になった。
俺が教室から出ていこうとするときに多数の舌打ちが聞こえた気がした。あと、今まで感じたことがない鋭い視線も……。
モテない男の嫉妬の表れというやつなのだろう。
「……何でこうなったんだろう?」
今更考えても仕方ない。俺は弁当を持っていつもの場所へ移動した。
「ふわぁ……眠い」
休憩時間の時にこっそりこの場所のことはLINEで教えてある。
いつくるか分からないが、そのうち来るだろうし、待ってることにしよう……。
「……あー、日が気持ちいいな」
ここまで気持ちよく感じたのは初めてかも……。女の子と一緒に食べられるからかねぇ?
眠くなってきた……。瞼が……閉じてしまう……。
私は柊木君から屋上で食べることをLINEで連絡をもらい、屋上に向かう。
その際、アイドルであることが仇となったのか何人かに迫られて、ある意味で有名な彼、柊木君との関係を聞かれた。
自分の教室でも聞かれたけど、私と柊木君は只の友達関係でしかない。
だからこそ、友達だと断言して、隠れながら屋上に向かった。
柊木君、先に食べちゃってるかな?
「柊木君!ごめん、遅くなっちゃって……あれ?」
柊木君は気持ち良さそうに寝ていた。
私が苦労してこっちに来たというのに……なんて呑気な……。
「……寝顔を写真撮っちゃお」
からかうために私は柊木君の寝顔をカメラに収める。うん、いい出来映え。
「柊木君ってこうしてみると可愛い寝顔してるよね」
この学校で不良として恐れられてるとは思えない。本人はその気は全くないけど。
「…………」
こういうとき、人はついいじりたくなってしまう。
例えば、頬っぺたをつついたりとか。
「い、意外と柔らかい」
例えば、頭を撫でてみたりとか。
「む。髪は意外とさらさらしてる」
例えば、変顔を作ってみたりとか。
「ぷくっ!お、面白い顔!写真、写真っと」
別に最後のは頬っぺたや髪に対して嫉妬してる訳ではない。断じてない。
……これもからかい道具として使わせてもらおう。
「これだけして、起きないなんて……時間はまだあるし、このまま寝かしておいた方がいいかも。あ、そうだ」
私は膝の上に柊木君の頭を乗せる。
起きたとき、きっとビックリして照れるはず。それをからかうのだ。
「……な、何してるんだろう、私……」
自分でやっておいて何だけど……これは恥ずかしい!
だけど、今更止められないし……。
……あれ?眠っちゃってたか……。
もしかして、もう昼休み終わったのか?
渋谷はもう来たのか?
それと、頭に柔らかいものが……。何だろう。気持ちいいな……。
「んぅ……っ!?」
「っ!?」
目を開けると視界に顔を赤くした渋谷の顔が入る。
何だ、これ?え?俺は何してるんだ?
「も、もういいでしょ。離れて」
「え?あ、ああ」
俺は起き上がって渋谷の膝から離れる。
膝?えっと、それってつまり……。
「膝枕?」
「っ!!」
え?何で俺、渋谷に膝枕されてたの?
「……れて」
「え?」
顔が真っ赤に染まった渋谷から絞り出すようになにかを言っているが、よく聞こえなかった。
「よく聞こえなかったんだけど……」
「忘れてって言ったの!!」
「お、おう……」
衝撃的すぎて忘れようとしても忘れられそうにないけど……。
というか、恥ずかしかったならやらなきゃいいのに……。
「今、失礼なこと考えたでしょ?」
「いや、別に」
勘が鋭いこと忘れてた。危ない危ない。
「と、兎に角お昼にしないか?もう時間ないし」
「……そうだね」
その後のお昼は何だか気まずかった。お互いに何も話さず、無言なお昼時間だった……。
午後の授業が終わり、放課後を迎えた。
俺は立ちあがり、鞄をもって靴箱へ向かう。
「はぁ……」
「元気出せよ。不可抗力みたいなものだろ?」
「いや、そうなんだけどさ」
落ち込み気味の俺の背中に健之が渇を入れるために一発いれる。励ましてくれているのに、俺は思い出しただけで、暗くなっていく。
何であんなことになったんだろうか?今思い出しても分からない。
ただ言えることは、俺があそこで寝てなければ起こらなかったっていうことだけだ。
「でも、役得だろ?」
「そりゃ、まあ……」
あんな綺麗な女の子の膝枕だ。まず、喜ばないのはおかしい。
「お?噂をすれば影だな」
「え?」
健之がニヤついた顔を浮かべ、ある方向へ視線を向ける。
俺もそれに追うと、渋谷が昇降口で待っていた。
「渋谷?」
「うん、帰ろ」
「え?俺と?」
「なにいってるの?そうだよ」
あんな気まずいことがあったのに?
俺は行っていいのか迷い、健之に助けを求めようとするが、そこにはもういない。
一瞬、健之が頑張れよ!と声を出して去っていったことを思い浮かんだが、間違いではないだろう。
「ほら、早くする」
「わ、わかったよ」
俺は靴をはいて、渋谷と学校から出る。
その後の帰路にはあのお昼のように気まずい感じが続いていた。
「そ、そういや、何で……俺を昼に誘おうとしたんだ」
ここで、何で膝枕をしてたとか言いそうになったが、あの時の渋谷の状態からして言わないが吉だ。
「友達が昼御飯を一緒に食べることはそんなに変なこと?」
「んー、全然だな」
確かに自然なことだ。
「どうせ、ボッチ飯だろうなぁって思って誘った私に感謝してよね」
「へいへい。ありがとうございました。渋谷様」
ボッチ飯で悪かったな!
「……なあ」
「何?」
「……いや、何でもない」
「?」
やっぱり気になってしまう。
何で……俺といるんだろうと。何で……一緒に帰ってくれるんだろうと。
健之みたいに他の友達がいるはずだ。でも、俺を優先的に行動してる気がする。
「そういえば、柊木君。これ見てほしいんだけど」
「ん?」
考え事をしてると渋谷が俺にスマホで何かを見せる。
そのなにかとは、俺の変顔姿だった。
「って、何で俺の変顔写真があんだよ!!」
「昼休み寝てたから」
「寝てたから!?あれか!気持ちよく寝てた俺をいじってたのか!?」
「何か出来心で」
「消せぇ!!今すぐ消せぇ!!」
俺は渋谷の携帯を取り上げようとするが、あっさりと避けられた。
恐らく俺の顔は羞恥で真っ赤だ。あの変顔写真はこの姿を見たいがために撮ったのだろう。
渋谷、やっぱりSだ!!
からかわれながら、渋谷を花屋に送って家に帰る。
正直疲れたよ……。さんざんいじられたし……。
渋谷から聞いたが、俺と同じようにからかわれている友達がいるらしい。しかも、渋谷ともう一人でよってたかってという話だ。
俺はものすごくその人に同情してしまった……。もし紹介されたら気が合う関係になるに違いない。
「ただいまぁ」
「お帰り、兄さん」
家に帰ってリビングに入ると部活がなかったのか早めに帰宅していた紫乃がソファーで寛いでいた。
いい忘れていたが、紫乃は中学の調理部に入っている。その理由というのが兄さんに美味しいご飯を食べさせたいからという……。
いや、本当、兄思いのいい妹を持ったよ……。
「調理部は休みか?」
「うん。顧問の先生が風邪ひいたみたい」
風邪かぁ。俺も気を付けないと。
「ところで、兄さん」
「何?」
「パソコン借りていい?」
珍しいな。紫乃がパソコンを使いたがるなんて。
「いいぞ。俺は近くで漫画とか読んでるし」
「兄さんは私の後ろでパソコンを見てる」
「?まあいいけど……」
俺は言われた通り紫乃の後ろでパソコンを眺める。
紫乃はGoogle先生を開くとそこにニュージェネレーションと打って、俺の方へ振り返った。
「兄さん、私、暴露しちゃうけど。兄さんが女友達とデートしてたのつけてたの」
「デートじゃない……ってつけてた!?」
いや、何で!?
「はい。証拠写真」
「んなっ!?」
紫乃は携帯で俺に渋谷と俺が写ってる写真を見せる。
しかも、渋谷に手を握られて、服屋に引っ張られるシーンだ。狙ったとしか思えん。
「でも、驚いたよ。まさか、兄さんの女友達が渋谷凛さんだったなんて」
「……俺、渋谷のこと一言もいってないんだけど……?」
紫乃が何で知ってるのか疑問に思っていると紫乃はパソコンに再度向き合って、今度はある画像を俺に見せた。
何やらアイドルグループの集合写真らしい。グループ名は“ニュージェネレーション”。
「……あ、れ……?」
三人グループらしく、短髪の子に、茶髪ロングの子、そして、どこかで見たことがある黒髪ロングの子の三人だ。
「……いや、まさか……」
あり得ない。そんなはずない。
「まだ信じられないか……。なら、これを見て」
紫乃が次に見せたのはニュージェネレーションのプロフィールだ。
短髪の子の名前が本田未央。茶髪ロングの子が島村卯月。最後にどこかで見たことがある黒髪ロングの子が……
そう、渋谷凛と書いてあるのだ。俺の最近で来た女友達の名前も確か、渋谷凛だったはずだ。
黒髪ロングだったし、歳も俺と同じで、花屋をやっている。
プロフィールにはその花屋のことが書いてあった。
つまり、これは……?
本物のアイドル?マジで?
そういや、健之が渋谷のことをアイドルとか言っていた。俺は勝手に学園のアイドルとか決めつけていたが……。もし、健之がいっていることがまんまのことで、このプロフィールが確かのものだとしたら……。
「……え……ええええええええええええ!!!!」
家全体に俺の驚愕の叫び声が響き渡った。
───どうやら、俺が不良から助け出して、花屋で偶然再開して、実は同じ学校の、同じ学年で、友達となったあの少女は……最近人気のアイドルだったらしい……。