私たちの「舞台」は始まったばかり。~in University~ 作:かもにゃんこ
時期的にはちょっと飛びます。
月日は少し経ち6月、爽やかな季節も終わりじめじめとした梅雨を挟みつつ、だんだんと気温も上がっていく季節。そんな季節と同様、私たちの演劇の練習もだんだんと熱く盛り上がっている。
ヒロマサとショウが受け持ってくれた台本も、つい数回前の授業の時に書き終わりそこからその部分のセリフ合わせや簡単な立ち稽古を行い、今日の授業で一応、ほとんどすべての場面を触ることが出来た。
なぜ、「ほとんど」なのかと言うと、実はまだ触れてないシーンが2つあるから。
1つはユミコちゃんが受け持ってくれた、私が出演するシーン。あの後一度、完成したものを持ってきてくれたのではあったが、私的には何か変なセリフ回しと言うか、そんな感じだったので、「少し改稿しよう」と言ったら「ここの場面は私が完成させる!」と言われ、お預けに。
そしてもう1つは・・・。
「なあミユさん、この戦いの場面飛ばしたけどどうすんの?」
「あ、それ俺も気になった。自分が出るところだし」
そう、この台本には殺陣(たて)のシーンがある。いわゆる「壇之浦」の戦いを描いたワンシーンの中に組み込まれており、源氏側と平氏側の1対1でやり合うシーン。
ちなみに台本では具体的な動き等は書かれておらず、「(剣を交える2人、セリフを言い合いながら)(負傷し逃げる)」しか書かれておらず、かなり自由にやっていい感じではある。
2人の質問を聞き、私はどうするか悩む。何を悩んでいるかと言えば、殺陣をやるか、やらないか(やらないにしても1回くらい刀を振らなければ物語はおかしくなるが)。もちろん、今の今までどうするか完全に放置してたわけではないが、結論を出し渋っていた。要は私としてはせっかくだからやりたいってこと。
でも、やるのは私じゃないしなあ。
「えっと、実際にこのシーンを演じる2人はどうかな?」
私の独断と偏見で決めてしまうのはさすがにまずいと思い、とりあえず2人に聞いてみる。
「うーん、せっかくだしやっては見たいけど、時間とかもあんまりなさそうだしなあ。それにうまく出来るかもわからないし」
「だよなあ。見栄え的にはやった方がいいのは俺もなんとなくわかるけど実際にやるとなるとなあ」
と、2人ともなんとも結論を出しがたい回答。これじゃあんまり聞いた意味がないかな。
とここで、別教室で行っているもう一つのグループをメインで指導している先生が私たちの教室へと来た。
「殺陣のシーンですか」
そういきなり話に入って来たことから察するに、おそらく少し前から覗いていたのだろう。私たちが少し悩んでるのを見て手助けに来てくれた感じだろうか。
「そう言えば昨年も一昨年のグループでの台本も、片方のグループでそのようなシーンがありましてね、最初は皆さんと同じようにやるかどうするか悩まれていましたが、結局やったのですよ」
「そうなんですか」
「別に彼らがやったからと言って無理にやる必要はないですけどもね」
最後は私の方を見てそう話す。なるほど、やっぱりそういう挑発はするんですね。もうこうなったら回答は一つしかない。よし・・・!そう私は決意し、発言しようとした瞬間。
「・・・やろう!」
「うん、やろう!」
「前の人たちがやってなら私たちだってね」
私よりも先に他のみんなが声を上げたのだった。いきなりで驚いたのと、せっかく言おうと決意したのに先を越されたので、ちょっと拍子抜け。
「美結ちゃんもいいよね!?」
そんな私を見て裕美子ちゃんは声をかけてくれた。返す言葉は一つしかないけどね。
「うん、やろう・・・みんな!」
演出である私がそう宣言し、正式に殺陣の演技をやることが決まった。それが決まってすぐ、私はちょっとした疑問を先生に投げかけた。
「あの先生」
「はい?」
「模造刀、のようなものはあるんでしょうか?」
そう、練習にも本番にも必要なもの。それは模造刀である。その質問に対し、先生はなんとも言えない表情をする。
なんとも言えない表情の正体は先生に案内され向かった、旧演劇部の倉庫にあった。私にとっては1年前、初めて板倉くんと会った場所。なんとなく当時のことが思い出される。思えばあれから・・・まだほとんど何もなかった・・・。
「ここにですね、模造刀あるんですがね」
先生は1本、日本刀のような模造刀を取り出し私に渡す。凄く軽く持ちやすいがデザインとかはなかなかいい。
「これ前の演劇部が使っていたものを使っているんですね」
「そうです。それで、もう1本なんですが」
そう言いながら先生はもう1つの柄を持ち、取り出すが・・・。
「見ての通り真ん中から上が折れてしまいまして」
「あー・・・」
ここに来る前のあの何とも言えない表情の正体はこれだったみたい。確かにこれじゃ使えないもの。
「去年、本番で演技中にこれを持った役者が転んでしまい、それを他の役者が踏んで・・・という具合です」
「なるほど・・・」
「正直事前に準備をしておくべきだったのですが、私もこれのことはすっかり忘れてまして。あるものだと思ってました、すいません」
「い、いえ、大丈夫です」
殺陣をやることは決まったが、模造刀がこんな状態じゃ今日の練習は出来ないけど、まあ、仕方ないね。
模造刀を見せてくれた後、先生は付け足す。
「それからここにあるものは自由に使った頂いて構いませんよ。小道具でもなんでも必要なものがあったら」
「そうなんですか」
「ええ、私に報告して下さったら問題ないですよ。あ、それと・・・」
「はい?」
何か思いついたみたい?
「ここにあるもので足りない場合は、必要なものを買っても大丈夫です。経費として落とせますから。新しい模造刀も私が選ぶよりもミユさんたちが好きなものを買って使っていただいた方がいいかも知れませんね」
ということらしい。いきなりそう言われてちょっと反応に困ったり。
「まあそんな感じですね。みなさんを長くそのままにするわけにもいかないですし、戻りましょう」
「は、はい」
とりあえず手に持った模造刀をもとに戻す。いや、持って行っても良かったのだけど1本だけじゃ練習も出来ないしそのままにし先生の後を追い、教室へと戻る。
× × ×
その日の授業終了の少し前に私は稽古を早めを終わらせ、全員を集め模造刀以外に必要なものがないか確認を取る。もし何かあれば、模造刀を買うときに一緒に買えればと思った。
私的には他にはないと思っての確認だっただけに、みんなからも特にないという形で結論が出て、私が模造刀を購入する形で話し合いは簡単に終わった。
授業終了後、皆が解散する中、私はまだ教室の中にたまたまいた板倉くんに話しかけた。
「せっかくやるって決めたのに折れちゃってたなんてね、もう」
なんとなく愚痴をこぼしたい気分にもなっていたのだろう、そうぼそりと呟く。別に買うのが面倒くさいとかいうわけじゃないけどね。
「あはは、そうだね」
私のそんな態度に対して苦笑いで返す板倉くん。
「なんで苦笑いなの」
「あ、いや、その、高森さんでもそういう愚痴、みたいなこと言うんだなって」
「そりゃ言いますよー。機械じゃないからね。そもそもね、今更になるんだけどさ」
「うん」
「模造刀ってどういうところで売ってるんだろうね、感じ」
演劇部をやっていた時に、同じような殺陣をやったことはあった。でももともと学校にあったものを使用したため、小道具としてそういうものを用意したことがあるわけじゃない。
私がそんな疑問を投げかけると板倉くんはちょっと驚く。
「え、高森さんでもわからないんだ。なんかその、演劇歴も長いからそういうのも詳しいと思ったというか・・・」
「あー、そっか、そう思うよね、あはは。私もこれから色々調べようかなって思ってて」
「そっか・・・えっと、なんだっけ?模造刀、だっけ?『模造』に・・・刀(かたな)って書くのかな?」
そう言いながら彼はスマホを取り出して調べ始める。
「あ、うん、そうだけど・・・調べてくれなくてもいいのに」
私の仕事だと思ってたし、遠慮がちにそう答えたけど・・・。
「いや、その、ね、少しでも助けられたらって思って・・・」
「あ、ありがとう」
ちょっと心がポワっと暖かくなる。って、板倉くんも調べてくれてるんだから私も調べないと。
「こういうところ、なのかな・・・?」
「うーん、どうだろう・・・?ってちょっとここは遠すぎだよね」
「あ、本当だ・・・ごめん」
「ううん。あ、ここはどうかな?」
「あ、うん。どう、だろうね?」
そんな感じで2人でその場で調べ合った。最初はなかなか検索の仕方から悪戦苦闘だったけども、だんだん慣れていき、候補になりそうなところがいくつか見つかった。
「行けそうなところだと・・・さっきのところと、これと、あと高森さんが見つけたところ、くらいかな」
「うん、とりあえず行ってみて見てみないとなんとも言えないけどね」
「そうだね。力になれたかどうかはわからないけど、なんかホッとしたかな」
「あはは、じゃあ今週末の日曜日でいいかな?」
「・・・え?」
私がいきなりそんなことを言い出すものだから驚く板倉くん。そう、せっかく、ってわけじゃないけれど、私は思い切って彼を誘ってみた。
理由?やっぱり彼自身に興味があってもっと仲良くなりたいという気持ちもあるけども・・・。
「うん、私だけよりも男の子がいてくれた方が間違いないものを選べるかなって思って」
ということ。こっちが言い訳に聞こえるかもだけど、実際本当。他の人の意見があった方がいいというのはあるから。
「えっと・・・うん、予定はないし大、丈夫」
ちょっと、いや、結構戸惑っていたみたいだけどOKしてくれた。
「ありがとう、助かるよ。時間と場所は・・・」
そんな感じで次の日曜日、板倉くんとプライベート(ではないかも知れないけど)で初めて会うことが決まりました。
というわけで、作者がやりたかったこと第1弾、2人きりのお出かけをすることに!テコ入れってわけじゃないですけど、恋愛ものを謳っているのでちょいちょい入れて行かないとですしね!
次回、お楽しみに!