私たちの「舞台」は始まったばかり。~in University~ 作:かもにゃんこ
裕美子ちゃんと衣装を買いに行った週の土曜日、天気もちゃんと晴れたこともあり、私と板倉くんは予定通りパネルの色塗りをやることに。
授業は2人とも午前中だけで終わるため、部室でお昼を食べてから午後の時間を目一杯使って行う。
「あ、お疲れ」
「あ」
授業が終わり部室に向かう途中、部室の出前で板倉くんと遭遇。部室棟の手前で板倉くんと遭遇。そのまま2人で部室棟に入り鍵を借りて部室へと入った。
「板倉くんも今からお昼?」
「あ、うん」
そう言えば大学内でお昼を一緒に食べるのは初めてだ。夏休み中の練習は午前中まで、今日みたいな授業が午前で終わる土曜日は裕美子ちゃんが出れないため休み。当然、授業と授業の合間に2人で、ってことなんてない。
「お昼はいつもどうしてるの?」
特別知りたいわけではないけど、まあ成り行きみたいなものだよね。
「いつもコンビニで・・・」
ガサガサってカバンからビニール袋に入ったそれを取り出す。
「学食とか購買とかもあるけど、人多いしこれで落ち着いたって感じかな」
「あー、めっちゃわかるよそれー」
本当に、全く、同じことを思っていたため、まるで自分のことのようにしみじみと思う。
「あ、だよね」
「うん。なんか私たちってそう言うところは似てる部分あるよね」
「だね」
いいことなのか、悪いことなのかはわからないけども、共通点があるのは何かと嬉しいもの。
「私は一応まあ、簡単にだけど家で作ってる」
続けとばかりに私もカバンからランチトートを取り出す。
「へぇ、なんか凄いね」
大学生で自分で作って持ってくる人なんてそうそういないもんね。そりゃ驚くでしょう。
「あはは、一人暮らしであんまりお昼にお金使いたくないからね。まあこんな感じでおにぎりと、簡単なおかずだけだけどね」
「それでも凄いと思うよ」
「あはは、ありがとう」
苦笑いで私は笑う。少女漫画的展開だったら『今度俺のを作って』とか『いいお嫁さんになるね』とか言ってくれるじゃん?いやまあ、彼がそんなことを言うわけないし、そもそも万が一にでも言われたら私の心が持ちません。
とまあそんな雑談、お昼ご飯についてとかをそれからも交えつつ、2人で楽しく(?)お昼を食べた。
× × ×
「よし、準備オッケーだね」
お昼を食べ終わった後、汚れてもいい服に着替え、演劇部の倉庫の隣にあるスペースに借りたブルーシートを広げパネルを倉庫から取り出し準備完了。
別にこういう作業をするために空いている場所ではなく、なんとなく空いてしまっていた場所を前の演劇部も使っていたことことで私たちも使用を許可してくれた。
「こう広げると結構あるね」
「だね。日が落ちる前に終わるか心配だけど頑張ろう」
事前に買って置いた、ペンキをそれ用のパレットに出し、水を適量入れて薄める。
「こんなものかな・・・」
中高でもペンキは使ったことがあるため、なんとなく分量はわかる感じ。
「ええと、とりあえずこの色をまず全体に塗る、でいい?」
「うん、大丈夫だよ」
ちなみに出した色は濃いめの緑。舞台の半数は森の中だし、そんなに明るい話でもないので他のシーンであってもこんな感じの地味目の色でいいかなというみんなの意見を総括した結果。
そしてベースの濃い緑を塗った後、「森感」を出すため、それっぽくなるような配色、茶色、緑等をうまい感じで散らして完成、というイメージだ。
上からまだ色を塗り進めるため、ベースの濃い緑はまんべんなく綺麗に塗らなくても大丈夫なため、そんなに時間もかからず終了。
「とりあえずまずはこんな感じで大丈夫だね」
「思ったより早く終わったかな」
「そりゃ今回はまだ上から塗るけど、これ一色だったらムラがなくちゃんとやらなきゃだよ」
「だね、あはは」
「さてと、もうこっちは乾いてるかな?」
最初に塗ったパネルを軽く触る。うん、だいぶ水で薄めた分、乾きもかなり早い。
「もう乾いてるね。じゃあ仕上げをやろうか」
あらかじめ用意してある2つの未使用パレットに茶色と緑のペンキを出す。
「水は少な目で・・・どうかな?混ぜてみて」
「うん」
ぬちゃぬちゃという音の表現が一番正しいかな、という音が刷毛で混ぜると出る。うん、こんなもんでいいでしょう。
「よし、じゃあ塗ろっか。私は茶色で板倉くんは緑ね」
「えっと、どんな感じで塗ればいいのかな?」
「そんな深く考えなくて大丈夫だよ。板倉くんのセンスに任せたよ。ふふふ」
そう言いながら笑みを浮かべ、私はパレットと刷毛を持ち、彼から離れパネルへと向かう。
「え、センスって・・・」
そんなことをボソリと呟く彼。なんか悪いなあと思いつつも、こればかりはうまく言葉に説明出来ない。
結局、私が塗っているのを見て板倉くんも覚悟を決めたのか、パネルへと刷毛を走らせる。どんな感じなのかな?と気になる私は作業を止め、それを見る。
なかなかいい。というかうまい。いや、そもそも私だって別にプロじゃないしまあまあうまく出来てるかなと自分では思っているけど、上から目線でいうほどではない。
「・・・何かあるかな?」
そんな姿をついついじっと見ていたら視線に気がついたみたいでそんなことを聞かれた。
「あ、うん、上手いなあって思って。絵とか得意なの?」
素直に私はそう聞く。
「得意ってわけじゃないけど・・・前から描くのは結構好きで」
話を色々聞いていたら小学校のときに課題ポスターで金賞取ったりしたこともあるらしい。生まれながらにそういうセンスはある感じだね。
そんな彼の姿を見て、私はどちらかと言うと任せよう、ではなく私も頑張らなきゃという思いが強くなった。なんとなくというか、やっぱりというか、負けず嫌いな部分がこの時も顔を覗かせたのだろう。
刷毛の使い方や、水の薄め方、乾く前に重ね塗りをしたりと、試行錯誤を重ねる。
「こっちの方がより『木感』が出てるかな?」
「あ、それ凄い。僕もじゃあこんな感じで重ねれば・・・」
「あ、それいいね。凄くキレイ」
「ありがとう」
私が、もちろん板倉くんもだけど、だんだんコツをつかんだり、作業に慣れていくと2人の歩調も合うようになり、ペンキを塗る仕事が凄く楽しい。相手が板倉くんだから、っていうのもあるけど、やっぱり協力して何かを完成させるのは本当に楽しい。
すべて塗り終わり、刷毛とパレットも洗ったところで丁度いい感じにペンキも乾き、私たちは広げていたパネルを元にあった倉庫へととりあえずしまうことに。本番までは使わないからね。
「じゃあいくね」
「うん」
「よいしょ」
そんなに重くはないけども、べニア板を張っているもののため、1人で持つとたわみがあって持ち運びにくいため2人で運ぶ。倉庫もそこまで広いわけではないため、場所の確保を試行錯誤しながらしまっていき、そして最後の1枚をしまうところまできた。
「どう?そこにいけそうかな?」
「ちょっと狭くて入らなそう・・・」
「あー、あと1枚なのに・・・」
うまいこと重ねながら同じ場所に入れてきたが、最後に1枚でそこにうまく入らない。もともとは結構バラバラの場所にあったけども、せっかく同じものなんだし、同じところに収めたいなあと思い。
「うーん、どうしよう・・・」
「そんな無理に入れなくてもいいんじゃ」
「でもこっち側に置くとステージ用の舞踏棚を修理するときにいちいち出さないとだし・・・あ、これを詰めてみたら少しはこっちもスペース空くかも」
動かせそうな舞踏棚を動かす。実際役者が踏みつけても大丈夫なくらい感情でないといけないため、こっちは分厚いコンクリートパネルで作っているためそれなりに重さをある。
そんな感じのため、手と足を使いつつ、動かしていく。あ、思ったよりうまく動かないな・・・。
「高森さん、手伝おうか?これでも一応男だし、力仕事だから・・・」
私が苦戦しているのを見かねたのか、彼がそんなことを言ってくれる。ただ、表情は少し硬い表情をしているようにも見えたため、私は尋ねる。
「どうしたの?何かある?」
尋ねた時、私は手を離したのがいけなかった。
「え、いや、なんでも、・・・あっ!!後ろ!」
「え・・・?」
彼のいきなりの言葉に、後ろを振り向いたときには事態は動いていた。詰めようとしたことにより、バランスが悪くなったいた舞踏棚が、私の手の支えがなくなった瞬間、私に向かって倒れて来ていた。
それに気が付いた時には、目を瞑り両手で頭を隠し、その場で尻餅をついていた。私は逃げるということを忘れ、反射的な防御本能だけが頭を巡ったのだろう。
・・・・・・。
・・・あれ?痛くない?そう思い目を開け・・・。
「!!」
私は声にならない声をあげる。だって・・・。
簡潔に状況を説明。板倉くんが私を覆い、倒れてきたそれを受け止めていたのだった。
「・・・」
衝撃的な状況に私は言葉を失う。だって、こんなの、ウソ・・・。
「・・森さん、今のうち・・・戻して・・・」
そんな私とは違い彼は冷静だった。高さ180㎝、幅90㎝のそれを3枚も背中で受けていて何も気持ちが変わらないはずがない。それでもだった。
「あ・・・」
そんな彼の言葉に私も自我をようやく取り戻し、まだ恐怖に慄く体を必死に動かし、彼の言葉通り1枚1枚それを立てた。
「板倉くん!」
戻し終わった私は彼に駆け寄る。その時は私のせいでどうにかなってしまったら、そんな気持ちが心の大部分を占めていた。
「・・・だいじょう、ぶ、だよ」
ふうっと一息吐き、彼はゆっくりとその場に立った。
「ホントに大丈夫・・・!?」
「あ、う、うん・・・。痛いけど・・・どこかに何かあったわけじゃないと思う」
「本当・・・?」
「うん。ごめん、心配かけて」
「ごめんって!私がそれは・・・」
「いや、まあ、うん。最初から手伝ってればこんなことね・・・」
「そんな・・・だって無理に詰めようとしたのは・・・」
私はまだそんな、終わったことに対して何かを言い続けた。きっと私のせいにしてくれないと私は納得しなかったからだろう。それがただの自己満足だったとしても。
そんな私の言葉に答えず、彼は舞踏棚を元通りに揃え、入らなかったパネルもその前に置いていた。私はその間顔を俯かせていた。
「これでいいかな?入らないのはもう仕方ないよね」
「あ、うん・・・本当にごめんなさい」
「あ、その、まあ・・・とにかく高森さんにケガなくて良かった、よ」
謝罪をする私に対して彼はそんな優しい言葉をかけてくれた。そこで私は気が付く。彼は自分の身を投げて私を助けてくれたことに。仮に舞踏棚が倒れたことは誰も悪くないことになっても、それだけは紛れもない事実。じゃあ私が言う言葉は謝罪じゃなくて・・・。
「・・・ありがとう」
罪悪感もまだありつつのそれになったため、なんとも言えない感じではあったけど、伝えられた。
「あ、うん、どう、いたしまして。女の子を助けるのは、その、男の仕事って・・・ほら、そういうのよくあるし・・・」
照れながらも彼はっきりと言葉にした。そんなことを言われた私には罪悪感はいつの間にかどこかへ消え去り、他の感情で心が満たされて行くのに気が付いた。
そう言えば前に、自分は困っている人を放っておけないとか言ってたし、いざと言う時には、肝心なところではちゃんと自分の意思で、判断よく自分を動かしていた。
だから彼は、初めて会ったとき、この倉庫に私が閉じ込められた時、私を必死になって助けてくれたのだろう。今回もそうだ。危険を顧みず、私を助けた。なおかつ、倒れてくる舞踏棚をきっと支えるのは無理と咄嗟に判断したのだろう。止めるのではなく、背中で受け止め私も自分も最低限のケガだけにとどめた。
それに比べて、私は・・・そんな状況に出くわしたらどうだろうか?助けることは出来るだろうか?疑問符が付く。それに私は、何かと大事な時にダメなことが多かったかも知れない。受験の時に寝坊したり、舞台本番前に熱を出したり・・・。
他にも、彼は私に持っていないものを多く持っている気がする・・・。
一度目で助けられてから今までは、好きだとか、恋だとか、そういう気持ちがよくわからず、『気になる人』止まりだった。でも私はこの時、二度目ではっきりと自覚した。『優しさの中に強さを兼ね備えた』彼が本当の彼であるということを。そして、私に持ってないものを多く持つ、そんな彼を私は今日、はっきりと『好き』だと自覚した。
43話目にてついに美結ちゃんが勇人くんを「好き」ということに・・・!予定通りの展開ではありますが、ここまでたどり着くのにずいぶん時間がかかってしまったなあと(笑)
最後の美結の自分語りのシーンが少し長くなってしまいました。色々彼女の思いについて書きたいことを書いたら少しではまとめ切らずにこうなってしまった感じです(;'∀')表現の仕方も何かと難しく、もしかしたらうまく伝わってないかも知れませんが・・・。
次回以降、美結ちゃんの気持ちがどうなるか楽しみですね!