私たちの「舞台」は始まったばかり。~in University~ 作:かもにゃんこ
今回は勇人くん目線の、THE・演劇回って感じの物語です('ω')ノ
文化祭の舞台に向けての稽古を始めてから早1ヶ月半ほどが経ち、いよいよ本番まで残り20日を切った。
もともと長い台本ではなかったとのことではあるが、高森さん曰く「思ったよりもかなり順調」に来ていたらしくつい昨日、始めての通し稽古を行った。
感想は・・・正直なかなか難しかったという感じ。今までの練習でやった場面場面を繋げただけと言えばそうだったけど、いざそれぞれのシーンを繋げてみると今までやったことはうまくいかなかった。だから僕にとってはとにかく時間があることが救いだった。
そして今日も運動や発声等の基礎的な練習を行った後、通し稽古を行うことになった、のだけど・・・。
「ねぇ、美結ちゃん」
「どうしたの?」
始まる前の休憩中、柴田さんが高森さんに話しかけている。少し改まった感じだったのでなんだろうと思い、耳を傾ける。
「あのさ、昨日は時間もあんまりなかった私言わなかったけど・・・あ、ハヤトくんのことだからハヤトくんも聞いて!」
「え?」
いきなり自分の名前が出て、少し驚く。
「ああ、ごめん!そんな身構えなくても大丈夫だよ!私もなんか話し方が真剣になり過ぎちゃったから!」
「あ、う、うん」
この時点ではいったい何の話なのか、全然わからない・・・。
「じゃあ言うけどね、今までの稽古を見ていても思ってけど、あんまりアレコレ言うのもアレだったから言わなかったけどね」
「うん」
「通し稽古をやっててね、動きもそうだしセリフもそうだし・・・なんていうかね、全体的に小さくまとまり過ぎてるかなって思ってね」
面と向かって柴田さんにそう言われたのは始めてだったけど、実は高森さんには似たようなことを言われていたし、自分でも少し感じてる部分はあった。
「それでね、まあ美結ちゃんから言わないのに私から言うのもなあって思ってたけど、袈裟稽古をやってみてもいいかなって思って」
ゲサ?ゲイコ・・・?って、言ったのかな・・。?初めて聞いた言葉になんだろうと思っていると。
「ああ~!そうきたかあ」
突然高森さんが、扇風機で言ったら「強風」のスイッチに切り替わったみたいにいきなり大きめな声を出す。
「どうかな美結ちゃん!」
「うーん、私もそのあたりはどうしようかなって思ってたいたけど、その考えは思い浮かばなかったなあって感じだから正直どうって言われてもね、あはは」
「そっかー!でも他にいいアイデアもないなら試しにやってみてもいいかなって思わない?」
「確かにそうかも」
とまあ僕だけなんだかわからないまま2人の間で進んでいる。うん、まあ、僕は初心者だし、2人が言うことに基本従えばいい部分はあるけど・・・。
「えっと・・・一応、そのゲサ?稽古ってなんなのかまず知りたいというか・・・」
やっぱり知りたいものは知りたい。思い切って2人の話に割って入る。
「ああ、ごめんごめん。ついつい2人で話が盛り上がっちゃって」
「だね~!うん!ちゃんと説明しなきゃね!」
というわけで高森さんを中心に、柴田さんも補足を加えたりしながらの説明を簡単に受けた。
ゲサ稽古・・・「ゲサ」とは要は「大袈裟」の「袈裟」ということ。とにかくなんでもかんでも、動きでもセリフでも大袈裟に表現をすると言えば分かりやすいか。
「今まで言われたことを無視して、とまではいかないけど、喜ぶときは大きく喜ぶ、怒るときは大きく怒るとか、そういうイメージだね」
「恥ずかしいとかそういうのも振り払ってさ!大きく表現、だね!」
2人の説明を聞き、なんとなくだけどだいたいわかった。
「出来るかどうかは・・・うん、わからないかも知れないけど・・・今のままじゃ自分もうまく出来てないのは感じてたし、袈裟稽古、やりたい」
僕は決めた。気持ちだけでもそういう気持ち、大袈裟にやろうという気持ちになれればもしかしたら「化けるヒント」がわかるかも知れない。だからやることを決めた。
「そっか、なら1つしかないね。ね、裕美子ちゃん」
「ねっ!やってみよっか!」
というわけで2人の同意も得られ、袈裟稽古を始めることに。
「じゃあさっそくやってみようか。まずはこの場面からこれくらいでいいかな?別に全部やらなくても少しだけやって何か掴んでくれたらって意味だしね」
「あ、なるほど・・・」
てっきり自分では通し稽古をやる中で僕だけが袈裟稽古をやるものだと思い、かなり気合いを入れたというか身構えている部分があったので少しホッとした。確かに自分としても少しだけやって何か掴めたら全体的にもうまくいくイメージが出来るかも、と思う。
「準備は大丈夫かな?」
「大丈夫」
「じゃあ始めよう。はい!」
× × ×
「はい、終了」
「うーん、私的にはもう少しかな?って思ったけどな~!」
「だね、もっとやって大丈夫だよ」
「う、うん。わかった」
× × ×
「はい、そこまで」
「もっともっと!」
「え、もっと?」
「うん!もうほら!もっと殻を破るを感じだよ!」
× × ×
「終、了・・・うーん」
「だねー・・・」
「どうしようかなあ」
「だねー・・・」
2人が悩むのも、自分でもなんとなくわかる。どうにかこうにかやろうとは思っているけども、何かうまくいかない。
「どうすれば伝わるかなあ」
「袈裟稽古が悪いのかな?」
「なんか、ごめん、うまく出来なくて・・・」
せっかく協力してくれる2人に悪いと思った僕は謝罪を口にする。でも本当はそんな言葉じゃなくて成功させることが一番だよね。
やるしかない。2人のためにも、何かを掴むためにやるしかない。
「もう1回、もう1回だけやりたい」
僕は次がラストチャンスと自分に言い聞かせた。
「うん、わかった」
「よし!頑張ろうね!失敗してもいいって感じで、もうどうにでもなれ!って感じで!」
どうにでもなれ、か・・・そっか・・・。
「じゃあ、はい、始め!」
ええい!もうどうにでもなれ!
何か、心の中の枷というか重い鎖みたいなのがそのとき外れたような気がした。
・・・なんて、ちょっと厨二秒っぽいなんて感じだけど。
× × ×
「はい、終了・・・」
やり過ぎた・・・。どうにでもなれ、と思って望んでやった結果、どう考えてもやり過ぎてしまった。さっきまでは全然大袈裟に出来なかったとは言え、いくらなんでも、という感じ。
2人を見ると少し驚いた表情で顔を見合わせていた。まあ、うん、そうなるよね・・・。
そんな2人に僕は「ごめん」とまた、そう言おうと思ったら・・・。
「良かったよ」
「うん!そんな感じそんな感じ!」
「今の感覚、忘れないで欲しいなって」
「・・・え?」
思いもよらぬ言葉に僕は戸惑う。あれ・・・?
「いや、その、さすがにやり過ぎたかなって、自分では思ったんだけども・・・」
そんな僕の言葉にまた2人で顔を見合わせた後、今度は笑顔になって・・・。
「そのくらいそのくらい!」
「だね。むしろ私が袈裟稽古やれって言われたらそんなもんじゃあないくらい、取り返しがつかなくなっちゃうくらいになっちゃうよ、あはは」
笑ってそう話す高森さん。それはそれでちょっと見てみたいかもとも。
「今やってもらったくらいの勢いというかセリフ廻しや動きの感じで、全場面やってくれたらって感じかな。もちろん全部が全部ってわけじゃないから、都度都度そこは言ってくね」
「わかり、ました」
「じゃあ時間もまだあるし、その勢いで通し稽古やっちゃおう!」
「え、いきなり?ちょっと考える時間とか・・・」
「余計なことを考えない方がいいかもね。勢いに任せて今すぐやっちゃおう」
結局、そのまま通し稽古をやったのは結果的には良かった。さっきの感覚を忘れずに今までよりはしっかり演じれたから。袈裟稽古を提案してくれた柴田さんにも、それを了承してくれた高森さんにも感謝。
本番までの練習の中で、自分の中で転機になった日であった。
久しぶりの練習回、そして一応最後の練習回でもあります。次回が本番というわけではありませんが、いよいよ本番も近いかなって感じです(^o^)/
「袈裟稽古」という用語を出しましたが、ネットで色々調べたところ、どうやら一般的にはそういう言葉ないみたいで少しびっくりしました(°д°;;)自分が所属した演劇部では普通に使っていた言葉でしたので。
まあ、意味は作中の説明通りなんで、うん、はい(笑)