私たちの「舞台」は始まったばかり。~in University~ 作:かもにゃんこ
「ん・・・」
いつもけたたましく鳴る目覚ましの音を聞く前に目が覚めた。
だた、良く寝れたからではなくどちらかというと目覚めはあまり良くはない。
「うーん・・・」
少し疲労感の残る体を起こし布団から出て身支度を始める。
そう言えば昨日は布団に入ってから明日のことが頭をぐるぐると周り、中々寝付けなかった。
今まで、中学生の頃から演劇をやって来て何回も何回もこの日、本番の日は迎えてきた。
今までは特にこんな気持ちになることなんてなかったけれども・・・うーん、なんだろうか。
「・・・まあ、気にしても仕方ないか」
そうボソッと呟き顔を洗う。ただ、そう思ったのはいいものの、なかなか昨日からのモヤモヤした気持ちは晴れず、そのままの感じで大学へと向かった。
× × ×
大学の文化祭は高校のとは違い強制ではなく基本自由参加。それでも有名人がゲストに来たりするため、それなりの数の生徒はこの学祭に来ているのだろう。
その中で果たして我が演劇部の公演を見に来てくれる人はどれくらいいるのか、そしてその中でもさらに演劇部に入ってくれるような人はどれくらいいるのか。事前に宣伝はかなりやった。掲示板で告知をしたり、チラシを配ったり、休み時間で叫んだり(笑)、出来る限りのことはしたつもり。後は私たち自身がしっかり結果を出すのみだ。
「おはよー!」
「おはよう由依ちゃん」
「おはよう!今日よろしくね~」
「よろしく、お願いします」
開演30分前、私たち3人と、そして最後に裏方を務めてくれる由依ちゃんが合流。
「おおー!みんなもう本番衣装に着替えてるんだ!いいね!」
「由依ちゃんは今日もバッチリ裏方衣装だね」
「ふっふっふ!間違ってもお客さんから見えちゃあいけないからね!」
ドヤあ・・・という感じで誇らしげに話す。こんな簡単な仕事でも、きっちりやってくれるけとが本当に嬉しい。
「本当はこの顔も隠れるようなフェイスマスクもした方がいいかなって思ったけどなあ~!」
「いやいや!それ完全に犯罪者みたいじゃん!」
「それはそれで面白そうかも・・・?」
「おっ!言うね、板倉くん!なんなら今からでも遅くないぜ?」
とまあ2人も由依ちゃんとはすぐに仲良くなったみたい。まあ由依ちゃん愛想いいし、優しいし、頼りになるしね。私ご自慢の由依ちゃんだから。って何言ってるんだ。
開演20分前になるといよいよ開場。役者の私たち3人はお客さんから見えない舞台の裏側へと移動。受付のところには由依ちゃんにいてもらう。
「お客さん入ってるかなー?」
開演してからしばらくした後、小声で裕美子ちゃんが話しかけてくる。お客さんの入りは私も気になるところなので最初から耳を済ませ、とりあえず音だけでも聞いていた感じは・・・。
「私の感覚的には10人は最低でもいるかなって感じ」
「本当に?思ったよりも入ってるかも!」
まああくまで感覚、というか勘なのでわからないけども。
それからまた時間がたち暗転。いよいよ開演1分前に。
「よし・・・頑張ろう」
小声で最後の言葉を交わし、最初のあらすじを言う裕美子ちゃんが舞台へと向かう。声は聞こえなかったけども、口の動きからは「頑張るね」と言ってた気がする。
私は、というと昨日からの変な緊張感みたいなのは結局ここまで消えない。でももうどうあがいても舞台は始まる。どうしようどうしようと思っても仕方ない。私は無理やり、気合いを入れ直す。
「(やらなきゃ・・・!お客さんだってきっと入ってる。しっかりしろ!)」
蛍光灯が点き、いよいよ、いよいよ舞台の幕は開けた。
『むかしむかし、ある森のはずれに・・・』
裕美子ちゃんの安定感のあるあらすじから舞台はスタート。本当に、彼女の演技の安定感は凄い。
このいい流れに私たちも乗らなきゃ。
あらすじも終わり、私と板倉くんも暗転の中いよいよステージへ。2人で一度顔を見あわせ、うん、と頷き暗転後のステージへと向かった。
明転後、もちろん演技をスタートするが、まず観客席が気になった私はそれが目に入る。
予想以上、と言っていいかも知れない。用意した座席30席はほぼ埋まっていた。
『私たちだけでも生きて行くのに精一杯だわ。もう限界よ』
『そうは言ってもなあ』
序盤は私の一人舞台、父・母の演技が行われる。練習通りうまくいっている・・・いや、何かいつもよりもセリフが早い。ゆっくり、ゆっくり言わなければと言い聞かせつつも、気持ちが先走ってしまう。
『・・・本当にいいのか』
『そう言わないで頂戴。私だって罪悪感がないわけじゃないのよ』
『・・・わかった。じゃあ明日の朝、あの子らには俺から言う』
『心変わりしないでね』
『・・・わかっている』
ヘンゼルとグレーテルを森の中へと置き去りにすることを決めたところで私はいったんステージからはけ、ヘンゼルとグレーテルだけの出番となる。
舞台裏に戻った私はふっー、っと一息吐く。
セリフが先走ってしまう原因はなんだろう。お客さんが思ったよりも入っていて気合いが入り過ぎたのか・・・いや、原因なんて別になんでもいい。ここで一度気持ちをリセットして望まきゃ。
そう改めて自分に言い聞かせた美結であったが、気持ちは落ち着かない。もちろん、自分の中ではリセット出来たとは思い込んではいるのだが・・・。
『お兄ちゃん、どうしよう』
『大丈夫だよ、絶対捨てれなんてされないように僕がなんとかするから・・・』
気持ちを整理しつつ、私は2人の演技を見る。2人とも練習通りにしっかり出来ている。いや、裕美子ちゃんに至っては練習以上に感じる。きっと彼女は私と違ってあのお客さんの数を見て、さらにいい演技を出来ているんだ。私だって負けられない。
舞台は再び暗転し、森へ出かけるシーンへと移る。このシーンは少し特殊へ演出を加えている。
『寒くないように、たき火に当たって待っていなさいね。お母さんとお父さんは少し離れたところで良さそうな木を切っているから』
『うん、わかったよ、お母さん、お父さん』
父・母二役である私は一旦舞台からはけ、舞台裏を通りさらに談話室をからも出て、ステージとは逆方向にある入り口から入ってお客さんの後ろへと移動。2人が遠くで木を切っている演出という感じ。これは私ではなく裕美子ちゃんが考えてくれた。
入り口のところで、蛍光灯のスイッチの近くにいる由依ちゃんと目が合い、彼女の口が動く。さすがに本番中なので声を出してはいなかったけど、「ガンバ!」って言っているような感じで、また一層気持ちが入る。
『それ』
『はい』
『もう1つ!』
私はそうセリフを言いながら、小さな木材を叩く。そのセリフや音にお客さんも後ろを振り向く。「へえー」とか「なるほど」とか呟いている人も。演出成功だね、裕美子ちゃん。
場面は進む。一度は家に戻ることが出来た2人ではあるが、それでも諦めない両親はついに2人を森へと置き去りにする。そして2人がたどり着いた先にお菓子の家があり、そこへと入り・・・というところまで順調に舞台は進む。
『これ食べられるみたい・・・』
『本当に!?』
『うん、大丈夫そうだよ』
『やったー!』
お菓子の家は舞台にはないけども、私はまるでそれがそこにあるかのような演技を目指した。それに逆に何もない方がむしろ「見せる演技」が出来るかなとも思うしね。
衣装チェンジも済み、いよいよ私は悪い魔女として舞台に上がる。この話のこれからの舞台を盛り上げるも盛り下げるも私次第というのは稽古をしてわかった。
だから私が頑張らなきゃいけない、やらなきゃいけない、2人の為にも私は・・・。
美結はそんな色々な思いを抱えながら舞台に上がる。
『私の家に何か用かしら?』
『きゃあ!』
『うわあ!・・・って、あっ・・・すいません!お腹が減っててつい食べてしまって・・・』
『ふーん、お腹が減ってたら人のものを食べていいんだ』
『じゃあ私も、あなたたち美味しそうだし食べちゃおうかしら?』
『え・・・』
『・・・なんてうそうそ!いいわよ好きなだけ食べて食べて。君たちみたいな子に食べてもらう為に私は魔法で作ったのだから』
『本当に!?ありがとうお姉さん!』
『ありがとうございます』
『いいのいいの。ほら・・・』
・・・ほら?ほら、なんだっけ・・・?え、ウソ・・・ウソ、ウソ、ほら、ほら・・・何・・・?ダメ、ダメ、このままじゃ・・・何か、何か、言わな、きゃ・・・。
私は演劇を始めてから、初めて舞台本番でセリフを忘れたのだった。・・・ウソ、ウソ、ほら、ほら・・・何・・・?ダメ、ダメ、このままじゃ・・・何か、何か、言わな、きゃ・・・。
私は演劇を始めてから、初めて舞台本番でセリフを忘れたのだった。
まさかの展開になったところで終了です。こうやって続きがどうなるの!?というところで終わりにするのはある意味テンプレですよね(笑)
今回の舞台本番は、前回とは違い物語の一部として書かせていただきました。もちろん、一部一部を切り取って書いてるだけですし、あくまでもメインは「美結の気持ちの中」を表現するための材料という感じですね(^-^)g"
では気になる続き、次回でお会いしましょう!