私たちの「舞台」は始まったばかり。~in University~ 作:かもにゃんこ
お話自体は前回の本番の続きです。美結ちゃんがセリフを忘れた、というところで終わり、続きはどうなるの?って感じでしたね('Д')
後書きは少し長めに書いてます。良かったらそちらも読んでくれたら嬉しいです(^^♪
『グレーテル、これ美味しいよ。ほら食べてみて』
『え!?あ、う、うん!ありがとうお兄ちゃん!』
・・・繋いでくれたの?
『本当にありがとうございます。このままどうにかなってしまうかと』
『うんうん!お姉さんありがとう!』
板倉くんと裕美子ちゃん、もとい、ヘンゼルとグレーテルはそうセリフを言いながら、私に「気にしないで」と言っているような気がした。・・・ってそんなこと考えてる場合じゃない。私、話しかけられてるんだから答えなきゃ!
『たくさんあるのだからいくらでも食べてちょうだいね』
そこまで言ってさっきのセリフの続きを思い出す。よし、なんとか元通りななりそう・・・!
『なんだったら2人の好きなもの、今すぐ出してあげられるわ』
脱線をしていた話が元通りになり、私がセリフを言った後2人も少しホッとした表情に読み取れた。
このシーンはあらかじめ私がこの緩い衣装の中に隠してあるお菓子を魔法を使って出すという感じ。もちろんアドリブではなく、セリフの中にしっかり組み込んでいる。
そして取り出したそれを2人が実際に舞台上で食べる、って感じ。
『はい、どうぞ』
『わーい!ありがとう!』
食べるグレーテル。
『うわあ!辛いよお!ゲホゲホ!』
『あら?何味かは特に言われなかったので激辛のを出したの。嫌いだったかしら?』
『ゲホゲホ!う、うん・・・これはちょっと・・・』
ちなみに食べたお菓子は某〇〇〇棒。ちょっと面白そうかなって思って当日まで何味を出すか裕美子ちゃんには黙ってました。だから多分、本当に本気でむせてる、と思う。ごめんね裕美子ちゃん。
観客からも笑い声が少し聞こえてるところからうまくいったのかなと思う。ちょっとギャンブル的かなとは思ったけど。
私は演じながらそう言えば何か朝から感じていた変な気分というか、何か重い気持ちはすっかりなくなっていることに気がついた。
今思えば気負い過ぎていたかも知れない。どうしても今回の舞台は成功させなくちゃ、私が2人を引っ張らなくちゃ、そんなことを考えすぎて最初の方は何かうまくいかなかったし、挙げ句の果てにはセリフまで飛んでしまった。
自分を追い込み過ぎたっていい演技なんて出来るわけない。もっと2人を信用して、頼って、そう望むべきだったかなって。
舞台は終盤へと進む。ここから少し原作と異なっていく。
『そう言えば人食い魔女がいるって前聞いたんだ・・・!』
『え!?じゃあ私たち食べられちゃうの!?』
『きっとそうだ。美味しいお菓子をたくさん食べさせていい具合になったところで食べる気なんだよ。だって考えたらそんないい話があるわけないもの』
『お兄ちゃん・・・』
とまあ、人食いだとヘンゼルは言うが、実は本当はただの優しい魔女という設定。2人は勘違いをしているだけって感じ。
結局、原作通り2人は魔女を陥れ、魔女は亡くなる。だが家に帰った2人を待ち受けたものは。
『・・・返事がない』
『お父さんとお母さんどこ言っちゃったの?』
そう、2人はもう完全にヘンゼルとグレーテルを拒絶するため、住んでた家から立ち去ってしまっていた。
ただ色々あって心身ともに強くなった2人は、なんとか残されたその家で暮らしていく。そして何週間かたったある日、市場に出掛けた2人は・・・。
市場のシーン、ざわざわとしたBGMの中2人は上手から登場。なにやら婦人たちが話しているのが耳に入り立ち止まる。
『あなた!聞いたかしら?』
『え?何をよ?』
あ、ちなみに婦人たちは全て私の声。舞台裏から声だけで出演、という感じ。
『あの、ほら、森にいた魔女!誰かに殺されたらしいわよ』
『ええ!そうなの?あのお菓子の家の!』
『そうそう!お菓子の家の!優しい魔女で私も子供の頃はお世話になったから悲しいわ』
『そうなの?』
『そうなのも何も、親がいなくなってずっと育ててもらったから親みたいなものよ』
『あらそう言えばそんな話結構あったわね』
『確かにそうねぇ。残念だったわねぇ』
その話を聞き2人は婦人たちへ問い詰めるが、それは紛れもない真実から変わることはなかった。
『ああ・・・僕らは自分たちを苦しめただけでなく、とんでもなく取り返しのつかないことをしちゃったんだ・・・』
『お兄ちゃん・・・私たち人殺しなの・・・?』
『ああ、そうだ・・・罪のない魔女を殺してしまったからね・・・』
暗転。そして最後に私の語りで舞台は幕を閉じる。
『悲しみ、後悔、絶望・・・色々な負の感情に包まれてしまった彼らを、翌日以降に見たものはいなかった。もしかしたら、違う世界でまたあの魔女に会える、会ってすぐにでも謝りたい、そんな気持ちから彼らはこの世を去って行ったのかも知れない』
× × ×
無事、いや、途中色々あったけども・・・まあ最終的には拍手に包まれカーテンコールを迎えたので大成功と言っていいだろう。そんな私たちの初めての舞台が終了し、今はその余韻に3人で浸っている。
「美結ちゃん朝からなんかいつもと違ってたからさ、始まる前からハヤトくんとちょっと心配してたんだよねー?」
「あ、うん。なんか大丈夫かなって」
ありゃりゃ、2人にはそんな感じで見られてたんだ・・・。でもあの時に何を言われてもあの状態じゃ聞かなかったなあとは思った。
「なんか色々ごめん」
「いいのいいの!美結ちゃんもあれからはめちゃくちゃ凄かったなあって一緒にやってて思って、私も、って思わず引っ張られたもん!」
「あはは、それはありがとう。なんとか取り返さなきゃって思ってね」
仮にあそこでセリフが飛んでなくても、あの精神状態じゃどこかで何か起きていたのは間違いなかっただろう。
「それにしてもさ、ホントにハヤトくんには助けてもらったよねっ!まさか美結ちゃんがセリフを忘れるなんて思いもしないからさ、私びっくりしちゃってうまくフォロー出来なかったのに・・・」
「あ、いや、そんなに大したことないけども・・・」
そう裕美子ちゃんに言われて思い出す。本番中は必死で気が付かなかったけども、私の失敗を助けてくれたのは彼だった。
パネルを塗った日に助けてくれたの続いて、またも私を・・・そう考えると急にドキドキしてしまう私がいる。
「大したことないなんてないって!ね!美結ちゃん!」
大事なところで失敗する私と、それを取り返してくれた彼・・・。そんな彼に私はまたも惹かれていく・・・。
「美結ちゃん・・・?」
「・・・へ?」
・・・あ、やばい。妄想に耽ってて話しかけられていたことに気が付かなかったみたい・・・。
「えっと、ごめん、何かな?」
「フォローしてくれたハヤトくん、自分では大したことないって言ってるけどさ、凄かったよね!って!」
そう笑顔で言われ板倉くんの方を見る裕美子ちゃん。その目線に釣られ、私も彼の方を見てしまうが・・・。
「・・・!!」
ヤバい、こんな精神状態で目なんて合わせられない!咄嗟に目線を逸らし、心を整える私。いつもの私に戻らなきゃ・・・。
一つ二つ呼吸をし、落ち着かせる。そもそもよくよく考えたら、いや、考えなくても助けてくれた人にお礼すら言ってないのはまずダメだよね。
「・・・ありがとう」
それだけだったけど、私の気持ちを伝えるのには十分だったと思う。
「あ、いや、うん。なんていうか、夏休みにやった即興が生かされた、っていうか、ね」
そう言えば裕美子ちゃんが不在の時はかなりやったなあ、と思い出す。結構めちゃくちゃなお題とかもやったりしたしね。まさかアレがこんなところで生かされるなんて。
「だからなんていうか、こんなこと出来たのはそもそも高森さんのおかげっていうか・・・」
そう話彼は少し恥ずかしそうに、私から少し目線を逸らす。そんな彼の姿に私はせっかく整理した気持ちがまたも高ぶっていくのに気が付く・・・。
さらに私はそんな彼を見て、私は・・・もしかしたら、本当にもしかしたらだけど、彼も私を・・・じゃあ私は・・・。
・・・って、だからダメだって!2人きりならまだしも裕美子ちゃんだっているし!いや、2人きりならいいってわけじゃないけども!
「まあ、うん、何にせよ、うまくいって良かった良かった」
今の気持ちを振り切り、笑顔でそう話す私。
「失敗した人がそんな開き直って言う~!?」
「あはは、とにかく今日はうまくいったしさ、これからも3人で頑張らなきゃね」
私はそう何気なく言っただけだったが・・・。
「3人、でね・・・」
「・・・裕美子ちゃん?どうしたの?」
裕美子ちゃんの表情が明らかに変わる。まるであの、夢を語ってくれた時の、最後に見せた暗い表情に・・・。
私の中に嫌な予感が駆け巡る。
「ごめん、言おう言おうと思っていたのだけど・・・2人とも楽しそうだし、何か言いにくくて。でも言わなきゃいけないことだから、言うね」
ふうっと一呼吸した裕美子ちゃんは話す。
「私ね、今日を持って演劇部辞めることにしてたの」
「え・・・?ウソ・・・?」
口には出してなかったけども、板倉くんも同じような表情をしていたと思う。
「ウソなわけないじゃん。ゴメン、本当に」
「理由・・・!理由くらいは聞いてもいいよね?」
さすがに何も聞かないでって言うのは嫌だ。もし、私が悪いなら、もしかしたらと思うし・・・。
「・・・前にさ、声優目指してるって話したよね」
「う、うん・・・」
「私ね、今凄いチャンスなんだ。クラスもここに来てどんどん上がるようになって。それでね、そんなときにね、養成所の友達に凄く有名な声優さんがやってるレッスン所を紹介されて、通わないかって言われて・・・」
「誰でも通えるわけじゃなくて、本当にその人が目をつけてくれた人しか通えないような感じで。こんな後押し逃すわけにはいかないじゃん、って・・・」
そっか・・・。そうだよね。無言のままの私たちに裕美子ちゃんは語る。
「私、絶対に声優になりたいんだ。私ね、前は・・・中学生くらいまでは凄く引っ込み思案とかいうか、暗いキャラだったの。でもそれじゃやっぱり友達なんて出来ないし、そんな自分を変えたくて。じゃあどうしようって思いついたのが、アニメのキャラを真似ることだったの」
「明るい感じで話すにはどうしたら、どんな感じで話せばいいのかって。最初はもちろんうまくいかなかったけどね、だんだん慣れていくうちに演技が板に着いて来て、中学卒業する頃にはまるで本当の自分なんじゃない?ってくらいになって」
「それで高校入学を気に、完全に明るいキャラで行こう!って決めて。明るいだけで本当に友達が出来るし、毎日凄く楽しくなってね。ああ、私はアニメに、キャラクターに、そしてそれを演じる声優さんに救われたなあって。だからね、ちょっと臭い話かも知れないけど、やっぱり自分を助けてくれた、そんな仕事に憧れて、どうせ追いかけるなら絶対になろうと決めたから・・・!!」
最後に、力強くそう締めた彼女はもう何も迷うことのないような、そんな目をしていた。前に少しだけ聞いたことに追加して、更にそんなことがあって夢を追いかけていて、そしてそれがすぐ近くまで、届きそうな位置まで来ていることに、私が納得したというか、ただただ凄いと思わざるを得なかった。
「私ね、今だって演技してるんだよ。2人と初めて会った時からずっとだからね。いつもの明るい裕美子は作った私。ホントの裕美子は今だって暗くてネガティブな私。今日だってホントはずっと失敗しちゃダメ、失敗したらどうしようって、ずっと思ってたからね」
「凄い・・・全然わからなかった・・・」
素直に驚く板倉くん。私だって、明るい彼女が本当の彼女だと思っていたから驚く。
「私も。なんていうか、そこまで出来るのって才能なんじゃないかって思う」
「あはは、ありがとう。私もね、いつかは演じてる自分が、本当の自分になれたらいいなって思うんだ」
最後にそう話し、『本物の裕美子ちゃん』はいなくなった。
「・・・なんか長くなっちゃったけど・・・そういうことなんだ。本当にゴメン!」
「ううん、色々話してくれてありがとう。何も聞かないでいなくなっちゃうよりも全然気持ちは楽だよ。むしろ頑張ってって思うからさ」
「夢がさ、叶いそうならそっちを頑張って、って感じかな。僕も応援する」
板倉くんも、私と同じ気持ち。わだかまりもなく、気持ちよく見送れそうだ。
「2人ともありがとう・・・!2人とやった演劇もさ、私にとっては凄く勉強になったには本当だからっ!舞台はさ、すっごくうまくいったし、きっと私以上の仲間だって入ってくれるよ!」
「何それ!あはは」
そう最後は笑顔になった私だったけども、本当の私は重い気持ちでいっぱいだった。3人だったからこそ、裕美子ちゃんがいたからこそ、活動出来た演劇部。3人だったからこそ、始めることが出来たのに・・・。そしてこれからも、3人で力を合わせて・・・そんな時に突如の脱退。重くならないはずなんてないじゃん・・・。
舞台は成功し、さあこれからも頑張ろう、そう思った矢先、私たちの「舞台」は始まったばかりなのに、早くも暗雲が立ち込めた。
タイトル回収、そして長くなりましたがこれにて本編は終了となります。
さて、サブタイトルがタイトルになっているところから、今回は全体の話の「区切り」となります。まあ、舞台本番が終了したところなので、そんなこと言わなくてもわかるとも思いますがね(笑)
20話からここまで、文化祭の本番を目指し進めていた話がもちろん軸ではありますが、もう一つの軸としては「美結が勇人を好きになるまで」も描かせていただきました。本番直前になってその気持ちをはっきりと自覚した美結。ただし裕美子の脱退によってそれはどうなっていくのか、そっちもこれからの楽しみではありますよね(*'ω'*)
次回からは、2人になってしまった演劇部がどうなっていくのかと、固まった美結の気持ちはどうなってしまうのかを軸に話を進めて行く感じです。
では、また49話でお会いしましょう!