私たちの「舞台」は始まったばかり。~in University~ 作:かもにゃんこ
リハーサルが終了した後、特にいつもと変わりになく僕は高森さんと柴田さんと帰り、いつも通り途中で柴田さんは抜け、高森さんとふたりの時間が訪れる。
リハーサルは全体としてはうまくいったとはいえ、自分はいつもと違って感じに少し戸惑ったこともあって多少いつも通りにはいかず明日に不安を抱える部分もあった。
「明日大丈夫、かな・・・」
高森さんに言おうと思ったわけではないが、口から思わずこぼれる。
「大丈夫っていうと、どの辺が心配かな?」
あくまで彼女は冷静に僕の言葉を受け止める。
「うーん・・・どこが、って言われると、って感じではあるんだけど・・・」
「うん」
「リハーサルやって思ったのはやっぱり練習と違う雰囲気でやると何か緊張する、って感じで・・・」
うまく伝えられないなりに僕は伝える。今このタイミングで解決しないと、もう確認するタイミングがないので、搾ってでも言わないと・・・。
「セリフは動きと一緒に、逆もしかりで、そういう感じに覚えた方がいい、って言われてずっとそんな感じでやってたのだけど、いざ場所が変わるとアレ?ってなっちゃってセリフも出てこなくなりそうになったりしたかな・・・」
うまく説明出来ず、長くなってしまったけども、高森さんには伝わっただろうか?
「うんうん、なるほどね。なんとなくわかるかも。あ、いや、私が思ったことがそうとは限らないけどね」
「まあ、うん、セリフを忘れちゃうのは仕方ないと思うよ」
「そう、なの?」
いきなりそんなことを言われ少し驚く。
「そりゃあね、ざっくり覚えればいいだろうって感じで本番に望まれちゃったらダメだけど、かなり前にちゃんとしっかり覚えてくれてたみたいだし、それで本番に突如忘れちゃうっていうのは仕方ないと思うよ」
「・・・そんなものかな?」
「だって人間完璧じゃないじゃん?忘れちゃったものは仕方ないよ。大丈夫、独り舞台もないし、私だって裕美子ちゃんだってフォローしてくれるって」
そう笑顔で話す高森さん。なんか心配してた自分がちょっと馬鹿馬鹿しくなったかも。
「なんか、うん、ありがとう」
「え?あ、いえいえ!」
僕の気のせいかも知れないが、少し顔を反らし、彼女はそう話したような気がした。
「ちなみになんだけど」
「うん?」
「高森さんは今まで演劇やっててそういう場面に出くわしたことはあったかな?」
なんとなく、頭に浮かんだので聞いてみた。
「あるよあるよー。忘れもしない高校1年の文化祭!」
簡単に説明するとこんな感じ。普段は完璧超人タイプだった2年生の先輩が自分の長ゼリフを頭から完璧に忘れた。
舞台には3人くらいいたみたいだけどまさかその先輩がセリフを忘れるなんて想定外だったので10秒くらい静寂が訪れた。
結局、誰も繋げられず一度照明を落とし仕切り直しをしたとのこと。もちろん、違和感抜群の暗転だったため、観客には失敗したと完璧にバレたらしい。
「それは大変だったんだね・・・」
「まあ、大変だったけどね、それがあってからは台本の稽古じゃなくて即興を練習で取り入れるようになってね」
「即興を?」
「うん。みんながみんな、台本人間になっちゃってさ、咄嗟の判断力を付けなきゃってことで今まではやってなかった即興を取り入れることにしたの」
「あ、なるほど・・・」
自分も夏休み中に即興をやったからそれはなんとなくわかる気がする。お題だけ出題、全体のストーリー、次のセリフなんかは全部考えなくてはいけないから。
「それからはね、何回かそんなこともあったけど、即興のおかげでうまく乗りきれたよ。私も、裕美子ちゃんも、特に裕美子ちゃんなんかはそういうの養成所でかなりやってそうだし得意だと思うし、全然心配しなくていいと思うよ」
『次は♯♯(駅名)~♯♯~』
「あ、降りる駅だ」
いつもよりも早く着いてしまったなあとは思ったけど、聞きたいことはだいたい聞けたし、タイミングは良かった。
「じゃあ明日頑張ろうね」
「あ、うん。よろしく」
一言ずつ交わし、その日は彼女と別れた。
× × ×
「おなよう、ごさいます」
本番当日はいつもの部室ではなく、公演を行う談話室での集合。いつもと違う為、なんとなくよそよそしい感じで入ると、すでに2人は揃っていた。
「ハヤトくんおはよう~!」
明るく声をかけて来たのは柴田さん。奥にいる高森さんは気がついてないのかな?僕は認識されないのも何かと嫌なので彼女に近づき声をかける。
「高森さん」
「へ?ああ!板倉くんか。おはよ」
・・・?なんかいつもと違う気が・・・。
「ええと・・・」
「あ、ごめんごめん。なんでもないから、うん。ちょっとお手洗い行ってくるね」
彼女はそう僕と柴田さんに言い残し、部屋を後にした。残った僕たちは顔を見合わせる。
「どう思う?」
「どう、って・・・」
いきなりおかしいとはさすがに言えない。
「何かあったのかなって思って私もハヤトくんが来る前に聞いたんだけどねー、『大丈夫大丈夫。ほら、頑張ろう』って感じで終わってねぇ」
「そうなんだ・・・」
そう言われると深くは無理に聞けないよねと僕も思う。
「う~ん、案外私たちが知らないだけで実は美結ちゃんって本番直前はいつもあんな感じなのかも?」
そう言われた僕はそうかもと思ってしまう。正直、彼女は演劇に関しては大ベテランと言っても言い過ぎじゃないし・・・。
「そんなに気にしない方がいいのかな・・・」
「そなのかなあ~?あはは・・・」
結局、時折いつもと違うなあという部分は見せつつも、彼女は彼女なりに僕らを鼓舞してくれたりもしたし、大丈夫だろうという感じでそのまま本番には望むことになった。
× × ×
『いいのいいの。ほら・・・』
高森さんもとい、魔女のセリフが途中で途切れる。
まさかと思ったけども、間の空き方、彼女の表情と雰囲気、そしてセリフの途中だということを加味するならばセリフが飛んでしまったと僕は瞬時に判断した。
『グレーテル、これ美味しいよ。ほら食べてみて』
何か言って繋げないとと思った時にはすでに口からセリフが出ていた。
僕がアドリブでセリフを言ったことに気がついた柴田さん・・・グレーテルもそれっぽいセリフを言って繋げてくれると、話しかけられた魔女も、セリフを繋げる。そしてセリフを言ったことで思い出してくれたのかはわからないが、魔女は忘れた元のセリフを言うことが出来たのだ。
何で咄嗟にセリフが浮かんだのかは正直わからないけども、きっと夏休みにかなりやった即興が生きたのだと思う。そう思うと高森さんは自分のミスを自分で取り返しとも言えるかなって。
一度舞台からはけた後、僕は舞台裏で1人呟く。
「やっぱり高森さんは凄いなあ」
今さらでもないけども、一緒に演劇やって、本当に僕は彼女の背中を追いかけているつもりでここまで来た。そんな彼女とこれからも、演劇を一緒に出来たらなあと僕は思った。
美結ちゃん・・・(;_;)
やっぱり勇人くんから見たら美結ちゃんはあくまで「仲間」なんだなあ、と言うわけで・・・。まあもちろんそんな気持ちのままで終わらせる気はない・・・はず!
せっかくなので勇人くん側も書いてみようかなと言うわけで今回はこんな感じになりました(^_^)vぶっちゃけこっちが先でも良かったかなー?なんて(笑)
次回こそは本当に本番後になります。