BanG Dream! 星に導かれて 作:さーてぃーふぁいぶみにっつ
☆1
戸山香澄が目を醒ますと、そこは見慣れない天井だった。
上体を起こし、辺りを見回す。見慣れない家具に、見慣れない壁紙。普段、香澄が使っている筈の茶色の布団も、何故かピンク色になっていた。
「あれ…?」
私、誰かの家に泊まったっけ。
まだ少しボーッとしている頭の中をなんとか整理して、寝る直前の記憶を思い出す。しかし、香澄は自分のの部屋の自分ベッドの上で寝た。
どう見ても私の部屋ではない。そう考えた香澄は幾つかの可能性を立てた。
りみちゃんの家かな。
いや、それはないかな。第1、りみちゃんアパートの1人暮らしだし。
なら、たえちゃんかな。
1番可能性は高いけど、そもそも私、たえちゃんのお家に行った事ないし。
じゃあ、沙綾ちゃん?
前に沙綾ちゃんのお家に上がらせてもらった時、こんなベッドじゃなかったような。
「…ということは、蔵かな」
しかし、蔵の割にはかなり物が片付いている。
香澄はこの部屋を
「……なら、これは夢かな」
熟考した上でそんなありがちな結論を出した香澄はーーー変な話ではあるがーーー夢の中で寝ることにした。
そうして布団の中へ潜ろうとすると、1つの物が目に入った。
赤色の星の形をしたギター″ランダムスター″が、ギタースタンドに立てられていた。
「あれ…」
呆然としている香澄を見下ろすように立つランダムスターは、カーテンから漏れた朝日に反射して煌めいていた。
見知らぬ空間の中での唯一の私のモノ。
それに香澄はベッドから身を乗り出し、手を伸ばし、触れるーーー直前だった。
ピピピピッーーー。
「わぁっ!?」
突然鳴り響いた甲高い機械音にビックリした香澄は無様にもベッドから転げ落ちてしまった。
「いた…」
痛みを感じる。ということは、これは夢ではなく現実。
頭から落ちたことによりヒリヒリと痛む鼻を摩りながら香澄は思った。
「な、なに…?」
音の元に目を移すと、そこには小さな目覚まし時計が。可愛いデザインのそれは容赦なく鳴り続いていた。
時間は7:00。机の上に置かれていた携帯電話を手に取りーーー携帯電話は無事に起動できたーーー今日の日付を確認する。1月21日。月曜日だ。
「え……」
ここは誰の家かわからないが、早い内に起きて自分の家に帰ろう。じゃないと学校に行けなくなる。
まだ温もりが残っているベッドから出る。冬の冷たい空気が体を少し起こしてくれる。
扉に手をかけるーーー前に、置かれている赤いランダムスターに優しく触れる。
「……?」
そこで違和感に気づく。
なんだ、この感じ。
これは確かに赤いランダムスター。星のステッカーも貼られてあるし、触り慣れた感触だ。
しかし、
これは戸山香澄のランダムスターだけど、私のランダムスターではない。
形容のし難い違和感に心を舐められた香澄は、その場から逃げるように部屋を後にした。
ーーーその時の香澄は知らなかった。その違和感が、しっかりとした形となって襲いかかることを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おはようございます〜…」
弱々しく小さな声で朝の挨拶を発する。
リビングに入った香澄を出迎えたのは、小柄な少女と香澄とどこか似た女性だった。香澄を見た瞬間、女性と少女は物珍しそうな眼差しを向けた。
「……嘘」
「お姉ちゃんが、ちゃんと起きてる…」
えっ、お姉ちゃん?
香澄は心の中で驚嘆した。見たことのない人から、仲良さげに話しかけられる。
香澄が最も苦手とするシチュエーションだ。
「これは明日は槍が降るわね…」
「それどころか世界が終わっちゃう」
「えっ、ちょっ…」
なにを話しているんだろうこの2人は。
戸惑っている香澄に少女は言った。
「朝ごはん食べよ。じゃないと、幾ら早起きしても遅れちゃうよ」
「あっ、え…」
私は、この人たちを知らない。けれど、この人たちは私を知っている…?
矛盾したその事象は、香澄を益々混乱の淵に陥れていた。
ーーーしかし。
「ほら何をしてるの、
「ーーー」
女性の口からその名が出た瞬間、香澄はハッと混乱の淵から脱することが出来た。
香澄。それは私の名前。ということは、ここは私の家?
少女は香澄のことを″お姉ちゃん″と呼んでいる。ということは、少女は香澄の妹となる。そして女性は、恐らく香澄の母だろう。
乏しい思考力を駆使して、なんとか現在の状況を整理する。
おかしいのは私なのか、それともあっちなのか。そんなのはわかはない。
しかし、ただ香澄には彼女たちが嘘をついてるようには思えなかったのだ。
「うん。そう、だね。ご飯、食べちゃおう」
「なんだか、声が小さいわね。風邪でも引いた?」
「前に声出なくなった時みたい」
この場をやり過ごすには、彼女たちが指摘したような人物像を演じるしかない。
香澄はそう直感して2人の言った通りに声を少し張った。
「そ、そう?」
ライブでのMCを意識して声を出す。と、そこで香澄はいつもはいるはずの人影がないことに気がついた。
「そ、そういえばお姉ちゃん達はどこ?」
「……」
「……」
数秒の沈黙。まるで時が止まったように誰1人として声を発さなかった。
「……はあ?」
そうしてようやく少女が発した声は、随分と間の抜けた声だった。
「なにを寝惚けたこと言ってるのよ。お姉ちゃんはあなたでしょう」
「そうだよ。…なんか今日はいつもに増して変だね、お姉ちゃん」
「変…」
香澄はその言葉に少し傷ついたが、それ以上に自分の姉がいないことの方がショックは大きかった。
片や運動神経抜群な人気者な姉。片や勉強熱心で大学生の姉。
香澄とは対照的な2人ではあったが、大事な姉なのだ。
胸にポッカリと大きな穴が空いてしまったような感覚に陥る。
「そ、そうなんだ…」
「本当に今日の香澄は変ね」
母(仮)の声も、その時の香澄には届いていなかった。
それから朝食を食べた香澄だが、やはり意識は上の空。今自分がいる空間は現実か虚構か、ということをずっと考えていた。
しかし、いくら考えようともこれが現実に思えて仕方がなかった。
食べた物の味はする。
触れたものの温度がわかる。
ならここは何処なのか。
姉たちは何処へ。本当の母と父は何処へ。
母(仮)と妹(仮)の怪訝な視線にも一切気づかないほどに、香澄は混乱した状態で朝食を終えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いくら状況が掴めてないとはいえ、平日ではあるため、学校には行かなくてはならない。
自分の部屋(仮)のクローゼットを開けると、やはり中身は違っていた。制服も、香澄が通っていた学校のソレとは大きく違う。
「あっ、でもコレも可愛いかも」
なんて吞気なことを言えるほどには落ち着いてきた。
制服に着替え、鞄の中に入っている物を確認して部屋を出る。
「い、行ってきます」
リビングからヒョッコリと顔を出す母(仮)に向けて言う。
「うん、行ってらっしゃい」
その時の母(仮)の笑顔は本当に自分の娘を送り出す母の顔をしていて。
それは香澄の本当の母が自分に向ける笑顔と重なった。
「本当に…これは何なの……」
玄関の戸が閉まると同時に震える声で呟く。
拭えぬ不安と焦りを、地震の鼓動の速さで確かに感じながらも、香澄は前を向いた。
きっと、ポピパのメンバーはいつも通りの筈ーーー。
香澄は仄かで微かな光に向かうようにして歩き出した。
ガルパーティで発売されていた漫画版を読んで初めて知ったのですが、小説版かすみんってお姉ちゃんいたんですね。