BanG Dream! 星に導かれて   作:さーてぃーふぁいぶみにっつ

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お久しぶりです。


☆3

その日の練習は香澄抜きということになった。

香澄は何度も謝った。最も、有咲が小言を言う程度で誰も香澄のことは咎めなかったが。寧ろ驚かれた。

どんな時でもランダムスターと共にあった香澄が、ランダムスターを家に忘れてくるなんて。「これは明日はチョココロネが降る」と早朝に母(仮)から言われた似たようなことを沙綾が言うぐらいだ。

 

練習は蔵の中で行われた。蔵の中も随分と変わっていて、香澄が知っている蔵に比べてかなり片付いていた。幾多ものレトロゲーム機の姿はなく、質屋らしいとも言える物が置かれている程度だった。

 

忘れっ娘な香澄は椅子に座って4人の演奏を眺めて聞く。

演奏スタイルは、香澄が知っているポピパとは全く違った。

 

たえはギターの演奏技術が遥かに上手くなっている。元々香澄よりもギター歴は長く、リードを務めるため上手は上手なのだが、明らかにレベルが更に上がっている。エレキに関しては香澄より少し上手い程度だったが、今目の前でギターを弾く少女は別の存在に見えた。

 

りみのベースも全く違う。りみはステージ上では裸足となってステージの上を縦横無尽に駆け抜ける田淵智也のような姿が特徴的なのだが、練習中の彼女は、まるでジョン・エントウィッスルのように寡黙に演奏していた。あと裸足じゃない。

 

沙綾のドラミングプレイには特に大きな相違点があった。

彼女は天才美少女三刀流ドラマーとして地元での知名度は随一の存在で、繊細さと力強さを有したプレイは女性版デイヴ・グロール、三刀流ジョン・ボーナム、パン屋のキース・ムーンなどコミカルながらも光栄な二つ名を貰っている。もっとも、彼女が敬愛するドラマーはスチュワート・コンプランドだが。

しかし練習中はドラムスティックは従来の2本だけで、プレイも確かに申し分はないが、激しさはどこか影を潜めていた。

 

唯一の救いは有咲というべきか。彼女のプレイはあまり変わっておらず、強いて挙げるなら音色の違いか。前面に出ていた前とは違い、練習中の有咲のキーボードプレイはあくまでもリズム隊として徹していた。

 

違う。何もかもが。

目まぐるしく、そしてややこしい今の状況に、香澄は倒れてしまいそうになる。けれど耐える。耐えるんだ。

きっと、この何もかもが違う光景というのは目に焼き付けなければならないのだ。そのことを今日のポピパの練習を見て思った。

 

結果的に練習中、香澄はずっと練習を見ていたら何かに取り憑かれたように。一切目を離しすことなく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

家に帰ると、出迎えてくれたのは妹(仮)ーーーいや、香澄の妹である明日香だった。

ショートカットの小柄な少女は香澄の手を引いてリビングの椅子に座らせた。

 

「大丈夫だったの、今日」

「大丈夫って…」

そりゃ、大丈夫じゃない。

親友達のキャラはかなり変わっていたし、前とは違って知りもしない在校生から話しかけられたり。

精神的には五分五分というところだ。

 

そんな愚痴を心の中で押し殺し、作った笑みで香澄は言う。

 

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」

「あっ…」

 

優しく、明日香の頭を撫でる。

末っ子である香澄には自分より年下にどうすればいいかわからない。よく漫画とかで見る頭を撫でるシーンを再現してみただけだ。

 

「……お姉ちゃん、やっぱりちょっと変だよ」

「うっ…」

 

頬を赤らめて照れ臭そうに言う明日香。しかし「変」という言葉に攻撃を食らった香澄には届いてはいなかった。

 

自室に戻り、鞄を床に優しく置いてベッドに身を投げ出す。良い材質のベッドだからなのか、あまり音は立たなかった。

 

「朝起きたら、元通りになってるかな」

 

仰ぎ見る天井に向かってポツリと呟く。

しかし返ってくる音は何もない。少し虚しくなったので、今日は置いて行ってしまったランダムスターをケースから取り出す。

紅いボディに触れる。その冷たさは香澄が常に触れていたランダムスターと同じで。

 

胡座をかき、試しにとチューニングをせずに左手でDコードを抑え、右手でピックを持って弾いてみる。次いでG、 A、D。それの繰り返し。

曲は香澄にとっての思い出の曲である″きらきら星″。

音色も変わらない。きらきら星を弾き終えた後は適当にアルペジオを奏でる。そこから段々と″Yes! BanG_Dream!″のサビのコードへと変わっていき、優しく歌う。

Poppin' Partyの始まりの曲。

しかし、いくら奏でようとも歌おうとも、目の前の景色は変わることはない。

 

「ダメ、だよね」

 

半端に抑えていたAコードが半端に鳴る。

当たり前のように優しく接してくれる明日香やポピパメンバー達を見ると、自分こそが本当におかしな人間なのではと思ってしまう。

私は、ここにいるべきじゃない。

 

そりゃそうだ。だって、ここは私の知らない世界。

受け入れた今でさえ、目を覚ませば跡形も無く消えて無くなってしまう夢なのではと疑っている。

 

ベッドに体を埋める。

考えれば考えるほど変な話だ。そして考えれば考えるほど、答えが出ない迷宮のように感じる。

早く戻りたい。早く家に帰りたい。

涙がこみ上げてくる。しかし、香澄は我慢した。

泣かないって決めたんだ。泣くのは感動した時か、心の底から笑った時だけ。

 

「…なんとか、なるよね」

 

自分の本当の親友達の顔を思い浮かべて、気丈につぶやいた。

なんとかなる日まで、ギターを奏でてよう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

翌日。

香澄は先日と同じように目覚まし時計よりも早く起きた。

辺り見回すが、景色は寝る前と変わっていなかった。

 

小さく溜息をこぼす。

夢じゃないのか、これ。改めて痛感する辛くて頭が痛くなるような現実。

仕方がない。今日もここで朝ごはんを食べよう。

香澄は欠伸をしながら階段を降りた。

 

母と明日香には相変わらず驚かれた。

挙句、明日香からは不眠症なのではと心配されるほど。

大丈夫であることを伝え、朝食を済ます。顔を洗い、歯を磨き、着替えをして、鞄を取って部屋を出るーーー前に。

 

「忘れちゃダメだよね」

 

相棒に語りかける。昨日の非礼を詫びて、そして改めてよろしくと撫でるように触れる。

ケースを背負い、母と明日香に見送られて家を出る。

今日最初に会ったのは沙綾だった。

 

「おっ、今日はギター持ってるね」

「うん、昨日はちょっと忘れちゃって…」

 

肌寒い早朝だというのに、沙綾の向ける笑顔は相変わらず朗らかで。少し近づくとパンの味がするのも、また彼女らしかった。

そうしてすぐにたえ、りみの順に合流し、最後に有咲が来て全員揃った。

この生活スタイルになって2度目となる学校ではあったが、依然として見知らぬ同級生から話しかけられることには慣れなかった。笑顔が引きつっていないか、どもってないかと確認するのに精一杯だった。

無論、授業の内容も頭に入るわけはなく。

 

全ての授業が終わった頃には、先日と同じく意気消沈となっている香澄の姿が教室にあった。

 

「勉強得意じゃないのはわかってはいたが…終わったらこんな死にかけてたっけか?」

「寧ろ終わったらギターだー!って言って飛んで行ってたけど」

「香澄、ギター弾く?」

 

たえからギターを渡される。

弱弱しく震える手でランダムスターに触れる。瞬間、全てがハイになった。

 

「今日は練習できる…!」

「おお、ギターを持ったら変わるキャラか」

 

有咲の鋭い指摘にも聞く耳を持たず、香澄は前を行く沙綾とたえについて行った。

 

「まあ、元気ならいいか」

 

少し元気が取り戻って来た香澄の後ろ姿を見て、有咲は少し笑って言った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アンプにシールドを差し込み、適当にコードを押さえて音を鳴らす。チューニングも終わり、特に問題はなかった。

 

「始めていい?」

「どーぞー」

「じゃあ行くよーーー」

 

沙綾がスティックを合わせ、軽い音を鳴らす。

3、2、1ーーー。

 

「ーーー!?」

 

演奏が始まった瞬間、香澄は驚愕した。

()()()()()

Poppin' Partyの演奏技術が向上し、そして香澄の知っているものと差異があるのは理解していた。しかし、実際に演奏の輪の中に入れば、その音の違いに腰を抜かしそうになる。

 

リードするたえのギターはいつもよりも鋭く、りみのベースの音も遥かに存在感を増している。沙綾のドラミングもリズム隊としての音を逸していた。そしてそんな激しい音のぶつかり合いを和らげるように、有咲のキーボードが抑止となっていた。

 

曲は″STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜″。何度も演奏した曲なのに、別の曲に聞こえてくる。

まるで初めて演奏する曲のようで、しかしその違いは不思議と嫌ではなかった。

またこれもPoppin' Partyの姿なのだ。こういうifもあるのだ。

4人の演奏は、語らずとも音でそう香澄に訴えかけているようだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「驚いた」

 

練習を終え、休憩中に沙綾がペットボトルに入った水を口に含んで言う。

 

「え?」

「香澄がこんなギター上手くなってるなんて」

「そう、それ私も思った。ギターとボーカル、どっちにもつられてなかった」

 

沙綾の言葉にたえも頷く。

もっとも、香澄本人としては演奏技術が自分が知っているポピパと全く違った為、合わせるのに苦労したのだが。

 

「何か特別な練習とかしたの、香澄ちゃん」

「う、ううん。いつも通り黙々と部屋で練習してただけだよ」

 

嘘偽りは一言も言ってないが、それでも不思議がられている。

そんなに私は下手に見られていたのだろうか。香澄は自分のことながら首を傾げてしまう。

 

「ばあちゃんがお菓子くれるってよー。持ってくるの手伝ってくれ」

「あ、OK。行こ、りみりん」

「うん」

 

有咲の背を追いかけて沙綾とりみが席を外す。

 

「私はトイレ行こ。香澄は?」

「あ…いいかな…」

「そっか」

 

そう言ってたえも席を外した。

なし崩しに人が出て行ってしまい、ポツリと蔵の中で1人きりになってしまった。

 

「……1人…」

 

突然の静寂と孤独に、香澄は少し考えを巡らせてしまう。

そういえば、私はずっと1人だったな。サイテーで、意気地なしで、根暗な人間だった。

星に導かれて真紅のランダムスターと有咲に出会い、そしてPoppin' Partyを組んで、全力で青春を過ごしている。

 

けれど、今はまた昔に戻ったみたいな感覚だ。

私だけがおかしくなっていて、変わり者みたいで、また臆病者になっている。

 

「嫌だな、この感覚」

 

呟いてもその感覚が消し去るわけでもなく、頭の中がドロドロになったみたいで。

ああ、ダメだ。有咲ちゃんから言われてるじゃないか。マイナスな方面に考え込んではダメだって。

そんな邪な考えを振り払うために、香澄はギターを奏でた。

 

簡素なアルペジオから漂うのは退廃感と寡黙。

曲の名は″Creep″。21世紀のビートルズと呼ばれているレディオヘッドの代表曲だ。

 

私は根暗でサイテーな人間。

何の取り柄もない、普通以下の人間だ。

 

私はここにいるべきじゃないのかな。

このポピパは違うんだ。きっと、私が今いる席は別の誰かの席なんだ。

早く戻りたい。早く帰りたい。

 

ここで何をしているんだろう。

帰るべきだ。きっと、みんなもそう思っている。

 

私はここにいるべきじゃないから。

部外者はサッサと立ち去ろう。それが私の取るべき行動だ。

 

「わお、こりゃ凄い」

 

そうして歌い終えた香澄を迎えたのはなんとも間の抜けた声だった。

目を向ければ、そこにはテーブルにお菓子を置いて拍手を送る沙綾とりみの姿が。拍手はしていないものの有咲もいた。

 

「香澄ちゃん凄いっ!英語の発音そんな上手だったなんて」

「しかも綺麗なアルペジオだったね」

「ま、まあまあ…かな」

 

それぞれ満遍なく注がれる賛辞に、香澄は顔を赤くする。

するとトイレから帰ってきたたえが驚いたような顔で香澄を見た。

 

「すごい歌声が聞こえたけど、あれって香澄?」

「う、うん。そうだけど…」

 

と、香澄が言うとたえは輝いた目をして香澄の両の手を握った。

 

「香澄もレディオヘッド聞くの?私、トム・ヨーク大好きなんだ。他に何が弾ける?」

「あ、えっと…」

 

子供のような顔をして香澄の手を握るたえを見た沙綾はポツリ、と呟く。

 

「おたえがあんなにはしゃいでるの、久しぶりに見た」

「けど香澄ちゃん凄いね。いつの間にあんなに発音良くなってるなんて」

「まあ、香澄は香澄なりに努力してるんじゃねーの」

 

有咲が腕を組んでどこか不満げに言う。

そんな有咲の姿を見て、沙綾は少しニヤついた。

 

「なに有咲。嫉妬?」

「なっ、バカッ、ちげぇよ!」

「わかりやすいね〜有咲は」

「うるせぇ!」

 

「さっさと練習するぞ」と、紅潮した顔をした有咲がキーボードをがむしゃらに弾いた。

そんな有咲と、それを囲むポピパメンバーを見て、香澄は吹き出した。

 

なんだか、あまり変わってないのかも。

何もかもが違うけど、核は変わってない。

香澄はどこか安心した顔で、再びギターを鳴らした。





お久しぶりでした。
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