BanG Dream! 星に導かれて 作:さーてぃーふぁいぶみにっつ
★1
戸山香澄が目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。
「ーーー」
数秒の戸惑い。その後に訪れたのは疑問。
なんで、私はここに。
シンプルで短い疑問が心の中に浮かぶ。
「…おたえの家だっけ」
口に出して、脳内で親友のギタリストの部屋の天井と今自分が眺めている天井を比べてみる。結果は、否。
「じゃあ、沙綾かな」
再びさっきと同じことをする。しかし明るい答えは返ってこず。
「りみりん」
1人1人、親友の名を口に出してみるが、答えは一向に出ない。
「蔵…有咲…?」
最後に、香澄が加入しているバンドの活動拠点地の場を出す。しかし、それも違くて。
「じゃあ、私の部屋?」
模様替えなんていつしたっけ。
そんなことを考えて、上体を起こす。辺りを見回すと、見たことのない雑貨が置かれたり、置かれてなかったり。
「……うーん、違うなぁ…」
自分が覚えてる限りの部屋の内装と比べてみるが、似ても似つかない。
「とりあえず、探検だ」
呑気に言う。
この見慣れない空間の果てには何があるのだろう。昔からポジティブで行動的な香澄は、目の前の謎にドキドキしていた。
別に必要もないのに、足音を立てずに忍び足で歩いて。階段を降りる。
今の香澄の気分は完全にゲームをしている時のそれに近かった。
微かに聞こえる生活音が。包丁で何かを切る音。水が流れる音。誰かの足音。
いつも香澄が聞いているありふれた音。けれど、その音はこの謎の空間というデバフが付くことにより未知のBGMになる。
わあ、いい匂い。
漂う香りは香澄の足を速めた。
階段を降りきり、1回深呼吸。
ここは何処なのか。この先には誰がいて何をしているのか。
目を輝かせた香澄はドアノブに手をかけ、扉を開ける。
ーーーーそこはリビングだった。
「あら香澄。おはよう」
台所から顔を覗かせる若々しい女性ーーーその女性の顔は、香澄は見覚えがなかった。
「おはようございます!」
とりあえず元気よく挨拶。何事も最初か大事。
すると階段から誰かが降りてる来る音が聞こえてきた。香澄の立つ背後の扉が開かれる。
「おはよう、香澄ちゃん」
白い髪の、お淑やかさを形として表したかのような少女。歳は香澄よりも少し年上に見える。
「おはようございます!」
この人も初対面だ。とりあえず明るく。
「朝から元気だね、香澄ちゃん」
「はいっ、やっぱり朝は元気よくいかないと!」
眠そうに欠伸をする少女。香澄はそんな少女とは対照的なテンションの高さだった。
「最近はバンドのおかげで元気になってきたと思ってたけど、ここまで効果覿面とはね」
「本当に姉として嬉しい限りだわ」
女性と少女が懐かしむように語り合う。それを聞いていた香澄には1つの言葉が引っかかった。
「……姉?」
私に姉なんていただろうか。いるのは妹の明日香だけだ。
それが引き金だった。
「……あ…れ…」
なんで目の前の2人は私を知っている風に話し合っているんだろう。なんで私の名前を知っているのだろう。
疑問が雪崩のように崩れ落ちてきた。
「さあ、朝ごはんを食べましょう」
「えっ、あ…」
女性の声に答えることができない。
「さあ、食べましょう」
私は夢を見ているのかな。
そう思わずにはいられないほどの異様な感じ。
言いようのない不安に蝕まれながら香澄は朝食を終えた。
女性の話によれば今日は平日。
香澄は言われるがままに寝ていた部屋に戻りクローゼットの中を確認した。そこには見たことない制服が。
「これ、本当に私のなのかな…」
恐る恐る着てみると、意外にもサイズは全く同じ…むしろピッタリだった。
「え、うそ」
自分で口に出てしまうほどの驚きだった。
しかも着てみると案外悪くない。こんな制服の学校は見たことがないが、デザインは香澄好みでもあった。
見た限りそれっぽい鞄を手に取って部屋を出るーーー直前。
壁に立てかけられた、大きなケース。香澄はそのケースには見覚えがあった。
「ギター…ケース…」
自分の物であることが確定してないのに、香澄はそのケースに手を伸ばしていた。
抗いようもない重力に引き寄せられるように、それが予め決められたら運命であるかのように香澄はそのケースを開けていた。
ケースの中身ーーーそれは真紅のランダムスターだった。
「ーーーこれ」
星の形をしたギター。ボディには星のステッカーが貼られており、それは正真正銘、香澄の持つランダムスターだった。
「えっ、なんで、これが」
私の知らない所。知らない人。
そんな中で、私の相棒が。
香澄は混乱した。それは無理のないことで、けれど誰もそんな彼女に手を差し伸べることはなかった。
何故なら、それは香澄が違うから。
香澄だけが今についていけてなくて、香澄だけが混乱しているから。
混乱している自分の頭を落ち着かせる為に、ギターを手に取って構える。普段やらないんです指引きになっているが、今はこうしたい。
何かあった時は、ランダムスターを弾く。コードはめちゃくちゃ。でも弾くのだ。
それが、香澄なりの自己治療なのだ。
適当に音を鳴らす。公式ではないそのコードで、ミュートもしている。とても人様に聞かせれる音をしていない。
しかし、その微かな音を聞いた瞬間に、香澄はある確信をした。
「ーーーけど」
香澄はランダムスターをケースに再び蔵い、鞄を脇に抱えて、ケースを背に背負う。
「これは、夢じゃない」
それは、そのランダムスターが教えてくれた。
その音は紛れもなく、私の相棒の音だった。聞き慣れた音だ。とにかく明るくて、聞いてる側が元気を貰える音。
ああ、そうだ。
これさえあれば、何も怖くなんかない。
香澄は駆け足気味で階段を降り、玄関で靴を履く。自分の靴はすぐにわかった。自分にしては大きすぎる靴が1つと、少し小さめなのが1つ。
その間の靴に手をつけた。
「香澄、もう行くの」
「うん、行かなきゃいけないから!」
背後から聞こえる声に、無礼ながらも振り向かずに答える。
すると自分の頭がポンと優しく触れられた。
「えっ」
上を見上げると何もなく。代わりに自分の横を素早く通り過ぎる人影が。
「おはよ香澄!」
そこには長身のショートヘアな、ボーイッシュを体現したような少女が。
「じゃ、行ってくる!」
「朝ごはんはー?」
「味噌汁は飲んだからー!ご馳走様ー!」
器用に走りながら後ろを振り向いて手を合わせる。
「あっ、本当だ食べてある…」
後ろで女性の小さな声が聞こえる。
香澄も先ほどの長身の少女に続くように駆け出す。
「じゃあ、行ってきます!」
知らない家だけれど。
これは夢ではないから。
このランダムスターがあるから。
一先ず、ここを家としよう。
まるでゲームの始まりみたいだ。主人公が自分の家を出て、旅に出るみたいな。
前に蔵でやったゲームのことを思い出して、少しだけ吹き出してしまった。
「行ってらっしゃい!」
明るい声に押されてさらに速度を上げる。
すると頭上からガラガラ、と音が聞こえた。
「香澄ちゃん!行ってらっしゃい!」
先ほどの少女が落ちてしまうのではないかというぐらいに身を乗り出して香澄を見送っていた。
その少女の目は、まるで自分の家族を見送るような優しい眼差しをしていて。
それが香澄には嘘には見えなくて。
香澄は笑顔で少女を見つめ返した。そして駆け出す。
自分の背に赤色のランダムスターがあると思うと、なんだか自分が無敵に思えた。
1つめの信号に足を止められた頃には、さっきまで抱いていた不安は消えていた。
文字数が偶然にも小説版の方の文字数と同じ…!