BanG Dream! 星に導かれて   作:さーてぃーふぁいぶみにっつ

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お久しぶりでございます。


★3

 

授業中の香澄はといえば、やたらと周りの生徒たちから白い目。否、怪訝な眼差しをぶつけられていた。

理由はただ1つ。根暗で変な少女という印象を持たれていた香澄が、途端に明るくポジティブシンキングな少女へと変わっていたのだ。その変わりように、クラスメートのみならずポピパメンバーも驚いていた。

 

チャイムが鳴り終わり、生徒たちが教室から濁流の様にぞろぞろと出て行く。

その中で香澄はというと、ギターケースを背負って出る準備万端となっていた。

 

「早く行こう!」

「師匠、暫し待て。罰の黒板掃除がまだ終わらない!」

「手伝うっす!」

 

小柄なりみがピョンピョンとうさぎのように黒板を雑巾で拭いている姿を見たたえが駆けつける。その光景を見た香澄は、自分の机の上に乗った。

有咲は香澄の隣の席でペットボトルに入った水を飲んでいた。

 

「ねえ、有咲」

「なに、かすみん」

 

クラスメートがいた時は聞き取れるか聞き取れないから程の音量だった声も、ポピパメンバーだけとなった今では普段通りの音量になっていた。

 

「沙綾はどこ?」

 

香澄が口にした疑問は、香澄にとっては真っ当な疑問だった。

ポピパの纏め役である、ドラマー山吹沙綾。彼女がいなければ、きっとPoppin' Partyというバンドは纏まりがつかないバンドになっていたかもしれない。必要不可欠な、大事なメンバー。そんな彼女が、なぜ今この場にいないのか。

 

「沙綾?沙綾は今頃弟くん達でも迎えに行ってるんじゃない?」

「弟…じゅんじゅんか!」

「いや、名前までは知らないけどさ」

 

香澄は一瞬納得するが、根本的なことを思い出す。

 

「でも、今日学校来てた?」

「でもも何も、これから学校に行くんだよ沙綾は」

「……これから?」

「そ、これから。大体17時ぐらいかな」

 

17時。普段なら香澄達が蔵に行って練習真っ最中の時間だ。

 

「な、なんで17時なんかに?」

「定時。…かすみん本当に大丈夫なの?」

 

定時制。それは、香澄の知る花咲川女子学園高校にはない制度だ。

ああ、まただ。また、私の知っている事とのズレがある。

 

「定時制なんて…この学校には確か…」

「そこ。かすみんの席」

 

と、有咲が香澄の席を指差す。

 

「沙綾の席はそこ。同じ席で机の上にメッセージ書き合って、それで沙綾と知り合ったんでしょ?」

「え…」

 

机の上にメッセージを書き合って知り合った?

違う。香澄の知る沙綾との出会いは、香澄がお腹が空いていたところを、沙綾がたまたま持っていたパンをくれた事から始まった。

メッセージを書き合う?そんなの知らない。

 

「そんな…そんなの…」

「師匠、くらべんけー殿、終わったぞ」

 

混乱する香澄をバッサリと斬るように、りみが2人の間に入る。

 

「あ、終わった?」

「はい、なんとか」

「パーカーの姫君が助太刀してなかったら危なかった…」

 

そんなりみとたえに目をやらぬほど、香澄はひどく混乱していた。

当然だ。ぶつかり合って親友となった少女との出会いが、自分の記憶と違うのだ。

 

「大丈夫なんすか、かすみん先輩…」

「おお、目がグルグルになってる」

「大丈夫…じゃなさそう。見た感じヤバイとこまで入ってるっぽい」

 

有咲とりみに介抱されながらも、香澄の混乱は止まらない。

 

「人が変わったみたいっすね」

「まさか師匠、変化の術を使えるようになったのか!?」

「これは火影になる日も遠くないっすね」

「ならないからね?」

 

落ち着こうと深呼吸してる間に、里の命運を任されかけていた香澄は2人の会話を遮る。

 

「沙綾、本当にこれから来るの?」

「本当にも何も…」

「平日は練習は4人なの?」

「4人だよ。休日に5人でセッション。そんな感じ」

 

沙綾だけ、私たち5人の仲にいない。

苦楽を共にし、そして涙を流した親友の影が無いことに悲観になりながらも、しかし香澄は涙を流さなかった。泣きたい気持ちではあった。でも、泣くわけにはいかない。

 

「ねぇ、もう少し待たない?」

「え」

「沙綾に会いたい」

「いや、電話すればよくない?」

「やだ。直接会って、話したい」

 

折れない香澄に、有咲は頭を掻く。

「いや…しょーじきな話、私はあまり…」

「多数決にしよう!ミンシュク主義に則って!」

「民主主義ね」

「ウチは賛成。面白そう」

「りみりんっ?」

「おたえは?」

 

香澄から期待の眼を向けられたたえは、バツの悪い顔をする。

 

「いやぁ…ジブンは…ギター弾きたいなぁ…って…」

「おたえー…」

「……あー…」

 

香澄の宝石のように澄んだ純粋な眼差しに、たえは心臓を撃ち抜かれた気分だった。以前の香澄には見みられない、心を震わせられる眼だ。

 

「……わかり、ました。お伴します」

「おたえちゃんまで…」

 

3対1で可決となった結果に有咲は項垂れる。知らない人間とは会いたくない有咲にとっては、あまり気分が優れる行動ではない。

 

「そういうことで、ここで待機っ」

「あー…お腹が痛くて死にそうなんですが、かすみん先生」

「寝てていいよっ」

「友人の死を放っておくの!?」

「猟奇的な処置っすね…」

 

と言って4人で待つこととなった。

流石に1時間も待つのは応えたため、近場のコンビニでパンとジュースを買って談笑をしながら待った。

 

「かすみん、変わったよね、色々と」

「そう?」

「うん、めっちゃ変わった」

 

香澄の頬に付いたチョコを有咲が拭き取る。

 

「なんだかさ、言っちゃ悪いけど、別人というか」

「えー、別人って」

「本当に別人みたいっす」

「おたえは何でそんな健さんみたいな話し方なの?」

「健さん!?そんな恐れ多い!」

 

そんな他愛もない会話、いや、お互いに重要な疑問をぶつけ合っている間に時間は流れ、廊下に通ずる引き戸が開かられた。

 

「あれ、人がいる」

「沙綾」

 

有咲は椅子の背もたれにに腕を掛け、だらしなく振り返る。

引き戸のノブに手をかけた沙綾の姿がそこにはあった。

 

「どうしたの。みんなして居残り?」

「いや、かすみんが突然沙綾に会いたいって言うもんだから」

「さーやーっ!」

 

事情を説明する有咲の声を遮り、香澄は腰掛けていた椅子を蹴飛ばして沙綾に抱きついた。

 

「うわっ!」

「さーやー…やっと会えた…」

「えー…ホームシックにでも掛かったの、香澄ちゃん」

 

お腹周りを猫のようにグリグリと頭を擦り付ける香澄の頭を撫でながら、沙綾はお茶会を開いている残った3人に聞いた。

 

「ホームシックならどれほどよかったことか」

「沙綾!」

「あ、はいっ」

 

張り詰めた声に、沙綾は背筋を正して思わず敬語で答えてしまう。

 

「どうして定時制なのっ?」

「…え?」

 

どうして。

その言葉に沙綾は脳を締め付けられる。

 

「どうしてって言われてもなぁ…」

「みんなと一緒に学校に来ようよ!一緒に練習しようよ!」

「そうしたいのは山々なんだけどね…」

「定時制から元に戻るのって特に難しくないよねっ?」

「あーっと、香澄ちゃん…?」

「今すぐに…」

「このバカスミんっ!!」

 

と、詰め寄る香澄の後頭部を有咲がペンケースで叩く。中に入っていたシャープペンシルや定規などが重なったため、かなりの痛さだった。

 

「いたっ!何するの有咲!」

「いい加減にしてよかすみん!わかってるでしょ、沙綾の事情を!」

「じ…じょ…う…?」

 

見たことのない剣幕の有咲に、香澄は泣きそうになる。涙を堪えながらも、しかし声は震えていた。

 

「落ち着いてください!」

「牛乳いるか?」

 

りみが紙パックの牛乳を差し出すと、有咲はそれを一気飲みした。「あ、ウチの…」と、りみが物悲しそうな顔を浮かべた。

 

「こればっかりは許せないよ、かすみん」

「事情って、何のこと。わからないよ、有咲」

「……帰ろう。そんな状態じゃ、話そうにも無理がある」

 

机の脚に立てかけていた鞄を取り、香澄と沙綾とすれ違う。一瞬、香澄の顔を見たが、歯を食いしばって駆けて行った。

 

「カルシウムが足りてない、な」

「そういう問題なんすか」

「香澄ちゃん?」

 

呆然としていた香澄に、沙綾が優しく声をかける。

 

「今日は時間も時間だからさ。明日話そう?事情を忘れちゃったなら、おたえちゃんが話してくれるだろうから」

 

鞄を肩にかけたたえに手を合わせて「お願いねー」とジェスチャーを送る。

 

「じゃあまた明日ね」

「あっ、待っ…」

「行くぞ師匠」

「帰り道がてらに話しますから」

 

りみに腕を掴まれた香澄は、引きずられるように教室を後にした。

 

帰り道は、香澄の覚えがある場所だった。

電柱とかブロック塀に貼られた星のシール。私の人生を変えてくれたモノだ。

 

たえから事情を丁寧に話された。

 

沙綾は母を幼いころに亡くなっており、父と2人で下の3人の兄弟をしていたのだ。しかし、妻の死のショックは心に来たらしく、父は精神的にかなり落ち込んでしまい、店番すらままならなくなっていった。

そこで沙綾は高校を定時制の夕方で通うことにし、日中は店番をすることにした。

香澄たちと出会ったことにより、父は学校を昼にしていいと言われてるが、やはり昼時の店番は1人で切り盛りするには厳しく、結果的に今でもまだ沙綾が手伝いをしている、ということになっているのだ。

 

「……悪いこと、言っちゃったな」

「全くだ。あれでは蔵ベンケーも怒る」

「でも、先輩は沙綾サンから直接話を聞いたんすよね?どうして忘れてしまったんですか?」

 

たえの疑問はもっともだ。

共に涙を流し、″STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜″という曲を作り上げたのだ。

そのような事情、忘れる方が無理がある。

 

「忘れた…わけじゃないの」

 

香澄は「忘れた」という言葉を否定する。

ただ知らなかったのだ。私の知っている、沙綾の家族じゃない。

弟たちは3人もいないし、第一、妹もいたはずだ。それに母も死んでいない。体調は悪いが、存命だ。

 

「…でも、そうだったんだ」

 

ただ、これがたとえ夢だとしても。

香澄の知っている沙綾と別人だったとしても。

 

「何も知らないんだな、私」

 

知っているようでいた。

思い上がりだったのだ、そんなのは。

 

今この状況が別世界とかパラレルワールドとか、そんなのはどうだっていい。

ただ、山吹沙綾という少女の事情を、一切知らないことが悔しいのだ。

 

唇を噛む。少し痛いが、でもこの世界の沙綾が味わった苦しみや痛みに比べれば、こんなのはなんてことない。

 

朝、目が覚めたら消えてしまう幻とかでもいい。

だって、私がいま生きているのこの世界なんだから。

 

たえもりみも、きっと有咲も香澄が知っている事情とは異なるものを持っているのだろう。

だったら、その話を聞きたい。

聞いて、たとえ別人だったとしても、この世界で一瞬でも長く生きたい。

 

「有咲に謝らないとな」

「そうっすね。たぶん有咲サンも謝りたがってますよ」

 

パーカーを着た、香澄が知っている花園たえとは少し違う花園たえ。

香澄が知っているりみとは、性格から見た目ぜんぶ違う牛込りみ。

 

2人を見て、頷く。

 

「ねぇ、蔵に着くまでの間にさ、2人の話も聞かせてよ」

「ジブンたちの…っすか?」

「うんっ」

 

たえが首をかしげる。

 

「あれは10年以上も前…西のライブハウスでのことだった…」

「話すんすか!?」

 

りみが芝居掛かった話し方をする。

それにたえが即座にツッコミを入れる。

 

なんだか、私の知っているのと違うけど。

ここの世界でも、みんな楽しそうなんだな。

 

並んで歩きながら、香澄は2人の過去の話をずっと聞き続けた。

 

 





香澄はポジティブシンキングでどの世界でも生きていけそう。
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