BanG Dream! 星に導かれて   作:さーてぃーふぁいぶみにっつ

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先日、6thライブに参加しました。何気に初めてのポピパライブ。
おりみさんのベース姿がとにかくエモくて、私の推しベーシストであるヒライハルキの姿と被り、「電話を探してあの娘に連絡しなきゃ」という衝動に掻き立てられて涙がこぼれそうでした。

本編どうぞ。


★4

目の前にで煌めく星を掴もうと、手を伸ばす。手を広げて、閉じる。開いてみれば、その掌には何もない。

すぐ目の前に星があるのに、掴めない。

 

––––––人生って、こんな風に難しいのかも。

 

思い出す、有咲からの怒号。

親友からの突然の怒号で、香澄は齢17にして早くも人生の何かを悟った。

 

辺りは真っ暗。なるほど、今の私の心情にはぴったりだ。

歩き出す。自分が立っている地ですら真っ暗で、一寸先は奈落なんじゃないかと不安になったが、幸いにも落ちることはなかった。

 

知らなかったとはいえ、有咲…いや、あの4人に心無いことを言ってしまったのは事実だ。

後悔と罪悪感に心臓が締め付けられる。

無知は罪だ。なぜなら、無知は周囲を悲しませる。ブルーに染めてしまうのだ。

 

迷い込んでしまった、香澄がいた元の世界と限りなく似た別世界。

本来、何も知らない香澄に罪は無い。だが、香澄自身の心が蝕まれるのだ。

 

言ってしまえば他人事だ。だが、あの赤色のランダムスターが存在する以上、他人事では済ませれない。

何より、少し差異はあるとはいえ、自分の知る親友たちと同じ顔をした4人を、悲しませたままにするわけにはいかない。

 

真っ暗な道を進み続ける。景色に変わりはなく、星が続いているだけ。宇宙を探検してる気分だ。

 

そして、目の前に少女の背中が現れた。

その後ろ姿に見覚えがある。少し猫背気味だけど、その後ろ姿は紛れもなく私。

 

耳を塞ごうと伸ばす手を、優しく掴んで止めた。ウサギのようにビクリ、と肩を揺らして振り向く。

少女は、香澄の姿を目にした瞬間、絶句した。

 

そんな様子の少女に優しく微笑む。

 

「––––––あなたは、向こうの香澄(わたし)なんだよね?」

 

怯えた様子だ。

それは当然だ。

自分と同じ姿をした人物が話しかけてきたのだ。下手なホラーよりも怖い演出だ。

 

「向こうって、なに…?」

 

震えた声で聞き返す。

香澄は、少女の背後に映る映像に気がつく。

つい昨日聞いたばかりの、有咲の怒号。まだ耳でこだましている。あの時の焦燥と、形容しがたい恐怖は、まだ心の中に残ってる。

 

「あそこに映ってる私。私の知らないPoppin' Partyが、あそこにあるの」

「知らない…?」

 

どうやら、この少女は自分が置かれた状況を理解できていないらしい。

丁寧に教えようと––––––普段は教えられる側だけど––––––唇を揺らすと、少女は目を見開いて息を飲んだ。

 

「––––––まさか」

 

どうやら、気がついたらしい。

 

「あなたが見て、話したりみりんは、小動物みたいで可愛かった?」

 

2つの世界の中で、最も明確となっていた差異を例に挙げた。

その香澄の問いに、少女は頷く。

 

「うん、忍者なんかとは程遠い、大人しい娘だった」

 

やっぱり、あれ忍者意識してるんだ。

新たな事実にクスリ、と心で笑いつつ、香澄の中での、限りなく確信に近い疑念は、純粋な確信に変わった。

 

「……やっぱり」

 

頷いて、喉を鳴らす。服の袖を正す。どれも映画やドラマで見たよくあるシーンのマネだ。

 

固唾を飲み込む少女に、香澄は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「––––––はじめまして、香澄ちゃん。あなたと、こうして話したかった」

 

もう1人の戸山香澄。交わり合うことのない、2つの存在の邂逅。

それは、青空に星が浮かぶような奇跡。

 

「––––––うん、はじめまして、香澄…ちゃん。信じられないけど…つまり、そういうことなんだね」

 

薫さんみたいに確認する少女––––––()()()の香澄に、香澄は頷く。

 

「うん、そういうこと。つまり私たちは……」

 

奇跡が起こりっぱなしの最近。そんな中でも、これは特に異端だ。

そう、私たちは、お互いに––––––。

 

「入れ替わってるぅ〜〜!!?」

「……えっ?」

 

静まる空気と、何が起こったのか把握できてない向こうの香澄。

 

スベったな、これ。

ほぼ瀕死状態の香澄のメンタル。そんなメンタルをセルフケアするために、香澄は舌を回した。

 

「えっ、ちょっ、ここはお約束でしょっ?瀧くんと三葉ちゃんみたいに!」

「タキくん…?ミツハちゃん…?……どなた?」

「知らないの!?″君の名は″だよっ、前前前世だよっ!」

「全然…」

「おっ、前前前世にかけてるね!座布団8枚〜!」

「かけてないし、座布団多めじゃない!?」

 

向こうじゃ″君の名は″は公開されてないの…?

 

「ウソ…これがジェネレーションギャップってやつ…?」

「その言葉を使うにはまだ若いと思うよ…」

 

意味を履き違えてジェネレーションギャップという言葉を用いた香澄に、向こうの香澄は冷静にツッコミを入れる。

 

「まあ、私たちは入れ替わってる、っていうのは確定したよね」

「だね…信じられないけど、私自身…香澄ちゃんが現れたら、そう結論付けるしかないね…」

 

疑念が確信に変わっても、非現実的な話だと思う。しかし、こうして目の前には向こうの香澄がいる。彼女が目の前にいて、香澄と話している以上、これは現実なのだ。

 

––––––このバカスミンっ!

 

有咲の怒号が脳裏をよぎる。こだまする。決して音は小さくならず、ずっと同じ音量で、頭の中でバウンドを続けている。

 

「教えて」

 

彼女たちに謝るために、そして私自身が納得するためにも、目の前の香澄本人から、事実を聞かなければならない。

 

「私、やらかしちゃったんだ。あなたの世界を知らなくて」

「……もしかして、今流れてる映像って」

「うん、私の犯行映像」

 

とても深刻で、重い罪の映像。

こんなの、死刑どころの話じゃない。私が消えてなくなるべき重罪だ。

 

香澄の願いに、向こうの香澄は応じた。

 

「うん、教えるよ。何もかも、きっと違うから」

 

香澄は語った。

自分の家族構成と、性格。有咲との出会い、ランダムスターとの出会い、りみと一緒に″きらきら星″を奏でたこと、たえを加入させるために蔵でライブをしたこと、沙綾を説得して、5人で初めて演奏した文化祭のこと、そして自分が声を失ったことを––––––。

 

香澄は語ってくれた。

自分の家族構成から、自分自身の性格。有咲と出会い、ランダムスターを手に入れた経緯。メンバーを集めて、沙綾と共に泣いて、曲を書いて、セッションをして、Poppin' Partyが結成されたことを––––––。

 

「––––––そうなんだ」

 

先にそう呟いたのはどちらか、そんなことはわからなかったし、どうでもよかった。

 

ただ互いのことを知ることができた。

無知は罪だ。私たちは罪人だった。でも、その罪は消された。

自分同士––––––いや、香澄同士の語り合いという贖罪で。

 

「安心したなぁ、知ることができた」

 

胸を撫で下ろす。とても清々しい気分だ。心を覆っていた不安が大きく取り除かれた。

 

「さあ、有咲たちに謝らないとな」

「そうだね、謝らないとね」

「見たところ、香澄ちゃんは私と違ってやらかしてないね。適応能力の違いかなー」

 

アチラの香澄は穏便に事を運んでいるようだ。香澄とは対照的な落ち着いていて物静かな性格だから成せたことなのに、と香澄自身が気づくことはなかった。

 

と、徐々に2人の周りが明るくなっていることに気づく。

 

「…夜が終わるね」

 

直感ではあるが、これは夜明けを意味するのだろう。

つまり、今の2人の邂逅は夢の中の出来事なのだ。互いの夢の中でしか交じり合えない、おとぎ話のようなオハナシ。

 

「目が覚めたら、戻れてるかな」

 

香澄は口にする。

 

「わかんない。たぶん、戻れてないんじゃないかな」

「だよねー。そんな気がするー」

 

アチラの香澄は悲観的ではあるが、その口ぶりは決して哀しげではなく、どこか明るさを感じれた。

 

「じゃあ、またね」

「また会えるかな」

「会えるよ」

「そうかな」

「うん、そうだよ。絶対に会える」

 

確証はないけど、香澄は予感していた。

きっと、また私たちは会う。だって、星が瞬くこんな夜に、お互いのことを語り合えたのだから。

 

光が2人を包む。

視界は真っ白。力強い風が香澄に襲いかかる。脚に力を入れて踏ん張る。

目の前からアチラの香澄の姿は消えた。しかし、まだ伝えるべきことは残ってる。

 

「あなたがいた証拠!」

 

まだいるかわからないけど、香澄は有耶無耶に叫ぶ。

 

「残して!どんな方法でも、いいから!残して!」

 

あなたは、夢の中の出来事のような、おとぎ話のお姫様みたいな存在なんだから。そんな娘が、まどろみの中で笑う幻だけで、終わらせたくなかった。

 

「なんでー!?」

 

どこからか、しかし確実に遠くから香澄の返事が聞こえる。

その声が届いた瞬間、香澄は笑った。

なんで?そんなの、当たり前じゃん。

 

「あなたは、戸山香澄だから!」

 

そう、あなたは戸山香澄。

星に愛された、ごく普通の少女。

こんな星もいたんだよ、ってことを、あの世界に残して。

私も残すから。数ある星の1つとして。

 

その言葉と共に、香澄の足の力はフッと無くなり、ただ風の流れに身を任せた。

 

 

タンポポの種がやがてアスファルトに着いて芽吹くように、香澄は在るべき場所へと戻った。

 

 

 

そこは香澄が普段使用しているベッド、ではなく、アチラの香澄のベッド……でもなかった。

 

「……寒っ」

 

香澄は見事にベッドから落ちていて、床に背を打ち付けて寝ていたのだ。

 

「けど、入れ替わってるかぁ…」

 

言葉にしてみると、まったくもってファンタジーな話だ。

夢の中でアチラの香澄に語った″君の名は″を強く思い出す。

 

「……流星群、落ちて来ないかな」

 

––––––もしくは流れ星でもいいけど。

そしたら完璧な″君の名は″なのに。私は瀧くんポジション?それとも三葉ちゃんポジション?

 

「……二度寝っ」

 

寒さと同時にやってきた眠気に耐えられず、香澄は毛布を肩に掛け、ベッドの布団に潜り込んだ。

外の世界は、希望の光で染まっていることなんて知らずに。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

当然ながら、遅刻した香澄は罰を受けた。

放課後の教室の掃除。担任の教師からはやや畏怖の篭った目で見られたが、香澄自身がそれに気づくことはなかった。

 

遅刻したため、有咲と話す時間はなかった。授業中に目を合わせようとしても、有咲は一貫して目を合わそうとしなかった。

 

しかし、それでめげるほど戸山香澄という女はヤワではない。放課後、箒を片手に、さっさと帰ろうとする有咲に向かって頭を下げた。勢いのあまり、首が取れてしまうんじゃないかというぐらいに。

 

「ごめんなさい!」

「……」

「私、何も知らなかった。でも、色々と知った。だから、許して、ください」

 

頭を下げ続けている香澄に、有咲の表情は窺えない。しかし、微かに息を吸ったような声が聞こえた。

 

「……そうやって謝られたら、私もそうせざるを得ないじゃん…」

 

そしてポン、と垂れる香澄の後頭部に手を置いて優しく撫でた。

 

「こっちこそゴメン。私も熱くなりすぎた。大人気なかったよ」

 

それは優しく、温かい、包容力を持った手だった。許してくれたという事実と、プレッシャーからの開放感、そして

有咲の温かさに香澄は涙をこぼした。

 

「有咲ぁ…」

「なに泣いてんの。明るいポジティブっ娘になった思ったら、前までの根暗カスミンに逆戻り?」

「そんなんじゃないよ〜。ただ有咲が優しくて〜」

「あーもう泣きながらくっつかないで、鼻水つく。早く掃除終わらせて、手伝うから」

「ありがとぉ…」

 

飾らない優しさに涙をこぼしながら掃除を続けた。たえと有咲に手伝ってもらう––––––りみは黒板消しを叩いている––––––形で机の位置を整えていると、引き戸が開け放たれた。

 

「あらっ、またもポピパ」

 

沙綾だ。ポニーテールにした亜麻色の髪を揺らして、驚いた様子で4人を見回した。

 

「さーやっ!」

「わわっ、今度は何っ?」

 

そんな沙綾に香澄は飛びついた。お腹に擦り付けられている頭を撫ではするが、困惑の色は抜けていない。

 

「えーっと、ホームシック、まだ治らない?」

「さーやっ!」

「はいっ!?」

「ごめんなさい!」

「はいっ?」

 

擦り付けていた頭を離したと思ったら、何かに引っ張られたように勢いよく頭を下げる香澄に、沙綾の脳内は混乱状態だ。

 

「えーっと、謝られるようなことをされた記憶はないけど…」

「謝るべきなのっ。私は何も知らなかった。ポピパのこと、沙綾のこと、何もかも!」

 

熱弁をふるう香澄。

ああ、昨日ことを言ってるんだな、と沙綾は理解して納得した。

 

「大丈夫だよ、香澄ちゃん。そんなの、気にしてないから。香澄ちゃんが覚えてなくても、私はみんなの後ろでドラムを叩けるだけで、幸せだから」

 

仄かに漂うパンの香り。穏やかで母性的な笑顔。

香澄の知る山吹沙綾ではないとしても、紛れもなくそれは山吹沙綾であるのだ。

 

「ありがとう……沙綾、変わらないね」

「何のことだかわからないけど…私は変わらないよ。いつまでも、香澄ちゃんの味方だから」

 

それが沙綾の決意。

どんなことがあっても、香澄を見捨てない。

 

沙綾のその強く重い決意を肌で感じた香澄もまた、強く心に決意した。

私がここにいた証を残す。そしてその証を香澄ちゃんたちに託す。

 

「練習、土曜日にしようよ」

「うん、最初からそのつもりだよ」

「新曲、書くよ」

「えぇっ、先週作ったばかりでしょ、″1000回潤んだ空″」

 

新曲作ってたんだ、香澄ちゃん。

どんな歌詞なのかな。

 

「まだ全容は掴めてないけど。書ける気がする。みんなのために」

「……また、随分と壮大な曲を作ろうとしてるねぇ、かすみん」

 

壮大。

壮大では、きっとない。私の頭ではそんな大層な曲は作れない。普段の日常を言葉で表して、ただメロディーに乗せて歌う。

平凡な、作詞だ。

 

「香澄ちゃん、きっといい曲が作れるよ」

 

沙綾がそう微笑むと、チャイムが割って鳴り響いた。

 

「……時間になっちゃったね」

「さて、私たちは帰って練習するよ」

「うん…」

 

沙綾の事情を知っでも尚、一時的な別れは悲しくて仕方がない。さっきまで引っ込んでいた涙が、再び流れそうになる。

 

「センパイっ、帰りに肉まん買いましょう!元気でますよ!」

 

そんな香澄の様子を見たたえが明るい声で呼びかける。「肉まんっ、肉まんっ」と子供のようにはしゃぐ。

 

「ゆで卵食べたいからウチもお供する」

 

りみもまた、ズイっ、と香澄とたえの間に入る。

2人の気遣いに、香澄は笑顔で頷き答える。

 

「……そういうことだからさ、沙綾ちゃん。かすみん元に戻ったし、平和になったからさ」

 

そんな3人の様子を眺めていた有咲が、微笑ましく見守っていた沙綾に語る。

 

「安心していいよ。週末になればみんなで練習できるんだから」

「うん、わかってる」

「じゃあね、勉強頑張ってよ」

「またね」

 

香澄の席に鞄を置く。4人が教室を出る寸前、香澄は沙綾に声高らかに宣言する。

 

「沙綾っ」

「なに?」

「新曲、期待しててっ」

 

誇り高く廊下に響いた声は、その場にいた4人の耳にこだました。

 

「…期待しちゃうよ?」

「うん、期待しちゃって!」

「じゃあ、しちゃう!」

 

そう、自信を持って。

あなたは飛ぼうと思えばどこまでも飛べる。あなたの頭上に天井なんて無い。重力も無い。

香澄ちゃんが書く曲は、どれもいい曲になるの。

 

「じゃあね!」

「うん、頑張って!」

 

手を振って駆けて行く。

残った沙綾は、ポツリと静かになった教室を見回す。

 

「……もしかしたら、私がみんなと一緒に学校を登校して、同じ授業を受ける、なんてことがあったのかな」

 

口に出してみて、笑みがこぼれる。

その世界の私は、決して私ではないけれど。

 

「きっと、めちゃくちゃ幸せなんだろうな」

 

外から微かに聞こえる4人のはしゃぎ声に耳を傾けて、沙綾は夕陽に向かって微笑んだ。

 

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