ゼロのモンスターメーカー   作:ローレンシウ

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第1章
第一話 新たな冒険へ


 夕暮れの近づく、とある街角。

 わいわいと賑やかに談笑しながら、少年少女たちの一団が歩いていた。

 持っている荷物からすれば、学校帰りなのだろう。

 

「じゃ、また明日ね」

「こないだの話の続き、書いといてくれよな!」

「そうそう、ずっと気になってるのよ。ルフィーアは、ちゃんとヴィシュナスさんを助けられたの?」

 

「うん。必ず書くよ。……明日見せられるかは、わからないけど」

 

 友人たちと別れの挨拶をかわして、一人が集団から離れていく。

 

 それは、栗色の髪を頭の両側でお団子にまとめた、まだ稚い外見の少女だった。

 髪と似た色合いのくりくりとした目には、大きめのめがねをかけている。

 全体的には物静かで大人しげな雰囲気だったが、その瑞々しく輝く瞳からは子供らしい活発さや芯の強さも感じられた。

 

 

 

「そうね。勉強もあるけど、卒業までには書き終えなきゃ……」

 

 少女はそう呟くと、岐路の途中でふと足を止めて、公園に寄り道をした。

 昼間には小さな子供たちで賑わっていたであろうが、今は人影がなくがらんとしている。

 

 砂場の傍にあるベンチを見つめて、少女は微かな笑みを浮かべた。

 顔を伏せて、しばしの間、物思いに耽る。

 

(懐かしいな。あの日、あのベンチの上にカードを見つけて)

 

 ――そこから、すべてが始まったのだ。

 

 不思議なカードの世界の、アインガングと呼ばれる国に、突然召喚されて。

 この世界を救って欲しいと王様から頼まれて、同じように地球から召喚された仲間たちとそれぞれにクエストをこなして。

 ルフィーア、ヴィシュナス、ディアーネ、タムローン……、冒険の中で、異世界のいろいろな人たちに出会って。

 

 最初のうちは、驚きや不安もあったし、勇者なんてうっとおしいとも思った。

 でも、まるでゲームの世界のようでワクワクしたのも確かだった。

 それに、大人でさえすごいと言って認めてくれたのが嬉しかったし、自分のことを信じられるような気がしたのだ。

 

 そのうち、楽しいだけではない様々なことにも出会って、多くの経験をして……。

 それを通して、自分は仲間たちと一緒に大きく成長できたと思う。

 

 今は元通りの生活を送りながら、その世界で経験したことを書き記して本にまとめている。

 元の世界に還ったときに仲間のみんなとは離れ離れになってしまったけれど、いつか必ず探し出して再会するつもりだ。

 もっとも、向こうの世界、ウルフレンドの仲間たちとは、もう会えることはないのだろうが……。

 

 

 

 そんな風にしみじみと感傷に浸っていた少女は、ふと、奇妙な輝きに気が付いて顔を上げた。

 

「え?」

 

 いつの間にか、ベンチの後ろに奇妙な、光る鏡のようなものが浮かんでいた。

 

「……なに、これ……?」

 

 警戒しながらもゆっくりと近づいて、それを調べてみる。

 

 近づいたとたんに何かが起こるかもしれないと考えて警戒していたが、特に反応はなかった。

 鏡面は高さニメートル、幅一メートルほどの楕円形をしていて、厚みはほとんどない。

 光を反射しているわけではなく、それ自体がきらきらとほのかな光を放っているが、特に熱くはないようだ。

 

 あの時と同じ公園で、同じように、不思議な出来事。

 

 少女は、息が止まるような驚きを感じた。

 と同時に、興奮と期待の気持ちが、急激に胸の内で膨らんでいく。

 

(結論を急いじゃダメ、落ち着いて調べてみなきゃ)

 

 少女は、胸をぐっと押さえてひとつ深呼吸をすると、努めて自分にそう言い聞かせた。

 もしかしたら、なにか珍しい自然現象でしかないのかもしれない。

 まだ、学校で習っていないだけかも。

 

 そこで、試しに石ころを拾って、鏡にそっと投げてみた。

 

 驚いたことに、それは鏡面に弾かれるのでも、鏡面を割るのでもなく、吸い込まれるように消えてしまった。

 後ろのほうを念入りに調べてみたが、確かに投げたはずの石ころは影も形もない。

 

(自然現象じゃないわ、石が消えるなんてありえないもの)

 

 今度は枯れ木の枝を拾って手に持ち、恐る恐る、鏡面へ差し込んでみた。

 

 入れた瞬間に何か感電などのショックがあるかもしれないと覚悟していたが、やはり何も起こらなかった。

 確かに差し込んでいるはずの枝の先端は、鏡の後ろには出てこない。

 けれど、引き戻してみると枝は何の抵抗もなく鏡面から出てきて、特に変わった様子もない。

 

(くぐった瞬間に死んじゃうような、危険なことはなさそうだけど……)

 

 最後に、周りに人影のないことを確認してから、鏡の向こうに向かって呼びかけてみた。

 

「……そこに、誰かいるの? 答えられるのなら、答えて!」

 

 なるべく周りに声が漏れないよう、鏡の方に向かって響くように口の横に手を当てて、できるだけ大きな声でそう言ってから、じっと耳を澄ます……。

 すると、ほんの微かにだったが、確かに何かの声が聞こえた。

 

『――私は、心より求め、訴える―― 導きに、応えよ――』

 

 その声は耳にではなく、心の中に直接聞こえてきたような感じだった。

 

(誰かが、私を呼んでる? あのときのように、助けを求めているの?)

 

 少女は以前にも、そんな感覚を覚えたことがあった。

 あのカードの精霊に、異世界に呼ばれたときだ。

 

 もっとも、そのときはこんな途切れ途切れの声ではなく、カードの精霊自身が姿を現してもっとはっきりした言葉をかけてきたのだが。

 どうか私たちの世界を救ってほしいと頼まれて、それに同意して……、気が付いたら異世界に立っていた。

 

(似ているような、ちがうような……)

 

 その後も二、三度声をかけたり、問いかけをしてみたりしたが、もう返事は聞こえてこなかった。

 しかし、鏡は依然として消える様子はない。

 

(……どうしよう?)

 

 今度はあのときのようなカードセットではなく、光る鏡だ。

 となると、カードの世界ではないのだろうか。

 必ずしもそうとは限らないだろうし、ウルフレンドの他に異世界が存在するのかもしらないけれど、あったとしても不思議はない。

 

 では、それを踏まえた上で、自分はどうするべきなのだろうか。

 

 別に、助けを求められてもそれに応える義務はない。

 確かに、助けを求められて知らん顔をするというのはいい気分ではないけれど。

 ウルフレンドの友人たちならともかく、相手が見知らぬ異世界の住人であれば、別に行く義理もないのだ。

 

 しかし、本当は悩むまでもなく、自分の中で既にその答えは出ていたのである。

 

 もしかしたら、もう二度と会えないと思っていた異世界の友人たちに、再会できるかもしれない。

 そうでなくても、またあのような冒険ができるのなら、たとえ辛いこともあるとしても、しばらくは元の世界に戻れないとしても、自分は行きたい。

 その機会を逃したら、きっと、ずっと後悔するだろう。

 

 明日また会う約束をした友人たちの顔を思い浮かべて、心の中で少し詫びながら、少女はゆっくりと鏡に向かって進んでいった。

 

「……前と同じで、戻ってきたときに時間が経っていなければいいんだけど」

 

 そう呟きながら鏡に足を踏み入れた次の瞬間、少女の視界は暗転し、しばらくの間意識が飛んだ――――。

 

 

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 ――――意識が戻ったときには、仰向けに寝転んでいた。

 

 先程までとは、空気の味がまるで変わっている。

 時間も少し違うようで、夕暮れが近づいていたはずなのに、目の前には抜けるような青空が広がっていた。

 少し頭を巡らせてみると、ここはどうやら、どこかの草原らしい。

 遠くの方には、アインガング城とは少し感じが違うけれど、石造りのお城のような建物が見える。

 

 そして、誰か見知らぬ女の人が、まじまじと自分の顔を覗き込んでいた。

 

 大人という年ではなさそうだけれど、自分よりは間違いなく年上だ。

 高校生くらい、だろうか。

 桃色がかったブロンドの髪に透き通るような白い肌で、ツリ目で鳶色の瞳をしている。

 日本人でないのは間違いないが、桃色の髪なんて地球では見たこともないから、外人だとも思えない。

 

(そういえば、ヴィシュナスの髪も桃色だった)

 

 してみると、やっぱりここはファンタジーの世界に間違いないだろう。

 でも、ルフィーアやヴィシュナスとはなんとなく顔の造作などが違うような感じがするから、ウルフレンドではないのかもしれない。

 それが少し残念で、少女はわずかに肩を落とした。

 

 目の前の女性は黒いマントをつけて、その下に白いブラウスを着て、グレーのプリーツスカートをはいている。

 なんだか、どこかの学校の制服っぽいな、と思った。

 周囲を見渡してみると、案の定、周りにも同じような格好をした人がたくさんいる。

 

(魔法使い?)

 

 ウルフレンドで見た魔法使いのルフィーアやシェフィールドなどには、あまり似ていないが……。

 地球のファンタジー小説に出てくる魔法学校などを思い出して、なんとなくそう感じた。

 実際に見る機会はなかったが、ウルフレンドにもちゃんと魔法使いの学校はあるようなことを言っていたし。

 

「あなた、誰?」

 

 そんな風に考え事をしていると、目の前の女性が何やら困惑したような顔をして、そう話しかけてきた。

 

 日本語を話しているが、別に驚きはしなかった。

 どんな仕組みかはしらないけれど、ウルフレンドでもみんなそうだったから。

 

「私は……ユマ」

「そう、ユマって名前なのね? それで、どこから……」

 

 そこで、脇の方から別の誰かが声を上げた。

 

「ルイズ! どうするつもりなのよ、『サモン・サーヴァント』でどこかの貴族の子を呼び出すなんて!」

「……ちょ、ちょっと間違っただけよ!」

 

 ルイズと呼ばれた少女はそう反論しながらも、顔をしかめていた。

 

 この世界の貴族は基本的に魔法使いであり、地位の証であるマントを着用して杖を携帯しているのが普通だ。

 その点、目の前の女の子はマントを身に着けていないし、杖も持っていないように見える。

 

 しかし、だからといって、ただの平民だとは思えなかった。

 

 着ている服は胸元に大きな紫のリボンが飾られた緑色のワンピースで、ドレスのような袖が付いている。

 靴は、何やら柔らかそうな素材でできた、白い編み上げのブーツだ。

 いずれも見慣れない変わったものではあるが、かなり上等な代物であることが察せられた。

 

 しかも、眼鏡をかけている。

 弱視を矯正するための眼鏡は精度の高いレンズを必要とする高級品で、並みの平民にはまず手が出ない品だ。

 

 見たところ幼い少女のようだから、まだ魔法を習い始めたばかりでマントを与えられておらず、杖も携帯していないのかもしれない。

 あるいは、自室で寛いでいる最中にでも召喚されたのか。

 

 いずれにせよ、これは大変なことになった。

 

 春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する、とされる。

 一度呼び出した使い魔は変更はできないのだ。

 しかし、古今東西、人を使い魔にした例など聞いたことがないし、ましてやまだ小さな女の子、それも貴族、となると……。

 

「ミス・ヴァリエール、私が代わろう」

 

 わいわいと野次を飛ばす生徒らをたしなめながら、この儀式を取り仕切るミスタ・コルベールが進み出た。

 頭髪の少し寂しい、中年の男性教師である。

 ウルフレンドで仲間にしたダルーアンとちょっと似てる、というのがユマの感想だった。

 まあ、魔法使いでハゲ頭なところだけだが。

 

 それよりも、さっきこの人たちは使い魔がどうとかとか言っていなかったか。

 自分のように小さな女の子に大人がするものとしてはいささか滑稽なくらい丁重に頭を下げるコルベールをじっと見つめながら、ユマはそのことを尋ねてみた。

 

「使い魔って、私のこと?」

「そうです、ミス・ユマ。いささか申し訳ないことになりましたが、あなたは、春の使い魔召喚の儀で、こちらのミス・ヴァリエールに召喚されたのです」

 

 コルベールは恐縮したように、一層深く頭を下げた。

 

「それで……、ミス・ユマは、貴族かとお見受けしますが。お住いの国の名前や、家名をお聞きしても?」

 

 ユマはそれを聞いて、首を傾げた。

 

(貴族? 住んでいる……国?)

 

 この人たちは、私を地球から呼んだことを知らないのだろうか。

 召喚した本人だという、あのルイズというお姉さんも?

 

 疑問は尽きなかったが、とりあえず、質問に答える。

 

「貴族って、王様とか、それにお仕えする騎士とかのこと、だよね? 知り合いはいるけど、私はそういうのじゃないわ。住んでいるのは……、地球の、日本という国よ」

 

 その返事を聞いて、コルベールはやや意外に思いながらも、同時にほっと胸を撫でおろしていた。

 

 チキュウという地名やニホンという国名には、聞き覚えはない。

 おそらく魔法についてあまりよく知らずに好奇心から召喚に応じたのであろうこの少女には、申し訳ないことになったかもしれない。

 だが、ひとまず大きな問題が持ち上がることだけは避けられそうだった。

 

 一方ルイズの方は、安堵もしたが、落胆もしていた。

 

 興味本位で召喚のゲートをくぐった貴族の娘を誘拐したわけではなかったのは、まあよかった。

 しかしながら、聞いたこともない田舎からやって来た幼い平民の娘など、使い魔としては何の役にも立たないではないか。

 

 そして、それ以外の生徒らにとっては、まるで他人事だった。

 

「なんだ平民かよ、脅かしやがって」

「当たり前だよ、あいつに貴族なんて呼べるわけがないさ」

「さすがはゼロのルイズだ!」

 

 てんでに囃し立てる生徒らと、悔しげに彼らを睨みつけるルイズを見比べて、ユマは眉をひそめた。

 事情はよく知らないが、彼女は魔法が下手なのか、馬鹿にされているらしい。

 

 嫌な雰囲気で、なんだか気に入らなかった。

 

 そういえば、あのルフィーアも昔は魔法がうまく使えず、よく出来のいい姉と比べられてはみんなに馬鹿にされていた、と言っていた。

 普段は優しいが内に激情を秘めたルフィーアと、負けず嫌いそうな目の前の少女とは、どこか似たところがあるのかもしれない。

 

 そこでユマは、くいくいとルイズの袖を引っ張って、彼女の注意を引いた。

 

「なによ」

「ルイズ。……で、いいのよね?」

「……あなたはまだ子供だし、田舎から来た平民だから知らないのかもしれないけど、貴族にそんな口をきくものじゃないわよ?」

 

 ルイズは顔をしかめてそう言うと、ユマのほうに向きなおって薄い胸を張った。

 

「トリステイン魔法学院二年生の、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ヴァリエール家の三女よ」

「長い名前なのね。私も名前のユマだけでいいから、あなたのこともルイズって呼ぶね」

「だから……」

 

 ルイズは顔をしかめたが、思い直した様子でまあいいわ、と溜息をついた。

 同年代の平民なら許さず咎めるところだが、こんな幼い女の子に強くあたるものでもあるまい。

 

「ところで、ちょっと聞きたいの。トリステインというのは、この国の名前?」

「そうよ。トリステインを知らないなんて、相当な田舎者ね」

「トリステインは、ウルフレンドの国じゃないんでしょう?」

「ウルフレンド? ……聞いたことないわね。まさか、東方のどこかの地方だとか?」

 

 ユマは、ああ、やっぱりか、と胸の中で呟いた。

 

 ここはウルフレンドとはまた違う異世界らしい。

 念のため、アインガング、レオスリック、メルキア、ダンシネインなどの向こうで覚えた国名や地名をいくつかあげてみたが、ルイズはひとつも知らなかった。

 

「……わかった。それで、あなたには、私が必要なの? 使い魔として……」

 

 この世界の使い魔というのがどんなものかは知らないが、たぶん、魔法使いの使役する召し使いみたいなものなのだろう。

 前の時は勇者扱いで、今度は使い魔。

 ずいぶんな違いのようだが、別にそれをもって嫌だと言うつもりはなかった。

 

 何があるのかは知らなかったとはいえ、ここへ来ることを決めたのは自分なのだ。

 それに、前の世界では、カード使いとしてたくさんのモンスターたちを使役して戦ってもらっていたのである。

 決して望まぬ戦いを強いたり虐待したりしたつもりはないけれど、それでも今度は自分が使役される側になったとして、文句を言えるような立場にはない。

 

「そうよ。使い魔を召喚して自分の属性を決めないと、二年の専門課程へは進めないんだもの」

 

 ユマは顔を上げて、ルイズの顔を真っ直ぐに見つめる。

 

「そう。あなたの役に立つのなら、それなら、私はあなたの使い魔になるわ」

「当たり前よ、なってもらわないと困るの」

 

 ルイズは、当然のようにそう返事をした。

 

 平民が貴族に仕えるのは当然のことで、相応の待遇を与える限り何ら問題はないはずだ。

 身なりなどからすれば割と裕福な平民だったのだろうが、ヴァリエール家はトリステイン随一の大貴族で、決して不足のない暮らしを与えてやれるだろう。

 こちらに悪気はなかったとはいえ、親元から引き離してしまったであろうことには多少後ろめたい気持ちはあったが、それはいずれ場所を調べて里帰りさせてやればいい。

 残念ながら特に役に立つとも思えないし、学生の間だけ使い魔であってくれさえすれば、その後は親元に戻ってもらっても別に構わない、とも考えていた。

 

「それじゃ、『契約』をするから、こっちに来て……」

 

 ルイズはそう言いながら、今更のように困った顔で、ユマを見つめた。

 

(この子と……、使い魔の、契約。って……)

 

 相手は人間で、同性で、しかも幼い女の子。

 私、初めてなのに。

 

「どうしたの?」

 

 不思議そうにきょとんと首を傾げるユマに肩を竦めると、諦めたように目を瞑って、手にした小さな杖を彼女の前で振った。

 それから、朗々と、呪文の言葉を紡ぎ始める。

 

「『我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ』」

 

 詠唱を終えると、杖をユマの額に置き、体をかがめた。

 

「……何をするの?」

「いいから、その。……目を閉じて、じっとしてて」

 

 微かに赤い顔をしたルイズが、大人しく目を閉じたユマの顔にそっと自分の顔を寄せ……。

 そして、唇を重ねた。

 

 周りで見守る生徒たちから、おおー、きゃー、と、歓声が上がる。

 

「……!? な、何をするの!」

 

 ユマは何が起こったか理解すると、たちまちリンゴのように真っ赤になってずざざっ、と後ずさり、ルイズに抗議した。

 

「し、仕方ないでしょ! これが使い魔の契約なんだから!」

 

 ルイズはきまり悪そうに身じろぎして、ぷいっと横を向いた。

 彼女のほうも、かなり顔が赤くなっている。

 

「……ううー……」

 

 それならそうと教えておいてほしいわ、とユマは不平がましく思った。

 だって、ファーストキスだったのである。

 そりゃあ、仲間のディアーネもロイヤルキッスとかいう技でキスしてきたことはあったけど、あれは額とか頬っぺたとかだったし。

 

 そういえば、同じ王族なのになんでお兄さんのヘリオスはキスしてくれないのか、なんて不満に思ったりしたこともあった。

 なにせヘリオスは女の人みたいにきれいで、思わずときめいてしまうような素敵な王子様なのである。

 お兄様にぞっこんなディアーネの前でそんなことを言ったら睨み殺されかねないから、口には出さなかったが。

 

 そんなことを考えていると、急に体が熱くなり、左手の甲に痛みが走った。

 

「痛っ……?」

 

 それは、戦いで受ける傷の痛みに比べれば何でもなかったが、怪我をしたのとはまた違う妙な感覚だった。

 そちらの方に目をやると、いつの間にか手の甲に見慣れない文字が浮かび上がっている。

 

「これは……」

「おお、『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』は一回で成功したね」

 

 コルベールは嬉しそうにそう言うと、ユマの手の甲を調べて、その文字を書きとった。

 

「ふむ、珍しいルーンだね……」

 

 どうやら、この文字は使い魔の徴みたいなものらしい。

 

 そういうのも先に教えておいてほしいのだけど、とユマは思った。

 別に嫌だとは言わないが、断りもなくいきなり体に入れ墨みたいなものを入れないでほしい。

 地球に帰ったら、ちゃんと消えるのだろうか。

 

 いや、そもそも、今回は何をしたら地球に帰れるのだろう。

 使い魔の仕事が終わったらだろうか。

 でも、それはどのくらい続くものなんだろうか。

 

 ユマは学校帰りで持ったままだった荷物を拾ってまとめ直すと、先に空を飛んで帰っていく魔法使いらしき人々の姿をぼんやりと見つめた。

 もしかすると今回は、思ったよりも長い旅になるかもしれない……。

 





モンスターメーカー:
 1980年代に発売されたカードゲームから始まって、ボードゲーム、コンシューマゲーム、コミック、小説、TRPGなどさまざまなジャンルに展開した、息の長いファンタジー作品群。
かわいらしいキャラクターデザインが人気だが、背景世界の設定などは意外なほど硬派で本格的である。

ユマ:
 GBAのソフト「モンスターメーカー4 フラッシュカード」の主人公の一人。
主人公は選択可能で、男の子のレイジと女の子のユマの二人がいる。
同時発売の姉妹作「モンスターメーカー4 キラーダイス」の主人公はシュウとアミ。
彼らの年齢は明記されていないが、公園で遊んでいる最中に召喚されたことや外見からしておそらく小学生だと思われる。
 地球からカードの精霊に頼まれてモンスターメーカーの世界(ウルフレンド)に行き、カードからいろいろなモンスターなどを呼び出して、世界を救うために闇と戦う。
大人しげでかわいらしい外見に似合わず大人びたことを言ったり不吉なことをボソボソ喋ったりするのもあって、人からは不思議少女のように思われがち。
だが、その実芯のしっかりした女の子であり、心の奥底に自分を変えたいという強い想いを秘めているらしい。
以上は原作の設定だが、本作は原作終了後の話なので、既にある程度の成長がみられる。
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