ゼロのモンスターメーカー   作:ローレンシウ

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第十二話 桃りんごと夜更かし

 

 それからしばらくは、何事もない穏やかな日々が続いた。

 毎日ルイズの身の回りの雑用をこなしたり、学院の使用人たちを手伝ったり、キュルケやタバサと親しくしたり……。

 

 それでもユマは、きっとそのうちにこの世界でも何かが起こるのだ、と思っていた。

 自分がルイズに召喚されたこと、『ガンダールヴ』とかいう伝説の使い魔だということ、その手に握られる定めにあるというデルフリンガーと出会ったこと。

 そのすべてが偶然だとは、とても考えられなかったから。

 

(いざという時になってから慌てないように、訓練や勉強も普段からちゃんとしておかないと)

 

 そうでなくても、ルイズも毎日一生懸命に魔法の勉強や練習をしている。

 なのに、使い魔の自分がだらけているわけにはいかないだろう。

 

 まず、毎日朝の洗濯が終わるとあまり人目のないうちに少し運動をしたり、カードから出したモップや武器を使って素振りなどをやってみたりした。

 ウルフレンドではカードの仲間たちに守られて積極的に前線には出なかったし、小柄な体格が接近戦に向いていないのもあって、どちらかといえば魔法の訓練を中心にしていた。

 しかし、『ガンダールヴ』の能力を活かすなら、武器を使った近接戦闘の訓練も必要だと思ったのだ。

 

 そうしていろいろとやってみた結果、デルフリンガー以外の武器でもルーンの効果は発動するが、本来武器ではないモップでは発動しない、ということもわかった。

 

 ただ、ルーンの力を使っていると余計に疲れるようなので、常に発動している方がいいとばかりはいえないようだ。

 一応、日用品としても使えるちょっとしたナイフくらいはいつも懐に入れて持ち歩くようにしているので、いざというときはそれを握ればいいだろう。

 まあ、懐からナイフを抜く余裕があるならカードを使うほうがいいだろうが、持っておいても損はないはずである。

 経験上、さまざまな用途に使えるナイフは、ウルフレンドのような世界では一本くらい持ち歩いていればなにかと便利なものだったから。

 日本では刃物を携帯していると犯罪になるらしいので、その習慣を続けるわけにもいかなかったけれど。

 

 それに、デルフと何度か話してみた結果、彼の本体は意外と近く……トリスタニアのある武器屋にいるらしいということもわかった。

 残念ながら彼を買い取れるようなお金は今の自分にはないが、折を見て直接会いに行ってみようと心に決めた。

 

 魔法の授業にはちゃんと出席してノートをとり、夜には買ってもらった本を使って、ルイズから読み書きを習った。

 タバサも、たまに図書館などで出会ったときには、質問をすると短くわかりやすく教えてくれた。

 二人ともユマの読み書きの習得がとても早いことに驚いており、当のユマ自身も不思議だったが、おそらくそれもルーンの効力のひとつなのだろうということで意見が一致した。

 

 他にも、この世界のさまざまな事柄について、機会があるたびに居合わせたいろいろな人から教わった。

 

 特に、召喚のときに立ち会ってくれていたコルベールという名の先生はやけによく居合せてくれたので、たびたび質問をした。

 少し不思議だったが、遠くから来た変わった使い魔だから気にかけてくれているのだろうかと思って、特にそれについて詮索はしなかった。

 

 

 

 そんな、ある夜のこと。

 

 ユマはルイズから買ってもらったベッドの中で、なかなか寝付けずにいた。

 特にこれといった理由もないのだが、あるいは夕食の時に使用人たちが試しにどうかと勧めてくれた、濃いブラックコーヒーのせいだったかもしれない。

 すごく苦かったけれど、残すのももったいないからと思って、ミルクを足してもらって飲み切ってしまったのだ。

 何度も寝返りを打ちながら、どうにか寝ようと努力してみたが、目が冴えてどうにもならない。

 

「……ぅー」

 

 とうとう諦めて、ベッドからもぞもぞと這い出した。

 

 いっそ自分に眠りの魔法をかけてしまおうかとも思ったが、逆に熟睡しすぎて翌朝寝坊をしてしまわないか心配だった。

 自分はウルフレンドで戦いながら学んで即席で身につけた、型どおり、呪文書どおりの魔法を唱えられるだけで、腕のいい魔術師のように細かい制御などはできないのだ。

 戦いで役に立ちそうな呪文をいくつか、常に全開の威力で放つ方法を手っ取り早く身につけただけで、とても魔術師だなどと名乗れるようなものではない。

 そんな魔法で眠ったら、叩き起こされない限り何時間寝続けることになるのかわからない。

 

 こうなったら、自然に眠くなるまで読書でもしていようか。

 でも、近くでルイズが寝ているから、明かりをつけるわけにもいかない。

 月明りだけを頼りに、暗い中で本を読んだりしていたら、ますます目が悪くなりそうだし……。

 

(そうだ、瞑想をすればいいわ)

 

 それは魔法の訓練の一環として、ウルフレンドでやり方を学んだ修行法のひとつであった。

 さきほどちらっと魔法のことを考えたので、思い出したのだ。

 気持ちを静めてじっとしていれば、体も心も休まって、睡眠の代わりにもなるだろう。

 

 あの世界で仲間になってくれた老魔術師のザルサイの話によれば、瞑想は魔法学校で見習い生が合格しなければならない基礎学科のひとつであるらしい。

 召喚されるまではただの子供だったユマにとっては、実戦経験を積む以外でもできる限り戦う力を得ていくことが大切だったので、訓練には真面目に取り組んだ。

 魔法の奥義が記されているという“知恵の石版”を一生懸命読んだり、仲間の魔術師たちに教わったりしてがんばったものだ。

 もっとも、瞑想自体は短期間で戦う力を身につけるには向かない修行だったので、ほどほどで切り上げて呪文の勉強に移ってしまったのだが。

 そういえば、最近は瞑想に限らず魔法関係の訓練はほとんどしていなかった。

 いざというときのために戦う力を身につけることも大切だろうが、いつもがんばっているルイズと一緒に魔法の訓練をしてみるというのもいいかもしれない。

 

 ウルフレンドでした瞑想の修行は、まずじっと床に座って、すべての雑念を払えるようになることから始まった。

 雑念があったりうつらうつらしたりすると、監督を努める先輩の魔術学生に肩や背中を棒で叩かれるのだ。

 どうして監督役の魔術学生はこちらの頭の中を見抜けるのかと不思議だったが、きっと瞑想の訓練を積むうちに人の考えも覗けるようになるのだろう、と思った。

 

 座ってじっとしていることはわけなくできるようになったが、何も考えないというのが難しかった。

 何もせずに待つ時間は長くて苦痛だったし、何も考えてはいけないと念じること自体が、ものを考えているということになってしまうからだ。

 試行錯誤の末に、ユマは精神をただ一点に集中し、床の上のある場所だけを、あるいは壁面のある地点だけを、ただひたすらにじっと見つめ続けるようにした。

 そうすると、自分が次第に石ころのようになっていくのが感じられ、時間の感覚もなくなって、待つことが苦ではなくなった。

 

 やがて、ユマは容易に瞑想の状態に入って、それを維持できるようになった。

 

 呪文の唱え方はまだ学んでいなかったが、雑念を払う技術は魔法以外の面でも役に立つことがすぐにわかった。

 それ以前には、武器の構え方はとか、足の踏み出しはとか、矢の角度はとか、攻撃が外れたらどうしようとか、戦いのときに雑念が入り過ぎていたのだ。

 一生懸命考えていないと不安でしょうがなかったのだが、それがかえって集中を削ぎ、体のきれを鈍くしていたのに気が付いた。

 それを振り払って、ただ無心に集中できるようになると、目に見えて技術が上達するようになった。

 

 その次の段階では、目の前に石だとかパンだとか羊皮紙だとかいった物を置かれて、それについてひたすら考え続けるように、といわれた。

 そういったありふれた物について考え続けることは難しく、すぐに考えることが尽きて集中が途切れがちになり、そうすると監督にまた容赦なく肩や背中を棒で叩かれた。

 

 当時のユマはその過程を途中で切り上げて、呪文の勉強に移った。

 ひとまず瞑想の第一段階をクリアして高い集中力を維持できるようになっていれば、深い理解や細かい制御はともかく、本に書かれたとおりに魔法を唱えることは可能だからだ。

 それでとりあえず、戦う力を手っ取り早く得ることはできる。

 そうなると、いつ非常事態が起こるかもわからない状況では、瞑想にそれ以上の時間を割いてはいられなかったのである。

 

 でも、今は時間にも余裕がある。

 今回はその段階から、もう一度じっくりと挑戦し直してみるのがいいだろう。

 

(そうすると、今日は何について考えてみようか)

 

 監督がいないのだから、そこから自分で決めなくてはならない。

 今の時点で習得できている呪文や技から考えるに、自分はたぶん、風や植物、生命、心などに関係した魔法が得意なのだろうと思う。

 最初はまず、それらにある程度関係したものについて考えることから始めるのがやりやすいのではないだろうか。

 

(ええと……)

 

 ユマはきょろきょろと部屋を見回して、何かよさそうなものはないかと探した。

 

 そうするうちに、昼間使用人たちから分けてもらった“桃りんご”という果物の乗った皿が目に留まった。

 なんでも学院長の秘書を務めるロングビルという女性から、厨房の皆さんにと贈られたもので、彼女の故郷の方からもらった食べ物のおすそわけらしい。

 さっきルイズと一緒にひとつ切って食べてみたのが、まだもうひとつ残っていた。

 魔法をかけて日持ちがするようにしてあり、冷蔵庫などに入れておかなくても大丈夫なのだそうだ。

 

 これなら、植物や命に関係したものだし、さっき食べたばかりで味もわかっているから、いろいろと考えやすいかもしれない。

 ユマは少し考えて、今日はこれを使ってみようと決心した。

 

 戸棚の中から取り出してそっと運んで床に置き、その前に座ると、すうっと深呼吸をした。

 それから、皿の上の桃りんごをじっと見つめて、それについての思案を巡らせ始める。

 

 ユマはまず、先程食べたときのことを思い出してみた。

 

 やわらかく瑞々しいのに歯ごたえもよい不思議な触感で、噛むとねっとりした果肉が歯にまとわりつきながらも、かすかにしゃきしゃきと快い音がした。

 まだ旬ではないということだったが、それでも十分に美味しかった。

 上品な甘さが口に広がり、鼻にいい香りが広がった。

 それに果物ナイフを使って自分が剥いたとき、切り分けたときの感触に、色、手触り。

 一緒に食べていたルイズの顔のほころびや、彼女がもらした感想……。

 

 けれど、すぐに思い浮かぶのはそのくらいで、考えられることはじきに尽きてしまいそうだった。

 

(まだ、何かあるはず)

 

 ユマは今度は、桃りんごの中はどんなふうになっているのだろう、と考え始めた。

 

 皮の下……先程剥いたときの姿を思い浮かべる。

 それから、断面……切ったときの姿が、頭に浮かんできた。

 しかし、経験で知っているのはそこまでだ。

 

(それ以上のことはわからないものだろうか)

 

 そこで、もう一度深呼吸をして瞑想の状態に入り、意識を目の前の果実の中に集中させていった。

 なんとなく、そうすればもっと詳しくわかるような気がしたのだ。

 

 ユマは、植物を操って敵を攻撃させる魔法を使うときのことを考えていた。

 

 ただ決まった呪文の文句を唱えさえすればそれでいい、というわけではない。

 感覚を広げて周囲にある植物をとらえ、そこに意識を集中させて、その植物と“つながって”から呪文を唱えなければ、効果は現れない。

 瞑想の修行が中途半端なユマはごく大雑把にしかできず、細かな威力の制御などは利かないが、基本的なことはできる。

 それと同じように、意識を目の前の桃りんごに集中させるのだ。

 自分の感覚と桃りんごのそれとをつなげて、普段呪文を唱えるときよりももっと長く、深く探ってみれば……。

 

 そこまで考えたところで、ふと疑問が頭に浮かんだ。

 

(でも、この桃りんごは生きているのだろうか?)

 

 生き物となら感覚の枝をつなげられるが、生きていないものの場合はどうだろう。

 枝からもぎ取られた木の実は、果たして生きているといえるのか。

 

(学校では、習ったっけ?)

 

 教わったような、教わっていないような……。

 いや、正しいかどうかもわからない曖昧な知識なんて、あてにするのはやめよう。

 

 ユマは瞑想して意識を集中させ、桃りんごの中に自分の感覚の枝を入り込ませていった。

 この中に生命があるのかどうか、自分自身の感覚でとらえてみるのだ……。

 

 

(――ん……)

 

 瞑想して集中を深めていくと、次第に桃りんごが立体になり、ユマの意識の中で大きく大きくふくらんできた。

 

 自分の体よりも大きくなったその果物の中に、入り込んでいく。

 すると、先程桃りんごを食べたときに感じた果肉の感覚が、歯と同じように果肉へ食い込んでいく全身を包み込んだ。

 ねっとりとまとわりつくような、それでいてしゃきしゃきとした触感……。

 

(……は、ぁ――)

 

 上品な甘さと香りが体中に広がっていく快さに、ユマは思わず小さく息をもらした。

 

 集中を途切れさせないように気をつけながら、果肉をかきわけて、さらに奥へと意識を進めていく。

 もっと奥の方から、生命の脈動を感じたのだ。

 ついに果肉の中心にたどり着くと、そこには種があった。

 

(この種は生きているわ。この中に、いのちがあるのね)

 

 けれど、種にたどり着いただけでは、まだすべてわかってはいないと感じた。

 

 この奥に、きっと生命の本質がある。

 それにこの手で触れてみたい、自分の感覚をつなげてみたい。

 不思議な高揚感を覚えて、ユマはもどかしげに、もっと奥へと意識を進めていった。

 

 種の中は、周囲の果肉よりもかたくなっていた。

 そのかたい構造の中心に、感覚の世界の中でほのかに輝いているように感じられる生命の精髄が守られている。

 

 ユマは、それに手を伸ばした。

 

 感覚の手に触れたそれは小さく弱々しかったが、確かに生きて脈打っている。

 それを感じたとき、自然に強い歓びが胸の中に湧き上がってきた。

 

(やっと、会えた)

 

 それは、瞑想で新しい段階に進めたことに対する達成感といったようなものではなく、何か、もっと根源的なもの……。

 生まれたばかりの幼い生き物に触れたときのような幸福感だった。

 ユマは愛おしさのあまり、そのいのちを自分の感覚の腕でぐっと抱きしめる。

 

(もっと、あなたのことを教えて)

 

 そう望むと、何かかすかなささやきが、腕のなかの生命から聞こえてきた。

 

『――……て』

 

(なに? なんと言っているの?)

 

『……しを……て』

 

(あなたは、わたしになにを伝えたいの?)

 

 ユマはそれを聞き取ろうと、一生懸命に感覚の耳を研ぎ澄ませる。

 ややあって、ようやく聞き取ることができた。

 

『わたしをたべて』

 

(……えっ?)

 

『わたしは、たべられるためにあるの』

 

(……まさか、そんなはずは……)

 

 ユマには、聞こえてきたその言葉が信じられなかった。

 そうして戸惑っていたために集中が切れて、感覚の世界から引き離されてしまった。

 

 

「…………」

 

 気がつくと、ユマは元の通り、ルイズの部屋の床に行儀よく座っていた。

 あたりはまだ暗く、目の前では、手の平からちょっとはみ出るくらいの大きさの桃りんごが変わりのない様子で皿に乗っている。

 

 ユマは困ったように眉をひそめてそれを見つめながら、一体どこで間違えたのだろうと考え込んだ。

 

 自分を食べて欲しいなんて、言うはずがない。

 シマウマだって、食べられたくないからこそ、追いかけるライオンから必死で逃げようとするのではないか。

 相手が食べられることを嫌がっていないだなんていうのは、食べる側に都合のいい勝手な解釈に決まっている、とユマは思った。

 

(きっと、途中から自分の気持ちが混ざってしまったんだわ)

 

 桃りんごのおいしさを体中で感じ取ったものだから、食べたいという自分自身の心の声が聞こえてきて、それを植物の声だと思い違いしたのだろう。

 注意を与えてくれる監督がいないものだから、知らない間に雑念が混ざってしまっていたのだ。

 この腕の中に、あんなに素敵な“いのち”を抱いていたときに、そんないじきたない気持ちがわいてくるなんて……!

 

 もう二度とそんなみっともない失敗はすまいと自分に言い聞かせて、深呼吸をして座りなおすと、ユマはもう一度目の前の桃りんごに意識を集中させた……。

 

 

 先程と同じように、ユマの意識で桃りんごの存在が大きくふくらんでいった。

 

 果肉の中に分け入っていくときに、また心地のいい触感と甘い味、香りが全身を包み込もうとする。

 ユマは今度は、あえてその感覚を遮断しようと努めてみた。

 

(私が知りたいのはあなたの味じゃない、もっと深いところにある、あなたのいのち)

 

 しかし、それでは桃りんごの中に感覚を入らせることができなかった。

 しばらくがんばってみたが、自然に伝わってくる感覚をわざと遮断したままの状態では、一歩も果実の中に踏み入っていくことができない。

 

(つまり、このやり方は間違っているの?)

 

 なるほど、触感も、味も、香りも、結局は桃りんごの存在の一部なのだ。

 それを受け入れることを拒絶しながら感覚をつなげようだなんて、できるはずがないということか。

 

(……わかった。あなたから伝わってくるものは、なんでも受け入れるわ)

 

 ユマは感覚を開いて、先程と同じように伝わってくる快い刺激を全身で受け取った。

 すると、あっさりと桃りんごの奥に進むことができるようになった。

 

(でも、今度は自分の食欲なんかに流されないようにしなければ)

 

 ユマははやる気持ちを抑えて自分にそう言い聞かせながら、先へ進んだ。

 かたい種の中に入り込み、再びかすかに脈打ついのちの前に立って、それをしっかりと抱きしめる。

 

(今度こそ、ちゃんと学んでみせるわ)

 

 だからもう一度、私にあなたのことを教えて。

 

 そう自分の願いを伝えると、またかすかな声が聞こえてきた。

 ユマは、今度は聞き間違えるまいと、自分の気持ちを努めて静めて、その声だけに集中する。

 しかし、結果はさっきと同じだった。

 

『わたしをたべて。わたしは、たべられるためにあるの』

 

(…………)

 

 自分は、十分に気をつけたはずだ。

 では、この声は自分の願望から出たものではなく、本当に桃りんごの声なのだろうか。

 

(……どうして?)

 

 なぜ、あなたは食べられたいというの?

 

 そう尋ねても、腕の中の桃りんごは同じ望みを繰り返すだけだった。

 人間の考え出したそんな問いかけなど、まだ根付いてもいない幼い植物には理解できないのかもしれない。

 あるいは、答えることに意味を見出せないのかも。

 

(……わかった、答えてとはいわない)

 

 自分で、答えを見つける。

 あなたのことを、きっと理解してみせる。

 

 ユマはそう心に決めると、腕の中で弱々しく脈打ついのちを感じながら、一生懸命に考え始めた。

 

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