ゼロのモンスターメーカー   作:ローレンシウ

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第十三話 続・桃りんごと夜更かし

(どうして、この桃りんごは自分を食べてほしいなどというのだろう?)

 

 ユマはそのわけを、自分のもっている限りの知識を動員して一心に考えてみた。

 

 何かを望むのには、必ず理由があるはずだ。

 たとえば、新作のゲームを買ってほしがる子供は、自分の知識や経験からそれがきっと面白いと思っているから手に入れたがるのだ。

 でも、生まれたばかりの赤ちゃんには、まだそういった判断を下すための知識や経験がない。

 まだ芽を出して周りの世界を見てもいない種が、なぜ食べられたいというのだろうか。

 

(とにかく、知識や経験からそう判断したのでないのは確かだ)

 

 ならば、それは生まれつきもっている桃りんごの性質なのだろうか。

 たとえば、まだ何も教わっていない赤ちゃんでも、お腹がすいたら泣いてミルクを求め、疲れたら自然に眠る、というような……。

 

(うーん……)

 

 もっと知識がある大人だったら、もしかしたらそんなことは知っていて当然なのかもしれない。

 けれど、残念ながら自分はまだ子供で、もっている知識は少ない。

 

 地球の図書館かインターネットでも使えたらと思ったが、あいにくとここではそんなものは利用できない。

 まだそんなに複雑な言葉まで読めるかは自信がないが、夜が明けてから学院の図書館へ行って、植物に関する本を調べたら何かわかるだろうか。

 あるいは、ルイズや、物知りなタバサに尋ねたら?

 

(いいえ、それはだめ)

 

 いや、聞いたり調べたりすること自体はいいだろう。

 でもそれは、自分で理解するためにできる努力をすべてしてからだ。

 

 瞑想や魔法は、あくまでも自らの感覚によるものである。

 知識はそれをより研ぎ澄ます役には立つかもしれないが、知識が感覚そのものなわけではない。

 人から教わった知識をただ鵜呑みにしただけでは、自分の中で本当に感じ取った、理解したとは決して言えないだろう。

 

 知識が魔法そのものなら、ルイズだってとっくに呪文を唱えられるようになっているはずなのだ。

 毎日、あんなに一生懸命に勉強しているのだから。

 

 ハルケギニアのメイジは、得意な系統の呪文を唱えると体の中に何かが生まれだして、それが体内を循環するような感じがするのだという。

 ルイズは、自分はそんな感覚をまだ一度も感じたことがない、呪文を唱えても詠唱は正確なはずなのになんだかぎこちないのが自分でもわかる、とこぼしたことがあった。

 つまり、知識はあってもまだ感覚として魔法をつかめていないということなのだろう。

 

 自分も大して違わない、とユマは思う。

 

 呪文はいくつか唱えられるが、決してルフィーアやヴィシュナスのようではないのだ。

 ルフィーアは得意な火の魔法を何十回でも疲れることなく唱えていたが、自分はほんの数回も呪文を唱えたら息切れしてしまう。

 ただ表面的な技術を生半可に学んで、呪文をいくつかかじっただけで、本物の魔術師とは比較にならない。

 

 今日はせっかく、これまでになく深くまで感覚の枝を伸ばすことができたのだから、ここであきらめたくない。

 今の自分に探れることはもう他にないだろうかと、ユマはもう一度よく考えてみた。

 

(生まれたときから食べられたがる理由は、もしかしたら、生まれる前を調べたらわかるかもしれない)

 

 考えた末に、ユマはそう思いついた。

 

 そんなことが、自分に本当にできるのかどうかはわからなかった。

 でも、今回ほど深い段階まで瞑想できたのもこれが初めてのことだったのだから、今度もうまくやれるかもしれない。

 

(このさい、何でも試してみよう)

 

 ユマはそう決心すると、意識を一生懸命に集中して、感覚の世界で桃りんごの成長を逆にたどろうと試みた。

 

 最初は、どのようにしたらいいのか、何を思い浮かべてみたらいいのか、皆目わからなかった。

 そもそも、自分が桃りんごについて知っていることといったら、目の前にあるようなもがれた後の果実を見たことがあるだけなのだ。

 どんな樹の枝に実るのかも、どういった場所に生えるのかも何も知らないのだから、成長の過程がうまくイメージできない。

 

 しばらく悩んだが、ふと、季節を逆にたどるように思い浮かべてみたらどうだろうと思いついた。

 季節の変化なら、思い描くことができる。

 桃りんごを取り巻く周囲の景色を過去に戻したら、その中にある桃りんごのイメージもそれに合わせて変化するのではないだろうか。

 

 そこでまずは、桃りんごの周りに、現在の暖かい春の情景を思い描いた。

 頭の中でそれを逆回しに、雪の降る寒い冬の終わりごろまで巻き戻すイメージをしてみる。

 すると、その変化に合わせて桃りんご自身の姿も変わっていった。

 

 実が小さくなり、色が青くなる。

 それはやがて実ではなくなり、花に変わった。

 その花が、何かの枝に咲いていることに、ユマは気がついた。

 

(あなたは、この枝に実っていたのね)

 

 ユマはそこで、感覚の目を少し枝から遠ざけて、周囲の景色を見てみようとした。

 

 視点が後ろに下がっていくにつれて、見えるのが一本の枝だけではなくなり、木の全体像がつかめるようになった。

 もっと下がると、その木はたくさんの木の中のひとつであり、周りは緑豊かな森林なのがわかった。

 

(この森は、どこにあるのだろう?)

 

 魔法学院の近くにあるような森とは、なんとなく雰囲気が違っている。

 すると、トリステインとは別の国なのだろうか。

 

(もっと上の方から見てみよう)

 

 感覚の目に地面は関係ないのだから、ユマは視点をぐんぐん上昇させてみた。

 最初は視界に一面の森しか写らなかったが、やがて森が途切れ、その向こうの大地が見えはじめる。

 

 やがて、その大地もまた唐突に途切れた。

 その向こうは、雲の海だった。

 森や、山や、湖や、街や、お城が乗った大きな大地が、空のただなかに浮かんでいる……。

 

(……!)

 

 もちろん強い驚きを感じたが、感覚の世界に深く入り込んでいたからなのか、先程のように集中が途切れて元の世界へ放り出されることはなかった。

 ユマは少し考えて、ハルケギニアにはそんな国があると以前に聞いていたのを思い出した。

 

(これが、アルビオン……)

 

 ウルフレンドにも、魔法的な動力源によって空に浮かぶ浮遊城というものが存在していると聞いたが、実際に見たことはない。

 その美しくも非現実的な光景を、ユマは食い入るように見つめた。

 

(あなたの、それにロングビルさんの故郷は、この空の上の国だったのね)

 

 けれど、その美しい光景をいつまで見ていても、自分の求めている答えがわかるわけではない。

 ユマはもう一度桃りんごのところへ意識を戻すと、もっと昔を見ようとした。

 

 季節を冬から秋に、秋から夏に、そして昨年の春に。

 その繰り返しを、何度も何度も通り過ぎた。

 

 花はつぼみとなり、つぼみは枝の中に戻り、その先は元となった木そのものの成長をたどり始めた。

 木が徐々に若く、小さくなっていく。

 ついには新芽となり、種となり、果実の中に……。

 

(……あっ……)

 

 ユマはそこで、ある出来事に注意を惹かれた。

 種が果肉から出て地面に根を張る、その過程の途中で、果実は獣に食べられていたのだ。

 

 その果実は元々、そこからかなり離れたところにある木に実っていた。

 ある日、大きな獣がするすると親木に登り、その甘い果実をもいで齧った。

 種は果肉と共に獣の体内に入ったが、かたい殻によって消化から守られて、その中にある生命の精髄は無事だった。

 獣はやがて別の場所に移動してその種を排出し、種は根付いて、そこで新たな芽を吹いたのだ。

 

 その過程には、自力で移動できない植物が、新しい場所で新たな生命を育めることに対する歓びがあった。

 それを感じ取って、ユマはようやく得心がいった。

 

(あなたは、このために食べられたかったのね)

 

 桃りんごは、なにも種の中の生命の本質を食べられたかったのではない。

 どうやら自分は、生命の本質を見つけた歓びのあまり、それだけが植物の本体だという錯覚に陥って、視野が狭くなってしまっていたようだ。

 果肉もまた桃りんごの一部であって、食べられたかったのはその部分だったのだ。

 それは食べられるために、動物に食べさせることで中の種を植えてもらうために、育てられたものだった。

 

 どんな生き物であれ食べられたいなんていうはずがない、相手が食べられたがっているんだなんて食べる側の勝手な解釈だと、先程はそう思ったけれど……。

 それもまた、動物が自分の立場から見た勝手な解釈だったのだろう。

 

(もっと、学んでみたい)

 

 ユマはその気持ちに従って、生命のつながりをさらに過去へとたどっていった。

 

 いくつもの季節が目まぐるしく通り過ぎ、何本もの木が種に戻っては、親木の中へと還っていった。

 さすがに周囲で起きている出来事までは把握できないが、道を外れずにつながりを確かにたどり続けられているという自信はあった。

 

 このままたどり続ければ、桃りんごの“いのち”が最初はどこからやってきたのか、わかるかもしれない。

 そう思ったとき、突然、それまでたどっていた道が二つに枝分かれしたのに気が付いた。

 

(……?)

 

 これでは、どちらをたどって行けばいいのかわからない。

 ユマは困惑して足を止めると、そこで何が起こったのか、少し木から離れて感覚の目で探ってみた。

 

(……森が、なくなってる)

 

 間違えずに道をたどることにばかり集中していて気が付かなかったが、いつの間にか、周囲にあった森が消えていた。

 木々はまばらで、人が住んでいるらしい小さな小屋が近くにいくつか見えている。

 森ができる前まで戻ったのか、それともこの木が違う場所に生えていて、どこかの時点で子孫にあたる種が森に運ばれたのだろうか。

 

(でも、どうして、過去へ戻る道が二つに分かれたのだろう?)

 

 その答えは、小屋のひとつから出てきた農夫がもたらしてくれた。

 その農夫は、近くにある別の桃りんごの木から枝を切って、台木の上に接ぎ木したのだ。

 

(別々の木の体を、つなぎ合わせたの?)

 

 そういった植物の育て方について詳しく知らなかったユマは、不思議な思いがした。

 その農夫がした作業を感覚の目でしっかりと観察すると、今度は接ぎ木を終えた植物の生命のほうに意識を戻し、そのつながりを探ってみた。

 

 桃りんごの枝と、台となった木とは、最初は別々の存在だった。

 しかし、二つの生命は徐々に混ざり合い、ついには一つになって、その境界がわからなくなった。

 

 その過程をつぶさに感じ取って、ユマは強い感動を覚えていた。

 

 先程自分が感じた枝分かれした道は、桃りんごの枝と台木のものだったのだ。

 ドラゴンライダーは愛するドラゴンと心がひとつになるというが、植物は生命そのものが本当にひとつに融け合うのだ。

 そして自分も、今、感覚だけとはいえ植物とつながって、その歓びを共有しているのだ。

 

(すごい……)

 

 ユマは今、深い瞑想を通じて魂が肉体から脱け出して宙をさまようという、文字通りのエクスタシーの境地にいた。

 

 夢中になって、もっともっと過去へ、もっともっと深くへと、生命のつながりをたどっていく。

 枝分かれした道のうち、桃りんごの枝からつながる道のほうを追っていくと、過去にはさらにいくつもの生命との結びつきや枝分かれがあったことが感じ取れた。

 接ぎ木、挿し木、他の木からやってきた花粉との受粉……。

 しかし、いくつの枝分かれや合体があろうとも、“いのち”は太古の昔からずっとつながっていた。

 過去へ戻れば戻るほど、さすがに感覚のとらえる光景もおぼろげになっていったが、ユマはただ一心に道をたどり続けた。

 

 そしてついに、白くぼんやりとかすむ光景の中で、ユマは“桃りんご”という名の生命の起源となった出来事をみつけた。

 大昔にメイジらしき人物が、二種類の異なる植物、地球の桃やりんごに似た品種の果物を組み合わせて、新たな植物の品種を生み出す研究をしていたのである。

 

 それより以前になると、たどっている道はもはや“桃りんご”という名の生きものの道ではなくなっていた。

 そして、その先を追うことは、今の自分にはできそうもないことのように思われた。

 あまりに細く消えかかっている道筋をこれ以上たどろうとしたら、そのうちに道を見失って、目印のない感覚の世界の中で迷子になってしまいそうだ。

 

 それに、光景が白くぼんやりとかすみ始めたのは、もしかしたら昔に戻りすぎたというだけではなく、夜が明け始めて周りが少しずつ明るくなってきたせいでもあるかもしれない。

 

 ユマは以前にも、時間を忘れて瞑想していて似たような経験をしたことがあった。

 瞑想に深く没頭していると時間の経過はよくわからなくなるのだが、精神と肉体とのつながりがなくなったわけではないから、周囲の環境の変化から影響を受けるのだ。

 ルイズが起きてくる前には瞑想を切り上げて、朝の雑用もこなしておかなくてはならない。

 

(残念だけど、今回はこれで終わりにしよう)

 

 名残惜しい思いをしながらも、これまでにたどってきた道を戻ろうと振り返る。

 そのとき、ユマは感覚の目がとらえた光景に息をのんだ。

 

(あ……)

 

 自分がたどってきた一本の道に、枝分かれしたいくつもの道、そこからさらに枝分かれした道がつながり、まるで大樹の枝のように広がっている。

 生命はどこまでもつながり、広がって、広がって……、世界をも、宇宙をも覆い尽くさんばかりに、大きい。

 感覚の腕の中に抱いた桃りんごの精髄を通して、自分もこの生命の連鎖の中に組み込まれ、いのちの大樹に抱かれているのがわかった。

 

 気付くと気付かぬとにかかわらず、遥かな昔から、“いのち”はつながっている……。

 それは、もちろん本で読んだり先生に教わったりして知識としては知っていたことだが、今、本当に理解できたように思えた。

 

(私が瞑想をやめても、このつながりが切れるわけではないのだ。だからきっと、いつでもまたここに戻ってこられる)

 

 そう思うと、名残惜しいという気持ちも薄れ、代わりに穏やかな満足感が心を満たした。

 ユマは慌てずにゆっくりと、しかし立ち止まることもなく、感覚の道をたどって元来た場所へと引き返し始めた。

 

 来るときは半ば忘我の境地であったが、今は落ち着いたためか、あるいは瞑想の理解がより深まったためなのか、戻る途中には前よりもよく周囲の様子が見えた。

 桃りんごの木が何本も成長し、また新たな種を蒔いては、少しずつ広い範囲へと殖えていく。

 その過程で、受粉を助けてくれる虫や、果実を食べる獣、接ぎ木を行った農夫やそれに使われた台木など、他のさまざまな生命もかかわっていた。

 

 生命のつながりはどんどんと広がっていき、自分は無数にあるその中のひとつの道をたどっているに過ぎなかった。

 道を歩んでいくにつれて、以前に枝分かれした遠くの道は、だんだんとぼやけて見えなくなっていく。

 しかし、自分がいかにちっぽけな存在だと感じても、それで委縮することはなかったし、不安でもなかった。

 たとえ見えなくとも、世界中に大勢の仲間たちがいることを既に知っていたからだ。

 

 やがて、たどってきた道も終わり近くになると、最初の方で見たアルビオンの緑豊かな森の光景が戻ってきた。

 

 緑の髪をもつ大人びた雰囲気の女性と、金髪のエルフらしき少女とが、親しげに笑い合いながらこちらに歩いてくる姿が見える。

 少女の方が木に実っている桃りんごの実をいくつかもいでかごに入れ、緑の髪の女性に差し出す。

 女性はそれらの果実をもってアルビオンを離れ、地上に降りてトリステインへ行き……、その中のひとつが、厨房の使用人からユマに手渡された。

 

 

 

 ユマの意識は、最後にその手渡された桃りんごの実とともに、元のルイズの部屋へ戻ってきた。

 

「――ん……」

 

 体に意識を戻したユマは二、三度まばたきをすると、まずは周囲の様子を確かめてみた。

 

 思った通り、窓の外はもう明るくなり始めている。

 結局一睡もせずに夜が明けたことになるが、疲れてはいなかった。

 感覚の世界で力強い生命の流れに触れたためか、むしろ心身に活力がみなぎっているように感じる。

 

 ユマはベッドでまだ寝ているルイズの姿を見てしばし考え込んでいたが、やがて小さく首を振った。

 それから、立ち上がってぐーっと伸びをすると、桃りんごの皿を机の上に戻し服を着替えて、洗濯物を集め始める。

 

(ちょっと早いけど、洗濯に行こう)

 

 

「ただいま……」

 

 洗濯を終えて戻ってきたユマは、まだルイズが寝ているのを確認すると、小声で挨拶をしてそっと扉を閉めた。

 朝食まではまだ間があるので、ベッドに入って少し休憩しようかとも思ったが、自然と机の上の桃りんごに目がいった。

 

 桃りんごの様子は、瞑想を始める前と変わりがない。

 けれど、瞑想を始めてすぐの時には弱々しく震えているように思えたその生命が、今は溢れんばかりの活力に満ちて堂々としているように感じられた。

 

「……」

 

 ユマは黙って椅子に腰かけると、目の前の桃りんごに意識を集中して、もう一度その声を聞いてみようとした。

 

 今度は瞑想を深めて果実の中へ入っていくまでもなく、意識を桃りんごに集中させるとすぐに、さっきよりももっとはっきりした声が聞こえてきた。

 おそらくは技術的な習熟と、理解の深まりのためなのだろう。

 

『わたしをたべて。わたしは、たべられるためにあるの』

『やっと、そらのうえからおりてきたの。ほんとうのじめんにねづいて、わたしはここでそだつのよ』

 

(ええ、食べるわ)

 

 意識でそう返事をすると、ユマは桃りんごを手に取り、ナイフで皮を剥いた。

 上品な甘い香りが、ふわっと広がる。

 

(あなたの種は、あとで近くの森に蒔いてあげる。そのあとは、あなたががんばって命をつないでいくのよ)

 

 そう呼びかけつつ、果実を切り分けていく。

 ユマはそうしながら、この後のことをゆっくりと考えてみた。

 

 もちろんルイズをはじめとする友人たちにも、自分が先程感じたこの感動を伝えたかった。

 実際、瞑想を終えてすぐの時点では、ルイズを叩き起こして今すぐ話そうかと真剣に考えたほど、内心強く興奮していたのである。

 けれど、洗濯をしているうちに落ち着いて、ここは慎重にやった方がいいかもしれないと思い直したのだ。

 

 ここのメイジたちはどうもウルフレンドの魔術師のような瞑想などはしていないようだし、ちゃんと理解してもらえるとは限らない、と気が付いたのである。

 あまり興奮して勢い込んでまくしたてたりしたら、妙な妄想にとりつかれたと思われてしまうのではないか。

 少なくとも、地球で似たようなことをしたら、まず間違いなくそう思われるだろう。

 

(それに、私の感じたことがみんな正しいとは限らないもの)

 

 もちろん、先程自分が大きな感動と共に感じたこと、理解したことを根本的に疑っているというわけではない。

 ただ、概ねは正しいにしても、細部では誤りもあるかもしれない、と考えていた。

 

 最初に桃りんごの言葉を疑った時にもその可能性を考えたように、自分自身の願望や想像が事実と混ざってしまっていないとも限らないのだ。

 監督をしてくれる先輩の魔術学生はここにはいないのだから、自分の正しさを妄信してはいけない。

 

(とりあえず、ルイズには話して……。それから、ロングビルさんにも確認してみよう)

 

 さっきの瞑想で最後に見えた緑の髪の女性は、ミス・ロングビルに間違いないだろう。

 あの時見た光景が正しかったのかどうか、本当に桃りんごが自分の見たアルビオンの森で取れたのかどうかなどは、彼女に確認してみればわかるはずだ。

 証拠としてそれを確かめられれば、ルイズらにも自分が妄想で話しているのではないとわかってもらえるだろうし。

 

 頭の中でそんな段取りを立てながら桃りんごを切り分け終わったユマは、さっそくルイズを起こしにかかった。

 

「……んぅ……、なによ、もう朝?」

 

 ベッドの上で上体を起こして、ふあぁぁ、とあくびをするルイズに、ユマはよい香りのする桃りんごがのった皿を差し出した。

 

「おはよう、ルイズ。桃りんごを切ったから、ご飯の前にこれを食べましょう?」

 

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