ゼロのモンスターメーカー   作:ローレンシウ

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第十七話 はじめまして、また会ったね

 休憩がてらデルフリンガーの本体に一度会いに行こうという話になったルイズ一行は、さっそくシルフィードを呼んでトリスタニアに向かった。

 

 そうしてトリスタニアにつくと、もういい時間だしまずは美味しいものでも食べようかという話になって、適当な店で食事をする。

 しかしその後、腹も満たされたことだしいよいよ本題に入ろうかという段になってから、困ったことが判明した。

 

 皆、カードから呼び出したデルフリンガーに聞けば、彼の本体がどこにいるのかは当然すぐにわかるだろうとばかり思っていたのだが……。

 

「何なのよ、自分の居所も知らないって! やっぱりボケてるんじゃないの?」

「人間の常識で考えるんじゃねえよ、俺は剣だぞ? 好きなように歩き回れるわけでもなし。だいぶ前に買い取られたっきり、薄汚れた店の中しか見てねえんだよ」

「この街に武器屋は何件あるのかしら。仮にも王都だもの、一軒きりってことはないわよね」

「衛視の詰所に行って店主の名前を出して聞けば、たぶんわかるはず」

「いや、俺はあいつの名前なんか知らねーぞ? 前に聞いてたかも知れんが、忘れた」

「あ、あんたねえ……。自分の持ち主の名前も知らない、って……」

「持ち主ったって、俺を振るわけでもねえし。大体、店に話す相手はあいつだけだから、名前を呼ぶことなんかねえよ」

 

 そんな調子で、結局『トリスタニアのどこかの武器屋の中』だということしかわからなかったのである。

 

「なによ、それじゃ探しようがないわ。とんだ無駄足じゃないの!」

「武器屋はそんなに多くない。場所を全部教えてもらって、順番に回れば見つかるはず」

「まあそうだろうけど……面倒くさいわねえ。どうしても今日会わなきゃいけない、ってわけでもないんだし……」

 

 いかにもだるそうにそう言いかけたキュルケは、ふとユマのほうを見て、彼女が黙って何か考えている様子なのに気が付いた。

 

「あら、何か方法があるの?」

 

 彼女から尋ねられたユマは、少しためらいがちに頷く。

 

「いえ、できるかはわからないんだけど。もしかしたら、探せるかもしれないと思って……」

「……瞑想の要領?」

 

 タバサに聞かれて、ユマはそうだと答えた。

 

 まったく知らない相手ならともかく、デルフのことはよく知っている。

 周囲に感覚の枝を広げて、彼と同じ気配を放つ者がいないか調べてみれば、たぶん居場所を見つけられるのではないかと考えたのだ。

 

 とはいえ初めてやることなので、もちろんユマにも自信があるわけではない。

 

「できたとしても、衛視の人に聞くほうが早いかも……」

「やってみて」

 

 ユマ自身はいささか自信なさそうにしていたが、タバサは迷わずにそう促した。

 彼女の技術でどこまでのことができるのか、実地で見られるせっかくの機会を逃す手はない。

 

 結局試してみることになって、ユマは人気のない静かな公園に移動すると、木陰に座り込んで感覚の枝で周囲を探り始めた。

 ルイズらはただ、黙ってその様子を見守る。

 しばらく瞑想した後で立ち上がると、ユマは東のほうを指差した。

 

「あっち。……だと、思う」

 

 ユマを先頭にしてみんなでそちらの方向にしばらく歩いていくと、だんだん道が狭くなっていった。

 どうやら路地裏のほうに向かっているようだ。

 

 とはいえ、実際のところユマはどうにかデルフのものらしき気配がある方向と大体の距離を感じ取っただけなので、どんな風に道をたどればいいのか正確なところまではわかっておらず、歩き方はややためらいがちだった。

 あのヴィシュナスならば、きっと道筋なんかも簡単に調べて迷わず歩いていけるのだろうが、今の自分にはそこまでするのは難しい。

 がんばればできなくはないかもしれないが、なんにせよ時間がかかりすぎるし疲れすぎるので、普通に歩き回って探したほうが早くて楽なのは間違いないだろう。

 

(近くまで行ってもしどうしても見つからなかったら、そこでもう一回やってみよう)

 

 ユマはそう考えていたが、幸いその必要はなかった。

 歩いている途中で、ルイズがあることに気付いてくれたのである。

 

「あ……、この辺にある武器屋だったら見た覚えがあるわ。たしか、ピエモンの秘薬屋の近くだったはずよ」

 

 そこから先はルイズが先頭に立って進み、大体このあたりだというところまで来てから全員で手分けをしてあたりを探してみると、ほどなくしてその武器屋が見つかった。

 四つ辻の近くにある古びた感じの店で、剣の形をした銅の看板がぶら下がっている。

 

「おーい、親父! いるかー?」

 

 石段を登り、羽扉を開けて薄暗い店内に入るや、開口一番にユマが携えたデルフが店主に向かってそう呼びかけた。

 

「何でえ、うるせえぞデル公!」

「うるせえのはそっちだ、俺はしゃべってねえや!」

 

 後ろを向いたまま反射的に文句を言った五十がらみの店主にそう怒鳴り返したのは、店内に置かれていたデルフリンガーの『本体』の方である。

 

「何をわけのわかんねえこと、を……?」

 

 振り返った店主は、いつの間にか4人組の客が来ていたことや、その客が見たところ貴族でしかも少女たちばかりであったことなどに気が付いて驚いた。

 しかし何よりも驚いたのは、もちろんその中でも一番小さな少女の腕に抱えられたモノについてである。

 

(……デ、デル公が二本!?)

 

 ぎょっとして、慌ててデルフが置かれていたあたりを確認するが、そこにはちゃんと彼の姿があった。

 なのに、店にやってきたばかりの客の腕の中にも、同じような剣が……。

 

 ややあって気を取り直した店主は、胡散臭そうに顔をしかめながら、ドスの利いた声を出した。

 

「貴族のお嬢様方。こりゃあ一体、何のご冗談で? 言っときますが、うちはまっとうな商売をしてるんで。妙ないたずらやおどかしを受けるいわれはありやせんぜ」

「冗談なんかじゃないわ」

 

 ルイズは腕組みをしながらそう答えた。

 

「まあ、そう思われるのも無理はないでしょうけどね」

「はじめまして。私から事情を説明します」

 

 キュルケが肩を竦めて苦笑する横からユマが進み出て、店主に向かってぺこりとお辞儀をした。

 

 

「……はあ。するってぇとこの間からデル公の言ってたことは、ありゃ本当だったんで……」

 

 かいつまんだ話をユマから聞き終えた店主は、事前にデルフリンガーの本体から『最近見る夢の話』を聞いていたのもあって、その真偽を疑うということはなかった。

 とはいえさすがに面食らったようで、ぽかんとした顔をしている。

 

「へへっ、やっぱりただの夢じゃなかったんだな。いや、また『使い手』に出会えるたあ嬉しいねえ!」

 

 デルフの本体が、興奮した様子でかちゃかちゃと嬉しそうに金具を鳴らしている。

 キュルケは、そちらとユマの腕の中にいる『分身』のデルフの方とを、いくらか不思議そうな目で見比べた。

 

「自分が二人もいるだなんて、変な感じじゃないかしら?」

「それほどでもねえな。そりゃあ妙といえば妙だけどよ、よくは思い出せねえんだがなんか、前にもこんなことがあった気がするぜ」

「『偏在』の自分が本体と話をするようなものだと思う」

 

 タバサが冷静にそう分析する。

 

「なんでもいいぜ。肝心なのは、俺がまた『使い手』の手の中に収まれたってことなんだからよ」

 

 デルフがそういうのを聞いて、店主ははっと我に帰った。

 

「……それで、お嬢様方。してみると、今日お運びになったのは、こっちの剣もお買い上げになりたいということで?」

 

 そう尋ねながらも、店主は内心、デルフリンガーを手放すのは気が進まなかった。

 

 少し前までは、「やたらにしゃべくって商売の邪魔ばかりするうっとおしい錆び剣め、誰か買ってくれそうな奴がいたらさっさと捨て値で叩き売ってやるんだが」くらいに思っていたのだが……。

 最近聞かせてくれる夢の話は妙に面白かったし、上機嫌な彼と話しているうちに情も移ってきて、あまり手放したくなくなってきていたのである。

 ましてや、その話がただの夢ではなく本当のことだとわかった以上は、なおさらこの奇妙な縁を切らずにおきたいものだと思う。

 彼はデルフリンガーの語る『使い手』というのが伝説の使い魔のことだとまでは知らなかったが、まるでお伽噺の中の英雄に突然出会えたようなわくわくした気持ちはあった。

 この薄暗い店の中で、いかに物を知らない客から利益をせしめるかということばかり考えて過ごす日々の中では、そんな出会いは二度とないに違いない。

 とはいえ彼は武器屋であって、客が、それも貴族が買い取りたいと言うのならば、それに従うしかないだろう。

 おまけにその客が、この剣と理解しがたい奇妙な絆で結ばれた『使い手』とやらであるというのならばなおさらのこと、売らないぞと突っぱねるというわけにも……。

 

 そんな店主の惜しむような気持ちを察したというわけでもあるまいが、ユマは問いかけに対して首をふるふると横に振ってから、ぺこりと頭を下げた。

 

「いいえ、今日は買うことはできないの。お話をしに来ただけなんです。商売の邪魔をして、ごめんなさい」

 

 まず、自分には買うためのお金がない。

 少し調べてみたところでは、ちゃんとした武器というのはかなり高いもので、大剣ともなればそこらの平民の稼ぎでおいそれと購入できるような代物ではないらしいのだ。

 それでは、今後も買える見込みはほとんどないだろう。

 

 それに、自分では体が小さすぎて、デルフリンガーのような大きな剣を常に持ち歩くことは難しい。

 必要なときだけカードから分身を呼び出して、それを使うほうが理に適っているのだ。

 分身ならば万が一破損したとしても、本体は無事だというメリットもある。

 

 買いたいのならお金を出すとルイズらも言ってはくれたが、そういった考えを説明して辞退した。

 実用上購入する必要がないのに、なんとなく手元においておきたいからという程度のことで、そんな大金を出してもらうわけにはいかない。

 

「……まあ、仕方ねーかな。相棒の体じゃあ、俺とお前の二刀流なんぞ、最初から無理な相談だしよ……」

「ああ、気にすんな。お前が経験したことは、みんな俺に伝わるんだからよ。夢ったって、本当の出来事と変わらねえんだ」

 

 幸いデルフたちも、特に難色を示すでもなくそう言って合意してくれたので、本体のデルフリンガーには今後もこの店のほうにいてもらうということに決まった。

 

 店主は、ほっと胸を撫で下ろした。

 そうしてから、自分が売れなくて喜ぶなんて珍しいこともあるもんだと考えて、思わず苦笑する。

 

(こりゃあ俺も、焼きが回ってきやがったかな?)

 

 そうして話がついて、ルイズらがいよいよ帰ろうかとしたところで、デルフの本体が彼女らを呼び止めた。

 

「待ちな! 思い出したぜ。相棒にひとつ、渡しときてえものがあったんだ」

「渡したいもの……、何?」

 

 ユマは足を止めると、彼の元へ歩み寄った。

 

 それ以外の面々は、不思議そうに首を傾げていた。

 渡したいものといっても、剣に持ち物なんかあるものだろうか?

 

「ちょいと俺を持って、鍔元の金具に手を当てな」

「こう?」

 

 ユマが言われたとおりにすると、デルフが体にぐっと力を入れたように感じた。

 その直後に、一瞬その部分の金具が光ったかと思うと、かちりと外れる。

 

「これは……」

 

 外れた金具の内側を見てみて、ユマはあっと驚いた。

 そこにはごく小さなスペースがあって、ほんの一枚だけではあったが、カード使いの使うカードが収められていたのである。

 

「……このカードは、前にあなたが出会ったカード使いから?」

 

 カードを取り出し、金具を元通りにはめなおしてから、ユマがそう質問した。

 

「ああ、そいつのことはあんまり覚えてねえんだけどよ。確か、次にカード使いに会うことがあったら渡せって言われて預かってたんだ」

 

 その様子をみた店主が、横合いから文句を言った。

 

「おいデル公、その金具がそんなふうに外れるなんて初めて聞いたぞ? 前に俺が手入れしたときにも、どうしても外れなかったじゃねえか!」

「あたりめーだ、俺が外そうと思わなきゃ外れねえ。まあ、外し方は俺も、今さっき思い出したんだけどよ……」

 

 そのやり取りを聞いて、ルイズとキュルケは改めて、この剣の呆け具合にあきれていた。

 タバサは常のとおりの無表情で、ユマのほうをじっと見つめている。

 

(どんなカードなんだろう?)

 

 さて、ユマが今しがたカードを見つけたときの驚きは、決して小さいものではなかった。

 しかしながら、その後に手にしたカードを表返して絵柄を確かめてみたときに受けた衝撃に比べれば、まるで取るに足りなかったといってよいであろう。

 

(え……?)

 

 それは、彼女が以前にウルフレンドで知り合った、ある人物のキャラクター・カードだったのである。

 

「…………」

 

 しばらくは呼吸をするのも忘れるほど驚いて、まじまじとそのカードを見つめていた。

 

 それはまったく予想もしていなかったタイミングでの再会で、もちろんまた彼と巡り合えたことはとても嬉しいのだが、疑問も大きかった。

 ややあって、ユマはデルフに質問をしてみた。

 

「……あの。デルフがこのカードをもらったっていうのは、いつのことなの?」

「知らん、忘れた。何百年前だったか、何千年前だったか」

「……そう……」

 

 そんな昔に、一体どうしてこの人のカードがあったのだろうか?

 姿もカードの説明もそっくりなので、同名の別人だとは考えられない。

 

 もしかしたら、彼は見た目よりもずっと長生きなのだろうか。

 話をしてみた感じでは、何百歳だとか何千歳だとか、そんなにすごく年をとっているようには思えなかったのだが……。

 

(それとも……)

 

 そうしてすっかり上の空になってしまったユマに代わって、ルイズらが店主と話し始めた。

 デルフがくれるといったにせよ、カードはこの店の中にあったものなのだから、譲り受けるにあたっては彼と話をつけなくてはなるまい。

 

「ねえ、あのカードはおいくら?」

「はあ……。あれがどんなもんだか存じやせんが、俺はあるってことも知らなかったんで。お求めでしたらどうぞご自由にお持ち帰りくだせえ、金を取る道理はありませんや」

「だって、このお店の中にあったものじゃない」

「同じ家の中にあったって、ガキの貯金箱の中身は親のもんじゃねえでしょう? そいつと同じで、デル公の持ってたものは俺のもんじゃねえんで」

 

 そう答えながらも、店主は内心でまた苦笑していた。

 せっかくの好機を見つけて吹っかけないとは、自分としたことがいつになく無欲じゃないか。

 

「でも、それじゃ悪いわ。なら、せめて他に何か買って行こうかしら」

 

 ルイズはそれから、せめてものお礼代わりにと、砥石や錆び止めのオイル、羊毛の拭き布などの手入れ用品をいくらか買い込んでから店を後にした。

 

「ありがとう、ルイズ」

 

 店を出たユマはそうお礼を言ってから、もう一度じっくりと手にしたカードを見つめてみた。

 学院に戻ったら、まずは彼を呼び出して再会を喜び合いたい。

 それから、いろいろと話も聞いてみなくてはなるまい。

 

 キュルケは好奇心から肩越しにそのカードを覗き見ると、嬉しげな声を上げた。

 

「あら! なによ、すごく美形な殿方じゃないの!」

 

 別にその言葉に惹かれたわけでもないが、タバサも彼女に倣ってカードを覗き込んでみる。

 

「……」

 

 

 

『マリオン:キャラクター(妖精/吟遊詩人) HP5/MP6 Lv22 物理防御7 魔法防御8

  世界中を渡り歩く旅の吟遊詩人。ある神の血を引いており、その歌には魔力が宿る。

  なぜかディアーネの兄、ヘリオスとよく似ている』

 

 

 

(……見た目より先に、もっと注目するべきところがあると思う)

 

 タバサは心の中で、親友にそう突っ込みを入れた……。

 

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