ゼロのモンスターメーカー   作:ローレンシウ

19 / 24
第十九話 歌の王子さま

 

「……なるほど。確かにここは、ぼくがこれまでに旅をしたウルフレンドのどの土地とも空気が違っているみたいだ」

 

 ユマからおおよその事情を聞いたマリオンは、ごくあっさりとそれを受け入れた。

 特異な状況であるにもかかわらず、ほとんど動じた様子もない。

 優秀な吟遊詩人である彼は、ウルフレンドの外にもユマの住んでいた世界を含めて数多くの世界があるのだということを神話や伝承を通して、あるいは旅をしてきた長い年月の間の経験から、既に知っていたのだ。

 

「でも、驚いたな。いきなり異世界だなんて。ユマも大変じゃなかったかい?」

「二回目だし、自分で選んで来たから。それに、みんな親切だもの」

「あなたは、以前にもこちらへ来たことがあるのでは?」

 

 タバサが小さく首を傾げて、そう質問を挟んだ。

 

 今の発言からすると、彼はこのハルケギニアへ来るのは初めてであるように思える。

 しかし、彼のカードがあった以上は、一度もこちらへ来たことがないとは考えにくいのではないか。

 

 マリオンはしばらく記憶を手繰るように考え込んでいたが、やがて首を横に振った。

 

「いいえ……。確かに、私のカードがあったということは、そうなのだろうとは思えますね。ですが、覚えはありません」

 

 それから、ふと思いついたように付け加える。

 

「そうですね。伝承によれば、ウルフレンドを巡る魂は、同じ名前、同じ姿で、幾度もまた生まれてくるのだといいます」

「夢のある話ですわね」

「ええ……。ですからあるいは、叙事詩(サーガ)の時代にか、再誕(リザレクション)の時代にか、伝説(レジェンド)の時代にか……。私は今と同じ姿で、いずれかのカードの使い手によって、この世界に呼び出されていたのかもしれませんよ」

「でも、どうして自分のカードをデルフに渡したの?」

「それは、わからないよ。いわゆる前世のことは、普通は覚えていないからね。でも、今のぼくでも、きっとそうしてくれるように頼むだろうね」

 

 なぜなら、伝説の使い魔の手に握られる宿命をもつという剣に自分のカードを託せば、おそらくまたいつか、新たな英雄に巡り合うことができるだろうから。

 詩人として、異世界の英雄による新しい冒険譚を間近で見聞きする機会をどうして逃すことができようか。

 

「前世って、まさか。そんな、お伽噺みたいな……」

「…………」

 

 ルイズやタバサは、あまり納得してはいない様子だった。

 それはまあ、ごく当然の反応だろう。

 

(……知っているのに、それを隠そうとしている? あるいは、誰かに記憶を消されている……?)

 

 タバサは、そんな疑いを抱いた。

 デルフリンガーがこちらの知りたい肝心な点をいろいろ忘れていることといい、何者かの作為がはたらいているのではないか。

 

 ある種の高度な水魔法なら、記憶を消去するようなこともできるかもしれない。

 でなければ、始祖にも関連のあることだとすれば、失われた『虚無』の魔法が用いられとか。

 エルフだの神だのもかかわっているとすれば、あるいは先住魔法、ないしは神の力とか、何かそういった類のものだとも考えられなくはない……。

 

 とはいえ、いずれにせよはるか昔のことであるはずだ。

 マリオンが故意に隠しているのであれ、記憶を消されているのであれ、あるいは本当に前世とやらの出来事なのであれ……、真偽のほどは調べようもないだろう。

 

 そんな親友の思惑をよそに、キュルケが早速マリオンに色目を使いながらおねだりをする。

 

「ところで、あなたは吟遊詩人でいらっしゃるとか。よかったら、一曲お聞かせ願えませんこと?」

 

 彼女にとってはタバサの気にしてるような話はおよそどうでもいいことであった。

 この賢い親友のやり方にけちをつける気はないが、異世界人だとか、妖精だとか、神の子だとか……、そんなのは、無駄に小難しい話や気取った話が大好きなお子様な男どもにでも任せておけばいいのだ。

 過去のそんな話よりもずっと大事なのは、今現在目の前にいるのが確かにいい男だという、ただそれだけのことではないか。

 

 そのいい加減ともいえる態度は、確かにタバサのそれとはまるで違っている。

 しかし、個人的なことについてほとんど話そうとしない彼女に対してあれこれ詮索したりしないからこそ、キュルケはこの無口な少女と友人でいられたのだ。

 

「ええ、もちろん」

 

 マリオンは快く頷いて、竪琴を手に取った。

 キュルケらに向かって丁寧に一礼すると、楽器を奏でながらのびやかな声で歌い始める。

 

 

 

♪

 

 まぶしい朝日 動きだす家々の戸

 小鳥のしらべ聞いて 朝の町

 

 ほら、いつだって 町は君を待っている

 毎朝挨拶をして けして離れない

 

 

 明るい日差し 鳴り響く鐘の音

 レンガ道を歩いて 昼の町

 

 ほら、いつだって 町は君を忘れない

 太陽に手を振って さあ旅立とう

 

 

 お日さまは眠り シチューが暖炉で煮える

 安らうよみんな 夜の町

 

 たとえ、君が忘れても 町は君を忘れない

 どんなことがあっても いつも待っている

 

 

 トゥララ、トゥルラララ

 ようこそ お帰り

 

 ……

 

♪

 

 

 

 短いが、素朴な温かみのある静かで優しげな歌だった。

 どのような歌が好みかわからない初対面の観客たちが相手ということで、まずは無難なものを選曲したのだ。

 

 それが終わると、マリオンは間をおかずに次の曲を弾き始める。

 

 

 

♪

 

 ぼくは生きてた

 記憶の中に 軌跡を残して

 出会いの中に 奇跡を残して

 

 カミサマなんかには なれなくてもいい

 

 きみは笑い ぼくも笑い ひとが笑う

 きっと それがすべてさ

 

 さあ 歌を紡ごう

 最高速の 喜びの歌を

 

 ……

 

♪

 

 

 

 今度はかなり速いテンポの歌で、息継ぎのタイミングも難しく、弾くのにも歌うのにも高度な技巧を要するものだった。

 しかし、マリオンはそういった類の歌を得意にしている。

 だからこそ、二曲目には自分本来の技量を活かすためにこの曲を選んだのだ。

 

 これは、『電子の歌姫』とか『大宇宙歌姫天使』などといった異称で呼ばれているとある異次元界の歌い手から教わった曲を元に、彼が独自のアレンジを加えたものだった。

 本来の歌い手である少女と彼とでは種族的な違いから喉や肺の構造にも差異があるため、まったく同じ歌よりもこちらのほうがマリオンには向いているのである。

 

 ルイズとキュルケはすっかり歌に惹き込まれたようで、うっとりと聞き入っていた。

 タバサは表情こそ常のままだったが、本を開くこともなくじっとマリオンのほうを見つめているし、目の奥の方にはわずかながら常にない輝きが宿っている。

 ユマも、二度と聞けないと思っていた彼の歌をまた聞けた喜びに顔を輝かせ、瞳をきらきらさせて夢中になっていた。

 

 演奏を終えてマリオンが頭を下げると、ユマは大きな拍手を送った。

 他の少女らももちろんそれに倣う。

 

「ありがとう、マリオン」

「素敵でしたわ。きっと私の母国の宮廷にも、あなたほどの歌い手はいませんわよ」

 

 そう言って、キュルケは懐からエキュー金貨を四枚取り出した。

 

 吟遊詩人に歌を聞かせてもらったのだから、対価を払うのは当然のことだ。

 普通は流れ者の吟遊詩人の歌に対して聴衆が支払うのは銅貨か、せいぜい銀貨がいいところであろうが、貴族が依頼して面前で歌わせた場合には金貨を渡すことも珍しくはない。

 それにしても二曲の歌に四エキューとは払いすぎだろうが、それだけ彼の歌に本当に満足したということを示したかったのである。

 

 ルイズもそうしようとしたが、そこでちょっと首を傾げた。

 

「……そういえば。お金って、私たちのところの金貨で大丈夫なのかしら?」

「そもそも、持ち帰れないかもしれない」

 

 タバサがそう指摘した。

 

 ユマの話によれば、カードから出てくるのはどこかにいる本体と意思や記憶を共有する『偏在』のようなものだということだった。

 実際、先ほどデルフリンガーの本体とカードから出てきた分身体との邂逅に立ち会ってきたばかりだ。

 金貨として使えるかはともかく貴金属そのものにはきっと他の世界でも価値はあるとは思うが、カードから出てきたこのマリオンにお金を渡しても使い道はないだろうし、おそらく本体の下に届くわけでもないだろう。

 

 といっても、別に対価を払う気がないわけではなく、そういいながらもちゃんと財布を取り出してはいた。

 ただ、他に何か、もっと意味のある支払いをする方法があるかもしれないと思ったのである。

 

「ええ、持ち帰ることはできないでしょうね」

 

 マリオンは微笑んで、首を横に振った。

 

「ですから、お金は要りません。そのお気持ちだけで十分な報酬です」

 

 マリオンは、芸術家に必要なものは金貨よりも聴衆の感動と称賛の声であると強く信じていた。

 もちろん金はあるに越したことはないが、報酬が期待できないからという理由で歌ってほしいという頼みを断ったことはないし、相手が無一文でも感動してくれていれば歌って損をしたと思ったことはない。

 

「それじゃあ私の気が済みませんわ。でしたら、せめて私の部屋でご一緒に、ささやかな宴会でも……」

 

 キュルケが流し目などを送りながらそう提案すると、マリオンはわけなく同意した。

 

 貴族に気に入られて宴席に招かれ、そこでまた何曲か披露して賞賛の声を受けながら、美味な食事と酒と暖かい寝床にありつく。

 そういった流れは、そこそこ腕の立つ吟遊詩人にとっては大して珍しくもないものだ。

 マリオンはその端正な容貌もあって、より個人的な一夜の楽しみに誘われるなどということも幾度となくあった。

 流浪の身ゆえ、互いに別れがたくならないよう概ねはうまく受け流して、少なくとも深入りはしないように気をつけていたが。

 

「ちょっと、もう夜も遅いわ。明日は授業があるのよ?」

「あら、そんなの別にどうでもいいでしょうに。つまんない子ねえ」

「よくないわよ! だいたい、ユマを夜更かしなんかに……」

「もちろん、ユマちゃんは途中で抜けてもいいわよ。あなたも一緒におやすみなさいな、お子様はおねむの時間でしょ。その後は、私と殿方だけで……、あ、あなたは一緒に付き合うかしら?」

 

 抗議するルイズをさらりと受け流しつつそんな話をふってきた親友に一応は返事をしようかと、タバサが少し顔を上げる。

 そのとき、奇妙なものが目に飛び込んできて、彼女はわずかながら目を見開いた。

 

「どうかしたの?」

「あれ」

 

 そんな微かな表情の変化を目ざとく見とがめた親友に対して、タバサは杖で学院の方を指し示した。

 

 キュルケのみならず、みんながそちらの方に目をやる。

 すぐに、タバサが何に驚いたのかわかった。

 

「……えっ? あれって……、ゴーレムじゃない?」

「ちょ、ちょっと。なんであんな大きなのを、学院の中で作ってるのよ!」

 

 いつのまにか、学院の本塔のすぐ近くに、巨大な人型のゴーレムらしきものが姿を現していたのである。

 

 自分たちは学院の外にいて、だいぶ距離があるので威圧感などは感じないが、逆に言えばそれだけ距離が開いていても明らかに見て取れるほどに大きかった。

 学院の建物との対比から推測すると、身の丈は20メイル、いや30メイルほどもあるだろうか。

 かなりの腕利きでなければ作れないサイズだが、そうであっても普通、あんな大きなゴーレムを建物の敷地内などで使ったりはしないはず……。

 

「わ……」

 

 ユマも、その随分な大きさに少しく驚いていた。

 

 あんなに大きなゴーレムは見たことがない。

 ウルフレンドで手にしたカードのモンスターの中でも、あれ以上にサイズの大きなものはかなり稀だっただろう。

 おそらく、世界創造の獣とされるアウドムラや、世界樹ユグドラシルの根をかじるという巨竜ニーズヘッグなどの、神話に出てくるようなごく一部の強力なモンスターだけだ。

 

「……何か、工事に使うとか?」

 

 思いつくままにそう呟いてみたが、タバサは首を横に振った。

 

「聞いてない。第一、こんな時間にやるわけがない」

「うーん……」

 

 マリオンも最初は驚いた様子だったが、すぐに冷静さを取り戻したようで、他の少女らの言い分を聞きながらじっと考え込んでいた。

 ややあって、意見を口にする。

 

「……では、夜の闇に紛れて強襲をかけようという賊の類なのでは?」

 

 その言葉を聞いて、キュルケがはっとした顔になった。

 

「そうだわ、それよ! あんなに大きなゴーレムだもの、最近うわさになってる『土くれ』のフーケってやつに違いないわ!」

「フーケ。……って、なによ?」

 

 世間の噂話などには疎いルイズが、怪訝そうに尋ねる。

 

「知らないの? メイジの盗賊よ。どうも『土』系統のメイジらしくて、『錬金』や大きなゴーレムを使って、トリステイン中の貴族のお宝を手当たり次第に盗み出してるとか……」

「確か、学院の本塔には宝物庫があったはず」

 

 それを聞いて、ルイズはにわかに慌て始めた。

 

「そ、それじゃ大変じゃないの! 何とかしなくちゃ!」

「そうね、先生たちに知らせましょう」

 

 マリオンも含めた全員が、急いでシルフィードの背に乗って、学院へ引き返すことにした。

 

 

 

 場所は変わって、こちらは学院本塔近くの中庭。

 トリステイン中の貴族から恐れられている『土くれ』のフーケが、今まさに自分の作り出した巨大ゴーレムの肩に乗って、それを操っていた。

 

「さあて……、さっさと済ませようかね」

 

 彼女は事前に、宝物庫に施されている魔法的な防護や壁の厚み、強度などを入念に調査していた。

 

 さすがに歴史ある魔法学院だけあって、宝物庫には最高位であるスクウェアクラスのメイジによる『固定化』がくまなく施されている。

 フーケは、もちろん怪盗としての腕のほどには自信があったが、メイジとしてのランクそのものはトライアングルであり、『錬金』でそれを打ち破れる望みはなかった。

 そうなると、あとはゴーレムによる物理打撃で壁を崩すという方法が考えられるが……。

 魔法を抜きにしても壁自体が非常に分厚く頑丈で、巨大ゴーレムといえども普通に殴りつける程度でそうそう短時間のうちに壊すことはできそうもない。

 かといって時間をかけすぎては、騒ぎに気付いて駆けつけた学院中のメイジに取り囲まれてしまうことになるだろう。

 

 とはいえ、もちろんその程度のことは調べる前から想定していた。

 いうまでもなく、駄目元でやるだけやってみようかなどと考えたわけではなくて、ちゃんと勝算があるのだ。

 

 さかのぼること、数ヶ月前の話……。

 

・

・

・

 

『俺はよぉ、もう少しで貴族のお宝をいただけるはずだったんだぜ?』

 

 とある酒場で食事を摂っていたフーケは、酒に酔ってそんなことを吹聴している男に出会った。

 いつものことなのか、常連の客からはろくに相手にもされていなかったのだが、フーケは何かの参考になるかもしれないと興味をもった。

 近くの席に座って、「まあ、すごい。一杯奢りますから、もっと詳しく聞かせてくださいませんこと?」ともちかけると、いい気になった男はぺらぺらと自慢げにその手口を明かしてくれた。

 

『俺はな、使用人になってくせえ馬の世話をしながら、一月ばかりもがんばったんだ。夜中にこっそりと、宝物庫の外壁にやすりで傷を入れながらよ!』

 

 いかに強力な固定化の呪文で守られていようとも、物理的に少しずつ削っていけばいずれは破れる。

 男はそう考え、夜な夜な壁を削り続けた。

 

『間抜けな館の連中にゃあばれてなかったんだ、もうすぐ成功したはずだったぜ。ああ、寝不足でうっかり貴族の坊主を落馬させたせいで、クビになってさえいなけりゃあな……』

 

 笑顔で相槌を打ちながらくだをまく男の話を聞いていたフーケだったが、内心では呆れて鼻を鳴らしていた。

 

(馬鹿か。やすりなんぞで穴があくまで、どれだけかかると思ってんだい)

 

 そのうちに傷が大きくなって目立ってくれば、穴が開くはるか以前にばれてしまうに決まっているではないか。

 そうなる前に放り出されたおかげで、本当に首を切られなくて済んだようなものだ。

 それも、そもそも本当のことだったらであって、実際には自分を大きく見せようとしてこしらえた駄法螺の可能性のほうが高そうである。

 

 いずれにせよ、頭の悪い話だった。

 

(あーあ、私としたことが。こんな男に付き合って損したよ)

 

 見切りをつけたフーケはそいつをすっかり酔い潰してしまうと、二人分の勘定の支払いを押し付けて、さっさと店を後にした……。

 

・

・

・

 

(あんな間抜け野郎の話でも、ちゃんと聞いておくもんだね)

 

 そのときは何の参考にもならない話だと思ったのだが、後日この学院の強固な宝物庫を荒らす策を頭の中で弄んでいるうちに、その手口が応用できることに気がついたのである。

 

 もちろん、やすりだけで穴を開けるだなんて、気の遠くなるような話は論外だが……。

 いかに硬く分厚い壁でも、一箇所でも脆くなった部分があれば、そこに強い力を一気に叩きつけることで破壊できるものだ。

 優秀な『土』のメイジであるフーケにとっては、建築物の構造上の脆弱さを見定めて利用するのはお手の物である。

 

 フーケは早速、学院に使用人として潜り込む算段を立てた。

 最初は志願を出して使用人として雇ってくれないか問い合わせてみようと思っていたのだが、ちょうどいい具合に一時的な仕事場所に選んでいた居酒屋に学院長のオールド・オスマンがやってきてくれた。

 偉大なメイジとか言われているらしいが、年甲斐もなく好色な上にいい加減な老人で、ちょっと色目を使ってすり寄ったら意外なほどあっさりと秘書として雇ってくれたのである。

 

 そう、近年トリステイン中を騒がしている大怪盗の正体は、学院長秘書ミス・ロングビルなのであった。

 

「ま、平民も貴族も、世の中は大体が馬鹿ばっかりさ……」

 

 フーケは、被り込んだ黒いローブの下で皮肉っぽく唇をゆがめた。

 

 彼女はしばらくの間、学院長からのセクハラに耐えつつ真面目に勤めて信頼を得る一方で、夜な夜な宝物庫の外壁を少しずつ削り、徐々に脆くしていった。

 まずは最終的に破壊する予定の一か所を集中して削り、さらにそこを殴りつけた時の衝撃が効果的に伝わるように、構造を計算して周囲の何か所かにも少し傷を入れておく。

 宝物庫は五階の高さにあり、ほんの小さな擦り傷などはまず発見される恐れはなかったが、念のため作業を終えるたびに『錬金』で作った偽の壁を上から被せて何の異常もないように見せかけた。

 

 そうして仕込みを続け、ようやく巨大ゴーレムの拳を全力で叩き込めば十分に人一人がお宝を抱えて通り抜けられるだけの穴が開くであろう状態になったのである。

 

「こんなに時間をかけて仕込んだのは初めてだったね」

 

 さんざん待たされたのだ、早いところお宝を拝ませてもらうとしよう。

 

 フーケが杖をすうっと持ち上げると、それに呼応して巨大な土のゴーレムが片腕を振り上げ、その先端が鋼鉄に変化した。

 次いで杖が無造作に振られると、ゴーレムもその拳を全力で振り下ろし……。

 

 

 

「……駄目、先生たちを呼んでいたら間に合わない!」

 

 ゴーレムが叩き付けた拳によって本塔の壁が崩れて穴が開いたのを見て、ルイズが悲鳴のような声を上げた。

 全員でシルフィードに乗って誰か先生の下へ報告に向かおうとしていたが、これでは駆けつけてくれたころには宝はとっくに盗み出されてしまっているだろう。

 

「こうなったら、私たちでフーケを捕まえるのよ。それしかないわ!」

 





ウルフレンドを巡る魂:
 モンスターメーカーの世界では、さまざまな時代や場所に同じ名前、同じ姿のキャラクターが現れることが往々にしてあり、同じキャラクターが何度も輪廻転生するというのは公式な設定である。
一例として、TRPG「モンスターメーカー・リザレクション」はそれ以前の作品の世界が一度壊滅的な被害を受けた後に、再興しだした世界でさまざまな時代のキャラクターたちが再び姿を現してきたという設定になっている。
 また、転生する場所が必ずしもウルフレンドであるとは限らないようにも思える。
たとえばディアーネは、現代の日本らしき場所を舞台にした作品「モンスターメーカー学園」では、門星明華学園に通う華族レオスリック家の令嬢として登場している。
相変わらずヘリオスという名の兄がおり、全国大会で優勝するほどのテニスプレーヤーで、愛用のテニスラケットが「ホリィアックス」と呼ばれている。
同様に、昔の日本らしき舞台で妖怪退治を行うカードゲームの第三作目では、女武者・泥姉(ディアーネ)として登場している。
 作中でマリオンの語った「叙事詩(サーガ)の時代、再誕(リザレクション)の時代、伝説(レジェンド)の時代」というのは、コミック「モンスターメーカー・サガ」、TRPG「モンスターメーカー・リザレクション」、TRPG「モンスターメーカー・レジェンド」から。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。