自分たちでフーケを捕まえようというルイズの言葉に、キュルケが顔をしかめた。
「ちょっと、本気なの?」
あのゴーレムの巨大さからいって、自分の炎やタバサの風をもってしても倒すのは難しいだろうと思える。
危険だし、むしろ下手に手を出す方が無謀の誹りを受けるかもしれない。
悪名高い怪盗の盗みの現場をたまたま目撃したからといって、まだ学生のメイジには後で報告をする以外に何かしなくてはならないということはないはずだ。
しかし、ルイズの返事に迷いはなかった。
「当たり前じゃないの! 盗賊なんかに私たちの学院を荒らされて、見逃すわけにはいかないわ。タバサ、早くあそこへ!」
「……わかった」
タバサは頷いたが、シルフィードにはある程度まで近づきつつもゴーレムの手の届かない安全な距離を保つように、と指示を出しておいた。
彼女としても、キュルケと同じくゴーレムの破壊は難しいと判断していたからだ。
ゴーレムを操る本体を叩くのがおそらく最も現実的な方法だが、いずれにせよ危険が大きい。
賊は捕らえられるものならもちろん捕らえるに越したことはないが、そのために大きな危険を負うまではしたくなかった。
命がけで戦うことには慣れているが、たまたま遭遇しただけの無関係な賊を捕らえるためにそこまでする気はない。
ましてや、大切な使い魔や友人たちの身まで深刻な危険にさらすわけにはいかないのだ。
さて一方、フーケの側はといえば。
さすがに手馴れた怪盗らしく、壁に穴が開いたのを確認すると直ちに土ゴーレムの腕を伝って、宝物庫の中に速やかに侵入していた。
歴史ある魔法学院の宝物庫だけあってさまざまな宝物が並んでいるようだったが、フーケは片っ端から盗み出そうなどという欲はかかずに、当初の目的の品だけを捜し求めた。
こういった仕事では、片を付けるまでの時間の早さが成功のカギになるからだ。
欲張って荷物を増やし、そのために逃げ出すのが遅れて取り囲まれてお縄などということになっては、間抜けもいいところである。
「さあて、お宝は……と」
あたりを見回すと、装飾品や宝石類などのさまざまな小さい宝物が収められた、美しいガラスのショーケースが並ぶ一角があった。
その中に、一束のカードが収められたケースがある。
美しい金の縁取りを施したそれらの美しいカードの中には、さまざまな写実的な絵柄が描かれていた。
近くに置かれた金属のプレートには、『破壊のカード。持ち出し不可』と説明書きがされている。
(よし、こいつだ)
フーケは目的のお宝を見つけて、にんまりと口元をゆがめた。
「これの何が『破壊のカード』なのかは知らないけど……ま、そいつは後で調べるさ」
なんにせよ、持ち運びの楽なお宝なのは結構なことだ。
躊躇なく杖を一振りしてガラスケースを砂に変えると、さっさとカードを取り上げて懐に収める。
それからもう一度杖を振ると、カードの説明書きがされていたプレートの文字が消えて、代わりにそこへ別の文句が刻まれた。
『破壊のカード、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
犯行現場の壁にこういったふざけたメッセージを残していくのが、彼女のやり方だった。
安全にさっさと盗み出す上では余計なお遊びなのだが、フーケが貴族ばかり狙って盗むのはただ金のためだけではなく、彼らを愚弄してその慌てふためく様子を見るのが愉しいからでもあるのだ。
「さて、後はさっさとずらかると……、ん?」
壁の割れ目から外に出てゴーレムの肩に乗ったフーケは、そこで初めて、ウィンドドラゴンとそれに乗った数名の人間が近づいてくるのに気が付いた。
見たところ、学院の衛士や教師ではないようだ。
たまたま騒ぎに気付いた学生たちが、自分を捕らえようと血気に逸って使い魔と共に飛び出してきた、といったところか。
(ちっ、思ったより早いね)
フードをしっかりと被り直して顔を見られないように気を付けながら、フーケは素早く対応を考えた。
当初の予定では、ゴーレムで学院の外壁をまたいで悠々と逃げ去ってやろうと思っていたのだが、ウィンドドラゴンはもちろんゴーレムなどよりも断然速い。
ならば目立って仕方がないゴーレムなどは捨てて、物陰にでも隠れて追手の目をくらませながら身ひとつで逃げるという手もあるが……。
それでうまく連中を欺ければよいものの、失敗して見つかり、追い詰められるようなことになってはまずいだろう。
たかが学生ごときとはいえ、こちらは一人なのに対して向こうは数人、しかもウィンドドラゴンの援護もついているのだ。
大型のゴーレムは一旦解除してしまえば新たに作るのには時間がかかるし、ゴーレムの補助なしで戦っては思わぬ不覚を取る可能性も否定できない。
そうなると、できる限り速やかに相手を始末するか追い払うかしてから立ち去る方が安全ではないか。
「ガキを殺すのは、趣味ってわけじゃあないけどね……」
少々脅しつけてあっさりと尻尾を巻いて退散してくれるようならそれでよいが、しつこいようならば、始末するのもやむを得まい。
フーケはそう結論すると、向かってくる連中を迎え撃つ態勢に入った。
シルフィードは、フーケのゴーレムから斜め上におよそ二、三十メイルほど離れた位置まで近づくと、そこで停止してホバリングを始めた。
この位置ならば、敵の腕は届かない。
また、何か飛び道具が撃たれたとしても、対応する時間の余裕があるだろう。
とはいえ、それは逆に言えば、相手の側にも同じだけの対応する時間が与えられるということだ。
タバサとしては、フーケが宝物庫に入っている間にゴーレムの下に辿り着ければ十分に勝機があると考えていた。
術者がいなくなって動きを停止しているゴーレムなら破壊できるかもしれないし、出てくるところを待ち伏せて不意打ちすることもできる。
しかし、さすがは怪盗というべきか、予想以上に素早く仕事を終えたようで、こちらが攻撃できる距離まで近づいた時には既に仕事を終えてゴーレムの肩に戻ってしまっていた。
しかも逃げ出さないところを見ると、どうやらこちらの存在に気が付いて、迎え撃つ気でいるようだ。
しっかりと態勢を整えている相手に対してこの距離から攻撃しても、おそらくはあの巨大ゴーレムによって難なく防がれてしまうだろう。
それでもタバサは、シルフィードがホバリングに入るのとほぼ同時に、自分の身長よりも大きな杖を振るって呪文を唱えた。
たちまち大きな竜巻が渦巻いて、ゴーレムめがけてぶつかっていく。
しかし、ゴーレムはフーケをかばうように手をかざしただけで避ける様子もなく、竜巻をまともに受けてもほんの少し表面の土が削れただけでびくともしない。
続けてキュルケが、胸に刺した杖を引き抜いて呪文を放った。
突き出された杖から炎が噴き出してフーケを狙ったが、やはり同じようにゴーレムのかざした腕に防がれてしまう。
その腕に炎が絡みついてしばらくごうごうと燃え盛ったものの、片腕を炎に包まれようともゴーレムはまるでこたえていないようだった。
ルイズもまた、杖を振って呪文を唱えた。
彼女は『ファイヤーボール』の呪文でフーケ本体を狙おうとしたのだが、まるで的外れなゴーレムの胸部のあたりで小さな爆発が起こり、土が少々飛び散っただけだった。
「やっぱり、ダメね。燃やすにしても吹き飛ばすにしても、相手が大きすぎるわ」
「……そうかも」
悔しげに顔をしかめるキュルケの言葉に、ユマが小さく頷いた。
彼女はカードから小さな体には不釣り合いに大きいストロングボウを取り出して矢をつがえていたが、撃つことはしなかった。
ここまでの攻撃の結果を見る限りではゴーレムの本体に効くとは思えなかったし、フーケ自身は腕の陰に隠れていて狙うことができないからだ。
弓を構えながら問いかけるようにマリオンの方を見てみたが、彼は黙って首を横に振った。
「残念だが、この距離ではぼくには何もできそうにないよ」
呪歌(まがうた)の効果を相手に及ぼすには少し遠すぎたし、吟遊詩人であるマリオンは、武器も護身用の最低限のものくらいしか持ち歩いていないのである。
手をこまねいているルイズらをあざ笑うかのように、ゴーレムがもう片方の腕を持ち上げて、上空のシルフィードに向けて突き出した。
その先から、散弾のようにいくつもの石礫が放たれる。
タバサが素早く杖を振って風の防護膜を作りだすことで、間一髪その攻撃を凌いだ。
ゴーレムはそれを尻目に、ゆっくりと学院の外の方に向かって歩き出す。
「フーケが逃げるわ、追わなきゃ!」
ルイズがそう叫んだが、タバサはじっと考えてから、首を横に振った。
「……追わない方がいい」
「なんですって!? このまま、あんな賊なんかを見逃すっていうの!」
ルイズはいきり立ったが、タバサの気持ちは動かなかった。
「学院の外にまで追いかけて行けば、援軍は期待できない。私たちだけでは分が悪い」
学院の中でなら、このまま戦い続けていればそのうちに気が付いた教師なりがおそらく援軍に駆けつけてくれるはずだ。
しかし、フーケを学院の外にまで追いかけていけば、それは期待できなくなる。
かといって、自分たちには出ていこうとする巨大ゴーレムを止められる方法もないのだ。
フーケが自分たちを倒さないうちに学院の外に向かおうとしているのは、つまり、しつこく付きまとわなければこちらを始末する気はないということ。
それを無視してどこまでも追っていくという態度を示せば、向こうも逃げ切るために本気で攻撃してくるだろう。
ここは大人しく引き下がって、後のことは学院の教師たちなりに任せた方が賢明だ。
「何を言ってるのよ! 貴族は……」
「私には、勝算もないのに無関係な盗賊を捕まえるためだけに、シルフィードをこれ以上危険にさらす気はない」
タバサは、きっぱりとそう宣言した。
「……っ、う……」
ルイズは俯いて、悔しそうに唇を噛みながら身を震わせた。
貴族として誇りを重んじるのが当然のことならば、メイジとして使い魔の幸福を重んじるのもまた当然のことであり、その言葉は無下に否定できるものではない。
現実的に勝つ方法があるならともかく、勝算もないのにそれでも戦わせろというわけにはいかないだろう。
そう、タバサを責めるわけにはいかない。
ルイズは、無策で無力で、何もできない自分が、ただ悔しかったのだ。
「……」
彼女の使い魔であるユマは、そんなルイズの姿を傍らでじっと見つめて、心を痛めていた。
なんとかしてあげたい、と思った。
どうにかしてフーケをここで、ルイズの、みんなの力で捕まえることができないものだろうか。
そう考えながら、もう一度、手持ちのカードに目を通してみた。
そこで、一枚のカードが目に留まった。
「……撤退する」
タバサがもう一度、確認するようにそう言った。
問答無用ですぐに撤退せずにわざわざもう一度確認したのは、彼女自身、誰かがいい案を出して自分を引き留めてくれないものだろうかと、無意識のうちにそう期待していたからだった。
表情こそ変わらなくとも、彼女だってルイズの悔しげにうなだれる姿にはいささかなりとも心を痛めていたのである。
それに、彼女自身にも密かに負けず嫌いなところがあって、全力で戦ってはいないとはいえこのまま成す術なく撤退するというのはどうにもすっきりしなかったのだ。
そのお陰で、彼女が内心期待していた少女の口から、内心期待していた望む言葉を聞くことができた。
「まって! 私に、作戦があるの」
全員の注意がユマに集まる。
「……何?」
「これを使えば……、ゴーレムの体全体は無理でも、フーケを守っている腕くらいは壊せるかもしれない」
そう言って、一枚のカードをみんなに見せる。
『サンダーワーム:魔法(魔法攻撃)
いかづちの精サンダーワームを呼び出して敵を攻撃する魔法のカード』
「……魔法のカード? これ、そんなにすごい威力があるの?」
キュルケの問いかけに、ユマは首を横に振った。
「いいえ、そんなにすごく強い魔法じゃないわ。私が使っても、たぶんあの腕は壊せないと思う」
サンダーワームは、これといって癖のない平凡な単体攻撃魔法である。
ガンダウルフのような超一流の魔術師であればともかく、自分が使っても、効果はたかが知れている。
あれほどの巨大なゴーレムに対しては、大きなダメージはまず与えられないだろう。
「……? それじゃ、どうするっていうのよ?」
「カード使いのカードは、使うのに向いた人になら一時的に渡して使ってもらうこともできるの。メイジなら、魔法のカードを使えるはずだわ。だから……」
ユマはそこで一旦言葉を切って、ルイズの方に顔を向けた。
「私には無理でも、ルイズに使ってもらえば、きっと」
「え?」
突然指名されて、ルイズは目を丸くした。
「な、何を言ってるのよ!? だ、だって、私は……」
認めたくはないが、『ゼロ』の自分にはたして魔法のカードが使えるものだろうか。
仮に使えたとしても、トライアングル・クラスのタバサやキュルケの呪文ですら通用しないあのゴーレムに、効果があるものだろうか。
「カードにもう入っている呪文だから、失敗はしないはずよ。前にタバサが言ってたわ、ルイズにはすごい魔力があるはずだって。私も、そう思うの」
「……そ、そんなこと……」
あんなの、また呪文を失敗してしまって落ち込んでいる自分を励ますために大袈裟に言っただけではないのか。
しかし、ルイズ自身が困惑して自信をもてずにいるのをよそに、タバサとキュルケ、それにマリオンは、納得した様子で大きく頷いた。
「わかった。シルフィードに、危険でないぎりぎりまであのゴーレムに近づいてもらう」
「そうね、ユマちゃんとあなたであの腕を壊してくれれば、あとは私たちの仕事よ。もしうまくいかなかったら、そのときはすぐに反転して逃げだせばいいんだし。気を楽にして臨みなさいな」
「では、私はユマの代わりに弓を引き受けましょう。あまり武器の訓練は受けていませんが、いないよりはましでしょうから」
下手をすれば命にかかわるこの状況で、みな嘘偽りなく自分の力を信じて、大事な役目を任せてくれているのだ。
そのことがわかると、ルイズの心にも火が付いた。
「そうね! 私たちは貴族よ、あんな賊ごときなんてことないわ。やってやろうじゃないの!」
「……ふふん、あいつらは追ってこないみたいだね。お利口さんでよかったよ」
巨大ゴーレムの肩に乗ったフーケは、そう呟いてほくそ笑んだ。
ウィンドドラゴンに乗った学生どもはこちらの反撃を凌いだが、その後歩き出したこちらを追ってくる様子はない。
もうすぐ学院の外壁をまたぎ越して、見つかる心配なくどこへでも姿をくらますことができるようになる。
これで、お互い不幸な目に合わずに済んだというものだ。
しかし、そう思って人心地が付いたところで、あのウィンドドラゴンがまた動き始めた。
逃げ出そうというのではなく、こちらの方へまっすぐに向かってくる。
「ち……、なんだい。やっぱり馬鹿どもかい」
こちらが遠くへ去っていくのを見ているうちに、怯える気持ちが消えて徐々に蛮勇を取り戻していったのかもしれない。
まさに、喉元過ぎれば熱さを忘れるというやつだろう。
立ち去る前に、もっと手酷く脅しつけておくべきだったか。
「仕方ない。そういう人を舐めた態度が命取りになることもあるって教えてやるよ、クソガキどもが!」
フーケはウィンドドラゴンがある程度近づいたのを見計らって巨大ゴーレムを出し抜けにぐるりと振り返らせると、腕を大きく横に振らせた。
そこから大きな土の塊がこそげ落ちて、ドラゴンを目がけて飛んで行く。
今度は、とっさに張ることができる薄い風の防壁などでは防ぎきれないだけの質量だ。
しかし、シルフィードは的確に上昇気流を捕らえ、ほぼ直角に急上昇して容易くその土塊を避けてみせた。
そうしながら、きゅいきゅいとかわいらしい鳴き声をあげる。
『風韻竜を甘く見ないでほしいのね! これだけの距離があれば、そんなのろまな攻撃なんかにシルフィがやられるわけないわ!』
それから、第二射が来る前に急降下して、まっすぐにフーケをめがけて突っ込んでゆく。
攻撃と攻撃の間の隙を狙って、一気に間合いを詰めるという作戦だった。
(思ったよりいい動きをする竜だね。でも、無駄さ!)
フーケは慌てず騒がず、先程と同じようにゴーレムの片腕を自分の前にかざさせて、敵と自分の間の射線を遮った。
こうしておけば、どんなに間合いを詰められようが向こうの攻撃はこっちには届かないのだ。
仮にあのドラゴンが腕に向かって自爆特攻するような無茶な真似をしてきたとしても、その時はゴーレムの腕を鉄にでも変えるだけのこと。
攻撃を凌ぎながらひとまず学院の外にまで出てしまえば、所詮は烏合の衆でしかない学院のメイジどもに深夜、自分たちの領域を離れた敷地外にまでこっちを追いかけてくる勇気はまずあるまい。
それからゆっくりと、この面倒な連中を始末するなり追い払うなりすればよいのだ。
フーケがそう考えていたところに、突然ウィンドドラゴンの方から眩い雷光のような輝きが迸った。
ユマが手渡したサンダーワームのカードの力を、ルイズが解き放ったのである。
(……?)
何が起こったか見極めようと、少しだけゴーレムの腕をずらさせてそちらの方に目をやったフーケは、奇妙な光景を目の当たりにした。
体が稲妻でできた大蛇のような姿をしたものが、ウィンドドラゴンの周りをのたうっている。
「な、なんだい、あの魔法は……?」
あんなもの、見たことがない。
系統魔法にも電撃を放つ『ライトニング』の呪文はあるが、人ひとりを撃つ程度のそれよりもずっと大きく、何よりも稲妻自体が自分の意思をもつ生物のように不規則に宙を踊っていた。
(まさか、精霊? ……先住魔法?)
フーケがそう考えたところで、その稲妻の蛇は鎌首をもたげて、彼女の方に向けて突っ込んできた。
咄嗟にゴーレムの腕でそれを受け止めさせようとしたが、大蛇はうねって土の腕に絡みつき、締め上げ始めた。
バチバチッと凄まじい火花が上がり、土の焼け焦げる嫌な臭いがする。
しばしの後に稲妻の蛇が消滅すると、それと同時にゴーレムの腕もぼろぼろに崩れ落ちてなくなってしまった。
「な……」
フーケは呆然とした。
対生物の殺傷力は高くとも構造物の破壊には本来適さないはずの稲妻の呪文で、巨大な土ゴーレムの腕が焼き切られるなんて。
しかしすぐに、はっと気を取り直す。
ゴーレムの腕が落ちたということは、今、自分の身を守ってくれるものはなくなっているのだ。
「くっ!」
慌てて杖を構え直し、防御の態勢を整えようとする。
しかし、予想外の事態に一瞬頭の中が真っ白になり、行動が遅れたことが命取りだった。
杖を握る腕を狙って、マリオンの放った強弓の矢が飛来する。
その矢は咄嗟に石礫を放って迎撃できたものの、そのために魔法を使ってしまったフーケには、もはや続くキュルケとタバサの攻撃を防ぐ手段はなかった。
「ぎっ、ぎゃあぁあぁっ!?」
キュルケの炎に巻かれ、タバサの風の刃に斬られて、フーケはたまらずゴーレムの肩から転げ落ちていく。
「……あっ……?」
その時、斬り裂かれた彼女のローブの胸元から宝物の『破壊のカード』が散らばっていくのを、ユマたちは目のあたりにした……。