ゼロのモンスターメーカー   作:ローレンシウ

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第二十一話 事の始まり

 戦いが済んだ後、ルイズらはフーケに最低限の治療を施してから医務室に運び込み、学院長室で事の次第を報告することとなった。

 

「ふうむ……。まさかあのミス・ロングビルが、巷で悪名高い怪盗だったとはのう……」

 

「ええ、驚きました。なんといっていいものか……」

 

 学院長のオールド・オスマンの他にコルベールもこの場に同席して、一緒に報告を聞いている。

 他にも駆けつけてきた教師はいたが、当面の事件は既に解決したということでひとまず解散し、今は宝物庫の穴を塞いだりぞろぞろと野次馬にやってくる生徒らを追い返したりといった作業にそれぞれあたっていた。

 

 身近で親しくしていた人間に裏切られたという事実に心を痛めているのであろう、沈んだ様子の二人を前に、ルイズらも神妙な面持ちになる。

 もっともその後、街の居酒屋で美人な上に媚びるように擦り寄ってきたフーケに気をよくして独断で採用し、いきなり秘書に取り立てたなどという学院長の話を聞くに及ぶと、一転して白けたような顔になったが。

 おまけにコルベールも、何か後ろめたいことでもあるのか、そんなふざけた学院長の言葉に途中から同調する始末であった。

 

「……ん、オホン」

 

 生徒らの冷たい視線に気がついたオスマンは、決まり悪そうに咳払いをすると、厳しい顔を取り繕った。

 

「ともあれ、君たちの勇気ある行動には厚く礼を述べるぞ。まさに、貴族の鑑である」

 

 ルイズとキュルケが誇らしげに、タバサはいつもどおりの様子だが他の二人に合わせてお辞儀をした。

 貴族でないマリオンとユマは礼をしたものかどうかわからなかったので、とりあえず曖昧に軽く顔を伏せておいた。

 

「おかげで、『破壊のカード』を奪われて大きな騒ぎとなることも避けられたし、悪名高いフーケもついにお縄となった。一件落着じゃ」

 

 オスマンが、ルイズら学生三人の頭を順番に撫でていく。

 ユマは、それが終わるのを待ってから、遠慮がちに声をあげた。

 

「あの、学院長先生」

 

 教頭先生、校長先生なのだから、当然学院長のあとにも先生をつけるのだろうというのが、日本の学生であるユマの解釈だった。

 

「なにかね?」

 

「ロングビルさんは、大丈夫でしたか?」

 

「む? 大丈夫か、というと?」

 

「捕まえる時に、大けがをしたみたいだったから」

 

 まあ、地面に墜落する直前にタバサがレビテーションで助けていたし、杖を取り上げて軽く縛ってからヴィタルの呪文をかけて傷も塞いだので、大丈夫だろうとは思うのだが。

 深手を負った衝撃のためか学院側に引き渡したときにもまだ意識を失っていたので、容態が気になったのだ。

 フーケを攻撃した時点では正体が顔見知りのミス・ロングビルだとは知らなかったし、以前に瞑想の中でエルフらしき少女と仲睦まじく話すロングビルの姿を見たユマには、彼女が根っからの悪人とは思えなかったということもある。

 もちろん、それはそれとして盗みは悪いことには違いないし、こちらを攻撃してきたのだから、捕まえたこと自体は悪かったとは思わないが。

 

 問いかけるようにじっとこちらを見上げてくるユマの顔を、オスマンはまじまじと見つめ返した。

 

「……ふむ、確かに。人として、怪我人を気遣うのは当然のことじゃな」

 

 オスマンはふっと相好を崩すと、ユマの頭も生徒たちと同じように優しく撫でる。

 

「安心したまえ。フーケは君らの処置が早かったおかげで、なんら命に別状はない。先ほど意識も戻ったとのことじゃ。当面はこちらの方で拘禁しながら、念のため容態を見ておこう。早めに城の衛士たちに引き渡したい旨、翌朝には連絡を送るつもりでおるよ」

 

 ほっとした様子でこくりと頷いたユマの顔をもう一度優しげに見つめてから、オスマンは生徒たちの方に向き直った。

 

「この件を王宮に報告する際には、合わせて君らの働きに対して『シュヴァリエ』の爵位を贈るように推薦を出しておこう。ミス・タバサは既に『シュヴァリエ』の爵位をもっておるから、精霊勲章の授与申請じゃ。どちらも、追って沙汰があろう。認められるかはわからんが、いずれにせよ何らかの褒賞は出されるはずじゃ」

 

 それを聞いて、三人の顔がぱあっと輝いた。

 

「本当ですか、オールド・オスマン」

 

 キュルケの声に喜色がにじんでいるのも、無理はない。

 

 なにせ『シュヴァリエ』といえば最下級ながらも爵位であり、国から年金も支給される。

 なによりも、世襲のできない功績のあった者に対して一代限りで与えられる身分であるから、確かな実力の証明と言えるのだ。

 ましてやルイズやキュルケのような若さでそれを得ることができるというのは、大変な名誉である。

 それ以上にも若いタバサが既にそれをもっているというのは、親友のキュルケにとっても初耳で、驚きだったが……。

 

 そのタバサとしては、勲章はどうでもよいのだが、合わせて出されるであろう報奨金は大いに嬉しかった。

 別に金銭に執着しているというわけではないが、欲しいものを買うにはどうしてもそれが必要になってくるのである。

 いろいろと事情があって実家の方からの仕送りなどは期待できず、概ね『シュヴァリエ』の年金だけで暮らしている彼女は、慢性的に金欠気味なのだった。

 

 お金さえあれば、買いたいものはたくさんあるのだ。

 

 たとえば、本とか本とか本とか。

 

 あと本とか、ついでに本とか。

 

 それから本とか、さらには本とか。

 

 さらに余裕があれば、おいしいものとか……。

 

 ルイズもすっかり舞い上がっていたが、そこでふと、自分たちの喜ぶ様子をわずかに微笑んで見つめている、ユマとマリオンの姿に気が付いた。

 

「その、オールド・オスマン。あちらのマリオンと、ユマには……」

 

 そう聞かれると、オスマンは少しばかり申し訳なさそうに顔をしかめて、首を横に振った。

 

「無論、働きについては触れておこう。しかし、残念ながらおそらくそちらの詩人どのと君の使い魔とには、国から大きな褒賞が与えられることはまずあるまい」

 

「そんな! 二人とも、私たちと同じようにフーケと戦ったのです!」

 

「わかっておる。しかし、残念ながら、彼らは貴族ではない」

 

 加えて、マリオンはどこの国の誰ともつかない根無し草の吟遊詩人だし、ユマの方は年端も行かぬ少女なのである。

 

 王宮側の対応としては、せいぜい礼状の中で一言触れられて、金一封でも出してもらえればいいほうだろう。

 もしかすれば、単に貴族が盗賊を取り押さえる場にたまたま居合わせただけとみなされて、それすら出ないかもしれない。

 実際、普通に考えればメイジの盗賊を取り押さえるのに役に立つことなどなさそうな二人なのだから、そう判断されたとしても仕方ない面もあろう。

 

「あら、お国ではずいぶんと心の狭いことをなさいますのね」

 

 キュルケの皮肉っぽい物言いにルイズが顔をしかめたが、何も言わなかった。

 

 彼らにも自分たちに与えられるのと同じだけ見返りがあってしかるべきだというのは、ルイズとしても異論はない。

 少なくともユマについては、ルイズの働きの半分は自分の手柄だと主張してもよい立場にあろう。

 それなのに何もないというのは、理屈としてはわかるが納得がいかなかった。

 

「手厳しいのう」

 

 オスマンは、肩を竦めて苦笑した。

 それから、一応のフォローをするように付け加える。

 

「……まあ、爵位や勲章は与えられまいが、まだ君らへの褒賞金とフーケの首にかかっていた報奨金がある。その仲間内での分配については、もちろん君たちの自由にすればよい。王宮の連中も、そこまで口出しはするまいよ」

 

「そうね。マリオンとユマちゃんの取り分を多めにするのがいいかしら」

 

 キュルケのその提案に対して、マリオンは首を横に振った。

 

「いいえ、私の分は要りません」

 

 カードから呼び出された分身体である彼にはもらったところで使い道がないというのがひとつの理由だったが、そうでなくても特に金などを要求する気はなかった。

 

「私は、若き英雄たちの活躍の場に立ち会わさせていただきました。それを歌にさせていただくことが、詩人にとっては何よりの報酬です」

 

 分身体は金を本体の元に持ち帰ることはできないが、記憶は後に夢を見るような形で共有することができる。

 ルイズらのこの度の活躍は、本物のマリオンによってしばしの後にウルフレンドの各地で、異世界の若き英雄たちの物語の序として歌い広められることなるだろう。

 

「ですから私の取り分は、みなさんで分けるか、壊された宝物庫の修繕費にでもあててください」

 

「それはなんとも、欲のない御仁じゃな。ハンサムなだけではなく、心も美しいと見える」

 

 オスマンはそう言うと、ほっほっと愉快そうに笑った。

 それから、ふと思いついたように付け加えた。

 

「おお、そうじゃ。当学院では明日の夜に、『フリッグの舞踏会』と呼ばれる毎年恒例の舞踏会が催されることになっておるのだが。どうかな、あなたも参加していかれては?」

 

 舞踏会の主役は、もちろん今宵、大きな手柄をあげた三人の学生になることだろう。

 その場で、彼女らの活躍を近くで見届けたという美しい詩人に歌や物語を披露してもらえば、さらに盛り上がることは間違いない。

 

「それは素晴らしい。もし、その場で歌を披露させていただけるのでしたら、そしてユマが認めてくれるのでしたら、喜んで」

 

 マリオンはそう言って、申し出を快諾した。

 お金は別に要らないが、注目と賞賛の言葉はいつでも大歓迎であるし、貴族のパーティであればおいしい料理やお酒も味わえることだろうから。

 

「もちろん。マリオンがいてくれたら嬉しいわ」

 

 ユマもまた、嬉しそうにそう答える。

 しかし、どうして旅の詩人がこんな年端も行かぬ少女の了承を得る必要があるのかと、事情を知らないオスマンは不審そうにしていた。

 

(まさかこの男、自分から幼女に傅きたがるけしからん趣味でもあるのではなかろうな?)

 

 そんなあらぬ疑いを抱いたオスマンの胸中などつゆ知らず、ユマが言葉を続ける。

 

「そうだわ。シルフィードにも、何かお礼を」

 

 彼女がいなければ自分たちはフーケを捕らえるために宝物庫に駆けつけるのに間に合わなかったはずだし、最後は危険をおしてゴーレムのかなり近くにまで自主的に接近してくれた。

 ドラゴンにはお金の使い道はないのかもしれないが、当然功労者として報いられてしかるべきであろう。

 

「あの子には、食べ物が一番いい」

 

 タバサが軽く頷いて、そう言った。

 

 報奨金の一部を食費に当てて、今後しばらく食べ物をいくらかずつでも増量してやれば、きっと大喜びすることだろう。

 その前にまず、先日勝手に町で本代を使い込んで買い食いをした分を、割り当ての中から多少の利息付きで返してもらうが。

 

「……ああ、ところで……。君に、少し尋ねたいことがあった」

 

 微笑ましげに話を聞いていたオスマンはそこで、ふと何か思い出したようにそう言って、ユマのほうに目を向けた。

 話を振られたユマの方は、小さく首を傾げる。

 

「なんですか?」

 

「先ほどミス・ヴァリエールは、君もフーケと戦ったと言っていたが……。君はどのような方法で彼女と戦ったのか、よければ教えてくれないかね?」

 

 オスマンのその問いかけを受けて、ユマはああ、と納得した。

 自分のような子供が一体どうやって戦いに参加したのかと、不思議に思われるのも無理はない。

 

 そこで、脇のほうからコルベールがなにやら興奮した様子で、勢い込んで口を挟んできた。

 

「そう! そうですぞ! もしや君は、巨大なゴーレムを相手に武器を手にとって渡り合ったのでは!?」

 

 さりげなく話を運んで聞き出そうとしていたオスマンは、彼の直接的にすぎる質問に顔をしかめた。

 例の『ガンダールヴ』の件について、本人以外の生徒らが何人もいる場所であからさまに尋ねるのはあまりよろしくないだろうに。

 

(やれやれ)

 

 もっとも、想像通りだとすれば彼女らは全員伝説の使い魔の力を目の当たりにしたということになるわけだし、いずれにせよただの少女などではないことについてはもう気が付いている可能性が高いが。

 いずれにせよ、既に口から出てしまった質問はいまさらどうしようもないのだから、オスマンはコルベールと共にじっとユマの方を見つめて答えを待った。

 

 二人の熱っぽい視線を受けたユマは、また首を傾げて少し考え込む。

 ややあって、二人の顔を交互に見つめ返してから口を開いた。

 

「ええと……。もしかして、先生たちが聞きたいのは『ガンダールヴ』のことですか?」

 

 

「……なんと、まあ。君ら全員が、とっくに気付いておったとはのう」

 

「いやはや。知らずに気を揉んでいたのは、私ら年寄りばかりというわけですか。はは……」

 

 ルイズらが『ガンダールヴ』について知ったいきさつを簡単に説明された二人は、そう言って苦笑する。

 マリオンもそれについては初耳だったので、興味深そうに拝聴していた。

 

(そうか、ユマ。君はこの世界でもやはり、『選ばれた勇者』だったのか)

 

 別に何者かに選ばれようと選ばれまいと、彼女が勇者であることはもちろんマリオンは最初から知っているのだが。

 それでもやはり、そのようないわれがあるということは、物語に華を添えてくれるだろう。

 

「……で、やはり彼女は巨大なゴーレムを相手に、武器を用いて戦ったのですかな? 見たところ、何も獲物はもっていないようですが……」

 

 気を取り直して、コルベールがそう質問する。

 

 いずれにせよ『破壊のカード』についても後で尋ねる予定だったのだし、この先生たちには隠すこともないだろう。

 ユマはそう考えて、軽くルイズらのほうを窺って同意を得てから、正直に答えることにした。

 

「いいえ。カードの力を借りました」

 

 そういって、懐から数枚のカードを取り出すと、オスマンとコルベールに見せる。

 

「む。これは……」

 

「これは、宝物庫の『破壊のカード』ではないですか! そうか、君はフーケの持ち出したこれを、逆に利用して……」

 

「……いや。取り戻してくれたカードは一枚も紛失してはおらん、私自身の目で枚数が合っておるのを再三確認したからの。絵柄にしても、初めて見るものじゃ」

 

 オスマンはそう言ってから、真剣な面持ちでユマの顔をじっと見つめた。

 

「なぜ、君がこれを?」

 

 その質問を受けて、ユマは自分が異世界から召喚されたこと、カード使いと呼ばれる力を持っていることなどを話した。

 マリオンもまたそのカードによって呼び出された異世界の人物であることを伝え、証拠としてアイテムやモンスターをいくつかカードから呼び出して見せる。

 

 コルベールは当然ながら非常に驚いた様子で目を丸くし、次いでひどく興奮してユマを質問攻めにしようとしたが、オスマンがそれをたしなめる。

 

「待ちたまえ、コルベール君。君はせっかちでいかんな、質問は後々時間をかけてゆっくりとしたまえ。そんなに興奮して幼い少女に詰め寄ったりしては、君の趣味が疑われるぞ」

 

 オスマンのほうは、興味深そうにはしているもののそこまで驚いてはおらず、ごく冷静な様子であった。

 その姿を見て、やはりこの人はカードについてなにか知っているのだろう、とユマは考える。

 

「学院長先生。その、『破壊のカード』のことを教えてくれませんか?」

 

 ユマがそう質問をすると、全員の注目がオスマンに集まった。

 

「……うむ。あれは、そうじゃな。もう、かれこれ二十五年、いや、三十年近くも昔のことになろうか……」

 

 皆の視線を浴びたオスマンは、長いあごひげを撫でながら重々しく話し始めた。

 

「そのころ私は、何晩も続けて同じ夢を見ていた」

 

「……夢?」

 

 一体それとカードにどんな関係があるのかと、皆が首を傾げる。

 

「妙な夢であった。私は森の中を散策し、そこで崩れかけた古代の遺跡を見出す。その中には素晴らしい何かがあるに違いないという胸躍る予感がするが、決まって踏み込む前に目が覚めてしまうのじゃ……」

 

 オスマンはそこで一旦言葉を切ると、目を閉じてその時感じていた想いを反芻した。

 

 若い頃のような未知への憧れ、まだ見ぬ秘宝や、得られるかもしれぬ力への渇望。

 そして、すぐにでも踏み込まねばならないという胸を焦がすような焦燥と、何かに追われてでもいるかのような得体の知れぬ恐怖……。

 

「……話しても、その時私の感じていたすべては伝わらぬであろうが、とにかくただの夢とは思えなかった。私は、夢で見た森と遺跡の姿を思い出して、そのような場所が本当にないかを調べ始めた」

 

 図書館で古い地図や文献をしらみつぶしに調べ、大勢の人に聞き込みをして、ついにそれらしい場所がトリステインの一角にあるということを突き止めた。

 オスマンはすぐに、その場所へ向かうことにした。

 

「しかし、件の遺跡にそろそろ到着しようかという時に、私はワイバーンに襲われた。それも、何体もの群れにじゃ」

 

 人里離れた土地を単身で旅する以上、当然そのような危険に備えていてしかるべきだったが、その時のオスマンは夢の場所に向かうことにばかり気を取られて注意を怠っていたのだった。

 おまけに、本来は巨体で目立つはずの幻獣、しかも複数体の群れであるにもかかわらず、どこからともなく突然湧いて出たように思えた。

 

「その窮地を助けてくれたのが、件の『破壊のカード』の持ち主であった」

 

 オスマンによれば、その人物はカードの中から突然奇妙な大砲のような形をしたものを取り出すと、ワイバーンの群れに照準をつけて機構を作動させ始めた。

 

『これはこれは、ようやく出会えましたな。……どれ、先日ドワーフ族の遺構から発掘した、森羅万象破壊砲(オールマイティーバーサーカー)を試してみるとしようか。エネルギー充填、120パーセント!』

 

 ……そうして砲身から撃ちだされた眩い閃光が、ワイバーンどもを森の一角もろとも跡形もなく吹き飛ばしてしまったのだという。

 

「彼は、齢を重ねたメイジらしく思えたな。外見は少しばかり不吉な印象を与えるようなものだったが、実際に話してみると自然で気持ちのいい態度で、人を惹きつけるものをもっておった。私を助け起こし、何くれとなく世話を焼いて親切にしてくれたよ」

 

「その、出会ったばかりの学院長に、それほど強力な『破壊のカード』を譲ってくれるほどに親切だったというのですか?」

 

 コルベールが、釈然としない様子でそう尋ねた。

 

「うむ……。私も妙な話だとは思う。しかし、彼は自分も夢に導かれてその場に来たのだと、そう言っておった」

 

 その人物によれば、彼は自分が故郷から持ち出してきたそれらの危険なカードを託し、保管してもらうにふさわしい人物を探していて、夢に導かれてオスマンに出会ったのだという。

 

『このカードは、特別な才能をもつものにしか扱えませぬ。ですが、私はずいぶん遠い場所から来たので、おそらくこの地には使えるものも、使い方を知る者もいますまい。とはいえただ捨てるというわけにもいかず、管理していただくにふさわしい方を探していて、こうして歴史ある魔法学院の院長どのに出会うことができた。まさに運命です。なに、別段厄介なことはお頼みしません。ただ、大切に持っておいていただければそれでいいのですよ』

 

 最後にそう言って、オスマンの手に一束のカードをしっかりと握らせると、彼はどこへともなく去っていった。

 

「それ以来、彼には会っておらん。夢で見た遺跡にも行ってみたが、既に発見済みで中は捜索され尽くしているようだったし、崩れかけていてなにも変わったものは見つからなかった。夜ごと繰り返されていた夢も、それからは見なくなった……」

 

 そう言って、オスマンは遠い目をした。

 

「……あの夢は何だったのか、それは今もわからん。しかし、いずれにせよ命の恩人からもらったものであるし、彼の言うとおり間違いなく強力で危険な代物でもある。私はそれに『破壊のカード』と名前を付けて、学院の宝物のひとつとして大切にしまい込んだ、というわけじゃ」

 

「不思議な話ですわね」

 

 話を聞き終えると、キュルケが皆の気持ちを代表するように、そう呟いた。

 ユマはしばらく考えてから、オスマンに質問をした。

 

「その人の、名前は?」

 

 もしかしたら知っている人かもしれないから、というユマの言葉に、オスマンが頷いた。

 

「名前はそう、クルガンと言ったな。私は当然貴族だろうと思ったが、彼は、自分はただのクルガンだと言っておった」

 

「クルガン?」

 

 ユマには、その名前に聞き覚えはなかった。

 けれどもまた少し考えて、もうひとつ尋ねてみることにする。

 

「……どんな格好の人でしたか?」

 

 オスマンは記憶を手繰りながら、その人物の姿形を説明していった。

 

「ふむ、黒い三角帽をかぶり、黒いローブを身に着け……、確か、先端に宝珠と蛇の装飾が飾られた杖を持っておったな。眉は太く、鼻は高い。目は大きく唇は薄く、黒い濃いあごひげを生やしていたよ。年老いていたが、ごく整った面立ちと言ってよいじゃろうな」

 

 その容姿の説明を聞いて、ユマとマリオンは顔を見合わせた。

 

 闇の陣営の中でも屈指の存在であり、かのガンダウルフの宿敵として知られるモンドールが、オスマンの説明にちょうど一致するような姿をしていたからだ。

 あるいは、クルガンというのは偽名で、その人物はモンドールだったという可能性もあるかもしれない。

 ユマが戦った闇の幹部の中には、カード使いほどではなくてもある程度カードの力を使いこなせる者たちがいたし、モンドールもそうした者たちの一人だったから。

 

 仮にモンドール本人ではないとしても、黒魔道士である可能性は高そうに思えた。

 ウルフレンドの黒魔道士は、普通の魔術師が用いない闇の魔術に手を染め、力を追い求めて自分の欲望を叶えようとする者たちである。

 彼らは好んで黒を基調とする衣服を身にまとう傾向にあるから、モンドールと同じような格好をしていても不思議ではない。

 

(それに、事の起こりが夢で見たことだったというのも怪しい)

 

 それは本当に、何かの啓示とか、予知夢とかの類であったのかもしれない。

 しかし、ウルフレンドでは腕の良い魔術師であれば、人に夢を見せてその行動を自分の望む方向に誘導してやることくらいは造作なくできることをマリオンは知っていた。

 もちろん相手の側も腕の立つ魔術師であれば、普通は意識をシールドしてそういった介入を防いでしまうからなかなか上手くいくものではない。

 だが、この世界のメイジはどうやらウルフレンドの魔術師とはずいぶん違っているようだし、あるいはそうした手法について疎く、十分な対抗手段を持たないのかもしれない。

 

 とはいえ、そうだとしてもどうしてその男がこの世界に姿を現せたのか、そしてカードを惜しげもなく手放してオスマンに与えたのか。

 それについては、ユマにもマリオンにも見当がつかなかった。

 

「……ありがとうございます、学院長先生」

 

「大変貴重なお話でした、同席して拝聴させていただけたことを嬉しく思います」

 

 二人は悩んだものの、結局その場では自分たちの考えを口に出すことはせずに、そう言って頭を下げた。

 彼にとってはその人物は命の恩人で大事な思い出なのだろうから、証拠もないのに実は悪人だったかもしれない、ワイバーンの一件も自作自演だったかもしれない、などという話をするわけにはいくまい。

 

 ユマとしては、宝物庫の『破壊のカード』についても、フーケの手当てと教師たちへの報告を急いだためにあまりちゃんと見もしないうちに回収されてしまったから改めて調べてみたかったのだが。

 まあ、今は事件の処理などで先生たちも忙しいだろうし、見せてくれと頼むのは後日でもいいだろう、と思った。

 そもそもあのカードは学院長先生のもので、学院に置いて守るように頼まれたということだから、調べたところで自分がもらえるわけでもないのだ。

 三十年近くも学院に置いておいて何もなかったというのだから、カード自体には別に危険はないのだろうし、今更少しばかり急いで調べる必要もあるまい。

 

 それで、もう夜も遅いので、ひとまずその場は解散となった。

 

 

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『ようやく、待ち望んだ時が近づいてきたようだ』

 

 宝物庫の奥で、ガラスケースの中に戻されたカードの束がかたかたと震えた。

 まるで、忍び笑いを漏らすかのように。

 

『お前が再び私をその小さな手の中に収める時、お前もまた、私の手の中に収まることだろう』

 




森羅万象破壊砲(オールマイティーバーサーカー):
 現代を舞台とするモンスターメーカー学園シリーズに登場した大砲状の兵器。
漫画版では錬金術部が「こんなこともあろうかと」開発していたとされ、エネルギー充填120パーセントでぶっ放されて門星明華学園の敷地内に出現したゾンビの群れを一撃で吹き飛ばし、校舎を全壊させた。
TRPG版では学園のドワーフが開発した兵器で、敵対する門星高校のモンタズナ教頭が操る身長五メートルほどの機動ゴーレムを破壊するのに使用できる。
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