ゼロのモンスターメーカー   作:ローレンシウ

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第九話 掘り出し物

 食事を終えた一行は、帰る前にタバサの提案で書店に寄ることになった。

 ユマはまだハルケギニアの文字を読み書きできないので、勉強するための本を何か買っていこうというのである。

 

「学院の図書館には本がいっぱいあるけど……。確かに、一から字の読み書きを勉強するのに向いたものはないかもしれないわね」

 

 識字率の低い平民ならばともかく、学院に来る貴族の子弟の中には、入学の時点でまだ字の読み書きもできないなどという者はさすがにいない。

 そんな状態では、まだ時期尚早ということで入学の許可が下りないだろう。

 字の読み書きくらいはユマにも教えてやりたいし、幸いお金もまだ十分に残っているので、ルイズも本を買うことに同意した。

 

「ありがとう、たくさん買ってくれて」

 

 ユマはそう言って、ルイズにぺこりと頭を下げた。

 両手にはたくさんの衣類と、先程の飲食店で包んでもらったシエスタへのお土産が入った袋を抱えている。

 

「メイジが使い魔に必要なものをきちんと用意するのは当たり前よ、気にすることはないわ。私は別に吝嗇家じゃないのよ」

 

 ルイズがさも当然のように、しかし少し得意げな調子の滲んだ声でそう答える。

 

「私も見ていく」

 

 タバサもそう言って本屋へ同行することにした。

 というか、彼女にとってはそちらの方がメインの目的である。

 

「私は本なんか見てても退屈だから。そこら辺のお店を回って、しばらくしたら戻ってくるわ」

 

 キュルケだけはそう言って、本屋の前でみんなと別れた。

 

 

 

 ルイズが選んだ書店の中に入ると、インクのにおいに、ほこりっぽいにおい、それに羊皮紙のすえたようなにおいが混じり合って鼻をついた。

 

 店内には本棚がずらりと並んでいてせまっ苦しく、あちこちに古びた本がうずたかく積まれている。

 地球でいえば、年季の入った小さな古書店のような雰囲気の店だった。

 流行りものの小説本などをメインに置いている、もっと小ぎれいな大衆向けの書店もあるのだが、本屋はこういう店の方がルイズの好みに合うのである。

 彼女は店選びでも、貴族らしい格式にこだわるのだ。

 

 店の奥に腰掛けた気難しげな初老の店主は、客が入ってくると顔を上げてじろっとそちらのほうを見た。

 が、どうやら相手が貴族だとわかると、小さく会釈をする。

 

「いらっしゃい。どうぞ、ご自由に。それとも、何かお探しのものがありますかな」

 

 ルイズは傍らのユマを示して、店主に説明する。

 

「この子に字の読み書きを教えたいの。教本と、絵本か何か読みやすそうな本を何冊か見繕ってちょうだい」

 

 タバサはそちらの買い物はルイズらに任せることにしたようで、さっさと本棚を回って自分が面白そうだと思う本を探し始めた。

 

「はあ。字の教本と、絵本……ですか」

 

 そんな本はあまり置いていないので、店主は少し困ったように顔をしかめる。

 ここは、主として貴重な古書や何かを取り扱う店なのだ。

 そういったものであれば、ここよりも大衆向けの書店へでも行った方が見つかりやすいだろうに。

 

 とはいえ、貴族に頼まれたからには、何かしら提示はせねばなるまい。

 少し考えた後、店主は店の奥の方に積まれた本の山を指し示した。

 

「あちらの本は、先だって断絶したフォングレイル家が所蔵していたものです。未整理の山の中には子供向けの絵本や学習書の類もあったかと思いますが、調べてみましょうか?」

「そう? ……いいわ、それなら私が自分で調べてみるから」

 

 まったく興味のない品ならともかく、本はルイズも好きだし、見ればどんなものかくらいは大体わかる。

 まだ未整理ということは店主も詳しくは知らないのだろうし、それなら使い魔に買ってやるものは自分で調べて決めようと思ったのだ。

 

 ルイズは本の山に歩み寄ると、かがみ込んで本のタイトルを調べ始めた。

 

「……あ、あったわ。『イーヴァルディの勇者』に、『ビタミーナ王国物語』、『明日への翼』……。確かに絵本ね」

 

 軽くほこりをはらうと、ルイズはそれらの絵本を開いて、ぺらぺらとめくってみた。

 ユマも、後ろのほうから覗き込んでみる。

 さすがに貴族用の高級な本だけあって、色鮮やかな美しい挿絵がページを彩っているようだ。

 

「これなら、読みやすくていいか、も……」

 

 その時、あるものが目に留まって、ルイズのページをめくる手がぴたりと止まった。

 

「……!」

 

 ユマの目もまた、それに釘付けになる。

 

 二人が目を奪われたものとは、絵本に挟まれた一枚の札だった。

 それは明らかに、ユマが作ったものと同じ、カード使いの用いるカードだったのである。

 

(な、なんでこれが、こんなところにあるのよ?)

 

 ルイズが振り向いて、押し殺した声でユマに問いかけた。

 

(……わからない。けど、もしかしたら、他の本にもあるかも)

 

 二人はそこで、片っ端から本を開いて、同じようにカードが挟まっていないかを確認し始める。

 途中からタバサも事態に気付いたようで、協力しに来てくれた。

 

 そうしてしばらく探した結果、他の絵本や学習書の中からも、次々とカードが見つかった。

 どうやら、それらの本を読んでいた子供がしおり代わりに使っていたらしい。

 店主にも聞いてみたが、彼は本にカードが挟んであること自体知らなかったようで、おそらくそれは本を所蔵していた貴族が子供に与えたおもちゃか何かだろうということだった。

 

「きれいな札ですな。しかし、当店はあくまで書店ですので。本をお買い上げいただけるなら、一緒にお持ちになられても結構です。そのあたりの本なら、そうですな……」

 

 貴族向けの品とはいえろくに買い手のつかない子供向けの古本であり、在庫がまとめて処分できるならこちらもありがたいからと、店主はずいぶん安くしてくれた。

 自分の商品はあくまで本であってたまたま混ざっていたカードではないという矜持があるのか、吹っかける気はないらしい。

 ルイズは礼を言うと、それらのカードが挟まっていた本をすべて購入することにした。

 

 

 

「ふうん……。不思議なこともあるものねえ」

 

 合流して事の次第を聞いたキュルケは、首を傾げた。

 

「もしかしたらその子供が、ユマちゃんと同じカード使いってやつだったのかしら?」

「……わからない」

 

 どうやって自分の力に気付いたのかは謎だが、その子供はこの世界で生まれたカード使いの才能をもつ人物だったのかもしれない。

 でなければ、自分と同じように地球かウルフレンドから何かの理由で召喚されてきたのかも。

 それとももしかしたら、何かの原因で地球かウルフレンドからカードだけが召喚されてきて、子供はたまたまそれを手に入れたに過ぎないのか……。

 

 ユマは自信なさそうに、思いつくままにいろいろな仮説を並べてみた。

 

「そうねえ。フォングレイル家といえば、この間破産したゲルマニアの貴族家よ。好事家で、珍しいものとみれば見境なく集めていたそうだから、最後のが正解かもね」

 

 カードだけが召喚されたのか、カード使いと一緒に召喚されたのかは不明だが、ともかく何かの原因で召喚されたカードが、見た目が美しく珍しいということで市場に出た。

 それをフォングレイル家の貴族が購入し、特に使い道もないのでしばらく眺めて楽しんだ後に子供に与え、その子供が本のしおりとして使った……。

 

 真偽のほどはわからないが、それで一応筋は通る。

 そのカードをユマがたまたま発見したというのはなんともすごい偶然だが、あるいは彼女がカード使いであるがゆえに、自然と引かれ合ったのかもしれない。

 

 ユマは、事実を確認するためにもぜひ直接会って話を聞いてみたいと思った。

 だがキュルケは、それは無理だと言って首を横に振る。

 

「当主も家族も、みんな死んでしまったらしいわ。残っていた家財は、負債の支払いのために権利者が押収して市場に出したんでしょうね」

 

 キュルケの母国であるゲルマニアは競争の盛んな国で、下級貴族でも平民でも才気と運と行動力があれば富や権力をつかみ取れる一方で、没落していく者もまた多いのだ。

 

 聞いた話でば、フォングレイル家はかつてはかなり裕福で歴史のある貴族家だったが、当代の主が趣味と遊蕩に金を注ぎ込んだために、次第に財政状態が悪化していったらしい。

 その上に不運も重なり、とうとう貯蓄が底を突いて、残る財産を換金して負債の支払いに充てた上で今後はつつましい暮らしを送るようにと宣告された。

 当主はひどくうろたえて、友人たちから金を借りるという絶望的な試みのために奔走したが、長年の乱行のために既に友人も親類縁者もみな彼を見捨ててしまっていた。

 ついにどうにもならないと悟ったとき、現実を直視したくなかった彼は家族に毒を飲ませた後、杖を握って自分自身の命にも始末をつけたのである。

 

「そうなの……」

 

 ユマはそれを聞いて、痛ましげに顔をしかめる。

 同じカード使いだったかもしれない子供が死んでしまったことはもちろん悲しいが、それ以上に、子供が大人の事情や身勝手な感情の犠牲になったということが悲しかった。

 

「それで、店の中ではざっとしか見なかったけど。どんなカードがあるのよ?」

「……ん。見てみる」

 

 ユマは気持ちを切り替えると、タバサが『念力』を使って運んでくれていた本を一旦下ろしてもらい、挟まれていたカードをひとつひとつ取り出してチェックし始めた。

 ルイズも、そしてキュルケやタバサも、興味津々な様子で後ろから覗き込む。

 

 

 

『ショートソード:装備品(サポート)

  刃渡り4、50センチの短めの剣。狭い場所でも振り回せるため、冒険者なら一本は持っている』

 

『ストロングボウ:装備品(サポート)

  プロの狩人が使う攻撃力の高い弓。引くのにかなりの力がいる』

 

『バックラー:装備品(サポート)

  小型の丸い盾。攻撃を受け流すのに向いている』

 

『マジックベリー:アイテム(サポート)

  MPを回復させる、不思議な木の実』

 

 

 

 今のところは、ウルフレンドでユマも手に入れたことのある、比較的ありふれたカードばかりだ。

 武器などの装備品のカードが多いようだが、それ以外のカードも含まれている。

 ユマはそこでふと思いついて、マジックベリーのカードをルイズらに差し出して質問した。

 

「これ、見たことある?」

 

 ハルケギニアの少女たちは代わる代わるそのカードを手に取って、イラストや説明文にしっかりと目を通した。

 

「……いえ、見たことのない木の実ね。クックベリーと同じ、ベリー系の果実みたいだけど」

「ええ。それよりも、このMPっていうのは何かしら?」

「聞いたことない」

 

 それは、概ねユマの想像したとおりの反応だった。

 

 これはウルフレンドでは比較的ありふれたアイテムで、ユマが召喚されたときに手にしていた初期デッキにも入っていた。

 それをルイズら全員が知らないということは、おそらくこの世界にはないということだろう。

 もちろん、地球にはあるはずもない。

 

 ということは、これらのカードはやはり、ウルフレンドで作られてから召喚されてきたものに違いない。

 

「MPは、魔法とかを使う力のことよ。なくなると、魔法が使えなくなるの」

 

 それを聞いて、少女らは顔を見合わせた。

 

「……それって。つまり、精神力のこと……よね?」

「それが本当なら、すごい価値があるじゃないの!」

「貴重」

 

 ハルケギニアでは、魔法を使う力の源になる精神力は、普通は眠って回復を待つしかない。

 食べることで精神力を補給できるとしたら、それは非常に貴重な魔法薬だ。

 

「そうなの?」

 

 ユマはちょっと首を傾げたが、あまり興味なさそうにカードを調べるのに戻った。

 この世界では貴重だろうと、別に売るわけではないのだから。

 

 そうして調べていくうちに、モンスターカードも見つかった。

 

 

 

『巨大ネズミ:モンスター(ビースト) HP5/MP0 Lv12 物理防御7 魔法防御1

  異常成長した巨大なネズミ。

  他の星から来た宇宙人という説もあるが、真偽は定かではない』

 

 

 

(あ、ルフィーアが嫌いなやつだ)

 

 このモンスターは、ユマもウルフレンドで入手したことがある。

 ルフィーアはネズミが大嫌いで、あるクエストではこの巨大ネズミを見たせいでパニックに陥り、森の奥で暴走して暴れまくっていた。

 なので、彼女の前ではこの手のモンスターを呼び出さないように気を付けていたものである。

 

 動物好きな彼女が、なぜネズミだけは大の苦手なのかはよくわからない。

 この巨大ネズミにしても、異様に大きいことを別にすれば、見た目はむしろかわいいくらいだと思うのだが……。

 

「……何これ、ネズミ?」

「こんな生き物もカードになるのね。どうやるの?」

 

 ルイズとキュルケが、不思議そうにそう質問してきた。

 

「倒したら、カードになることがあるの」

「へえ……。じゃあ、このネズミもカードから呼び出せるのね。ユマちゃんの言うことをなんでも聞くの?」

「ええ。なんでも、かはしらないけど。一緒に戦ってくれるくらいには」

 

 ウルフレンドのクエストで遭遇したモンスターは、倒すと死体になるのではなく、跡形もなく消えてなくなる。

 そうしたモンスターを倒すと、たまにカードがその場に残ることがあるのだ。

 こちらに敵対して襲いかかってきたモンスターも、そうやって手に入れたカードから召喚すると、仲間として働いてくれるようになる。

 

 ただ、なぜそうなるのかといわれると、ユマにもよくわからない。

 カードにならなかったモンスターは死んでしまうのか、そもそもカードになったらそれは死んでいないといっていいのか、それすらもよくわかっていない。

 敵対していた闇の陣営にもカードを使う者たちがいたから、少なくとも一部の敵は、元々カードだったのだろうが……。

 

 だから、ユマはクエストでは襲ってきたモンスターは倒すが、カードを手に入れるためだけに自分から攻撃したことはなかった。

 カードから召喚したモンスターだけに戦わせたりしたこともない、いつも一緒に戦った。

 カードの力は、きっと自分だけの力ではなく、借りている力でもあるはずだ。

 強くなるためにむやみやたらにカードを掻き集めて回ろうとしたり、その力を悪事にでもなんでも好き勝手に使ったりするのは、思い上がった無責任な行動だと思う。

 自分でよくないと思う使い方をすればカードに見限られてしまうのではないか、と感じているのもそのためだ。

 

「やってみせて」

 

 タバサがそう要求したので、ユマはこくりと頷くと、まずは周囲に人目がないことを確認した。

 それから、巨大ネズミのカードを指で挟んで掲げ持ち、意識を集中する。

 カードは輝きながらユマの手を離れて浮き上がり、ゆっくり回転しながら透明になって消えていった。

 

 次の瞬間、ユマの目の前、少し離れたあたりにほのかな光の球体が出現して膨らみ、その中からモンスターが姿を現す。

 

 それは、身の丈2メイル以上はあろうかという、まるで熊のような大きさの直立した巨大なネズミだった。

 ビーバーよりもなお長い前歯と大きな爪をもち、体色は真っ白で、目は赤い。

 しかし、なんだかぼけーっとした顔立ちで突っ立っているので大きさの割に迫力はなく、どちらかと言えば愛嬌のある感じだった。

 

「お、思ったより大きいのね。てっきり、ネコかイヌくらいかと……」

「そうね。まるでジャイアントモールみたいな大きさだわ」

「……見たことない」

 

 巨大ネズミはそんな少女たちの評価を知ってか知らずか、きょろきょろとあたりを見回した。

 それから召喚者であるユマの方を向いて、前足を軽く振りながら何やら話しかけるようにチュー、チューと鳴く。

 

「……この子、ユマちゃんに何か言ってるの?」

「うん。『見たところ敵もいないし危険地帯でもないようだが、今日は何の用で呼んだのか』って」

「見た目の割に、なんだか賢そうな話し方をするのね」

「幻獣の一種?」

 

 ユマは、さあ、と言って首を傾げた。

 

 カードの説明によると、動物ではなく宇宙人かもしれないらしいが……。

 真偽のほどはわからないようだし、こちらの言葉で幻獣というのが宇宙人を含むのかどうかもしらないので、なんとも答えようがない。

 

 それはさておき、巨大ネズミがこちらをじっと見つめたまま待っているようなので、ユマは何か返事をしなければと思った。

 と言っても、カードからモンスターを召喚するところをルイズらにみせるために呼び出しただけなのだが。

 しかし、呼びつけておいて別に何も用はないというのも、また失礼な話かもしれない。

 

 少し考えて、ユマは自分が持っている荷物を差し出した。

 

「ごめんなさい、これを。私たちが乗ってきたドラゴンのシルフィードのところまで、運ぶのを手伝ってくれる?」

 




巨大ネズミ:
 モンスターメーカーシリーズの多くの作品に登場するモンスターの一種。
どう見ても食事の邪魔になりそうな長すぎる歯と、ぼけーっとした感じの見た目が特徴。
カードゲームの第一作目では最弱であり、他の作品でも大抵は弱めのモンスターとして扱われているが、繁殖力はすさまじいらしい。
鈴木銀一郎氏の小説「第一次探検隊」では、異世界から調査にやってきた異星人ということになっている。
高度な科学文明をもつもののまだ重力に体が慣れておらず、モンスターと誤認した戦士たちによって光線銃を抜く暇もなく斬り伏せられてしまい、雑魚扱いされていた。
また、SF物のカードゲーム「宇宙商人」では、ゲシル星人として登場する。
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